「硝子の月」
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2005年02月21日(月) <揺らぎ> 朔也

 いっそ大声で笑ってくれればいい。自分の目が覚めるまで、馬鹿らしいと完膚無きまでに。
 それは夢なのだと。
「夢か」
 呟きは群集のざわめきに飲まれて消える。
 押され押しのけながら伸ばした手が、こちらを振り返る女の手首をつかんだ。熱い。群集の熱気よりも尚。
(夢か)
(これが)
(――これが)
 この熱さが夢ならば、世界など溶けて消えてしまえ。
「グレン?」
 呼ぶ声は戸惑いか、それとも促すだけの確認か。
 なんでもいい。名を呼べばいい。何度でも繰り返し。
 誰の思惑も知らない。自分はただ自分のために。
「グレン」
「――、ああ」
 祈る。もしかしたら、産まれて初めて。
 硝子の月が欲しい。他の誰でもない自分のために。


紗月 護 |MAILHomePage

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