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毛利小五郎という人物(2) 随分久しぶりの更新となりました。まあ先日、ブラックユーモア系の【コ●ン】なら投稿しはしましたけどね。 こちらは、2005年6月に投稿した話を、きちんと完結させたものです。つまり、構想20年と言う、とんでもない代物・・・(滝汗)。最近何とか書く意欲が出てきたんで、執筆の運びと相成りましたv ええ。全ては2018年度の劇場版の『おかげ』です。おっちゃんがあろうことか冤罪に陥れられるなんて、オイシイしいけど、どっか許せない気分がふつふつと・・・【怒】 え? あれから7年経ってる? それは言わないお約束www ぴくしぶにもほぼ、同じものが投稿してあります。違うのは、こちらの(1)の方はほとんど当時の原文のまま。必要最低限でしか修正していないこと。良かったらどう違うのか、見比べるのも面白いかもしれませんね。 (わざわざ修正しなおすのがメンドクサイから、とも言うが) ------------------------------------ 件の店を知っているはずの江戸川コナンだったら、必ず取るであろう選択。 だがそれを選ばなかったことへの、毛利氏の不信感ありありの視線。 ───まさか、私が工藤君と入れ替わっていることが、バレている・・・!? いつもの腑抜けた彼しか知らないだけに、こんな事態は予想外だった。けれどおそらく、私の勘は外れてはいない。 でもどうして・・・? 「な、何のこと? おじさん。ほ、ほら、ボク風邪気味だから、ちょっと記憶違いしただけだと思うよ」 顔ではそう、平然と装いながらも、頭の中で必死に打開策を探る私。 けれど、そんな私の焦りが分かったのかも知れない。毛利氏は少し優しげな視線になって、こちらへ話しかけて来た。 わざわざしゃがみ込み、視線の高さまで合わせてくれて。 「・・・あのなあ、別に俺ぁ、責めてるわけじゃねえんだぜ? ただ、そうやって気張ってても疲れるだけだろう、って言ってんだよ。 おめー、阿笠博士ンとこの、ええと・・・灰原、とか言う女の子だろ?」 「・・・・・・っ!?」 「どーせ、あの探偵小僧にでも頼まれて、あいつのフリをする羽目になっちまった、ってところか? 苦労するな、お前」 ───私が江戸川君ではない、と露呈しているだけならいざ知らず。 あろうことか、その正体が灰原哀だということまで、知られているだなんて・・・! この時、私の脳裏に点滅していたのは『詰み』と言う文字。 ここで私が「僕は灰原じゃない」と否定したところで、「じゃあ今から阿笠博士のところへ行って確かめて来る」なんてことになれば、完全に終わりだ。入れ替わり工作は早々(はやばや)と不成立になってしまう。 今回の入れ替わりは、私から、工藤君に言い出したことだ。だから、彼が計画するよりはどうしても穴があるだろうけれど、まさかこんなところで頓挫してしまうなんて。完全に予想外じゃない。 私としても、この毛利氏を騙すことに罪悪感がなかった、と言えばきっと嘘になる。ただ、甘く見積もったのが間違いだったのだろう。 普段から『眠りの小五郎』のカラクリに気づいていないのなら、今回も分からないだろう、と。それこそが早合点だったと言ったところか。 それにしても・・・。 「・・・どうして・・・」 「あん?」 「どうして私が、江戸川君じゃないってことが分かったの?」 毛利氏の推理をほぼ認める格好で、私はこわごわと声を発する。 これは一応、これ以上彼を騙すつもりはない、と表明したようなものだ。 多分、それを察したのだろう。いつも工藤君に見せるケンカ腰なものとは違った、自愛に満ちた目で彼は私を見た。 ・・・こちらがオンナノコだということで、配慮してくれたのかもね。 「それはともかく、コナンのその声を何とかしてくれねえか? あいつがそんなに殊勝な声出してるのなんて、不自然極まりなくて気色悪い。どうせ阿笠博士の発明品なんだろ」 「え、ええ。はい」 大慌てでマスクを外し、それでも変装は解かないまま、私は現状に向き合う。 一方の毛利氏は、気のせいか、居心地の悪そうな顔になっていた。 「一番の理由は・・・あー、ええと、体の匂い、体臭、だな」 「・・・体臭?」 「確かにお前さん、コナンから洋服を借りているせいか、あんまり違和感はねえよ。 ただ、俺は毎朝毎晩、あいつと同じ部屋で寝起きしてるんだぞ? 要するに、あいつの体臭にいい加減慣らされちまってるんだ。そこからあれ? と疑問に思ったってだけさ」 「ああ・・・なるほど」 私だって、阿笠博士と同居している以上、何となくではあるものの彼の体臭を知っている状態だ。と言っても、入浴したらボディソープの香りで紛れてしまう程度で、とても『嗅ぎ分ける』ことなど出来そうにないが。 つまり、『コナン』が一晩で全く違う体臭になっていたから、毛利氏に気づかれてしまったのだろう。彼の服を借りていたからまだ、即行バレが避けられただけで。 本当に迂闊だった。もし再び工藤君に成り代わる必要があった場合、是非考慮すべきだ。 もう2度目はないだろうけどね。 「変態チックな話で、悪いな」 「いいえ。ものすごく納得したわ。単なる勘、なんて言ういつかの誰かよりはよほど」 「????? で? 嬢ちゃんは今晩何が食いたい?」 「え」?」 てっきりその後、こちらの事情を説明するよう求められると思いきや。どうやら彼には、もっと先決させたいものがあるようで。 「色々聞きたいことは山ほどあるが、今は腹の虫を収めてえんだよ・・・」 確かに、さっきから空腹時特有の音が、彼の腹部から聞こえる。随分呑気な日常に、何となく苦笑を禁じ得ない。 「そうね。まずは腹ごしらえね」 結局私は、チャーハンと揚げ物とスープのセット。そして毛利氏はラーメンと半チャーハンをデリバリーで頼み、大人しく事務所のソファーで食すこととなった。 「揚げ物、半分食べてくれる?」 「おお。小学生じゃ胃袋小さくて、あんまりたくさん食えねえか。・・・うん、結構うめえぞ、これ。良いのか? 