Simple Song
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2002年10月14日(月) 土から生まれた姫君(7

【私を連れていってください】

と。
浪は、その紙を大切に大切に懐へしまうと
花のように笑いました。

実は最近、樹の館の周りに
武士の遺体が発見される事が多く
浪は、樹を倒しに来た大名の部下達が
仲間割れをして「我先に手柄を」と
彼女を倒しに来て、
彼女を守る者に倒されている…
それを知っていました。
もう、これ以上ここにいては
彼女の身に危険が及ぶ事があるかも知れないと。
だから、こうして彼女の答えを待ちつつ、
心境としては焦りを見せていたのです。

「では、明晩、樹…貴方を迎えに来ますよ。
 身支度、整えて置いてください。
 …明日、私が来たら貴方を連れて行きますから」

そう「紙」にしたためて
彼女が読んだ事を確認してから
浪はそっと、樹を抱き寄せました。
彼女からは、何か懐かしい香りがする。
浪はぼんやりと彼女の香りを心に刻んでから
そっと微笑むと帰って行くのでした。

明くる朝。

樹は変わらずに父と母と過ごしていました。
琴を爪弾き
食事をして
普通に時を過ごしたのです。
父と母は、何も気付きませんでした。
あまりにも、娘が普段と変わらずに過ごしていたので。
彼女が、
その日、消えてなくなってしまうなんて
思いもよらなかったのでした。


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