徒然へたれ日記
鈴村 凛音



 再びsss

■すぐ傍にいる日常


 触られるのは苦手だった。
 この力の制御が全くと言って良い程出来なかった頃、触った人、物のあらゆる過去を読み取ってしまった。流れてくる人や物の記憶。不快であるものもあった。
 物は触らないと仕方がないものもある。だから、なるべく人には触らないようにして来た。ジーンや、引き取ってくれた両親以外は。この能力を知ってしまった人間は、そうでなくても気味悪がって触らなくなったものだが。
 だが――何故だろう。
 彼女が触れても、決して不快ではないのだ。









「ナル」
 自分の名を呼んで、微笑んで近くに寄って来る。そう、彼女は何の躊躇いもなく自分に触れる。
 ソファに座っていたナルの傍まで来ると、麻衣はその足下、床にペたりと座り込んだ。リビングに出て来た時は、必ず手の届く場所に彼女はいる。ナルのすぐ傍。それが彼女の定位置だ。
 いつからか、麻衣がナルの身の回りの世話をするようになった。いつからだとかは既に正確に覚えていない。もしかしたら一年も経っていないかもしれない。けれど、いつの間にか空間に溶け込んでいた。
 小言ばかりで煩いと思う時も正直ある。けれど、それでも彼女を追い出さないのは、いつの間にか心を完全にと言って良い程開いてしまっている自分がいたからだ。
 自分から人に決して触れる事のなかった彼が、彼女には自分から触れる。どう言う心境の変化だろうか。
「ね、横座って良い?」
「どうぞ?」
 笑いながら問うて来た麻衣に、本を読みながらナルは答える。これはいつものパターンだ。だから彼女も何も言わない。黙って立ち上がり、彼の隣へと腰を降ろす。
 そのまま、彼女は彼の肩へと凭れ掛かる。そして、自分の腕をナルの腕に絡ませた。
「……麻衣」
 途端に本が読み難くなるので、ナルは顔を顰めて彼女を見る。
 麻衣は、ナルの方を見てただ微笑っていた。
「ああ、やっとこっち見た」
「……腕を外して頂けませんか、谷山さん」
「いいじゃん、減るもんじゃないでしょ?」
 へへ、と笑って、麻衣はナルの顔の近くで笑う。そうして、再び顔を肩に凭れさせた。
「いいじゃない。あたし、人の体温感じるの好きなの。生きてるって感じ、しない?」
 彼女は躊躇わない。この自分に触れる事を。
 自ら触れようとして来る。それを、自分はいつから振払わなくなった?
「うーん、そだな」
 麻衣は少し考えたふうに顔を動かし、やがてにっこりと笑った。
「ナルが抱き締めてくれたら。そうしたら放してあげる」
「……へえ」
 ふと口の端を上げ、ナルはぱたん、と本を閉じた。しおりを挿むのも勿論忘れない。
 そうして、一瞬目を丸くしていた麻衣の腰を引き寄せる。そして、麻衣をほぼ押さえ込むように抱き止めた。
「うわっ」
「生憎と時間は刻一刻と減っていくんだ」
 溜息をつきながらナルは言う。しかし、麻衣は自分の胸元でクスクスと笑うのみだ。
「あはは、予想外の展開。でもさ、それであたしが放すと思うの?」
「……さあ」
 言ったナルの首に、彼女の腕が伸びて来る。そうして少しだけ体を離して、顔を間近に近付けてにこりと笑った。
「放さないよ。だってナルから抱き締めてくるって、滅多にないんだもん」
 そうだったかな、と一瞬考えるが。それはどうでも良い事かもしれない。
 滅多にない。それはどこかで必ずあった事実があるから。人に触れる事をしなかった自分が、自ら人を抱き締める。ある意味、進歩かもしれない。
 ナルは淡く微笑んだ。微笑む事など殆どなかった彼が。
「……じゃあそのまま捕まえているんだな」
 そう言い放って、彼女が何かを答える前に彼女の唇を塞ぐ。抱く手にも力を込める。
 触れてみると、彼女の体は自分よりも小さい。そんなのは当たり前かもしれないが、触れるまでは決して気付かなかった事実。
「ん……っ」
 彼女が微かに身じろぎするが、それすらも軽々と抱きとめてなおも深く口付ける。
 彼女も自分に返す。お互いに触れるのを厭わない。
 触れれば触れる募る愛しさ。
 触れて、初めて分かる事もあるのだと。





 悪くないかもしれない、と思い始めた。






■言い訳。
うははー、甘っっ!!!(爆)
このごろ全然甘いもんかいてねえや、と思い、もしかしたら暫く更新できないかもしれないのでお詫びも込めましてこのsss。うん、短いです(をい)。
ああ、なんか御大性格違わないですか? あ、そういえば御大視点ですね。珍しい。しかし彼視点のがこの頃書きやすいのでそんな時間は掛かってない……ああ、それは短いからかしら(涙)。
個人的には無茶苦茶甘いんですけどね。やはりほのぼのと格付けされるんで……しょうねえ(涙)。
まあ二人のバカップルぶりは存分に発揮されているでしょうよ。

■出発。
ええ、今日出発です。出発前に日記更新です。何やってんだとかのツッコミは無用よ友人達!!(をい)ええ、メールでの応援メッセージさんくすよ!!(意味分からん)
とりあえずそろそろ出発時刻。まあゴールデンウィークに帰れたら帰って来るんですけど、イベント出るためだけに(大笑)。
ではでは、張り切って参ります!!

2003年04月09日(水)
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