本日、埼玉県は坂戸市で新しいFMをオープンさせた。やはり新しいお店というのは、いい。 個人的にもかなり思い入れのあるお店だ。今日の開店に漕ぎ着けるまでにどれだけの苦労と失意と怒鳴り声と建築業者との喧嘩があったか、語るにはそれなりの時間がいるが今はその時ではない。 店鋪開発担当の俺は、店がオープンしてしまうとほとんど役に立たないヒト、となってしまう。接客はそれなりにできるものの、レジ操作はやや覚束なくなっているし――俺が直営店で店長をやっていた頃のレジとくらべてもかなり機能が増えていて、よう分からん――商品知識は危ういし、発注なんてできるわけないし、もはや『いらっしゃいませマシン』と化して、声を張り上げるばかりだ。 それでも開店したばかりの店というのは雑用がたくさんあって、俺のようなユーティリティプレイヤー(という名の雑用係)が縁の下の力持ちとなることもある。 新規オープンイベントの一貫として、お客さまに風船プレゼント――というのをやっている。特に子供連れの若奥様やお母さまなどには好評で、子供の手を引いたお客さまが来店すると、俺は色とりどりの風船を持って、 「よろしかったら風船をお持ち帰りください」 と声をかけ、子供に色を選ばせる。子供の小さな手に風船を括ってやり、頭のひとつも撫でてやればそこには満面の笑顔を浮かべた天使がいる。 接客業はいいなあ、と思う瞬間でもある。
コンビニのレジには『客層ボタン』というものがあるのを御存知か。 情報産業と言われたコンビニのデータは、このレジ(POSレジ)が重要な要素のひとつだ。 たとえば、店にどんな客がくるのか――男性、女性、若者、壮年(中年のことですな)、主婦、中高生、子供、老人などなど――を、このレジ操作の中でデータを集めているのである。 FMで買い物をする時、ちょっと気をつけてみると面白いですよ。 購入した商品を店員がすべてスキャンし終わり、お金のやり取りがあり、客が最後にレジの左端のボタンを押す(この時、レジのキャッシュボックスががちゃん、と出てくる)――これが『客層ボタン』。 店員はこのボタンを押す時、客層を、つまり男性か女性か、若者か中年かを判断して押し分けているのである。 今日も、営業部門のマネージャーが店で買い物をした時、 「アルバイトに“壮年男性”のボタンを押された! 俺はこんなに若いのに!」 と騒いでいたが、だれかが 「そういうことを言っている時点でもう中年ですよ」 と言って笑った。 この俺も、FMで買い物をする時は気にするつもりもなく客層ボタンを見てしまうが、だいたい7割くらいの確率で“壮年男性”を押されてしまう。もう最近は気にしない。
「ボク、風船いる?」 さっきからお菓子売り場をうろちょろし、他の子供が手にしている風船をうらやましそうに見上げている5歳くらいの子供に、俺はしゃがみ込んで声をかけた。 自分の視線に現れたオトナを、彼は一瞬けげんそうに見つめたが、俺がもう一度「風船、いる?」と訪ねるとちいさくうなずいた。 「何色がいいかな。赤? 青?」 俺の問いに答えようとはせず、彼の目線が不安定に泳いだ。おそらく一緒にこの店に来た母親か父親をさがしているのだった。そしてその子が欲しい、と言ったオレンジ色の風船を彼の右手に持たせてやると、彼はにっこりと笑って、商品棚の向こう側に走って行った。そしてすぐ、商品棚の向こうから嬉しそうなその子の声が店一杯に広がった。
「ママ! おじさんに風船もらったよ!!」
FMのユニフォームを着ていなかったら、俺はそのガキを店外に連れ出し、げんこつのふたつみっつもお見舞いしてやっただろう。
今年、35歳になります……。
|