残り食っちまっても」 「小学生の栄養バランス的には、これくらいがちょうど良いわ」 阿笠博士との夕食なら度々ある『惣菜の分け合い』を、この事務所で行なう事になるとは、数時間前までは思いもよらなかった私。 揚げ物を注文したのは、チャーハンとスープだけでは栄養が偏っていたから。ついでに、毛利氏の栄養補充になれば良い、とも思ったから。 決して、追究を緩めて欲しいためのワイロ、と言う訳ではない。 (そもそもお金を出すのは彼なのだし、ワイロ以前の問題だ) 子供の私が見ている、と言うこともあるのだろう。毛利氏は、工藤君から聞いているよりはるかに行儀良く、ご飯の一粒も残さずに、食事を終えた。ついでに、使い捨ての容器をさっさとゴミ袋にまとめ、室内を見苦しくない程度に片付ける。 お腹は膨れた。となれば、後はこちらの説明を待つばかり。 「・・・どうせ、他人に聞かれたくねえ話なんだろ? 悪いが、事務所の鍵を閉めても良いか?」 ここできちんとこちらの了承を得る辺り、彼は本当に常識人だ。 そう。後日、我が身に盗聴騒ぎが降りかかった際、つくづくそれを懐かしく思ったっけ。 それはともかく、私の頷きを見届けてから、毛利氏は静かに事務所を中から施錠した。 そうして私は依頼者側の席、彼は向かい側に座って、話を再会する。 「ええと・・・何から話せば良いのかしら?」 「まずはお前さんのその格好が、あのガキの強制じゃねえのか、ってことだな」 予想外の質問に、私はしばし目を瞬かせるしかない。 「え? く・・・江戸川君からの強制だ、ってあなたは思ってるの?」 「おうよ」 重々しく首を縦に振る毛利氏の顔は、「あのクソガキ、オンナノコに何てことさせてやがる」との憤慨がありありと伺える。 そう言えば、ここは年上なのを敬うためにも『おじさん』呼びした方が良かったのかも。けど、当の毛利氏は、私の『あなた』呼ばわりを大して咎めなかった。 「どーせあの生意気なガキは、俺の娘にホレてるんだろうが。見てりゃ分かるぜ。 で、新一のバカとも、こっそり連絡を取り合ってる。となれば、新一が帰って来るってことも事前に知らされていた、って考えた方が自然だろうがよ」 「・・・・・・」 最初の恋愛談はともかく、『江戸川コナン=工藤新一』が幸運にも露呈していないことには、心底安堵した。ついでに、その他の推理は全部的外れなことに、つい苦笑する。 だから、なのだろう。毛利氏のそのトンデモ推理が、私にとんでもない動揺をもたらすことになるなんて、考えも見なかったのは。 「だから、だな。 その、嬢ちゃんにはちょっと酷、ええと、残酷な話になるんだけどよ。 ひょっとしてコナンの奴が、失恋確定だ、今は蘭のそばにはいたくねえ! かと言って、家出して蘭を困らせるのはガキのやることだ、なんつーてカッコつけた挙句、嬢ちゃんに自分の代わりをさせることにしたんじゃねえか、と思ったんだ。違うか?」 「彼がカッコつけなのは否定しないけど。それで、どう私にとって残酷な話なの?」 毛利氏が私を見る目に哀れみが含まれるのを感じ、首を傾げてしまう。 どうして彼は、私をこうも不憫がっているんだろう? と。 『強制されたんじゃないか』と言ってはいたが、毛利の考えが本気で分からない。どんな理由で強制された、と思っているのだろう。 すると毛利氏は、うー、とか、あー、とか、さんざん言いあぐねた末に、ボソッと言うのだった。 「だってよ・・・嬢ちゃん、あのクソガキのこと、好きなんだろう?」 「っっ!?!?!?」 「なのにあいつはそのことに気づかずに、失恋した自分を可哀想がるばっかでよ。挙句、惚れてる奴に自分の代わりをさせるなんざ、鈍感なのにもほどがあるってんだ・・・」 はあ、とため息混じりに呟いた毛利氏の指摘に、私はそれこそ体中の血液が、一気に顔へと上がるのを自覚したのだった。 ───さすが既婚者。さすがは一人娘を育て上げた父親。 脳味噌お花畑のあのドンカン名探偵に、爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだわ。 混乱のあまり、私は心で毛利氏を賞賛したが、それはともかく、今は誤解を解くことこそが肝心だ。気づかれたことの一部は、そのままの方が都合がいいと、打算の上で。 「ええと、あの、その、おじさん、その、私が江戸川くんのことを、あの、好き、なのは、その、違わないとは思うわ。で、でも、別に強制されたわけじゃないの。そこは勘違いしないで」 「・・・そうなのか? 無理してねえか?」 「してないから! 私が勝手に、その・・・そう、おじさんが言った通り、あんまりにも落ち込んでいたから、江戸川君が落ち着くまで代わりに蘭さんのことを見ていてあげようか、って言ったの!」 色んな意味で顔が真っ赤になった私は、辻褄が合うようにするだけで精一杯。 そう。理由こそ違えどあくまでも、すり代わりを持ちかけたのは、私の方。そこは訂正しておかないと、後日工藤君が戻って来た時、毛利氏からの風当たりが強くなっても気の毒だ。 すると、毛利氏は私の主張を、変な方角へ曲解したのである。 「嬢ちゃん、お前さん、まだ小学生なのに、なかなかいい女だなあ。だが安心しな!お前さんならきっとそのうち、もっといい男が見つかるぜ。あんな鈍感男じゃない奴がな! 俺が保証する!」 「・・・・・・」 とんでもなくあらぬ方向へ大暴投した推測に、眩暈がしそうだ。いや、「いい女だ」と言われたことは、ちょっとだけ嬉しいけど。そう、ちょっとだけ。 だが、この際だ。せいぜい、その誤解を盛大に利用させてもらうことにする。その方が後々、齟齬を生まなくてすむだろう。 ここで問題になってくるのは、私の羞恥心。とは言え、ここでうまく演技出来ないことには、どうしようもないではないか。他言無用を徹底さえすれば、外に露見するのは防げるわけだし。 今だけ今だけ、と心の中で唱えつつ、私は毛利氏の良心に訴えかけることにした。 「あ、ありがとう、おじさん。それで、その・・・(目を潤ませて上目遣い)」 「分かってるって。入れ代わりがバレたことも、嬢ちゃんがあのクソガキに片思いしてることも、黙っててやるよ(頭なでなで)」 「・・・無理言ってごめんなさい。