ちゃんちゃん☆のショート創作

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Darling(4)SD・流×彩?
2001年09月12日(水)

※ちゃんちゃん☆は、中学校でのバスケのルールは知りません。「スラムダンク」の原作で見知った知識だけで試合を進めているので、その辺大目に見てください(汗)。
悪者を作りたくなくって、こういう話の展開にしました。まあ、若い時には色々あるってことで。

**********************

 呆然。
 愕然。
 今、体育館を支配している空気は、まさにそういう形容が相応しい。
 バスケットの試合を見に来た誰もが、ただ1人の少年の動きに釘づけとなっていた。

「流川!」
 二階堂からのパスを受け、流川は猛然とドリブルを開始する。とっさに止めようとした1人を交わし、ゴール目指して突き進む。
「くそっ!」
 これ以上得点はさせない。そう思った相手チームの1人が、反則を覚悟で流川を止めに入るが、彼は既にシュートフォームに入っていて・・・。

 ピィイイイイイッ・・・!
 パスッ・・・。

 警告の笛が鳴り響く中、そのボールはバスケットへとすいこまれていた。

「うぉおおおおっ!バスケットカウント・ワンスローだっ!」
「これであいつ、1人で20点入れてんじゃねえか!?」
「何だよ、あの11番はよっ」

 誰もが流川のプレイに目を奪われている。その見事な点取り屋ぶりに。
 彩子はベンチで記録を取りながら、高揚しそうになる気持ちを必死でこらえていた。

───先輩抜きで勝てばいー。
───負けねーから。

 あれはこう言うことだったのだ。
 流川が言ったのは決してハッタリでは無い、頑張れば届く願いだったからこそ、あんな風に口にしたに違いない。
「すごい・・・」
 感嘆しそうになり、止まりかける手を慌てて動かす。
 そして冷静になるために、懸命に心の中で繰り返す彩子だ。

<勝てるって分かってたから・・・だから怒ったのね? 流川は。そうよ、別にあたしに気を遣ったとか、そう言う意味じゃなかったのよね。安直に物事を解決しようとしたあたしの態度に、怒ったのよね・・・そうよね・・・?>

 自惚れているな、と彩子は自分に苦笑する。ほんの少し、残念に思う気持ちはどうしようもないが。

 ちょうど今、流川がフリースローに入ろうとしている。
 多分きっちり決めるだろう、そう思って見ていた矢先、何故か流川の動作が急に止まった。
「?」
 彼の視線は、何故かゴールポストを通りすぎた、遠いところへ飛んでいる・・・。
「流川! 試合に集中しろ! 余計な事に気をとられるな!」
 が、主将・二階堂の声に我に返ったようで、すぐさまシュートフォームに入る。
 スパッ、と気持ちのいい音と共に、シュートが決まる。それを確かめた上で彩子は、流川の先ほどの視線の先を辿り・・・息を呑んだ。

 そこにいたのは、塚本だった。制服姿の。
 どこか淋しげな目でコートを見下ろしていた彼は、こちらが自分を見ていることに気付き、バツの悪そうなな笑みを浮かべる。
 そして、表情の選択に困っている彩子に向かって、口パクでこう、告げた。

 が・ん・ば・れ。

 それっきり、塚本はさっさと身を翻し、観客席から姿を消したのだった・・・。


 試合の前半が終わった。
 点差は20点。もちろん富ヶ岡中がリードしている。
 エース不在で苦戦するかと思われた試合が、こうも一方的な展開になるとは予想外だったらしく、会場はどよめきを隠しきれないでいた。
 ハーフタイム。
 彩子がみんなに、タオルとドリンクを渡している時である。
「・・・塚本の退部届けが本日、正式に受理された」
 部員全員に向かい、二階堂がいきなり爆弾発言をした。
 だがこれは、まだまだ序の口だったと言えるだろう。彼が次に口にした言葉こそ、部員たちを混乱に陥れるものだったから。

「実は・・・昨日聞いたばかりなんだが、塚本は転校したそうだ。県外の中学へ、父親の仕事の関係で」
「転校!?」
「今日、ですか? マジで!?」
 軽いパニックに陥った一同はそのうち、とんでもない事実に気がつく。
「それってつまり・・・初めから今大会には出場不可能だった、ってことじゃないですか、塚本先輩は!」
 本気かよー、無責任じゃないかー、と口々に言うのを押しのけて、二階堂は続ける。
「まあ・・・あいつも言いづらかったんだろう。俺達が勝手に期待して、『今年はいいところまで行けるかも』なんて言っていたんじゃ、な」
 ───その口調自体は極めて穏やかだったが、内容はそこそこ辛らつである。部員たちは気まずそうに、お互いの顔を見合わせるしかない。

 が、別の部員がもう1つの事実に気付き、声を荒げた。
「・・・って、おい彩子!お前、塚本さんからその話、聞いてたのか?」
「え? い、いいえ、全然・・・」
「何だよ、それー。あいつ転校の事隠して、彩子と交際するつもりだったのかよー。考えなしもイイトコじゃねえか」
「ああ! そういうことになるのか!? うわ〜、何かあちこちの街で現地妻見繕ってる、女ったらしみてー」
 下世話な言い様に彩子が言葉を返せずにいると、二階堂がわざとらしく咳払いをする。
「・・・だけど、もし転校することを前面に押し出して告白してたら、どうかな? 『転校するまでの短い期間の思い出作り』みたいで、ヤだと思うけど。よしんば彩子君がOKしたとしても、同情で付き合って『もらってる』って気分、ぬぐえないと思うよ? あいつプライド高いから、絶対そんなのはゴメンだったろうなあ・・・」

 だから、ああいう高圧的な告白しか望めなかったんだ。
 そう、遠まわしに言われたような気がする彩子である。まあ確かに、二階堂の指摘通りなのだろうが。
 どこか重苦しい気持ちになる彩子の肩を、流川が小突いたのはその時である。

「先輩、ドリンク」
「・・・あ、ゴメン」
 慌てて手の中の飲み物を手渡す彩子。二階堂の『報告』に驚いて、うっかり動作が止まってしまっていたのだ。
 流川は相当喉が渇いていたらしく、すぐさま口をつけようとしたが。
「?」
 急に思い直したようにこちらを見つめ返して来て、彩子をドギマギさせる。

「・・・気にする事、ねー」
「え?」
「予告もなしに、試合直前に抜けられるより、数段マシ」
「・・・」
「予行演習みてーなもんだったと、思えばいー」
「流川・・・」

 それからすぐに流川は視線をそらし、汗をふきつつドリンクを飲み始めたが、彩子にとってはその素っ気無さが逆に、ありがたかった。
 ・・・もしあのまま見つめられていたら、人前にも関わらず泣き出してしまいそうになったから。

 彩子はこれっぽっちも悪くない。
 告白云々のいざこざで塚本が退部したのも、今にして見れば部にとっては良かったのだ。
 エース抜きでの、エースに頼らない体制を、早くから整える事が出来たのだ。
 そう───言ってくれている様に思えたから・・・。

「・・・よし、それじゃあ後半も張り切って行くぞ! 新生・富ヶ岡中の本領発揮だ!」
 二階堂の掛け声に、部員は気合の入った返事を返したのだった。


≪続≫




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