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みずみずしささえ - 2002年04月09日(火) 帰れない日を思い涙流すそのみずみずしささえ直視できなくて 帰れない 留まらず時は流れゆく 君の焦燥をはぐらかしても ************** ******* ******* *** * 「県展にお出しになる額が、届きましたので…」 祖父が近頃贔屓にしている写真屋さんから午後の電話、私は「お世話になっております」と代わりに挨拶をして用件を聞く。この間お会いした女性の店長さんだと思う。祖父に一分ほど遅れて入店し、現像に出す写真の申し込み用紙に苗字を書き込んだ時、あれ、不思議そうな表情をされた。私が祖父の孫と知って、もう一人の従業員の女性と共にとても驚いた様子だった、おそらくこんな大人の孫娘がいるとは思わなかったのだろう。もとより若く見える人だけれども、この人達には祖父はいくつくらいに見えているのだろうか。 「どんなのを出品するの」 「写真…」 それはわかっています、と私は笑う。絵画を出すなどと言われたらそれこそ腰を抜かす。ある意味非常に興味深いけれど。 「見るか」 夕食後、祖父が居城にしている和室で問う、勿論私は喜んで受ける。黒い背景に切り取られた空の写真、野と樹と空の自然風景、けれど空の比重が高く、雲の層が橙に眩く輝いている。たまらなく美しい。夕暮れですかと尋ねた私に、祖父は少し得意げに言う、「これは朝に撮った」。 「前兆の朝、という題名にしようかと思ってる」 いい名ですねと小さく呟き、暫く黙って額を眺める。この写真について余計な言葉を述べることを避けたいと私は思っている。予想が外れたからではない、あまりに崇高で美しいからだ。こんな空を目にしたら、私は多分何も言えなくなる。 -
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