江戸川君に嫌われたくないの」 本来の私は、こんなキャラじゃないのに。言ってることと真逆な理由で、恥ずかしくなって来る。 何とか口裏を合わせ、黙ってもらうことにも了承してもらった私だけど。 その後数日間、毛利家にいる間ずっと、毛利氏からはとてもとても優しくも生ぬるい目で見守られたのは、言うまでもない。 ・・・ちょっとだけ嬉しく感じたことは、誰にも言わない私だけの秘密だ。 そして、付け加えるならば。 「な、なあ、灰原。俺が留守してた間、何かあったのか? 気のせいかもしれないけど、おっちゃんが妙に冷たいように思えてさあ・・・」 「私は大人しく、風邪っぴきの患者として看病されてただけよ? 快適だったわー。 風邪が治った途端、事件現場へ突撃しようとした、あなたの自業自得じゃなくて?」 後日、私の悪あがきの擁護が、生憎空振りに終わってしまったらしいことを、工藤君の愚痴で知ったのだった。やれやれ。 ■おしまい■ ※なお、あとがきはぴくしぶの方だけ、にします」。ご了承ください。
今日は久しぶりに、書いてみようかと思います。 とは言っても、今回は二次創作じゃないんですけどね。 昨今、世界的規模の疾患が大流行して、外出自粛だの、巣籠需要だのの話が、ニュースを騒がしています。 その中でも、筆者が特に気になったのが、パチンコ店がなかなか閉店しない、という話。 所謂「3密(密閉、密集、密接)」に思い切り抵触しているように思えるのに。 まあ、規模がデカい分、閉店したらもう立ち直れないだの、経営者側の理由もあるんでしょうけどね。 ただ今回、筆者が注目したのは、他県からもわざわざお客さんが、そのパチンコ店へ向かっている、という点。 「をいをい、こういう時だからこそ、我慢しなくちゃマズいだろ。自分が感染源になりかねないんだぞ」 と眉をひそめたものの、ふと気づいたことが。 「この人たち、我慢しようにも、我慢できないんじゃないのか? ひょっとして俗にいう、ギャンブル依存症、なんじゃ??」 それって一種の病、ですよね? 自分ではどうしようもできない、って意味では。 だったらこの際、治療する方角に持って行く必要があるんじゃないか、って思ったわけですよ。 「不謹慎だぞ」とか、文句ばかりつけていないで。 確か、日本でもカジノを作ろう、って話が出てますよね? で、ギャンブル依存症も何とかしよう、みたいな空気になってましたよね? この際、本腰上げて、きちんと取り組んだ方が良いと思うんだよなあ。皆さん、どう思います? (※尚、これとほぼ同じ文面のものを、ちゃんちゃん☆ 名義の他の日記にもUPしてあります)
久しぶりのここでの投稿となります。 筆者はぴくしぶでも活動しているのですが、あちらは結構見ている方が多いせいか、時々「をいをいをい」と思うことがあります。 特に、特定キャラへのアンチ系統ですかね。 おまけに、こちらはアンチのつもりで書いてはいなかったにもかかわらず、「アンチ」タグ登録されかかったことまでありましたから。むろん、キャプションに注意書きした上で、削除しましたけど。 「苦言=アンチ」と解釈されるのは、ほんとーーーーに! 不本意なんです。 それと同様な傾向が、一部のCPおよびキャラ絶対主義者によって扱われているような気がするんですよ。あくまでも「気がする」レベルなのは、地雷を踏みたくなくて、読むのをことごとく避けてるから(ーー;;;) そういう「もやもや〜」を、あちらに上げるのはちょっと憚られるので、こそっとこちらに投稿してみることにしました。こっちに来られる人は、きっとわずかでしょうし。ストレス発散のための投稿と思ってください。 もちろん、そのままズバリを言葉にするつもりはありませんよー。 迂遠に、分かる人にだけ分かるような表現にしてますよー。 ----------- ※お断り※ ・今回の話は会話形式です。誰がどのセリフか、は特に表記しません。言い回し等で、このキャラのセリフなんだなー、と分かってもらえたら嬉しいなと。 ・喋っているのはコ▲ンキャラです。勢い余った直書きのため、口調とか変かもしれません。 ・何気に公安に対して辛辣です。けどあくまでも「こうかもしれない」と言う話ですんで、深刻に受け止めないように。 ・・・うん。劇場版でおっちゃんがエライ目にあった仇をこちらで打とうなんて、これっぽっちも思っちゃいませんから★ ・ブラックユーモア系です。 ・筆者は「と●らぶ」は未体験で、二次創作等で何となく概要を掴んでいるレベルです。そっち方面の話題には着いて行けませんので、こちらの至らなさを重箱の隅をつつくようにするよりは、 「知らない奴が変なこと言ってやがるよ。あはははーー」 と笑い飛ばし、スルーするにとどめてください。 その方が双方、有意義な時間を過ごせます。きっと。 この注意書きを読んでイヤな予感がする方は、速攻引き上げてください。 万が一、この先を読んで気分を害されることがあったとしても、当方は一切関知しませんし、責任を負わないことをここに明記します。 ・・・いいですね? 忠告はしましたよ? 尚、例え二次創作と言えども、著作権は存在します。 筆者の許可なしで転載、盗作、改竄等の行為は、断固許可しませんので、念のため。 実は、かなり前の話ですが、自分で書いた小説を勝手に同人誌として売られたことがありまして。 そのような無体かつ無神経な行為を許すつもりは、毛頭ありません!! ---------- 旨味だけ奪おうだなんてそうはいかない【コ▲ン?】 これはとある、小さな喫茶店で交わされた普通の人々の会話である。 「いらっしゃいま・・・せ?」 「ええ!? ど、どうしたの? 園子ちゃん」 「スミマセン、安室さん。梓さん。こっちで休ませてもらって良いですか? ちゃんと注文しますから」 「それはもちろん構わないけど・・・とにかく奥の席へ」 「一体どうしたの? いつも笑顔全開の園子ちゃんが、こんなにボロ泣き状態だなんて」 「ふぇっ・・・ひっく・・・ひっく」 「ど、どうしたの? 蘭姉ちゃん。園子姉ちゃんがこんなになるなんて」 「あー、コナンくんもこっちにいたんだ。・・・うん。