「あいつマジむかつく!」 ロッテリアの3階、女性専用ルームにAの大きな声が響く。 私はシェークの残りを、音を立てて啜った。 周りにいた2、3人の女子高生が少し驚いたように一瞬こっちを見た。 「ん〜」 生返事を返しながら、私は窓の外を見た。 「だってむかつくやろー?調子のってんじゃねーよ!何なんあいつ〜?てかマジ、あんな奴にふられたってのが、あたしの一生の汚点!!」 この前別れた好青年をAは力の限り蔑んだ。 「ふぅん」 窓の外に見えるのは、夏の光を浴びた、向かい側の商店街のアーケード。 私たちはここで、友人Yを待っていた。 『今向かってます〜』 そこへ来たYからのメール。 『早く来いよ〜A怖いんですけど…』 私は即行それを打って送りつけた。 「誰から?」 「Y。もーすぐ来るって」 外に出たくなかった。 今日はYの服を買うのに付き合うのだが、この夏空の下をフラフラするのは自殺行為な気さえした。
「ねーなんかさぁ、マサ?と、逢う事になってるんやけど…」 JACKで服を見ながらAは言った。 マサはYの従兄弟で、私とAのメル友だ。 「マジ!?あいつかなり女に飢えてるんやね〜展開速すぎっ!」 Yが半ば呆れ気味に言った。 「いやー、男なんかそんなもんでしょ!」 何かを悟ったように私とAが言って、みんな笑った。
私たちは、それぞれの普通の生活の中で生きていた。 全ての人間共通な普通など、知らなくて良かった。 知りたくもなかった。今更。 楽しいことを探した。難しい事なんていらない。 快楽主義だと、刹那主義だと言われてもかまわなかった。 それが私たちの日常。 それ以外の世界なんて、知らない。
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