2010年08月25日(水) |
ゴシック&ロリータバイブル |
わははは、この年になって! なんという雑誌を買っているのか私。
タイトルの通りの雑誌ですが、そらもうかわいいったら! 私が学生のときはまだゴスロリというものがなくて、コミケではピンハだったりとかしたわけですが。 そのあとマリスなどが出てきて、おおおカワイイと思ったころには、あまりライブには行かないし、買っても着る場所がないということでいままで来ましたが。
……つい出来心だったんです。 ちょっとオフ会で「ゴスロリする〜?」みたいな会話が出たので、本当に出来心だったんです。 ショップに見に行ったらやっぱり可愛かったし、しかもセールになっていてものによっては半額だったし。
ええ。気づいたら「やるなら前身黒♪」と言っていた私は、ブラウンの清楚なジャンスカを手に取っていました。 のみならず、試着もしました(ゴメン本当に冷やかしかと思ってたよね店員さんw) そして買ってしまいましたwww
あれーっ黒にするってずっと言っていたのに、なんでー!? おかげで合わせて買ったパニエも白ですw
それが8月の中旬の話で、その後。 ・ヤフオクにてフリフリブラウスを購入。 ・ヤフオクにてヘッドドレスを購入。 ・ちょっと甘めなブランドにて(だが決してロリではない)普段も使えるロリで持っていてもおかしくないかなというラインのバッグを購入。 ・雑誌3冊購入。
今後欲しいもの。 ・つけまつげ ・アナスイのリキッドアイライン ・ルージュ ・ブーツもしくはパンプス ・ニーソ的なもの ・ウィッグ ・前髪←www(切るか悩みどころ) ・バッグにくっつけるチャーム ・ネックレスなどのアクセ系アイテム
さて。9月のオフに間に合うかなー。 道具はそろえるの楽だと思うんだけど、問題はメイクだと思う今日この頃。 いちおう、ゴスロリバイブルのメイク・髪型編のもいま取り寄せ中だけど、果たして私にちゃんとできるかが疑問……。
ううう、しっかし。 ヴィクトリアンメイデンの「真夏の夜の夢」ワンピ、かわいいよ。 私は普段の洋服でもそうなのだけど、下地の色にくっきりとかキレイにエレガントな模様の入っているものに心を打ち抜かれます。 あれ店頭とかで見たら即決買うレベルです。 ……着ないのでガマンしてるけど。 雑誌のプレゼント応募の品だったので、応募しておく! 当たると思いますマジでwww
そんなこんなのわたくしでした。
……こんなの集めてるくらいだったら、新しいPCを買ったほうが有益だとは思うのだけどー。 そろそろ限界を感じる今日この頃。 プリンタはどうやら壊れたので、週末に買いに行きます。 印刷できなかったら、原稿の応募もままならないwww
2010年08月12日(木) |
【小説】空をあおぐ・後編 |
※
閉めきった窓の向こう、寒空のしたへ走りでていく生徒たちが見える。机に頬づえをつき、体育の授業がなくてよかった、と考える。まだ一時間目が終わったばかりだというのに、だるくて仕方がない。 『どうしたの? 今日はなんか、ため息ばっかりついてるよ』 「ん? や、ちょっとだるいだけ」 『そう? ねえねえ、さわったらノブくん以外でも見えるようになるか、ちょっと試さない? おもしろそうじゃない? やろうよ』 「いや、それは駄目」 パニックになること請け合いだ。誰もが伸幸のように淡々としていられるわけではない。彼が特別なのだろう。 はあ、と息をついて立ちあがる。ここで会話をしていたらまた失敗してしまう。 「どこ行くんだ、幹弘。次、時間にうるさい牧田の授業だぞ」 伸幸が見とがめて声をかけてくる。 「わかってる。――っと。わり」 振り向きざましゃべっていると、よろけて女子の机にぶつかった。 