ちょっとね」 「・・・どうやら京極さんにフラれた、とか言うんじゃなさそうで、安心したよ。蘭姉ちゃんが苦笑いで済ませるほどだから」 「冗談もほどほどにしなさいよ、このクソガキ! あたしが真さんにフラれるだなんて、想像するだに恐ろしいこと言わないでよっ!!」 「ゴ、ゴメンなさい。だ、だけど、園子姉ちゃんがここまで泣きじゃくるなんて、他に理由が思いつかないんだもん」 「とにかく、水分補給代わりにジュースをどうぞ。喉が渇いたでしょう」 「あ、ありがと、安室さん」 「それで? 失恋したわけじゃないんだったら、一体どうして園子さんがここまで悲しんでいるんですか? 蘭さん」 「園子ちゃんには今は聞けない、って判断したのね。さすがは安室さん」 「ええと・・・要するに、この間お父さんが、沖野ヨーコさんの熱愛スキャンダルで落ち込んだのと似たような状況、と言うか・・・」 「熱愛スキャンダルなら、まだめでたいわよっ! 【時の政府】がそこまで鬼畜なんて、あたし、一気に人間不信に陥りそうだわっ!」 ・ ・ ・ 「ええ、と? 政府が何か、非道な政策でも行なっていましたっ、け?」 「違うんです。現実の世界の話じゃなくって、所謂ファンフィクション、って言うんだったかしら?」 「・・・つまり、映画とかテレビドラマとかで制作者側が公開しているものではなく、ファンが好きなキャラクターを動かして全く別の物語を作り上げる、と言うことで良いのかな?」 「そうです安室さん。二次創作、って呼ばれ方もしてたっけ」 「へえー。そんな創作ジャンルがあるんですか。何だか面白そうね」 「そんな呑気に構えてられるのも、今のうちよ梓さん。 時々、最終的にはハッピーエンドだけど、そこに至るまでの過程が魂を抉るような作品もあるんだからっ! ・・・救いのないBADENDよりは断然ましだけど」 「つまり、園子ねえちゃんは、その『魂を抉られる作品』ってヤツに、グッサリやられちゃった、ってわけなんだね?」 「そういうことらしいわよ。私も詳しくは聞いてないけど」 「あんたは知らなくていいのよ、蘭。あんたには新一くんとの来たるべき、ラブラブな世界観だけ知っててくれればいいの」 「「ら・・・★」」 「それでそれで? その物語の政府って、どんな鬼畜なことをしたの?」 「梓さん・・・まさか梓さんが、そんなわくわくした顔でそういう物語の顛末を聞きたがるなんて・・・悪趣味ですよ」 「良いじゃないですか、安室さん。所詮は物語だし、最終的にはハッピーエンドなんでしょ?」 「そ、それは、そうなんです、が・・・」 「あれれ〜? どうしたの? 安室のお兄ちゃん。表情硬いねえ?」 ダンッ!! 一気飲みしたジュースのグラスを、音を立ててテーブルに叩きつける園子。 「・・・良いわ。こうなったらぶちまけてやる。人に話した方が、この虚しさや遣り切れなさが、少しは発散されるだろうしね」 「その通りよ、園子ちゃん。ここだけの話にしてあげるから、遠慮なく話してみて」 「梓姉ちゃん、おっとこまえー」 「スミマセン、梓さん。何だか園子、酔っぱらいみたいで」 「いいのいいの。どうせお客さんもいないし」 「・・・・・」 「要するにね? とある別世界の話なんだけど、圧倒的不利な条件で戦っている、正義の味方の勢力があるわけ。最悪、世界の崩壊に繋がりかねないから、なりふり構っちゃいられない、ってんで、新しい武力投入をしたの。これが【時の政府】の仕事ね」 「ふんふん」 「この正義の味方の勢力は、いくつか別々に存在してて。基本的にリーダーは頭脳担当。陣地を構えて戦士たちに命令を下すわけ」 「リーダーは直接闘ったりはしない、ってわけだね?」 「そ。 ところが、この闘う戦士ってのがなかなか見目麗しかったり、使う武器が希少価値が高いものもあったりするんで、中には私欲に走るリーダーもいるのよ。あくまでも、ファンフィクションの中では、の話だけど」 「私欲?」 「例えば?」 「夜伽を強いる、とかー」 「よ・・・・・!?」 「希少価値が高い武器欲しさに、他の戦士を使い潰す、とかー」 「ええー! そんな殺生なことするの?」 「梓姉ちゃんの大尉(オスの三毛猫)を手に入れたいために、手段を選ばないのと似たようなこと?」 「ううーん、似てるような、そうでもないような」 「当然、そんな非道なことをしてたら、陣営は荒れるわよね? 当然、戦力も戦意もダダ下がり。それで、その危機を察知した【時の政府】は、速攻そんなお馬鹿リーダーを更迭。疲弊した戦士たちを癒して、うまくやっていけそうな新しいリーダーを投入する、ってことになるわけ。 あくまでも、ファンフィクションの中では、の話よ?」 「・・・それって、最初からそういうリーダーを配備すれば良かった、って話にならない?」 「ミもフタもないこと言うわね、このクソガキは。圧倒的不利で実力本位に走ったから、人間性は度外視した、ってことなんじゃない? で、そこから新しいリーダーと戦士との、葛藤あり、反発ありの心の交流がうまれるわけ。ロマンよねえv」 「あくまでも、ファンフィクションの中では、の話、なんだよね?」 「まあまあ、コナンくん。園子は学校祭の劇の脚本手がけるぐらいに、そっち方面の想像力に長けてるみたいでさ」 「あー。そう言えばあったねー、そういうことー」 「学校祭の脚本、かあ。そっちもいつか読ませてよ」 「ですけど園子さん。それなら後手には回ったものの、【時の政府】の判断が功を奏した、ってことですよね? 鬼畜云々、ってのは、前のリーダーのことなんじゃ・・・」 「甘い。甘いわよ、安室さん。話はここでは終わらないの」 「へ?」 「新しいリーダ―がそこまで手を尽くして、何とか戦士たちの気持ちを癒し、陣営の戦力も無事持ち直したっていうのに! あの【時の政府】ったら、難癖つけて陣営を取り上げた挙句、新しいリーダーに無実の罪をなすりつけて処刑しようとするの! その理由も、新しいリーダーが無能だってならともかくも! 【時の政府】お偉方のバカ息子に跡を継がせたいがため、だったりするのよ! あくまでも、ファンフィクションの中では、の話、だけどさ」 「うーわー・・・」 「た、確かに」 「それは鬼畜、としか・・・」 「そこからが更に、盛り上がるんだけどね。