突然、携帯電話の画面がホワイト・アウト。 同じ日に買った同じ機種のランディの携帯は異常なし。 どうやら、液晶がイカれた模様。 原因は不明だが…… 直前までは、アリアと普通にメールのやりとりをしていた。 今、携帯画面が真っ白で見られないため、うろ覚えだが、大体次の通りの内容だった。
アリア「オペラ座の怪人観て来たましたの。余りのバカップルぶりに、笑いを堪えるのに必死でしたわ」
らるご「……あらゆる悲恋がコメディに見えるらしいな」
アリア「そうかも(笑)」
らるご「そういや、『ロミオとジュリエット』もバカップルってばバカップ ルだな。やりたい放題した挙句、勘違いで物凄く迷惑な死に方を(笑)」
アリア「揃って中学生の年齢ですものね(ロミオ15歳・ジュリエット13歳)」
らるご「一番可哀想なのは、あの中ではジュリエットの許婚者のパリスかも。ロミオより数段美形(乳母談)で、しかも、ジュリエットの墓の前で夜明かししようとするほど一途だったのに、物語のラストじゃ殆ど存在を忘れられてるような……」
アリア「ジュリエットに恋したのが間違いよねぇ」
らるご「でも、空気読めてないのかも。はっきりと、ふられたわけじゃないけど、明らかにジュリエットは結婚したくなさそうなのに。ロミオがジュリエットの墓に現れた理由も、ロミオに殺された理由も、きっと判ってないんじゃないかなぁ」
アリア「パリスも中学生くらいだったのかしら」
らるご「確か、ロミオが『若造』と呼んでた気が……」
自宅バルコニーででかい声でひとりごとを言うジュリエットと、数時間前まで他の女に熱を上げてたのにあっさりと乗り換えたロミオ。 正気とも思えない若いカップルを秘密裏に結婚させた神父は、明らかにやばい薬を、どのように、入手、或いは調合し、なんの目的で保管していたのか。 身内の喪中(しかも他殺)に、娘に政略結婚を強いる親。
うーん、やはり、ツッコミどころは満載かもなぁ。
このメールのやりとりのせいとも思えないが、明日、壊れた携帯を修理に出して来る予定。
久々に、友達と逢った。
いつもとは違う路線に乗ったのだが、隣の座席に座ったのが、両親と子供三人の家族連れ。 まあ、子供たちは泣かず、はしゃぐ声も許容範囲だった。 あー、なにか本持ってくればよかったなぁ……と、思っていると、隣の子供たちの目が、きらりーん、と光った。 なんだろう、と思って、視線の先を見ると、ロングコートのおじさんが、襟巻きを……違った。 昔、よく見た、こんな感じのマフラーをしてるのかと思ったら、生きたフェレットを懐に入れていた。
「かーわーいー!」
子供たちが喜ぶのを見て、おじさんはにこにこ笑いながら、懐から、今胸元にいるフェレットの写真を出して、乗り合わせた人たちに見せはじめた。
「この服もね、売ってないから、自分で材料買って来て、作るんですよ」
そのフェレットは、豹柄の帽子に、赤いおべべを着ていた。
「今日は寒いから、家に置いて来ようと思ったんだけどね」
おじさんの、懐の中が暖かいらしく、フェレットはよく眠っている。
「こいつを連れて歩いてると、よく、ぬいぐるみに間違えられて、服の中にぬいぐるみ入れてる変なおじさんだと思われちゃうんですよ」
……フェレットを服の中に入れて電車乗ってるのも、かなり変だと思うが、そう突っ込む人は皆無であった。
ランディの会社の先輩が、休憩時間にランディに語ったのだという。
「家、建ったのかぁ。今、一番うれしいだろ?でもな……今だけだぞ」
その先輩には、ひとり男の子がいて、日々、破壊工作に励んでいるのだという。 最初の頃こそ、家を汚したり、傷つけたりする子供を叱ったが、今は、電車の玩具を持ったまま、頭から床に倒れ込んで傷をつけても、さほど腹も立たないのだそうだ。 ……頭から、床に倒れ込んだら、叱る前に心配しろよ、と思ったが、自分の子供の頃のことを考え、そういや、よく頭打って瘤作ってたな、と思い出した。 子供のいる家というのは、そうでない家と違って、日常的にラフプレーが行われているのだろう。 うちには、子供がいないが、それでも、生活していく上で、汚れるのは避けられまい。 と、いうことで、どうせ、いつかは汚れるんだし、ペットを飼おうか、ということになった。 しかし、ランディはアトピーである。 もし、飼った後に、鼻炎だの、喘息だのが出ると困るので、皮膚科に行って、アレルギーの原因物質を検査してもらった。
そうしたら、なんと、殆どの検査項目が陰性。 犬、猫、鼠、ハウスダスト、ダニの死骸、ホルムアルデヒド他、大抵の原因物質が大丈夫だと判明。 どうやら、アトピーは、外的要因でなく、ランディの身体の中の問題であるらしい。 しかし、唯一、反応を示したのが、今年、観測史上最大規模が飛散すると言われるスギ花粉。
「今まで、症状は出ませんでしたか?」
春先、少し、倦怠感を感じたり、目が痒い程度のことはあったが、その程度であった旨を告げると、
「今使ってる薬に、アレルギーが出にくくなる効果があるので、それが効いてるのかもしれませんね。でも、今年から、出るかもしれない。気をつけて、予防して行きましょう」
と、言われた。 こりゃ、夏まで洗濯物は外に干せないな。 あと、マスク買っておこう。
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