「幹弘」 もう一度伸幸が呼ぶのが聞こえた。しかしそれには答えずに手を振って教室を出る。 どこへ行けば人目がないだろうか。悩んで足を止めると、 不意に手首をつかまれた。 「あれっノブ。どうしたんだ?」 「どうしたって。おまえ、体調わるいだろ」 「え? そうなの? え? ちょっ」 腕を引っ張られて焦った声をあげる。 「保健室行くぞ。熱がある。……無理しすぎなんじゃないか?」 伸幸はならんでついてくる南緒に視線を向けた。 「そうじゃなくて、たぶんただの風邪。昨日、ちょっと長く外にいたから。そっか、だるかったのは風邪だからか――うわっ」 自覚したとたん、体が重く感じられ、膝の力が抜けてよろめいた。 『あぶないっ』 姿勢をくずした幹弘に、南緒がとっさに手をのばした。もちろん支えられるはずもなく、倒れ込んでしまう。 『あはは、ごめんね。さわれないんだった』 「い、いや。大丈夫……」 「大丈夫じゃないだろ。荷物取ってくるから歩けるうちに帰れ。川崎、お前ちょっと来い。ずっとくっついてるとこいつ気にするから」 幹弘は伸幸に助け起こされながら真っ赤になっていた。 体を張って受け止めようとした南緒と、まともに正面からぶつかっていた。抱き合うような格好になってしまった。 一気に体温が上がった気がした。
※
その夜。 熱にうかされながら目が覚めたとき、すでに日付が変わっていた。カーテンの隙間から月あかりが洩れている。 母親が何度か様子を見に来たことはなんとなく覚えている。 体が火照るようで、吐く息も熱かった。 南緒は幹弘が起きていることに気づかない様子で、そっと手をのばしてくる。熱を測るように額へと手をあてる。 やっぱり触れることはできなかったけれど。 その手のひらは、心地いいような気がした。 ふたたび眠りに引き寄せられながら、彼女のことを考える。倒れ込んだときに重なりあって、見えてしまった心のことを。 南緒の世界は透明だった。 透きとおって、なにもかもが遠い。澄んできれいな色ではあるけれど、同時に悲しい色だった。他者を寄せつけない、凍えるような。 彼女はなにかを求めている。その何かはわからない。 たぶん、南緒が海で、その何かが空だ。手をのばしてのばして、のばしつづけていたのだろう。 夢のなかで幹弘は同じように手をのばした。 彼女のほそい指さきにほんのすこしでも触れるようにと祈りながら。
※
たっぷり三日間寝込み、金曜日、いつもより軽く感じる体で一日を終えた、その帰り道だった。 幹弘は伸びをして、深く息を吸う。肺が洗われるような空気だ。雪が降ってもおかしくないと思えるほど冷えこんでいる。 「おー、すげ。真っ赤だ」 西にたなびく雲が、あざやかな夕陽色に染まっている。横にならんでついてくる南緒が、伸幸にならって空をあおぎ見た。 『……うん、キレイね』 小さくつぶやく。しかしすぐに足もとへ視線を落としてしまう。野良猫が近くを横切ったのにも反応しない。 幹弘は首をかしげた。そういえば昼間も口数がすくなかった気がする。 こんな南緒ははじめてだ。 幹弘は南緒の頬へ手をのばした。なぜだかわからないが、いまなら触れられるような、――なにかを伝えられるような気がした。 気配に気づいて南緒が顔をあげた。 目が合った。 とっさに手をおろす。 『――どうしたの?』 「う、いや、えっと。ご、ごめん」 『なんで謝るの? なんかしたの?』 南緒が不思議そうに見た。 さわろうとしたのがやましいことのように思えて顔が熱くなった。じわりと汗をかく。 「い、いやあの。ほら、今日ノート写したりとか忙しかったから、無視してたっていうかその。悪気はなかったんだけど、だから」 『幹弘くんの謝ることじゃないよ?』 