自分たちが慕うリーダーを取り上げられた戦士たちは一致団結し、【時の政府】に喧嘩売って、リーダーを取り戻そう、って算段よ」 「なるほどー。盛り上がらない、って方が嘘よね」 「まあ・・・そこに至るエッセンスとは言え、リーダーが【時の政府】に心身とも虐げられてさあ。 『自分は所詮一人なんだ』みたいに落ち込んで、ただただ死を待つ、ってクダリがあるのよ。そこの描写がものすごく巧みだからこそ、【時の政府】許すまじ! みたいな気持になっちゃった、ってワケ。分かった?」 「たかだかファンフィクションで、そこまで入れ込めるってのもすごいね、園子姉ちゃん」 「感受性が高い、って言いなさいよ」 「でも、まあ、所詮は架空の世界の架空の物語、ですよね」 「そうでもないんじゃありませんか? 結構そういうこと、現実世界でもありそうですし」 「・・・梓さん?」 「私は幸い、そういう目には遭いませんでしたけどー。大学とかで、ものすごく面倒で手間のかかる作業を生徒に押し付けておきながら、あたかも『自分で全部やりました!』みたいな顔をする先生とか、いるって聞きますよ? しかも、落ち度があると、全部生徒のせいにするとか」 「ええーー!?」 「許せないわね、そんな先生」 「要するに、人に面倒くさいことを押し付けておいて、美味しいところは自分が持っていく、ってこと?」 「そうみたいね。蘭さんやコナンくんは、そういう目には遭ったことないみたいで、良かったわ」 「んー。僕は確かに、直接は被害には遭ってないんだけどさあ」 「コナンくん?」 「聞いた話だと、その人が一番大変だった時に、碌に話を聞かなくて、助けてもくれなくて。何とかちょびっと非合法ギリギリな手段も使って、何とか自分の立ち位置、っていうか、居場所を作って何とかやってる人がいるんだけどね」 「ちょびっと非合法ギリギリ、って・・・」 「なのに今になって、 『君のやっていることは違法だから、捕まりたくなかったらこちらの言うことを聞け』 なーんて、上から目線で命令しようとして来る人間がいて、辟易している、って聞いたことならあるなあ」 「辟易、って、随分難しい言葉を知ってるのね、コナン君」 「ついでにさあ。その人が頑張っているのは、自分の大切な人の生活を守りたいが故なのに、 『そいつらは足手まといだから、さっさと切って、こちらと合流しろ。 その方が後々、君のためだ 我々なら君の魅力を最大限に生かせる』 なーんて、親切ごかして、今までの生活に無理やりピリオド打たせようとするんだってさ」 「・・・・・・」 「何かさあ。園子姉ちゃんの話聞いてたら、その人のこと思い出しちゃった。似てるでしょ?」 「そう、ねえ」 「旨味だけ奪っちゃって、苦労だけ押し付ける、って辺り、確かにそっくりよね」 「いやねえ。コナン君の知り合いにも、そんな人がいるんだ。大丈夫? その人孤立したり、してない?」 「平気だよー。両親とか知り合いと連絡取りあって、向こう側に一方的有利な主導権は握らせるつもりはない、って、妙に張り切ってるって話だし」 「と、ところで、さっきの話ですけど。園子さん」 「はい?」 「どうしたんですか? 安室さん。顔色が悪いような」 「僕は元気ですって、梓さん。 その、さっきのファンフィクションで、戦士たちが【時の政府】に喧嘩を売ってリーダーを取り戻す、って言ってましたよね?」 「そうですけど。それが何か?」 「いえ、【時の政府】がそこまで過酷な手段をとりざるをえなかったのって、圧倒的不利な戦況だったから、なんですよね? なのに、【時の政府】に喧嘩売るなんて、その不利な戦況をさらに悪化させるだけになるんじゃないか、って懸念しちゃいまして。 それこそ、敵の思うつぼでしょう?」 「あら。安室さんって案外、現実主義なんですね」 「男なんて所詮、そんなものですよ」 「それはあくまでも、【時の政府】の都合、だよね?」 「コナン君・・・?」 「言っちゃ悪いけど、そもそも馬鹿リーダーに陣営任せちゃったのは、明らかに【時の政府】の不手際だよね? なのにその後始末を、新しいリーダーに押し付けただけならともかく、美味しい戦果だけ取り上げよう、だなんて、そんなの離反されて当たり前じゃあないのかなあ? その時だけならともかく、またあとで、寝首をかかれるかもしれない、なんて戦士たちに怖がられたって、不思議はないでしょ? だったらその前に、【時の政府】に喧嘩売っちゃえ! ってなるのは、ごくごくフツーの、人間の心理だと、僕は思うけどなあ?」 「・・・そのせいで、平和が乱れてもいいっていうのかい? コナン君」 「そんなの、こういう話じゃ決まってるじゃない? 『我々のリーダーが虐げられる世界なんて、いつかは滅びる だったらせめて 我々の手で新しい世界を作ってやろう』 ってね?」 「・・・・・っ!?」 「そうでしょ? 園子姉ちゃん」 「そうそう。確かにそう言ってたわ。話の中で。 それにしても。あんたにも案外、脚本書く才能、あるんじゃない?」 「そんなー、たまたまだよ、園子姉ちゃん」 「(小声で)ってか、父親が作家だしなー。そのくらいの想像、出来なきゃ嘘だよ」 ----------- 「聞いてませんでしたよ? 彼に接触して、あろうことか脅すとは。 そんなにご自分の地盤が脆弱ですか? 強固になさりたいんですか? ・・・知りませんよ、今更泣きつかれたって、こちらの都合だってあるんです。 彼、本気で怒ってましたからね。ありとあらゆる伝手を集めて、あなたたちに楯突く気、満々ですよ。 だから最初から反対したでしょう? 毛利親子から彼を取り上げよう、だなんて。 なんだかんだ言って、今の彼にとっては、彼らは第二の家族なんです。 作戦会議に加えることはないにせよ、おざなりにならともかく、足蹴にしようものなら、彼の両親だって黙っちゃいません。 元々彼らも、毛利夫妻と親交があるんですしね。 ・・・・・・・・どこのツラ下げて、そんなこと抜かしてやがるんですか。 彼を自分の手先にしたい、なんて夢物語、さっさと見切りを付けちまえって言ってるんですよ、この野郎。 自分の身が可愛いなら、とっとと手をお引きなさい。今ならまだ、未遂で許して差し上げますから」 どこぞのセーフハウスで、電話の相手に啖呵を切る某・捜査員がいたという。 ■おしまい■ ※実は当初の案だと、 「我々のリーダーが虐げられる世界なんて、滅びてしまえ」 だったんです。 さすがに「彼」がそんなこと、言うワケないと思ったんで変更しましたけどね。
