先日BSで放送していた『いま裸にしたい男たち〜三谷幸喜』という番組をビデオに録画してあったので、ツマと一緒に観ていた。昨秋公演された芝居が出来上がるまでを、三谷を中心に追いかけたドキュメンタリーだ。 今や、“三谷幸喜”の名前を知らない人はいないだろう。超がつくほどの売れっ子コメディ作家、3年先のスケジュールまで詰まっているというのだからスゴい。俺はといえば、学生時代、まだ“三谷幸喜”の名が今ほど世間に知れる前に何度か彼の芝居を観ていて、今となっては結構自慢になっている。とにかく腹を抱えるほどに面白い芝居だった。 俺は“笑い”が大好きだ。笑うことも、笑わせることも。 んなこと言われなくてもオマエの日常の言動を見ていればわかる、というのがココの読者の皆さまの大半の意見であろう。特に俺は人が笑っているのを見るのが好きなので、“笑わせる”ことが難しいと知りつつも、くだらない冗談を連発している、というのが俺の日常かも知れない。そんなことを俺はまさに幼稚園時代からやっているのだから、我ながら……という想いだ。
俺がまき散らした“笑い”の幾つかに、誰かが引っ掛かって笑ってくれると、俺は本当にうれしくなる。 人を笑わせたことで、一番嬉しかった瞬間――というのが俺の記憶にある。 大学4年の秋、俺は夢だった舞台を経験するために、旗揚げしたばかりの小さな劇団に所属して12月の公演を目指して稽古に励んでいた。 高校時代の仲間でもなく、大学のサークルの仲間でもないメンバーと毎日のように芝居の稽古をしているのが実に新鮮で、俺はこの劇団にすぐ馴染むことが出来た。『見た目は真面目そうなのに冗談ばっかり言っている(主演女優・談)』俺というキャラクターを、メンバーは温かく受け入れてくれたようだった。 ある日、稽古を終えたメンバーが揃って山手線に乗っていた。いつものように雑談が交わされるのだが、その時、俺は仲間達にふとこんな話を始めた。まあ、言わば“ネタ”のひとつだった。
「ほら、プリンセス・プリンセスのことをサ、“プリプリ”って略したりするじゃない?」 「うん」 「こないだサ、サークルの部室で後輩たちが『ぴあ』を読んでたんだよね。で、誰かがコンサート情報のところを見つけて、『あ、ドリカムだあ』って何気なく言ったんだよ」 「うんうん」 「そしたらさ、別のヤツがサ、こんなこと言ったんだよ。『ああ、ドリカムね。いいよねえ、“ドリンセス・カムンセス”』」 「(一同、山手線車内で大爆笑)」 「“ドリンセス・カムンセス”ってスゴいだろ? なんか、こう、強そうだろ?」 「(一同、山手線車内でさらに大爆笑)」 「“カムンセス”って。“ケムンパス”じゃないんだから」 「(一同、山手線車内でなおも大爆笑)」
車内の乗客にはちょっと迷惑かも、というくらいにメンバー達は大笑いしていた。主演女優のTはしゃがみ込んで笑っている。 よしよし、ウケたウケた――と自己満足しつつ、ふと視線を移すと、座席で座っている大学生くらいの男性がうつむき加減に肩をふるわせて笑っていた。どうやら俺達の話を聴いていたらしいのだ。俺の視線に気づき、彼は平静を取り戻そうとしたが、明らかに頬がゆがんでいた。 まったくの第三者が笑っている――。なにかこう、俺は勝ち誇ったような気分だった。
……ばかだな、俺。
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