「えっと、でも、……元気ないから」 考えずに出てしまった言葉に幹弘は焦った。直球にもほどがある。背中を汗がつたった。 『元気、ないかな?』 ぎこちない笑みで問い返されて、幹弘はためらいつつもうなずいた。 『あはは、正直すぎ。でも幹弘くんのせいじゃないよ。ちょっと反省中っていうか。あたし自分のことばっかりでダメだなあって。だからごめんて言葉は、あたしが言わなくちゃ。風邪ひかせちゃったし』 「いや、風邪は俺が勝手にひいただけだろ」 『やさしいね。……ノブくんが心配するのわかるなぁ』 「――もしかして、なんか言われた?」 『おこられちゃった。カバン取りに行ったとき。無理させるな、あんまり負担になるならなんか考えるって。あたしのこと見えてないくせにね。聞いてなかったらどうするんだろう。でもいいなぁ、本気で心配してくれる友達がいて』 南緒はすこし笑ってから、 『あたし、そういう人いないんだ』 自分が悪いんだけどね、と洩らした。 「――」 幹弘は言葉につまった。なにか言いたいのにうまく出てこない。歩きながら必死に考えても、なにひとつ思いつかない。 と、視界にあざやかな色がうつった。 『ちょっ、なにしてるの!? ダメでしょ!』 南緒が制止の声をあげる。しかしそのときには幹弘の手のなかに一輪の花がおさまっていた。街路樹の椿をもぎ取ったのだ。 『もう、こんなことしたらすぐにしおれちゃうんだよ』 「あ、そっか。考えてなかった。でもま、もう取っちゃったし。ほら、これ」 幹弘は椿を差しだした。南緒が困ったように首をかたむけた。 『あたしに? さわれないんだけど』 「あっ……」 そうだった、と顔を引きつらせる。 『もう……、でもうれしい。ありがと』 ようやくほぐれた南緒の表情に、幹弘も笑う。夕焼けよりも椿よりも、鮮烈な色が胸にひろがった気がした。 空の端にはほそい月がかかっていた。 ふたりは笑いながら家路についた。
※
息が切れる。走りながら幹弘はマフラーを乱暴に巻きなおした。 起きたら南緒が消えていた。朝食を終えても彼女はもどらなかった。 すがすがしい朝の空気のなか、彼は走る。 薄青の空には雲がなく、ひろがりを見せている。向かい風がつよく吹いていた。 もしかしたら成仏したのかもしれないし、幹弘の目にうつらなくなっただけかもしれない。その可能性は否定できなかった。 しかし――、机に置かれた椿が目に入ったとき、ここ数日のことがあざやかによみがえった。 予感がした。 たぶん南緒は、あの公園にいる。 息を途切らせ公園に駆け込むと、先日すれ違った女の子がひとりで遊んでいた。小枝で地面に落書きをしている。 『……幹弘くん』 ちょこんとベンチに腰をかけて南緒は子供をながめていた。あの日幹弘が座っていた場所だ。彼女は幹弘に気づくと、驚いたように立ちあがった。 『もしかして探してくれた?』 「いや、えっと、……一応」 うれしそうに目をほそめた南緒に、急に気恥ずかしくなり、しどろもどろ返答する。 「横、いいか?」 『うん。だけどまた風邪引いちゃうよ。ノブくんが心配するよ』 「ノブ? 確かにおなじこともう一回やったら、怒りそうだなー」 『いいじゃない、うらやましいよ。あたしね、後悔してるの。他人にあんまり興味がなくて、ひとりで好きなことしてるほうが楽しくて平穏で、心が波立ったりしなくて、好きだったんだよね。それが当たり前で、だから、会いたい、会いに行ってみようって思うほどの友達もいなかったの』 南緒は自嘲めいた笑みを浮かべて足もとへ視線をおとした。 『そのことにちょっと愕然としちゃった。見えないからとかじゃなかったの。会いたい人も、行きたい場所も、なかったんだよ。両親が見えなかったっていうのは、ちょっとショックだったけどね。でもすごく納得した。