白無垢を着た僕の友人はとても綺麗だった。 女神のように微笑んで、慈愛に溢れた所作で、夫になる人の腕をとった。 式場の廊下で君は言ったね。 「多分、今日が一番幸せな日」
確かに、ほんの少し波乱ぶくみな君の人生だったからね、 そう思うのかも知れない。
大丈夫、幸せな日は明日からも続くよ 花嫁衣装のままの君と、ハイタッチをしているとき、 僕は誰よりも君の幸せを祈っていた。
グレンリベットで始めて、マッカランに乗り換える。 これだけの儀式を飽く事なく繰り返す毎日。
もう、分かってるはずなのに、マスターは必ず聞く。
「何にしましょう?」
「グレンリベットを下さい」
とお願いする。 2杯、3杯、日によっては4杯飲んで、マッカランに切りかえる。
「マッカランを下さい」
「はい。」
どれだけ喋っても、このやりとりだけは外せない。 僕の大切な儀式。
今年、一番の寒波が街を襲い、 僕らはコートの襟を立てて、背中を丸めながら歩く。 街路樹まで氷ついてしまったように見える交差点は、音に溢れているのだけれども、どこか静謐な雰囲気が漂っている。 「冷たい空気は音を吸収するんだよ。」 「それを言うなら雪でしょうが。」 隣りを歩くアベックの会話が耳に入る。 きっと二人にとっては、この体の芯から冷えるような寒さも、 互いの温もりを確認するための小道具に過ぎないんだろう。
「しょうがねぇなぁ」 僕は声に出して一人呟いて、 マフラーを巻きなおして、また歩き出した。
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