こちら東方司令部
注意書き。 下に長々と書かれた文章はおそろしくくだらないです。品もないです。 ジャンルは鋼。それではどうぞ。
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「そこでだ」 もったいなくも言葉を切ると、ロイは周囲の興味深そうな視線に満足げに頷いてみせた。皆の顔が見える位置でゆったりと椅子に腰かけ、輝くばかりの笑顔を浮かべている。まるで生きがいのような顔するな……、とげっそりとして内心思ったのがニ名。世の女性はこの笑顔をお好みらしい。誰かさんなら「うさんくさい」と一蹴してしまうこの笑顔を。世の中とは非常に不条理に出来ているものだ。 「どうしたと思う?」 「どうしたって……ナリは小さくたって大将も15だろ?」 「据え膳だしなぁ」 「まあ、そういうことでしょうね」 さほど興味もなさそうな部下たちの返答である。興味がないといえば嘘なのだが、相当に悪趣味だ。完全に個人のプライバシーの問題だ。そんな情報をあっさりと他人に流すのだから、かなり趣味が悪い。 そんな部下たちの様子にかかわらず、上官であるロイはこれ以上にないほど笑みを深くした。 「食わなかったらしい」 こんなことを自分の預かりしらぬところで暴露されたらたまらないだろうな……と話題の当人に心底同情を示したのはハボックだけではなかった。 「……マジで?」 と軽く目を見開いたのはブレダだったが、それ以上は特に何も言わなかった。 「鋼のも若いのですからそういうこともあるのではないですか?」 と最もな意見を言ったのはファルマンである。一同が同意の色を見せる中、意外だ、という顔をしたのはやはりロイだった。 「何故だね?この私が選んだのだから顔も身体も確かだぞ?」 「そりゃあんたはな……」の一言が言えない面々だった。唯一的確な意見を述べられそうな女性の涼しげな面差しが三人の脳裏に過ぎる。 「いかにも商売風な相手では、と思ってな、こちらも色々気を遣ったのだ。初々しくて可愛らしい子だったぞ。しかも、鋼のより背が低くてな」 「でもあの年齢だと色々複雑でしょう」 「好きでもない相手とだと……とかなぁ」 とフォローをいれたファルマンとハボックだったが、視界に見覚えのある姿が見えてはた、と声を止めた。いつの間にドアを開けたのだろう、それとも最初から開いていたのか。それはともかくどうもこの位置だと巻き添えを食らいそうだといそいそと場所を移動する二人である。その様子にブレダも眉を顰め、二人の視線の先に倣って気づいたらしい。こちらも慣れたもので、火の粉を被りそうになさそうな位置までしっかり退避する。 そんな三人など何処吹く風で大佐の口は止まることを知らない。 「だからと言ってこんなおいしい状況を逃す手などあるまい?私があの年の頃は相手を孕ませないよう常に気を遣ったものだがね。その点鋼のなど……」 彼にしては珍しく、熱が入りすぎてしまったらしい。背後から物凄い速さで飛んできた分厚い本を、しっかり後頭部で受け止める羽目になった。それでも、よろめいただけに留めるのは彼らしい。哀れにも床に落ちた本を、埃を叩いて拾ったのはブレダである。 「仕事場で何話してんだよ、エロ大佐!!」 息も荒く真っ赤な顔をして叫んでいるのが、話題の少年エドワード・エルリックである。 いつもなら大人気なくも反撃の一つや二つしてみせるのであろうが、上機嫌な大佐は笑顔のままで金髪の少年を振り返った。 「や、鋼の」 「や、じゃねえ!余計なことべらべら喋りまわってんじゃねえよ!!」 いつもは大人顔負けの少年だが、いつから聞いていたのか、耳まで赤くして興奮している。やはり子供か、と不思議と納得する周囲だった。 同じレベルで張り合う大人が、残念ながらここに一名。 「余計なこと?15ともなれば色々不具合も多かろうと私自ら取り図らってやったというのに何が不服だというのかね?」 「それが余計なお世話なんだよっ!!」 「あんなに可愛い子だったのにな。可哀相に、面目丸つぶれじゃないか」 「俺は頼んでねえ!」 一々食ってかかるのが余程楽しいらしい。一枚皮を剥いだらまた笑顔が出てくるような、とにかく楽しさが溢れまくっている笑顔だ。止めてやるべきなのだろうと思う大人たちであるが、上官、という相手の肩書きからなかなか口出しできないのが現実である。 「どこが問題だったのだね、年か?しかし、さすがに君より下じゃあ犯罪だろう」 「黙れー!」 「君のあまりのブラコンぶりを心配してだな……金髪は萎えたか?」 「死ね!この変態セクハラ親父!!」 この間備え付けの本棚からエドが投げつけている本が容赦なく二人の間を飛び交っているわけだが、ロイはそれらすべてを器用にも軽やかに避けている。万事においてソツがないというか、確かに有能な上官なのだが……と物悲しい気持ちになるのが部屋の隅に退避している三人の部下たちである。 「一晩同じ部屋にいて何もしなかったとはな。病気か?」 「寝る場がねえって言うから場所提供しただけじゃねえか!大体それだってあんたの差し金だろ!」 ――まずい。 