言の葉
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まだ陽が傾くには 少しだけ時間のある午後の早め ボクは流れる車窓風景を 何を見るともなく 眺めていた
アタマの中にあるのは 急逝したリョウさんのことだった
あまりに突然の そして早すぎる死は ボクに想像を越えたショックを与えた
彼の通夜に出席するために 新宿から特急に乗って 彼の故郷へ向かう旅 できればそんな旅はしたくなんかなかった
県境を越えて 彼の育った田舎へ近づく 窓を埋め尽くす草深緑色が 生のナマ臭さを感じさせて なんとも自分の精神状態とのギャップが 息苦しくて
自然とボクは語りかけていた 「リョウさん、そろそろ田舎に近づいた?」 「毎週通ってたよね ボケちまったおかあさんの介護で 大変だったんだよね」 「あっ、湖が見えてきたよ もう着くよ」
通夜の席は これまでのボクが経験したことのない形式だった 日本間でリョウさんは布団に横たわっていた
顔にかけられた白い布が 彼がもう帰らない人となってしまったことを 端的につげていた
40分に及ぶ読経の間 ボクは彼が起き上がるかもしれない いや 起き上がって欲しいっていう願いをこめて 真っ白な布団を見つめつづけていた
気がつくと アタマにハエが止まっていた 何度手で払いのけても 読経の間ボクにまとわりついていた
その時フト感じてしまった これはリョウさんの魂が ボクについてきているんじゃないかって
そう感じてしまったボクは ハエに好きなようにさせて こう語りかけていた
「うんうん リョウさん、わかったよ 一緒に東京に帰りたいんだよね うん 一緒に帰ろうよ」
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