DUSTBOX
「あの女がバカだからいけないんだ」
「…っ…んだとっ!!」
ガンッ
俺は知らず知らず、奴の胸座を掴んでいた。
奴の足に当たったブリキのゴミ箱が音を立てて転がっていく。
奴は、怯えた様に上目遣いで俺を見ている。
「…なんだよう」
「お前は、一瞬でも大切だと思った人の言うことより
どこの馬の骨とも知れない奴の言うことを信じてるのか?
お前を慕っていたあいつの言うことよりも?」
「……」
「お前はいつか俺を甘いと言ったな?
正直者は馬鹿を見る世の中なんだと。
お前から見たら、確かに俺は馬鹿なんだろう。
だがな、俺はお前のように恵まれた環境にいる奴を知らない。
お前のように恵まれた環境にいながら感謝の気持ちすら持たない奴を
気の毒だと思うよ」
「……」
「お前のことだから
まだ、腹の中で嘲笑っているんだろうな」
胸座を掴んでいた手を前に出し、奴の身体を放す。
ふらつきながらも体勢を立て直した奴の眼を見る。
反吐が出そうにずるい眼だ。
「もう、ここには来ない。
お前も金輪際、俺の前に姿を現すな。
彼女の前にもだ。彼女は、俺が護る」