ダンナが仕事から帰ってきた。
一目で何かが違うことがわかる。
「おかえりなさい。忙しかった?」 「んー。いや、そうでもない」
彼は目を伏せる。
「疲れてるの?」 「うん。ちょっとね」
彼の機嫌を損ねるようなこと、 私が何かしでかしたのだろうか。
胸に手を当ててみた。 どれここれも些細すぎた。
きっと原因は私じゃない。
「どうかした?」 「……」
あまり見たことがない表情の類で、 彼はポツリと言った。
「長谷川さんが、退院したじゃん?」
長谷川さんとは、 彼が学生時代にやっていたバイト先のオーナーで、
彼が最も尊敬をし慕っている大人だ。
「俺はさ。 てっきりさ。 良くなって退院したのかと思ってたんだけど、 もう施しようがなくて退院したんだって。 会社で店長にそれを聞いて、泣いちゃったよ」
こんな時、 私は非力だ。
なんて言葉をかけていいのかも、 わからない。
いつもワガママばかりで、 頼ってばかりの、 できそこないの妻に何が言えるというのか。
慰め方を一晩考えた結果。
翌朝の朝食に、 彼が好きなタマゴサンドを作った。
*全て仮名です。
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