あんまり一緒にいたこと、ないし』 南緒がほのかに笑う。 『それでどうしようって思って、幹弘くんのこと思い出したんだ』 急にこちらに流れてきた話題に、幹弘は居心地が悪くて視線を泳がした。 『どんな人かとか、好きになるかもとか、そういうの知ろうともしてなかった。ちょっともったいないことしたよね』 「いや、あの……ええと」 なんと答えていいのかわからずに、もごもごと口のなかで言葉をさがした。 そのとき、つよく海風が吹いた。 ほどけかかっていたマフラーが飛ばされた。 地面に落ち、強風に押されるようにころがり、女の子の足にあたってやっと止まる。 しゃがみこんでマフラーをたぐり寄せる女の子のもとへ幹弘が駆け寄った。 「ごめん、拾ってくれてありがとう」 あれ、と女の子が目をみはる。 ふたりの手がかさなっていた。 「おねえちゃん! いつ来たの?」 白い歯をみせて笑う女の子に、南緒は曖昧に笑顔をかえした。 『ずっといたよ。遊ぶのに夢中で気づかなかったんでしょう?』 「えー、そうかなぁ」 その会話に、幹弘が固まった。手をはなすタイミングがつかめない。 「そうだ! レナ、ママとなかなおりしたよ。がんばったよ!」 『うん、この前、ここで一緒に遊んでたよね。知ってるよ。あたし、前にひどいこと言ったよね。ごめんね』 レナはきょとんとしている。 幹弘が目を向けると、南緒は苦笑いして、ちいさく肩をすくめた。 『近所の子なの。前にママとあそべないって泣いてたのよ。だから、そんなの当たり前のことなんだって言っちゃった。つよくならなきゃって。いやな性格だよね。だからあたし、幹弘くんに釣り合わないよ』 まっすぐに幹弘を見て南緒が言う。 『あたしも、今度があったら、いろいろ頑張ることにする。赤ってね、お誕生日とか特別なことを思い出すから好きなんだ。――いい思い出だって、あったのにね』 南緒はふわりと立ちあがる。 そのとき、またつよく風が吹いた。 「わぁ、雪!」 レナが顔をかがやかせる。幹弘の手をはなし、ちいさな両手で受け止めようとする。 空を見あげれば快晴だ。高く遠く、空がひろがっている。 ――風花だ。 どこかからか飛ばされた雪が、踊りながら降りてくる。 「あれっ、おねえちゃんは?」 レナが声をあげる。 風花を全身にあびるように南緒はそこにいた。 「もう行っちゃったよ」 「ふうん。ねえ、おにいちゃんは、おねえちゃんのカレシなの?」 ごほごほごほ、と幹弘は盛大にむせ込んだ。 陽射しを反射して舞う風花は、地面にふれるとあっというまに消えていく。あれ、と幹弘は目をすがめた。 南緒の姿がかすんで見えた。咳がなかなかおさまらない幹弘をみて笑っている。やわらかな表情だ。 その輪郭が急にとけだした。 『ありがとう。今度はあたし、頑張るね。手をのばしてみる。幹弘くん、ばいばい。楽しかったよ』 返答をする間もなく、気配が薄らいでいく。はらはらと舞う風花が陽射しに輝いていた。 「ねえ、カレシなの?」 「……友達だよ。俺は、南緒のこと好きなんだけどな」 無邪気に問うレナに笑いかけた。 二度目の告白だ。聞こえたかわからなかったけれど。さっき、やんわりと振られた気もするけど、これくらいは言っていいだろう。 かすかに空気がゆれて、南緒の笑い声が聞こえた気がした。ばかと、ありがとうと、いろんなものを含んだ声。 (知ってるか、海はひろいんだぞ) だから、どこかで空とまじわる、そう信じてもいいだろう。 幹弘は空をあおぐ。 南緒が手をのばしてやまなかった、高い空を。
END
※前後編あわせて原稿用紙30枚※
去年くらいにコバルト短編に投稿して落っこちたやつです。 いまの課題はキャラと、ドラマです。 なんとかしなくちゃー。
