※ちゃんちゃん☆は、中学校でのバスケのルールは知りません。「スラムダンク」の原作で見知った知識だけで試合を進めているので、その辺大目に見てください(汗)。 悪者を作りたくなくって、こういう話の展開にしました。まあ、若い時には色々あるってことで。 ********************** 呆然。 愕然。 今、体育館を支配している空気は、まさにそういう形容が相応しい。 バスケットの試合を見に来た誰もが、ただ1人の少年の動きに釘づけとなっていた。 「流川!」 二階堂からのパスを受け、流川は猛然とドリブルを開始する。とっさに止めようとした1人を交わし、ゴール目指して突き進む。 「くそっ!」 これ以上得点はさせない。そう思った相手チームの1人が、反則を覚悟で流川を止めに入るが、彼は既にシュートフォームに入っていて・・・。 ピィイイイイイッ・・・! パスッ・・・。 警告の笛が鳴り響く中、そのボールはバスケットへとすいこまれていた。 「うぉおおおおっ!バスケットカウント・ワンスローだっ!」 「これであいつ、1人で20点入れてんじゃねえか!?」 「何だよ、あの11番はよっ」 誰もが流川のプレイに目を奪われている。その見事な点取り屋ぶりに。 彩子はベンチで記録を取りながら、高揚しそうになる気持ちを必死でこらえていた。 ───先輩抜きで勝てばいー。 ───負けねーから。 あれはこう言うことだったのだ。 流川が言ったのは決してハッタリでは無い、頑張れば届く願いだったからこそ、あんな風に口にしたに違いない。 「すごい・・・」 感嘆しそうになり、止まりかける手を慌てて動かす。 そして冷静になるために、懸命に心の中で繰り返す彩子だ。 <勝てるって分かってたから・・・だから怒ったのね? 流川は。そうよ、別にあたしに気を遣ったとか、そう言う意味じゃなかったのよね。安直に物事を解決しようとしたあたしの態度に、怒ったのよね・・・そうよね・・・?> 自惚れているな、と彩子は自分に苦笑する。ほんの少し、残念に思う気持ちはどうしようもないが。 ちょうど今、流川がフリースローに入ろうとしている。 多分きっちり決めるだろう、そう思って見ていた矢先、何故か流川の動作が急に止まった。 「?」 彼の視線は、何故かゴールポストを通りすぎた、遠いところへ飛んでいる・・・。 「流川! 試合に集中しろ! 余計な事に気をとられるな!」 が、主将・二階堂の声に我に返ったようで、すぐさまシュートフォームに入る。 スパッ、と気持ちのいい音と共に、シュートが決まる。それを確かめた上で彩子は、流川の先ほどの視線の先を辿り・・・息を呑んだ。 そこにいたのは、塚本だった。制服姿の。 どこか淋しげな目でコートを見下ろしていた彼は、こちらが自分を見ていることに気付き、バツの悪そうなな笑みを浮かべる。 そして、表情の選択に困っている彩子に向かって、口パクでこう、告げた。 が・ん・ば・れ。 それっきり、塚本はさっさと身を翻し、観客席から姿を消したのだった・・・。 試合の前半が終わった。 点差は20点。もちろん富ヶ岡中がリードしている。 エース不在で苦戦するかと思われた試合が、こうも一方的な展開になるとは予想外だったらしく、会場はどよめきを隠しきれないでいた。 ハーフタイム。 彩子がみんなに、タオルとドリンクを渡している時である。 「・・・塚本の退部届けが本日、正式に受理された」 部員全員に向かい、二階堂がいきなり爆弾発言をした。 だがこれは、まだまだ序の口だったと言えるだろう。彼が次に口にした言葉こそ、部員たちを混乱に陥れるものだったから。 「実は・・・昨日聞いたばかりなんだが、塚本は転校したそうだ。県外の中学へ、父親の仕事の関係で」 「転校!?」 「今日、ですか? マジで!?」 軽いパニックに陥った一同はそのうち、とんでもない事実に気がつく。 「それってつまり・・・初めから今大会には出場不可能だった、ってことじゃないですか、塚本先輩は!」 本気かよー、無責任じゃないかー、と口々に言うのを押しのけて、二階堂は続ける。 「まあ・・・あいつも言いづらかったんだろう。俺達が勝手に期待して、『今年はいいところまで行けるかも』なんて言っていたんじゃ、な」 ───その口調自体は極めて穏やかだったが、内容はそこそこ辛らつである。部員たちは気まずそうに、お互いの顔を見合わせるしかない。 が、別の部員がもう1つの事実に気付き、声を荒げた。 「・・・って、おい彩子!お前、塚本さんからその話、聞いてたのか?」 「え? い、いいえ、全然・・・」 「何だよ、それー。あいつ転校の事隠して、彩子と交際するつもりだったのかよー。考えなしもイイトコじゃねえか」 「ああ! そういうことになるのか!? うわ〜、何かあちこちの街で現地妻見繕ってる、女ったらしみてー」 下世話な言い様に彩子が言葉を返せずにいると、二階堂がわざとらしく咳払いをする。 「・・・だけど、もし転校することを前面に押し出して告白してたら、どうかな? 『転校するまでの短い期間の思い出作り』みたいで、ヤだと思うけど。よしんば彩子君がOKしたとしても、同情で付き合って『もらってる』って気分、ぬぐえないと思うよ? あいつプライド高いから、絶対そんなのはゴメンだったろうなあ・・・」 だから、ああいう高圧的な告白しか望めなかったんだ。 そう、遠まわしに言われたような気がする彩子である。まあ確かに、二階堂の指摘通りなのだろうが。 どこか重苦しい気持ちになる彩子の肩を、流川が小突いたのはその時である。 「先輩、ドリンク」 「・・・あ、ゴメン」 慌てて手の中の飲み物を手渡す彩子。二階堂の『報告』に驚いて、うっかり動作が止まってしまっていたのだ。 流川は相当喉が渇いていたらしく、すぐさま口をつけようとしたが。 「?」 急に思い直したようにこちらを見つめ返して来て、彩子をドギマギさせる。 「・・・気にする事、ねー」 「え?」 「予告もなしに、試合直前に抜けられるより、数段マシ」 「・・・」 「予行演習みてーなもんだったと、思えばいー」 「流川・・・」 それからすぐに流川は視線をそらし、汗をふきつつドリンクを飲み始めたが、彩子にとってはその素っ気無さが逆に、ありがたかった。 ・・・もしあのまま見つめられていたら、人前にも関わらず泣き出してしまいそうになったから。 彩子はこれっぽっちも悪くない。 告白云々のいざこざで塚本が退部したのも、今にして見れば部にとっては良かったのだ。 エース抜きでの、エースに頼らない体制を、早くから整える事が出来たのだ。 そう───言ってくれている様に思えたから・・・。 「・・・よし、それじゃあ後半も張り切って行くぞ! 新生・富ヶ岡中の本領発揮だ!」 二階堂の掛け声に、部員は気合の入った返事を返したのだった。 ≪続≫
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