| 2003年01月30日(木) |
遠ざかっていく電車に |
君が乗る電車がホームに入ってくる 繋いだ手を、君の指が解く 一瞬前まで君を感じていた僕の手のひらに 冷たい1月な風が吹き込む 君は肩をすくめて、おどけたような様子でペロっと舌を出す 「それじゃ、ばいばい。またね。」 明日には会えるような事を言って君は列車に乗り込む 僕は曖昧な笑いを浮かべて閉まるドアを見ている
今度、いつ会えるかなんて分からないから
せめて約束を出来るような二人になりたいよ 僕の呟きは、白い息となって列車のドアの手前で壊れてしまった
君が乗った電車が見えなくなるまで、 僕はホームをゆっくりと歩く 電車を追いかけるように、ゆっくりと歩く
溜息も白い息となって、すぐに消えた
白無垢を着た僕の友人はとても綺麗だった。 女神のように微笑んで、慈愛に溢れた所作で、夫になる人の腕をとった。 式場の廊下で君は言ったね。 「多分、今日が一番幸せな日」
確かに、ほんの少し波乱ぶくみな君の人生だったからね、 そう思うのかも知れない。
大丈夫、幸せな日は明日からも続くよ 花嫁衣装のままの君と、ハイタッチをしているとき、 僕は誰よりも君の幸せを祈っていた。
グレンリベットで始めて、マッカランに乗り換える。 これだけの儀式を飽く事なく繰り返す毎日。
もう、分かってるはずなのに、マスターは必ず聞く。
「何にしましょう?」
「グレンリベットを下さい」
とお願いする。 2杯、3杯、日によっては4杯飲んで、マッカランに切りかえる。
「マッカランを下さい」
「はい。」
どれだけ喋っても、このやりとりだけは外せない。 僕の大切な儀式。
今年、一番の寒波が街を襲い、 僕らはコートの襟を立てて、背中を丸めながら歩く。 街路樹まで氷ついてしまったように見える交差点は、音に溢れているのだけれども、どこか静謐な雰囲気が漂っている。 「冷たい空気は音を吸収するんだよ。」 「それを言うなら雪でしょうが。」 隣りを歩くアベックの会話が耳に入る。 きっと二人にとっては、この体の芯から冷えるような寒さも、 互いの温もりを確認するための小道具に過ぎないんだろう。
「しょうがねぇなぁ」 僕は声に出して一人呟いて、 マフラーを巻きなおして、また歩き出した。
黒い心 悲しい気持ち 全て、全てさらけ出して、
じっと時間が来るのを待っているんです。
冬が過ぎて、春が来たなら、 また君と出会ったなら、 この両腕を広げて、あなたを抱きしめる。
| 2003年01月19日(日) |
1/2000 その瞬間に |
被写体にピントを合わせる 露光とシャッタースピードを心の中で、もう一度確認して、 息を止める。 様々な知識や技術が頭をよぎり、そして消えていく。 一番良い一瞬なんていうのは、永遠に訪れる事がないかも知れない。
自分に言い聞かせる、 これは自分が肉眼で見た風景ではなく、 その印象を焼き付ける作業なのだ、と。
シャッターの上に乗せた人差し指が震える。 それは、一瞬の予感のようなものかもしれない。 シャッターが下りている時間は、ファインダーの中は真っ暗で、 「決定的瞬間」をこの目で見る事はできないのだ。 一瞬の予感のようなものを感じてシャッターを切る。 鏡面が跳ねあがる感覚と共に、一瞬が自分の手の中に入る。
僕は静かに息を吐く。
何度となく繰り返してきた儀式なのだが、 その度に、ワクワクしてしまう。 もっと、良い瞬間を。もっともっと、人に何かを伝えられるものを。 その事だけを考える休日が、月に一度くらいあったって良いかもしれない。
朝、とても上手くコーヒーを沸かせた事。 そのくらいの事で冬の一日は左右されてしまう。 という程度の季節。僕にとって冬は。 早く暖かくなれば良いのに。
| 2003年01月15日(水) |
「君の為に」って傲慢 |
時々、祈るような気持ちで考える事があります。 大切な家族が健康でありますように。 大好きな人たちが幸せでありますように。 君の眠りが健やかでありますように。
世界の終りを心配して眠れない子供のような君の為に、 「まだまだ大丈夫。きっと上手くいくし、明日、きっと良い日になる」 なんて安心できる、ちょっと心暖まる作り話でもしようか。
毎晩、寝る前に暖かいミルクにお砂糖を入れてものを作ろうか。
「君の為に」っていうのは、僕の傲慢。 だけど、それはとても難しい事。
最近、周囲に彼女と分かれたって人が多い。 男女の「付き合う」っていうのは、 その瞬間だけは、未来永劫なものだという気がするんだけど、 でも、実際には、そんな訳はなくて、 悲しい終焉を迎えてしまうケースが大半なんだよね。
但し、分かれたからって、そこにずっと立ち止まっている訳にもいかないから、 忘れたりしながら、前に進んで行って、 そこでまた恋をして、同じように別れを繰り返す…。 あまりにも不毛なサークルをグルグル回っている僕たち。
だけど、また僕は、恋に落ちる。 永遠のいとなみの中にいる。
| 2003年01月09日(木) |
ガンバレって言わない事 |
気をつけている事が幾つかある。 女の子と一緒にお寿司を食べに行ったとする。 その後に、その女の子を寿司を食べに「連れていった」と言う事。 これは嫌い。大嫌い。 恐らく一回たりとも言った事ないと思うけど、絶対口にしたくない言葉。 女の子の側から、「連れて行ってくれてありがとう」とか言われるのも勘弁ね。 「一緒に行った」「今日はありがとう」にして欲しい事を大好きな人には必ず言う。 風邪をひいて倒れた友達を車で救急外来に放り込むのは、「病院に連れていく」に違いないけど。 それなら良いよ。
もう一つは「ガンバレ」って言わない事。 どうでも良い事、瑣末な事には言うけどね。 「夏までに12Kg痩せるの」→「ガンバレ」 とかならね。 ガンバレという言葉は何かを希求する人に言う言葉。 その人が大好きであれば大好きであるほど、 その望みが真剣であればあるほど。 ガンバレという言葉は重石となってその人の肩に圧し掛かる。 だから言わない。 誰よりも君の事を応援しているよ。 そういう気持ちを伝える事なく、大好きな人の傍にいたい。 それはまるで、今夜降り積もる柔らかい雪のように。
いつか大切な人を幸せにするために 僕らは、大きく腕を伸ばして考える この腕で君を抱きしめる日を思いながら
伸びた不精ひげを気にしながらピアノの鍵盤を漠然と押してみる 音がどこまでも伸びていくのを感じてる 手を放せば、途切れてしまう、儚い音なのに
携帯電話の微弱な電波だけで繋がっていた気になっていた。 君が圏外になるたびに不安になる僕 君の声を聞かせて下さい
煙草の煙が仕事場の蛍光灯に向かってまっすぐに上っていく、 そんな様子をずっと眺めている。 頭の中は空になり体から力が抜けていく。 (今、この部屋は無風状態なのかなぁ) 僕の仕事場は、もともとテレビのスタジオだったところを改装したものなので、気密性は抜群で、殆どの音を遮断しているお蔭で、回し放しになっているCDの音だけが、静かに響いている。 僕はこういう時間が大好きだ。 休日に一人で会社にやってくる事がやめられないのは、 仕事量の多さだけではなく、 誰でもない「僕」の存在を僕自身が感じられるからなのかもしれない。 とでも思わないとやりきれないかも知れない。
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