ご報告遅れて申し訳ありません。 実は、かつてこちらへ投稿していた「茂保衛門様 快刀乱麻!」を、ぴくしぶの方へ順次、転載する運びとなりました。 とは言え、こちらの他の小説を引っ越しする予定はありません。削除の予定もありません。 こちらを読まれている方はほぼいないものと思いますが、一応今後の方針として、ご報告申し上げます。 つまり、ぴくしぶにちゃんちゃん☆ 名義で投稿した「茂保衛門様 快刀乱麻!」は、盗作無断流用等ではありません!! その辺、ご留意くだされば嬉しく思います。 こっちにもなあ・・・小五郎のおっちゃんの話とか、書き残してる話の新作、投稿したいんだけどなあ・・・・・。(ため息★)
2018年 あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく。 新年早々、久しぶりに新作の投稿です。と言っても、今は亡き別館(ぴくしぶじゃないよ)からの再録ですが。しかも、真冬真っ只中に、残暑お見舞いってどうよ・・・☆ 実は最近「モン■ーターン」にハマられた方が、たまたまこちらの日記に来られまして。HOMEの方ではすでに発表終了になっているので残念だ、とカキコされたんで、この際だからと引っ張り出してきた次第。あいにくこの1作しかないんですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。 ※これは2006年の暑中見舞いとして書いたものです。今の競艇の規則とはかなり違うところがあると思われますが、ご了承ください。(レースへの選定基準とか) ※蒲生さんはともかくも、榎木の家庭環境はちゃんちゃん☆ の勝手な想像です。 んで、蒲生さんも榎木さんも、新人の頃1度はお互いの実家へ行ったことがある、 と言うオリジナル設定になってます。ご了承くださいませ。 ------------------------------------ 毎年、地元・丸亀でのお盆レースを終える頃。 久しぶりに自宅へ戻って来る蒲生秀隆を、家族や「蒲生モーターズ」従業員以外にも迎える存在があることを、知る者は少ない。 「おーお、やっぱ来とったかい。あいつもマメやのー」 それは毎年恒例、見覚えがありまくりの筆跡で書かれた、時節の便りである。 翌朝、ジワジワと滲む汗を扇風機で紛らわせながら、自室でくつろぐ蒲生。 生真面目な筆遣いのその残暑見舞いを眺めつつ彼は、十数年前の出来事に思いをはせていた・・・。 ------------------------------------ それは競艇選手になって初めて、榎木祐介と同じ一般戦に斡旋された日のことである。 「は? ワシんとこの住所教えろやと?」 その日のレースを終え。 1期後輩の榎木と、宿舎での早い夕食を共にとっていた時だ。まじめな顔をした彼にそう、持ちかけられたのは。 「住所っちゅうてもお前、確かいっぺん、ワシんところに来たことあるやろうが」 「場所は知ってますけど、住所までは知らないんですよ」 「あー、そういうことか。けど、そないなもん知ってどうするんやー? お中元とかお歳暮とかやったら、ワシいらんぞ?」 「そういうものだったら郵送よりも、直接伺って手渡ししないと、かえって失礼でしょう?」 「・・・おのれは冗談も通じんのかいな・・・☆」 先手を打っておいて正解、と言うべきなのか。 わざわざ山口から訪ねて来る後輩の姿をつい思い浮かべてしまい、げんなりとしてしまう。 「そう言うんじゃなくて、時節の便りとかそういうの、送りたいって思いまして。蒲生さんには本栖以前から、色々お世話になってますし」 「これからも世話かけそうやし、か? にしても・・・時節の便り? 年賀状とか、暑中見舞いとか?」 「ええ。いくら支部同士が近いからって、しょっちゅう会えるってわけでもなさそうですし。 あ・・・ひょっとして蒲生さん、そう言うのは女性からしか貰いたくないとか?」 「いや、そこまでは言わんけどな・・・」 ───今のは冗談なんかじゃなしに、絶対本気でそう思っとるやろ、お前・・・。 残ったコーヒーを飲み干しながら、蒲生はわざわざこの場で尋ねて来た後輩の意図に思いをはせる。 ・・・確かに、場所はともかく住所は知らない、と言うのは嘘ではないだろう。ただ、蒲生の家は自営業だし、聞かずともいくらでも調べようはある。 おそらく彼は住所を直接本人に尋ねるという行為で、さりげなく「時節の便り」とやらの郵送許可を、貰いたいのではないか。 そして蒲生も、そういう後輩の配慮を踏みにじるほど、野暮でもない。 「・・・ま、ええわ。教えたるから、書くもん寄越せや」 「あ、ありがとうございます」 「ただし、ワシからの返事は期待すなよ?」 「構いません。俺が勝手に、スジ通したいだけですから」 心底ホッとする後輩の表情に、蒲生は自分の予想が当たっていたことを悟ったのだった。 「しかし、榎木もマメやのー」 住所を書いたメモを押し頂き、丁寧にポケットにしまう榎木相手に、何となく感心した口調になってしまう蒲生である。 「・・・そうですか?」 「おおよ。どうせ同じ支部の連中にも葉書出すんやろうが、山口支部言うて結構人数おらんかったか? そいつら全部に、イチイチ手書きで出すつもりなんやろ」 「? そりゃあ、先輩たちには日ごろからお世話になってますし。それに、手書きでって、それ以外の方法なんて・・・」 そこまで口にしてから榎木も、蒲生が何を言いたかったのかが分かったらしい。 「・・・そう言えば、蒲生さんところはお店やっているんでしたよね。ひょっとして年賀状の類も全部、印刷所に頼んでらっしゃるんですか?」 「まあな。さすがに住所ぐらいは自分で書くんやが、年賀状だけでも半端な数やないんじゃ。