カウントシープ
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時々行くイギリス紅茶の店で、レモンティを購入した。
それは、青い缶に入った茶葉で、夏のアイスティとしても美味だと言われた。ボクはちょっと迷ったけれど、結局買ってみた。ボクはレモンティが好きじゃないけれど、ヴァイオリンの先生は好きかもしれない。季節は夏に向かっているし、涼しげなアイスティのイメージは悪くない。
このおじさんが薦めたものは大抵美味しかったしな、と思いながら買ったそのレモンティは、凄く美味しかった。 レモンティが嫌いと前述したけれど、それはレモンの渋みが嫌だから。レモンの味自体は好きで、このティはとてもさっぱりとしたレモン風味の味だった。 すっかり嵌ってしまって、それからいつでも作りおきして、今年の夏は麦茶や烏龍茶の変わりにレモンティが常備されている。
問題はひとつ、和食にもレモンティが出てきてしまうこと。ボク達は何の問題もなく飲んでいるけれど、ゲストが来たときはどうしようかしら、と思いつつ、黙ってこのレモンティを出してみようと思っている。
子供の頃、ぐるぐる回るのが好きだった。部屋の中でぐるぐる回って、目が回った感覚を楽しむのだ。時には反対周りに回って、回転を戻してみたり、とにかく回ることが好きだった。
ぐるぐる回りは一人遊びだ。自分の体の中から起こってくる感覚を楽しむ遊びで、興味の対象が広がる前の幼い自閉症の子供達には、比較的多く見られる遊びのひとつでもある。
もう自分は回転を止めてしまっているのに、視界だけぐるぐると回っているのが不思議で面白かった。自分では制御できないことが面白かったし、自分ではどうにもならないことに快感めいた感覚を覚えた。
けれど、不思議なもので、ボクは、回転する乗り物が苦手だ。遊園地ならコーヒーカップや、支柱を軸にして回転するものが駄目だ。ジェットコースターだってなんだって、絶叫マシンと呼ばれるものは全部苦手だけれど、回転系は怖いのじゃなくて、気持ち悪くなるので駄目。
自分が軸になって回転するのは好きで、自分ごと回転させられるのは苦手なのだ。
ある人が、ボクの手にある電子辞書を見て、「りんどうを引いてごらんなさい」と言った。ボクは、言われたとおりに「りんどう」を引いてみて、彼の視力に合わせて字を拡大してみせた。
「ほら、ごらんなさい。りんどうには毒があるのです」
彼の言うとおり、リンドウ(竜胆と書く)は有毒の植物だ。その毒性を生かして強心剤や利尿剤としても使い、また香水の原料にもなる。花は白色の壺状の姿をし、果実は赤く、赤褐色の根は苦い、と広辞苑に書かれているが、別の辞書で見る限り、花は青紫っぽい色もあるようだ。
彼はその後もリンドウにまつわる思い出話をしてくれたが、内容は理解できなかった。彼は、若い頃に気がふれてしまっているのだ。
だが、彼がボクに教えてくれることは何時だって正しい。 以前、彼はボクに「テレビはいけません」と言った。「テレビは、本当のことは流しませんから。どれが嘘でどれが本物かわからないでしょう」と言われ、何となく納得した。 また、別の機会に彼は、「パソコンは怖いといいますが、怖いのはパソコンではなくてそれを扱う人間なのです」とも言った。車だって、怖いのは運転する人間ですよ、と彼は付け加えた。
リンドウの話をしてくれた御礼を言うと、彼は「毒物学の本を読んだまでです」とにやりと笑った。
ロビン
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