どんどん険悪になっていくエドの形相に、ハボックは隣のファルマンに視線向けた。同意見らしい。あまり変化のない表情が心持ち青ざめかけている。 ――いい年こいてやりすぎなんだっての。いくら外見が豆だとはいえ、国家錬金術師だぞ。子供の喧嘩じゃすまないんだっつーの! パン、という乾いた音が響いた気がした。ほらきた。 ハボックはどうやって二人を宥めるか、ファルマンは一つしかないこの部屋の出口にいかに安全に辿りつく方法を、ブレダは諦めて混乱に乗じて逃げるかなどと三者三様に好き勝手なことを思っていた。 「大佐」 背中が、ぴくり、と小さく跳ねたのは名を呼ばれた当の本人で、沸点近くに達しようとしていた部屋の空気が急速に冷えていく。窓の外で陽光を反射する木々に、やけに目に染みるような思いがするハボックだった。 「この時間は勤務時間中のはずですが。休憩はこの三時間後です」 振り返る勇気すらなく背後からのいつも以上に冷やかな声に、ロイは完全に動作が停止した。絶対冷気。この窓一枚を挟んだ向こう側の世界の暖かさが恋しい。 「エドワード君」 「は、はいっ」 「アルフォンス君が貴方がなかなか戻ってこないと心配してたわよ」 「あ、そっか。……ありがとうございます、ホークアイ中尉!」 毒気を抜かれたように慌しく部屋を出て行くエドの姿を見つつ、とりあえず自分は仕事をサボっていたことのお小言を食らうぐらいで済むのだろうか、と固まったまま動かないマスタング大佐と我が身を思うのは、やはり大人たちなのである。
ホークアイ中尉からややきついお咎めを受けた後、解放されたハボックはまたエドと遭遇した。司令部入り口の階段脇に腰かけ、合流したらしい弟の肩に頭を擡げて不服気である。礼儀正しく頭を下げた弟に、ハボックは軽く手を振った。 「大佐は?」 言葉もなく肩を竦めてみせる。 「ざまあみろ、バーカ!」とやたら嬉しげなエドの顔は、少し前まで調子に乗っていたどこかの童顔な大佐にそっくりだと思う。隣の弟が「兄さん、よしなよ」と諌めている。相変わらずどちらが兄か弟かと首を傾げたくなる二人だ。「すみません」と謝る弟に「いやいや」とハボックは首を振った。 「あれは大佐が悪いんだから気にしなくていい」 「当たり前だろ」とエド。「本当に口が悪いんだから……」と兄に呆れた視線を送る弟は、ふと何か思い出したように言った。 「ハボック少尉。ホークアイ中尉はどちらですか?」 「中尉か?多分大佐の執務室にいると思うが……」 今頃大佐は、恐ろしくも美しい美女を侍らせ、近年稀にみるほど勤勉に仕事ぶりを見せているはずだ。 「あ、そうですか。ありがとうございます。兄さん、僕ホークアイ中尉に挨拶してくるね。兄さん呼んでくれたお礼もまだ言ってないし、どうせまた何か迷惑かけたんでしょ?」 「だから俺は悪くねえって!」 「はいはい」と言いながら歩き出す弟の背に「少しは俺の話も信用しろよ……」などとぶつぶつぼやくエドの隣にハボックも腰かけ、煙草を取り出して火をつけた。燻らせた煙をぼんやりと見つめる。 「……実際のところ、ホントにいただかなかったのか?」 「……当たり前だろ」 ややむっとしながらもエドが答える。 「もったいねえなぁ。あの人が選ぶくらいだから高いぜ」 「大佐の金だし」 「俺にまわしてくれりゃいいのに……美人だったんだろ?」 「男だけどな」 ぶっ。 煙が変なところへ入ったらしい。生理的に出る咳はなかなか止まらず、目にはうっすらと涙まで浮かんだ。 今自分は何か恐ろしい言葉を聞いた気がする。いやいや待て待て。普通に考えれば聞き間違えだ。もしくは、悪い冗談だろう。そうに決まっている。 「……何だって?」 「あいつ、俺の部屋に男娼連れ込みやがった」 気を取り直して聞きなおしたハボックだったが、これ以上になく苦虫を噛み潰したかのようなエドの表情と吐き出すような言いぶりに火のついた煙草を落としそうになった。危ない。落ち着け。 とはいうものの、さすがにそれ以上は何も聞き出す気になれず、無言のままぼんやりしているといつの間にやら戻ってきたアルとエドが二人で帰ろうとしていた。かろうじて笑顔も見せ、手を振ってみせる。少し引き攣っていたかもしれないがそれはこの際見逃してもらう。弟は相変わらず律儀にも頭を下げてくれたが、兄の方はそっぽを向き、表情もわからなかった。 ……大佐……。 オレンジ色の夕陽を浴び、仲の良い兄弟の凹凸の背を見送りつつハボックは思った。 「洒落にならんですよ……」
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なんかすっごい読みづらそうだな……。 こないだの真面目そうな話はつまんなそうなので見ちゃった方はこっちで我慢してください。
ホントにくだらないからしばらくしたら下げます。
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今読み返してみたらおそろしく変でした。 何って私の頭だけど。
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