サボテンは歌う。

2003年11月23日(日) 2枚の絵。

母の知り合いに水墨画家のYさんと言う人がいる。
3年に1度くらいの割合で銀座で個展を開いているのだが、私は誘われても
何となく見に行っていなかった。

しかし、母が何度も「すごくいいから」と勧めるので、やっと一昨年の3月に
初めて個展に足を運んだ。
そこで見たYさんの絵は、私が今まで見たこともない絵だった。

水墨画と言うと掛け軸に描いてあるような絵を思い浮かべるけれど、題材も画法も
伝統的なものとは違い、すごくモダンな感じの絵。
色は墨一色のはずなのに、光や色が見える。


一目で気に入って買いたいと思ったけれど、高いし飾る場所もないしその時は諦めた。


・・・そのYさんの絵を今回新居に引越すにあたり買うことに決めた。
まさに清水の舞台から飛び降りるような気持ちだけれど、新居に飾るのは
Yさんの絵しかない、と思った。


そこで先日、直接Yさんのアトリエに伺って絵を選ばせてもらった。
散々悩んだ末に2つまでは絞ったがが、それ以上どちらを選べばいいか
全く決められなくなった。

1つは田園に夕日が沈むところを描いた絵。
もう1つは湿原に月が映ったところを描いた絵。

どちらも墨一色の中に光が輝いていて、どちらも捨てがたい。


結局、Yさんが知人価格でかなり安く譲ってくれると言ってくれたこともあり、2つとも
買うことに決めた。


で、やっと時間が出来たので本日その絵を引取りに行った。

アトリエに入ってみると、私が選んだ2つの絵が既に並べてあった。

すると一緒に入ってきた息子さんがびっくりしたように
「あれ、さっき包装したのに何でまた開けてあるんだよ」と言う。

Yさんは
「自分の娘を嫁入りさせるような気持ちなんだ。最後にもう一度だけ見てお別れをしてたんだ」
と答えた。

そんなに真剣な気持ちで描いた絵を譲り受けることが出来てとても幸せだと思う。

「うちの中で一番いい場所に飾って、ずっと大事にします」と言った時のYさんの嬉しそうな顔が印象的だった。


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