夕暮塔...夕暮

 

 

逡巡 - 2002年02月26日(火)

迷い月 今宵は君と離(か)れ行かん 道に向かいて独り闘え







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「研究、一年、休もうかな…」 力無く呟く同期の声は僅かに掠れて語尾が苦しげに歪む。私は内心身構える、いけない、これは今から泣いてしまうかもしれない。何度考えても同じ所に帰ってくるの、と絞り出すように言う。小さく鼻をすすり、ごめんねと言いながら慌ててバッグからティッシュを取り出しているのを横目で見て、どうしようかと一瞬逡巡する。彼女の研究は煮詰まったまま数ヶ月進んでいない。努力は続けているけれど、半年前と殆ど変わらないところで停滞したままだ。壁にぶつかると対決せずに道をそらしてしまう癖、あなたはいつもそういう傾向があると指摘されても、本人にもどうしていいのかわからないのだろう。自覚があってもどうにもならない事なんていくらでもある。
「それは、逃げだと思う」
備品の注文用紙から顔を上げて、きっぱりと告げる。甘やかしてはいけない。本当なら今している仕事を中断して外へお茶でも飲みに行って、そこでゆっくり話を聞きたい、彼女もおそらくそれを望んでいるだろう。でもそうしてはいけない。ダメになるだけなのだ、私も彼女も。何度も色んな人から忠告されたし、私も芯からそう思う。彼女が無意識に他者に解答を強要する事、プレッシャーに弱く高い不安を抱えている事を、私はうまくかわさなければならない。問い掛けられた質問に明確な解答を返す事を意図的に避けなければ、操作されている事と変わらなくなる。


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