2010年08月11日(水) |
【小説】空をあおぐ・前編 |
頭をがしがしと掻き、幹弘は背中をまるめて問題用紙をにらみつけた。昨日しっかり覚え直したはずの公式が出てこない。 実力テスト最終日、机にしがみつくようにして受けた数学は惨憺たるものがあった。いつもならもう少し埋まるはずの解答用紙はほとんど白紙で、このままでは補講決定だ。 くっそ、と悪態をつきたいのをこらえてシャーペンをにぎる手に力をこめる。 教室のなかは底冷えしていて指先がつめたい。ニュースで霜がおりたと言っていた気がする。滅多に氷点下にならないこのあたりの公立中学では、暖房器具は置かれていない。室内にいても寒さを感じるほどだ。 だから、いっそそれが凍えて見える幻だったらいいのに、と幹弘は思う。 机のまえに――宙に浮いた少女がいた。 制服の長袖ブラウスに赤く咲くリボンタイが目に映える。ブレザーを着ていないが寒そうな様子もなく、口を開いた。 『ねえ、こんな問題もできないの?』 うつむいていても視界に入ってしまうのをいまいましげに思いながら、つとめて冷静にいようと意識してゆっくり呼吸をする。 『テストなんてつまらないわね。早く終わるといいのに。ね、終わったら遊びに行こうね。そうだ、答え教えてあげる』 (これは幻覚、幻覚、幻覚。聞こえるのも気のせい、気のせい……負けるな俺!) しずまりかえった教室では、さらさらと答えを書く音がする。 『だからね、この問題はひとつ前の応用だから、こっちの公式と――』 白い指さきが問題用紙の上をさす。 「っるせー! 気が散るだろうがーっ!!」 頭を振りあげて叫んでから我に返る。幹弘の席は窓ぎわの真ん中だ。すこし首を動かせば教室が見渡せる。クラスメイトたちがこちらをいぶかしげに見ていた。 「どうした伊藤。テスト中だぞ」 担任が近寄ってきて、幹弘はあわてた。 「あ、えっと。な――なんでもないです」 「先生、そっとしといてやってください。テストのプレッシャーと失恋で眠れてないだけだから、たぶん寝ぼけただけです」 「ノブっ!」 斜めうしろから伸幸の声があがる。とっさに怒鳴るが、起こったざわめきにかき消されてしまう。 「本当のことだろ。でもな、相手も亡くなったんだから、早く気持ちを切り替えたほうがいいって言っただろ」 「わああ、てめ、黙ってろ!」 とっさに消しゴムをつかんで投げる。しかし見当違いの方向へ飛んで行ってしまう。 「そ、そうか……。うん、まあ、ショックなのはわかった。だが伊藤、いまはテスト中だ。辛くてもちゃんとやれよ」 担任は神妙な表情でうなずき、幹弘の肩をかるく叩いて教壇へ戻っていった。まわりの視線を感じながら幹弘はうつむいた。なんとも言えない雰囲気があたりを取り巻いている。 振られたのは事実だ。そしてその少女が先週亡くなってしまったのも。 だが。 彼女はいま、幹弘の目の前にいた。 『もう、馬鹿ね。黙ってれば平気なのに』 と呆れたふうに肩をすくめて、ふたたび解答を教えようとする。たまらず幹弘はテストを放棄して机の上に突っ伏した。 霊媒体質でもなんでもないはずの彼は、昨夜から川崎南緒(なお)に取り憑かれていたのだった。……
※
「で、話って?」 放課後、風のつよい屋上で、伸幸が腕を組みながら問う。幹弘はくっついてきた南緒と、伸幸を交互に見ながら、なんと伝えたものか頭を悩ませていた。 ふたりの向こうに街並みと、陽射しに光る海が見える。 「もしかしてさっきのことか? ばらしたことなら謝るから、失恋のつづきなら自分で乗り越えてくれ。寒いから戻るぞ」 「ちょ、ちょっと待ってって! 関係なくはないけど、違うんだ!」 踵をかえした伸幸の腕をつかまえる。 「出たんだ。昨日の夜、川崎南緒が」 「――は? 