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| 即席珈琲エディクション/Instant coffee addiction...嶋紗雪 |
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2003年01月15日(水)
1丁目1-1
事件が解決して、妹を迎えに行った帰り、 「おっと。忘れ物をしてしまった。」と、 父が言ったので、仕事場に寄った。 高い高いガラス張りの高層ビルの前に車を止めて父は「すぐ戻る」と足早に中へ入っていった。 「珍しいですね、先輩が忘れ物なんて」 車に寄りかかり父の職場の後輩の男の人が言う。 「そうね。あの人は1丁目1-1・・・優秀な方ですもの。」 同じく同僚の女の人が言う。 走行するうちに父が戻ってきた。 と、私は父に向かって言った。 「父さん、この人と結婚してください!」 この人とは同僚の女性。 「私知ってるの。本当はこの人が好きなんでしょ?」 「っ!そ、そんなことは・・・っ」 狼狽する父を見て、私は古新聞の束からクロスワードの載っている新聞だけを取り出し、女性に無理やり押し付け、 「ほら、父さんの好きなパズルも持ってるのよ!」 困り果てた父に母も言う。 「そうよ。私のことは気にしないで。ほら、私にはこんなに可愛い子供たちがいるんですもの」 母は微笑んだ。 「・・・ね?」 渋々ながら、それでも嬉しそうに父は女性と腕を組む。彼女も嬉しそうだ。 母の笑顔だけが、寂しそう、だった。 そうして、私と母は父に背を向け歩き出した。 右斜め前に母の背中が見える。 流した黒髪が歩くたびにしなやかに揺れる。 私は早足で母の隣に並び小声で言った。 「・・・・・・ごめんね?」 いいのよ、と母は笑っただけだった。
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