この話でちゃんちゃん☆がもう1つ書きたかったのはどうも、第4部が終わってからの杜王町の日常だったらしいです。だから事件性はまるっきりない話になってしまって、ちょっとつまらないかも。 本当は康一のことを、他のキャラがどんな風に見ているかを書きたかったはずなのになあ・・・難しいです。 ****************** 次の日の朝、僕はいつもの通りに学校への道を急いでいた。とくに急ぐでもなく、ゆっくりとしたペースで。 「行って来まーす」 ・・・聞き覚えのある声が、思わず僕の足を止める。 声のした方向を振り向いた僕の目が、ちょうど角を曲がって来た、ランドセル姿の小学生のソレと、ぶつかって・・・。 「・・・早人くん・・・」 「・・・おはようございます」 少しこわばった表情で僕に頭を下げたのは、川尻早人くんだった。 2年前、彼はいつの間にか父親・川尻浩作を失っていた。 事故ではない。あの吉良吉影が僕たちから身を隠すためには、別人になる必要があった。川尻氏はその標的にされてしまい、この世からこなごなに吹き飛ばされてしまったんだ。 でも、いくら外見を繕っても他人は他人。早人くんは父親がいつの間にか違う人間になっていることに気付き、母親を守るために闘おうとした。 彼にはスタンド能力がない。だけど、頭脳と機転で必死に戦って僕らに吉良の存在を知らせ、父親の仇を倒す事に成功した。 でも・・・父親は帰って来るわけではなかった。 母親が夕食を作って待ちわびている夫は、吉良が化けていたもの。本物の夫ではない。だけど早人くんにはその事実を伝える事は出来ない。 早人くんは、父親を2度も失うと言う辛い経験をしながらも、誰にも心中を話す事が出来ずにいるんだ。 そう、僕ら以外には。 だけど・・・結果的とは言え川尻氏が亡くなったのは、僕らが吉良を追い詰めたせいとも言える。つまり早人くんにしてみれば、間接的な親の仇と言えなくもないのだ。 だから僕は、彼への態度を決めかねている。 「・・・母さん、働きに出始めたんだよ」 声をかけあぐねている僕を見かねてか、唐突に早人くんは話し出した。 「貯金とかはあって、しばらくは生活していくのには不自由しないんだけど・・・もし父さんが帰ってきた時に恥ずかしくないようにって、働くことにしたんだって」 「え・・・」 「僕もその方がいいと思ってるんだ。1人部屋の中で閉じこもって泣いている母さんを見るよりは」 「君は・・・寂しくないの?」 思わず僕はそう言ってしまっていた。 返事が返ってくるとは思っていなかったのか、早人くんは驚いた顔をしたけど・・・しばらくするとまた話し始めた。子供らしく、寂しさをあらわにして。 「・・・寂しくないわけないよ。学校から帰ってきたらいつも迎えてくれた母さんが、いないんだもん。だけど・・・ちょっとホッとしたのもホントなんだ」 「え?」 「1日中母さんといるとね、僕はつい本当の事を話してしまいたくなるんだ。もう父さんはいない、殺されたんだよって。・・・言って信じてもらえるわけでもないのにね・・・」 それはそうだろう。スタンドが見えないのに事件の一連の事情を把握するのは、まず不可能だ。実際にスタンドに教われる事を体験した、この早人くん以外は。 「信じてもらえないけど、話してしまいたい。けど、話したら母さんが悲しむ・・・。何度も何度も考えて、胸が苦しくなって、頭がおかしくなりそうで・・・。だから、母さんが働きに出るって聞いた時、ホッとしてしまったんだ。変だよね? そんなこと。母さんの事、どんなことをしても守るって僕、あの時決めたのに。母さんを働かせてホッとしてるなんて、ひどい話だよね?」 「そんなことないよ!」 僕は思わず叫んでいた。そのまま迷わず続ける。 「家族を亡くした人間が辛いのは当たり前の事だよ。君のお母さんもきっと、お父さんがいない寂しさを紛らわせたいって気持ちも、あったんじゃないかな? それに・・・君のためにもそうしたのかもしれないよ?」 「僕の・・・ため?」 不安そうな早人くんの目に見つめられ、僕は一瞬たじろいたけど。でも言ったんだ。 「母親ってね、見てないようで案外子供の事をよく見てるもんなんだって。だから早人くんのお母さんも、君のことが見えていたんじゃないのかな? 理由は分からないけどお母さんの顔を、辛そうに見ている君の事を。・・・だから、君のためにも外に出る事を決心したんじゃないかな?1人の母親として、ね」 半分はすがりつくような思い付きだった。早人くんを何とか慰めてあげたくて。 だけど口に出して話しているうちに、僕は案外自分が真実をついているんじゃないかって、思い始めたんだ。 子供が悲しそうな顔をしているのを見たい母親なんて、いないと思うから・・・。 早人くんは、しばらく呆然として黙っていた。 だけどそのうちに、ぽろぽろと涙を流し始めたんだ。 ちょっとマズかったかな? と思ってオロオロしてたら、早人くんは涙ににじんだ声で僕にこう言ったんだ。 「ありがと・・・僕、そういう言葉を言って欲しかったみたいだ・・・誰にでもいいから・・・」 その言葉に、僕ははっとした。 早人くんはずっと独りぼっちだったんだ。誰かに欲しい言葉を言ってもらいたくて、だけど誰にもすがる事が出来ない、可愛そうな子供だったんだ。そしてそんな心を抱えたまま、ずっと苦しんできたんだ・・・。 「あの、さ、今度一緒に遊びに行かない?」 ひとしきり泣いて落ち着くのを見計らって、僕は早人くんにそう言った。 「え?」 「僕だけじゃなくてさ、仗助くんとか億泰くんも一緒に。きっと気晴らしになると思うよ。言いたいことがあっても、僕らになら話しても大丈夫だし、さ」 僕の言いたいことが分かってきたのだろう。早人くんの目に明るい光が輝き出す。 「うん! 行きたい!」 そう答えた早人くんは、なんの曇りもない笑顔を僕に向けたのだった。 「へー、結構カッコイイこというじゃねーか、康一」 早人くんが走り去るのを手を振って見送っていた僕に、後ろから仗助くんが声をかけて来た。 「仗助くん!? み、見てたの? やだなあ、声かけてくれたらよかったのに」 「いやー、別に盗み聞きする気はなかったんだけどよぉ・・・」 仗助くんは少しバツの悪い顔をして、ごにょごにょと口の中で何かを言っていたけど。 「・・・・良かったじゃねーか」 結果的には、そうとだけ言ってくれた。 (続)
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