意味がわからないな。川崎は一週間前、事故で亡くなったろ。通夜も葬儀もすんだはずだ。もう灰になってる。言い方は悪いけど、死んだんだ。いるはずがない」 「……うん、まあ、そうなんだけど」 言って幹弘はちらりと南緒に視線をむける。 「出たのは――幽霊なんだ。いまもそこにいる。テスト中も話しかけてきて、それで」 「わかった! わかったからもう言うな」 伸幸は語尾をさらってさぐるようにこちらを見た。つめたい風が身にしみた。 「徹夜で勉強したんだろ。いますぐ保健室で寝てこい。顔色悪いぞ」 「……やっぱ、そうだよな」 うなだれてしゃがみ込んだ幹弘に、伸幸が片眉をあげた。 「きっと俺がおかしいんだ。振られた相手に未練をのこすならともかく、なんで振った俺んとこ来るんだ……。俺が未練に思ってるとか、たぶんそういうオチなんだ」 「とにかくほら、立てよ幹弘。とりあえず休んで、それでもまだ見えるってんなら、対策を考えよう」 うなずいて立ち上がろうとした幹弘は、寝不足と急にうごいたせいで、よろめいた。景色が一瞬遠ざかり、気づくとざらりとしたコンクリートに両手をついていた。 「なにやってんだよ。ほら、つかまれ」 「サンキュ」 差しだされた手を取り、ゆっくりと立ち上がる。陽射しが白く目にしみるようで、何度かまばたきをした。南緒の姿がなければ、テスト上がりのさわやかな気分を満喫できたはずなのに。 「……幹弘」 「ん?」 見れば伸幸は眉をひそめて宙をながめている。南緒が浮いている場所だ。伸幸の視線に気づき、彼女は笑顔をつくって手を振った。 「見えた。……本当に、川崎だ」 『話終わった? ええと、ノブくんだっけ? すごいすごい、あたしのこと見えるんだ。幹弘くん相手してくれないんだもん。ひまだったんだ』 「悪かった。見えるなら信じるしかないな」 「え――、ノブそれマジで言ってんの? 見えたからって信じられんの? 俺たちの頭がおかしいのかもって思わない?」 「おまえの頭はともかく、俺は夜更かしも徹夜もしてない。精神不安定になるような出来事も起きてない。それに幹弘とおなじ幻覚を体験してるとは考えにくいからな」 「……いや、そういう問題じゃなくてさ」 脱力する幹弘をよそに、伸幸は南緒に向き直った。 「で、川崎はなんで幹弘のところに来たんだ?」 『あたし? なんとなく思いついて、かなぁ。まさか見えると思わなかったんだけど。だって他の人たちはあたしに気づかなかったんだもん。ね、これが愛の証ってやつかな?』 南緒は邪気のない笑みをうかべる。 「なるほど。幹弘が手こずるわけだな」 幹弘は顔を引きつらせた。愛の証なんてあるはずがない。南緒と会話らしい会話を交わしたのは、幽霊になってからだ。 一目惚れだった。落ち葉が風に吹かれ、舞いあがった砂とつむじをつくる、冬のはじまりだった。ひとり透過したような不思議な雰囲気で遠くを見つめる南緒に、なぜか目が釘付けになった。そしてその勢いのまま告白し、撃沈したのだ。 いたたまれなくなり、幹弘はうつむいた。 その隣で、伸幸が幹弘の手をつかんだり離したりしていた。 「へえ、おもしろいな。おまえに触ってると見えるし聞こえるみたいだ。見える原因が未練なら簡単だ。それをなくせばいいんだろ」 伸幸は意地悪そうに口もとに笑みをのせてつづけた。 「もう一回振られてくればいいんだろ」 うらめしげな視線を送っていた幹弘は、ため息とともに肩を落とした。
※
