手術の日。今日で右のおっぱいともさようならする。 さようなら。さようなら。 個室から回復室と呼ばれる部屋に移り、剃毛や点滴をして時間が経つのを待った。 右胸にマジックペンで印をつけられる。この部分がなくなるのか。
その間にお見舞いの人がいっぱい来てくれた。 親戚、友人。みんなの顔を見ると泣きそうだ。 遠くは長崎・佐賀から大学時代の友人が来てくれた。ありがとう。
14時に手術室へ。皆が「がんばっておいで」と声をかけてくれる。 エレベーターにはだんな様が一緒に乗ってきてくれたよ。 BGMがタイタニックの主題歌が流れているものだから、余計に泣きそうだった。 もっと明るい曲にしてほしいな。
手術室に入ると、手術の説明をしに来てくれた女の人が声をかけてくれた。少しほっとした。 手足をがっちりと固定され、緑の服をしたマスク人間たちに囲まれているとちょっと怖い。 天井には目玉のようなライトライトライト。 いろんな処置をして、麻酔のマスクをあてられてからは覚えていない。
気づいたら回復室。みんないた。麻酔が切れてくると痛い痛い。 体を少しも動かすことができない。鉄板が胸に入っているような感覚。 今まで感じたことのない痛み。痛み止めの注射を何度も打ってもらった。 朝まで座薬や注射で乗り越える。痛い。痛い。
夜は母が付いていてくれた。 隣のベッドでいびきかいていて笑っちゃった。 疲れていたのだね。ごめんね、ありがとう。
今日から病院へ入院する。明日は手術だ。 剛くんがついてきてくれた。 まだ家族がついていてくれたときには安心していたのだが、 1人になると不安が押し寄せてくる。
明日の手術で私のおっぱいはナクナル。 まだ実感は湧かない。 私はもとが見てくれを全く気にしない主義(?)だったために 「おしゃれ」という文字からはかけ離れた暮らしをしてきた。 胸は大きいと昔から言われていたが、 それが逆にコンプレックスになっていた時期もあったので あまり胸に執着はなかった。
しかし、今、私の胸は「優生に母乳をあげるための」おっぱいになっていた。 6月に優生を生んでからずっと母乳を上げてきた。 しかしミルクもあげていたので、先生から「母乳を中断してください」 と言われたときもそこまで困らなかったが、気持は辛いものがあった。 優生におっぱいをあげる瞬間は、母の喜びをかみしめるひと時だった。 それがもうあげられない。 おそらく治療も始まるので私が元気になる頃には、 優生は乳離れしているだろう。ごめんね、優生。
私が病気になることで我慢させることがたくさんあるだろう。 入院も1ヵ月近くなるみたいだし、その間抱っこしてあげることもできない。 ごめんね、優生。お母さん、がんばってくるからね。 家を出るとき、優生を思い切り抱きしめてから出てきた。
部屋は個室にした。 大部屋と迷ったのだが、 術後に自分が人と話せるか自信がなかった。 1人になっているところへ、まず手術室の看護婦さんが見えて、明日の説明をしてくれた。 手術の手順がわかり少しほっとした。 また別の看護婦さんは術後始まるリハビリについての説明に来てくれた。 ありがとう。いよいよだな。
手術前の検査はたくさんあった。 本当は入院してから行うものがほとんどだが、 私は子どもが小さいということで、通院で検査を終らせた。
まずは内科の先生に診てもらう。 気になることと言えば、島で1ヵ月くらい前に お腹の右下の激痛で病院に運ばれたことがあった。 結局外科の先生に診てもらい「盲腸の疑い」という結果。 その旨を伝えるが、問題なし。
血液検査、尿検査。肺活量・心電図。高校生の頃の健康診断を思い出す。 肺活量の検査で「スポーツしていないですね」と言われた。はい、運動不足です。
術前の検査で一番心配だったのが「肺」「肝臓」「骨」の検査。 リンパに転移があることは超音波などでわかっている。 ネットで調べると、乳がんは骨に転移しやすいらしい。
「骨シンチ」という検査を初めて受けた。 鉄板の上に横になるだけで終った。 右胸のMRIも。うつぶせになっておっぱいを型にはめて、身動きがとれない。 音楽が鳴っているはずだったが、「ゴーゴー」という音で聞こえなかった。 しかし検査室が霊安室と同じ階にあるのはどうかと思う。 あの暗くてヒンヤリした空間は嫌でも悪いことを考えてしまう。
検査の結果を聞く日は、剛くんの両親が来てくれた。 私が検査している間、優生の初節句の張子の虎を買いに行ってくれた。 アガリクスも買ってきてくれた。ありがとうございます。 1人で検査の結果を聞きに行く。診察室に呼ばれる。 優しそうな先生が微笑んでいる。
「検査の結果ね、見させてもらったけどね。 リンパ以外の転移はなさそうだね。肺も肝臓も骨もきれいだったよ」 ああ、良かった。遠隔転移はなかった。 その旨を家族に伝える。喜んでくれた。よかった、、、よかった。 あとは入院と手術。がんばってこよう。
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