緞帳の前にマイクを持って立った講演者は赤いトレーナーを着ていた。そして自分の子供時代の話を始める。これからの1時間がめちゃくちゃ楽しい感動の1時間となることはこの時点ではもちろん誰も知るよしもなかった。
県のPTAの大会に行って来た。片道約1時間半。時間通りに大会が始まり思った通りの堅苦しい式典と来賓挨拶がつづく。もちろん眠気も極致。いびきをかいてなかったか不安。 そして記念講演。今回の記念講演は高校のブラスバンド部を受け持っている先生だという。”?”マークが頭に浮かぶ。「なぜ高校の先生?」大体PTAの県大会の記念講演と言えばある程度有名人の講演がほとんどである。しかし、その?マークは見る見るうちにかき消されていったのである。
先生の小学生時代はとてつもない悪ガキであった。毎日家は出るがそのまま学校には行かず野山で蛇やトカゲを袋にいっぱいになるまで集める。それを持って学校に行き授業中の教室内に全部放してしまったり、学校の鯉の池に石灰を大量に入れて鯉をみんな殺してしまったり、小学3年生にしてたばこをふかし、etc・・・。授業にはほとんどでなかったので、通信簿は評価不能。1年生から3年生まで評価覧は斜線が引かれていたそうだ。
しかしその超悪ガキにも転機が訪れる。一人の先生との出会いである。悪いことをすると柱に縛り付けられ、毎日夜の11時頃まで居残りで勉強をさせられる毎日。もちろん夕御飯は先生と宿直室で食べるのだ。そして、音楽をたくさん聴かされ、楽器の練習をさせられる。でも、それを続けたおかげで4年生の時には算数が4だったが、それ以外全て5(5段階評価の時代)に、5年生以降はオール5というとんでもない成績を取るようになる。
そして、その時始めた音楽にものめり込み、現在に至る。彼の指導するブラスバンド部は県内でも有名な実績を残しているそうだ。部員達は1年から3年まで毎日みっちり3時間の練習を大変な集中力でもってこなしているという。そんなに楽器の練習ばかりして勉強はどうなるか?ところがブラスバンドの練習で培った集中力でほとんどの部員は1年より2年、2年より3年と徐々に成績が上がっているという。ちなみに去年は全ての3年生が志望通りの進路に進むことが出来たそうだ。100%!
「私の話はこの辺にしまして、演奏を聴いていただきましょう。緞帳を上げて下さい。」 緞帳がさーっと上がって行く。舞台の上には子供達が楽器を持ってスタンバイしている。 演奏が始まった!全く素晴らしい。これが高校生のバンドか?ただ演奏だけでなく、ダンス有り、歌有り、曲調も実に様々。津軽三味線や和太鼓が出てきたり、ジャズっぽいクラリネットのソロがあったり、韓国の民族舞踊。こう書くとめちゃくちゃなようだが、それがひとつのうねりとなるように構成されているのだ。何度も書くが、とにかく高校生のブラスバンド部の演奏とは思えない。これは完全に”ショウ”である。手が真っ赤になるほど拍手して、泣きそうなほど感動してしまった。
彼らは今日(30日)、全国大会に出場と言うことだ。
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