空気が肺にしみる。手袋をしていても感覚がなくなる指さきをダウンのポケットに突っこんだ。赤いマフラーにあごをうずめる。 家族の目から避難して、家から十分ほど歩いたところにある海沿いの公園へ来ていた。 「……なあ、そろそろ話してくれてもいいんじゃないか? なんで俺んとこ来たわけ?」 空が高い。寝不足のせいか陽射しがやけにまぶしい。海風のつよい公園には人影がなかった。 幹弘の座るベンチのかたわら、花をつけた椿をながめていた南緒が振り向いた。 『幹弘くん、なんか言った?』 「だから、なんで来たんだって訊いたの! 本当は理由があるんだろ? 振ったのに来るなんて変だろ。普通逆だろ?」 『そういうものなの? じゃあさ、もし逆の立場なら幹弘くん、来てくれた?』 「……あのな」 そういうことを話してるんじゃなくて、と言葉をつむごうとしたとき、 『あっハトー!』 舞い降りて羽づくろいをはじめたハトのほうへ行ってしまう。動物たちは見えているのかいないのか、南緒が近づくと一様に飛びのくのだった。 「――ハトより下か、俺の存在……。ていうか、かわいそうだろ。やめろよ」 『だっておもしろいんだもーん』 心底楽しそうに南緒はハトを追い散らす。 幹弘は無意識に息をつく。こんな性格だとは思わなかった。知っていたら告白なんてしなかったかもしれない。 おどろいて飛んだハトは柵を越え、波間から突き出るテトラポットに避難した。 追いかけていた南緒は、ふと笑みをおさめて椿の上にとどまった。 『……ねえ、海って、なんで波打ってるんだと思う?』 「は?」 『なんで青いんだろうね。空とおなじに』 そこに初めて会ったときとおなじ瞳をした彼女がいた。南緒は遠くを見つめたまま、表情を動かさない。引力による干満や、光による視覚への刺激といった答えを求めているのではないのだろう。 幹弘は南緒にならって水平線をみた。青の深い冬の空と海が接しているようだ。そこに彼女がなにを見ているかわからないまま、海風に吹かれていた。 『――昔、ひとつだったんでしょ?』 ふたたび南緒が言葉をつむいだ。 ついていけなくて、何が、と問い返した。 『空と海よ。さっきから、そう言ってるじゃない。あたし、……海って好きじゃない』 「――意味がわからないんだけど」 南緒の思考から出る言葉は、前後が途切れているようでむずかしい。 『なくしちゃった空にとどきたくて、波を打つんだって何かに書いてあったよ。そんなの、無駄っぽくて好きじゃないって言ったの』 「余計に意味がわからないんだけど。……でもそれが本当なら、日本海とかのほうが現実味あるんじゃないか?」 『なにそれ。波が激しいから?』 「そういうイメージだろ。こう、崖けずる勢いって感じ」 『なにそれ』 あはは、と南緒は声をあげ、それから、 『ねえ、もう帰ろ』 言って降りてくる。幽霊のくせにふわりとスカートが風をはらんだように浮き、しろい腿が垣間見えた。 笑顔を向けられ、耳が赤くなっていないか焦った幹弘は、不自然に咳き込んだ。 『大丈夫?』 「――大丈夫だけど。やっぱ家来るんだ?」 『だって他に行くところがないんだもん』 「少しはあるだろ、友達とか、親とか」 『もう行ったの。あたしの家、この先けっこうすぐなんだけどね。前に言ったじゃない、だーれも気づいてくれなかったって。愛の力が足りないのかもね』 ごほごほ、と幹弘はもう一度むせた。 公園を出るとき、ちいさな女の子とすれ違った。風に負けないようにひと抱えもあるボールを持って駆けていく。 「ママ、早くーっ!」 つたない口調で呼ぶ高い声が響く。 南緒は振り向いて、すこし残念そうに言う。 『……あの子も見えないんだね』 「普通はそうだろ。俺も人生で初めてだし」 『そうだけどさー、こどもには見えちゃうとか、物語みたいなことあってもいいじゃない。つまんない』 「どうせ見えても驚かすだけだろ。ハトとかも、そっとしといてやれよ」 『はいはい、わかりました。幹弘くん、やさしいね。――やさしいから、あたしに来るなとか言わないよね?』 