『スウィート・バイエル』
モクジ | 今ヨリ、カコへ | 今ヨリ、ミライヘ
半年間の、行き違い いや、正しくはもう2年前くらいから続く感情のすれ違い、言葉と行動の行き違い やっと会えるようになったのは、ここ1ヶ月半くらいのこと それでも意思の疎通は難しかった 行きつ戻りつ メモリがついた直線のうえ、ゼロを境にプラスに行ったり、大きくマイナスに戻ったり その繰り返し そしてやっと、きちんとした会話ができるようになった
ある日。 階段を昇る途中で立ち止まり 後ろに居る私をちらりと確認し、「……ん」と差し伸べられた手。 「急にどうしたんですか」といいながら、手を重ねる。 そのまま手を繋いで、店の入口をくぐる。 別れ際。 自分から手を伸ばし、 少し離れたところに置かれた手の指先をそっと握る。 ただ優しく握り返される手。 最後に軽く頭をなでられた。 目線は下に向けたまま、 「まぁ……(おまえは)まだ……大丈夫だよ……うん」 低く小さい声で。
私は、何かの弾みでも無い限り 自分から人に触れることが、ほぼ出来ない。 自分から素直に求めるということが、出来ない。 主従関係を結んだ人以外、 私がそういう人間であることに、誰も気づかなかった。 逆に 「オレ、いちゃいちゃするの苦手なんだよ。 君もそうだよね! 同じ感じがするんだよね!」 勝手にそう決めつけられていた。 そんな時、私は、イエスともノーとも言わず、ただ微笑んでいた。 sexの場でも、飲んで騒いでの場でもない、 なんでもない時に、相手に触れるというのは 非常に勇気が要ることで…… 何気ない時に、相手の指先を握る。 これだけのことが、私は 人前でスピーチをするくらいの勇気が必要だったりする。 この先、どうなるかは神のみぞ知ること。 もう無いような予感もしている。 でももう、これでいい。 和解できて、指先を握りあえたこと。これだけで十分に至福。
|