おかげで、ある程度字書けるようになる年になったらワシ、毎年毎年手伝わされてのー」 わざわざ「返事を期待するな」と前置きしたのは、実はその辺のトラウマが原因である。そのため心底ウンザリした声になるも、心優しい榎木は律儀にも同情してくれたようだ。 「そ、それは大変でしたね・・・」 「さすがに今は手伝わんけどな。お前ンとこはどないじゃ? あのクソまじめな親父さんのことやから、全部自分の手でやらんと気ィ済まんのやないか?」 「ええ、当たりです」 「・・・で、当然その背中を見て育った息子のお前も、おんなじコトするつもりや、と」 「・・・・・・」 榎木にとっては、それを認めるのはさすがに、色々な意味で気恥ずかしいに違いない。口をつぐんで視線を逸らしてみせる後輩に、蒲生も苦笑を禁じえないのだった。 「で、でも、父は白紙の葉書使ってますけど、俺は季節の絵入りのを使う予定なんですよ。ほら、単に白黒の配色じゃ、ちょっと殺風景だと思いますし・・・」 「分かった分かった。ま、せいぜい頑張って書けやー」 ------------------------------------ ───あの頃の榎木は、まだまだ青さが残っていたな、と蒲生は述懐する。 その年の夏、早速届いた暑中見舞いは、上品な朝顔の絵入りの葉書に見事な達筆で、 暑中お見舞い申しあげます 桐生での一般戦 優出はお見事でした 今度一緒のレースになったら 自分も負けません その時はどうぞよろしくお願いします 榎木祐介 と、明らかに事前のレースを見ていなければ文面に載せられないことを、書いてきたのだ。 律儀さと生真面目さを目の当たりにすると同時に、負けず嫌いな性格も垣間見える榎木らしい暑中見舞いに、蒲生は思わず笑った。 そして、秋口に再会した際、その感想を率直に口にしたところ、 「あの時書いた通り、今節は負けませんから!」 と、ヤケに気合の入った挨拶をされた記憶がある。 ・・・もっとも、榎木からの便りに、蒲生がそんな風に本人に直接感想を述べたのは、その時が最初で最後だった。 それからしばらくして榎木がレースで大怪我を負い、一緒のレースに斡旋されるどころか、文字を書くことすらおぼつかなくなったからである。 ただし、ある程度傷が癒えてからは、榎木も生来の生真面目さを発揮し、リハビリも兼ねて時節の便りを再開させはしたのだが、今度は蒲生の方で問題が生じてしまった。 折角出場したSG優勝戦で、まさかのフライングを起こしたせいだ。 もちろん、B2級を戦っていた榎木と、1年間SG出場不可能となった蒲生となら本来、一般戦での接点はあったはずだ。それに、何となくこちらを避け気味だった他の選手とは違い、榎木はむしろ蒲生を常に気遣っていたのだから。 今になれば、蒲生も認めることが出来る。避けていたのはやはり、自分の方だったのだろう、と。 SGはおろか、G1への斡旋も遠慮がちになっていた自分にとって、榎木のある種まっすぐな態度は、直視しづらいものとなっていたからだ。 ───榎木のせいやないんに、あいつには悪いことしとるなあ・・・。 新人時代から変わることなく、時節の便りが届くたびに、蒲生はそう苦笑せずにはいられなかった。 そして今年。 暑中見舞いの頃は忙しかったのだろう、榎木は珍しく残暑見舞いの方を送って来た。薄い色彩の西瓜の絵を背景にサラサラと達筆で、時節の挨拶が書かれている。 蒲生はその内容に、ひとりごちた。 「言いよるやないか、榎木のヤツも・・・」 残暑お見舞い申し上げます オーシャンではお互い 残念でしたね MB記念でリベンジ出来るのを 楽しみにしています 榎木祐介 MB記念の選定基準は、他のSGとは若干違う。前年のSG優勝者はともかく、開催場以外の23場からの推薦選手、開催施行者の希望と言うことであり。 要は成績が良く、且つSGやG1にも素直に斡旋される選手が選ばれる、と言っても過言ではない。 事実、オーシャンでSGに復帰した年、蒲生は残念ながら選ばれなかった。おそらくは、G1やSGを斡旋されているにもかかわらず、断り続けた経緯からだろう。 ───MB記念でリベンジ出来るのを 楽しみにしています・・・。 数年前ならさしもの榎木も遠慮して、こんな文面は送って来なかったはずだ。つまり彼はもう、蒲生のSG連戦を疑ってなどいないに違いない。 そして蒲生としても、今更SG斡旋を辞退する気は、さらさらないわけで。 「んーーーーー」 しばらく葉書を凝視していた蒲生が、階下で電話をするために立ち上がったのは、それから約1分後のことだった。 ------------------------------------ 「まさか、本当に訪ねて来られるなんて・・・」 それから更に、数時間後。 蒲生は冷房完備の下関・榎木邸の客間でくつろいでいた。 何と蒲生は、この残暑厳しい中、じかに榎木の自宅へと足を運んだのである。 主の榎木祐介は、と言えば、自分と客用にアイスコーヒーを自ら作りながら、少々呆れ顔だ。 「いくらワシかて、事前に電話しときながら訪問スッぽ抜かすような真似、しやせんぞ。それとも・・・ひょっとしてお前、らぶらぶデートの先約あったとか?」 「らぶらぶって・・・☆ そう言う気遣いは無用だって、さっきも電話で言ったじゃないですか」 そう言うと榎木はおもむろに、客間のテレビのスイッチを、リモコンでつけた。 ちょうどニュースの時刻らしく、今日の山口近辺の残暑がいかにキツいかを、涼しげな服装のキャスターが述べていて。 「あーー、熱中症警報?? そんなもん、発令しとったんかいな」 「暑くて湿気が多いって話ですから。そうでなくても蒲生さん、こっちに来るとしてもいつものあの車で、でしょう? 冷房ついてないんじゃ、むしろ日射病になるかもしれないじゃありませんか。 ・・・アイスコーヒー、もう1杯どうです?」 「おお、もらうわ。五臓六腑に染み渡るのーv」 「とにかく。無事に着いて何よりですよ。蒲生さんにもしものことがあったら、ファンに恨まれること必至ですし」 榎木の心配ももっともだが、蒲生とてまるっきり何も考えずに訪問を決意したわけではない。 