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2002年10月20日(日) 土から生まれた姫君(8

そして、その夜がやってきました。
丁度その夜は新月で
まるで闇しか存在しないかのような夜でした。
浪は驚いたことに、
いつもの農家の青年のような姿ではなく
浅黄色の羽織を着て、
白い刀を差して彼女のもとへ来たのです。

【お待ちしておりました。
 篠田播磨ノ守浪紀様】

樹のその文字に、浪はやや驚いて
それから、からからと笑いました。
浪はその時、はじめて声を発したのです。

「貴方は、
 なんでもわかっていらっしゃる。
 でも、これからも私を浪と呼んで下さい…。
 …福島。」

すっ。
と、ふすまが開くと
そこに「おにぎりみたいな顔をした」武士が
膝間付いて、二人に目礼をしました。

「頼む」

「はっ」

そういうと福島雅真は樹を
お姫様だっこして、更に自分の荷物も背負って
彼女を連れ出したのでした。
彼女を連れて駆け出したあと、
彼は篠田播磨ノ守浪紀の事、
篠田家の事
紀山藩の事。
紀山藩の藩主が波紀である事。
彼の話を樹はうなずきながら聞いていました。

後方に響く、年老いた父と母の叫びも聞きながら。


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