カウントシープ
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普段は一年に一度くらいしか行かない映画館に行って、『オペラ座の怪人』を見てきた。明日は『ハウルの動く城』を見ようと、指定席も購入してやる気満々。明日から入院なので、死ぬ前に後悔がないように見ておこう、ということにしたのだ。
そういう冗談を言えるくらいには、もう心の準備はできた。映画に行こうと思ったのは、入院中に少しでも思い出すことに中に、楽しかったことや印象深かったことがあったほうがいいと思ったからだけれど、『オペラ座〜』は悲恋モノだからちょっと悲しい気持ちになったかもしれない。
昔、誰かのエッセイを読んでいて、その人は北極だかどこかを1人旅していたのだけれど、そういう孤独の中で何を思い出すかというと、昔見た映画のことをじっくり1コマ1コマ思い出すのだと書いてあった。それで、ボクは、一人ぼっちの時に思い出す歌や映画、心を沸き動かすようなものがあったらそれはきっと幸いだと考えたのだ。
高校生の時、ミュージカルの好きな友達がいて、ある日これいいよ、とくれたテープが『オペラ座の怪人』だった。舞台を見たこともなかったけれど、音楽がとても気に入って何度も何度も聞いていた。1年近く聴いていたので、終いには全部の台詞を言えるし唄えるようになった。何度も聴かされて、家族もそのフレーズを覚えてしまった。 大学生になって少しお金ができた頃、初めて舞台に行ってからますます虜になった。そしてそれからずっとボクはその舞台に魅了されている。
検査の結果、一番近くのリンパ節に転移しているかも?ということだった。これが転移しているかしていないかで、手術は大きく変わってくる。だが、そのほかの、もっと遠くに転移がなかったことは幸いだ。
入院と手術に関する説明を受けてきた相方が言うには、和式の寝巻きとT字帯を用意する必要があるらしい。和式の寝巻きとは、おそらくあの、温泉旅館とかに用意されている薄い浴衣のことだろう。術後処置をしやすいように、前をはだけやすいものを着ろということなのだ。
問題はT字帯。相方が「これってつまりはふんどし?」と聞いたが、どうなのだろう?さらには、『持ち物にはすべて名前を油性マジックで書いてください』とあって、「ふんどしに名前を書きたくない」とごねる相方。
そんなこんなで、結構楽しく入院してくるぜ!みたいな感じです。
いよいよ明日は検査結果を聞きに行く日。本当は傍についていてあげたいけれど生憎ボクは仕事だし、休んでいったとしても立場は[友人]だ。病院の説明を一緒に聞くことが出来るのは普通は家族および婚約している者だけだ。
大きさはその種類の癌の中では中位、転移はあるかないかの境目。転移がないことを祈るしかないが、気持ちは落ち着かない。相方は病院から配られた説明書をベッドに持ち込み読んでいて、読み疲れると黙って引っ付きあった。
何もする気になれないまま夜がきて、眠れないまま夜が更けていった。
4つも5つもある検査を受けるため、たった独り病院に通った相方のことを思うと心細かったろうにと悲しくなるけれど、明日はいい報告が聞けるようにお祈りするしかできない。
ロビン
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