「その辺はワシも抜かりないぞー。帽子被ってきたし、西瓜入れて来たアイスボックスにちゃーんと、水分補給用の飲み物詰めてきたけんの。道中であらかた、飲んでしもうたが。 ・・・そう言えばさっき渡した西瓜、冷蔵庫に入ったか?」 「残念ながら収まりませんでしたから、風呂場に水張って冷やしてあります。あそこまで見事に丸のままの西瓜も久しぶりで、切るのも何だかもったいでしょ?」 「そないかー。お前くれた葉書見とったら、この暑い中訪ねて行くンならやっぱ、西瓜手土産にせんとなー、思うての。カロリーもあんまり気にせんでええし」 どうせなら古式ゆかしく?、西瓜用のアミに入れて、ぶら下げた状態で持参したかったのだが、この暑さでは適うまい。 蒲生のつぶやきに、榎木は困ったような苦笑を浮かべた。 「俺としてはそういうつもりで、西瓜の絵柄を選んだわけじゃなかったんですがね。 ・・・それにしても、一体どういう風の吹き回しなんですか? 返事を期待するな、って言ってたの、ほかならぬ蒲生さんなのに」 「んー、お前にはずっと不義理通しとったろが。いい加減10年分の義理果たしとかなイカン、思うたら、いてもたってもおられんようになってのー。 それに、そもそも暑中見舞いやって、相手の家訪ねて激励するっちゅうんが本式なんじゃろ? やったら残暑見舞いもきっと、似たようなモンや思うてな」 「激励、か。・・・そうですね」 榎木は、言わずとも分かってくれている。蒲生の「ずっと不義理」が、SGの斡旋を断り続けていた事実を指していることを。 だからそれ以上は特に追及せず、ただ自分を迎え入れてくれる彼の態度が、蒲生にとっては面映いながらも嬉しい限りだ。 艇王と呼ばれ、競艇界の頂点に君臨する存在となっても、人間の根本的な性格は変わりようがないらしい───蒲生は安堵し内心、ひょっとしたらそれを自分で確認したくて、彼をわざわざ下関まで訪ねて来たのではないか、と、今更ながら思い至るのであった。 「ま、そう言うわけやから、今節も覚悟せいや」 「肝に銘じておきます」 ≪終≫ ------------------------------------ ◆おまけ◆ ところで。 蒲生と言う男は、押しかける時も突然ならば、引き上げる時も突然と言う、実は結構思いつきで行動しがちな傾向に、ある。 「・・・んじゃ、水分補給もしたし、体も十分冷えたし、そろそろ帰るわ」 さっきまでソファーでくつろいでいた蒲生が、いきなりそんなことを言い出すものだから、驚いたのは迎えた側の榎木の方だ。 「ええ!? 今からまた、香川までですか!? 無茶ですよ。道路ってこれからが、更に蒸すって言うのに・・・。部屋用意してますから今日は、遠慮なく泊まって行ってください。明日あさってと、特に差し迫った用事はないんでしょう?」 「そやけど、残暑見舞いの用事は済んだしのー。長居は無用じゃろ」 そもそも、この後輩の顔を見て、来るMB記念への発奮材料にするつもりだった蒲生にとって、外泊することなど端から頭になかったわけだが。 「困りましたね・・・。今蒲生さんが車を運転すると、俺も飲酒運転幇助で捕まりかねないんですが」 真面目なはずの後輩のその言葉に、思わず飲んでいたアイスコーヒーを噴出すところだった。 (イヤ、真面目だからこそ、厄介なことになる前に先手打ったのか?) 「・・・はあっ!? 飲酒って、ワシがさっきから飲んどるんは、単なるアイスコーヒーだけ・・・」 「確かにアイスコーヒーなんですが、さっきいれた際、ちょっと手を滑らせて隠し味のダークラムをを少々、利かせすぎまして。でも、どうせ泊めちゃえば構わないか、ってそのままお出ししたって寸法で。高性能のアルコール検知器だったら、引っかかるかもしれませんねえ。 蒲生さん、おいしいからって2杯も、飲んだでしょう? あのアイスコーヒー(にっこり)」 「・・・ちのーはん・・・」 「ワザとじゃないですって」 とは言え、先ほどまで汗みどろだった人間にアルコールを与えれば、たちどころに体内に吸収されてしまうことぐらい、榎木が気づいていないはずはなく。 レースの駆け引き等で分かっていたはずだが。 申し訳なさそうに苦笑を浮かべるこの後輩がその実、十数年前よりはるかに「したたか」になったことを、身をもって知る羽目になった蒲生であった。 「・・・ま、ええわい。そン代わり、ちゃんと先輩を歓迎せえよ?」 「もちろんですよ。とりあえずまずは、さっきのお土産の西瓜、切り分けましょうか。そろそろ食べごろでしょう」 今度こそ≪終≫ ------------------------------------ ■当時のHPでの後書き■ ※ある日、とうとつに「Dさんからの暑中見舞いへのお礼をしなくちゃなあ」と、フト思いまして。 まあそれ以上に、夏休み中に1本もSSを更新できないとマズいよな、と言う気持ちもあったんですが。とりあえず「暑中見舞いのお礼」がネタにならないだろうか、と思ったんです。 Dさんてば榎木ファンだから、やはり榎木ネタのSSかな、と思いつつも、ちゃんちゃん☆ は蒲生さん絡みじゃないと文章が書けない、と。 で、どうせだから時節ネタにしたいな、と思った時何故か、 「丸のままの西瓜をアミに下げて、榎木さん宅を押しかけ訪問する蒲生さん」 が、強烈に頭の中に浮かび上がりまして。 更に、きっと榎木さんは真面目だから、先輩の蒲生さんにも暑中見舞いとか年賀状とか欠かさずに出してるクチなんじゃ? とまで考えるにいたり、今回の話となりました。 でもなあ・・・おまけの話は、当初はなかったんですよ。ただ単に蒲生さんがコーヒー派っぽいから、榎木さんもアイスコーヒーぐらい出すんじゃないか、と考えた時、 「コーヒーゼリーにリキュール入れたりするよな? アイスコーヒーだって、そっちの方が美味しかったりしないか?」 なんて考えてしまい、気がついたら「策士・艇王」が出来上がった次第。・・・まあ榎木さんが、単なるいい人じゃないのは事実だしなあ・・・。(洞口Jr.のフライング誘ったのがいい例☆)
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