幹弘はぐっと言葉につまった。 「……駄目って言っても来るんだろ?」 『やった、ありがと。幹弘くん、そのマフラーかわいいね。きれいだし』 南緒の指さきが、胸もとのあたり、幹弘の赤いマフラーをなでた。しかし白い指はすり抜けるばかりだ。 「赤い色が好き?」 椿の花をみていた南緒を思い出し、訊いてみた。南緒はすこし考えるようにして、ほほえんだ。どこか暗い瞳の色に、幹弘はわけもわからず南緒の手を取りたくなった。 実体のない彼女の手はすり抜けてしまうだろうけれど。 「さみ……」 つぶやいて、ちいさくくしゃみをした。 潮の香りと、波の音。日なたにいれば、陽射しのぬくもりを感じた。 それでも、海から吹く風は、まだ春から遠かった。
2010年08月10日(火) |
コバルト短編投稿しました。 |
あまりにも久しぶりなので、過去日記をすべてデリートしました。 たぶんこちらを見る方はいないと思うのだけど、まあ、自分の記録でも付けようかな、と。
最近、mixi内のライトノベル作家志望のオフ会へよく行きます。 毎月開催されていて、それなりに人数もいますし、編集者さんやら作家さん、漫画家さんなどもいらっしゃったりいらっしゃらなかったり<どっち オフのなかから受賞者もちらほら出始めています。 で、もっぱらそちらで遊んでばかりだったんですけれど、なんと会社の自分のPCからブログ系のものとかいろいろ見れなくなっちゃったので、こちらを復活ーっ!w 手が空いているときはこちらを更新しようかなとwww
数年単位で創作から遠ざかってましたが、ゆっくりとまた書き始めました。
投稿先はあいかわらずコバルトばかりなのですが(他もやろうとしても追いつかない・汗)すこしずつ創作してます。
こちらでは、主に自分の記録になっちゃうと思いますが、もし見る方がいらっしゃったらよろしくってことで。
ということで、8月10日消印有効の、コバルト短編新人賞へ、投稿しました。 まさかの本局駆け込みでしたがwww
別のを出そうと思ってたんですが周囲の感想もイマイチだったし、0話的な話だったので、急遽べつのものを書きました。 10日仕事あがってから半分書くとかどんなアホなのって思ったけれど。 この短編は周囲をあおって巻き込んでいることもあるし、最近男性陣が競作して投稿するようになったので、私も出したかったんだもん(笑) まあでも、上がってから書ききって、チェックして、出しました。 まだ冷静に読み直してないからいろいろアレだし、現時点で「ああああっあの処理するの忘れたああああ!!!」ってのもあるんですけれど。 投稿できたので満足。 さっそく次のものに取りかかります。
つぎは、甘〜い絶対彼氏みたいな妄想系の男性と、期限付きの恋愛というのをやるつもり。 ファンタジーになりそうな感じかな。まだわかりませんが。 それと平行して、長編もしっかりやらないとなあ。
あ。あと幻狼さんの編集者さんが見てくれる企画への短編も……。
お盆休みも書き物で終わっちゃいそうw でもま、それも楽しいよねってことで。
それから。 こちらも言わなくちゃわからないかもだけど、PNを昔のにもどすつもり。 まだ悩んでいるのだけれども。 名前なんてどっちだっていいじゃーんって言われそうだけどw でも名前って大事なんだよ! (この前、とある編集者さんと、とある作家さんにPNのダメだしをされまくる新人さんがかなりフルボッコだったのでw その場に居合わせた私としましては、やはり悩むのですw) みなさんも、レイアウトしてカッコイイPN、売れそうなPNを心がけましょう(笑) 縦に書いたときに字面がキレイなのもポイントらしいですw
ま。私のなんてどっち選んでも大丈夫(のはず)なんですけれどもねwww
|