友人にくっついて、 初めて新宿にある心の病院に行った。
寝つけなさと起きれなさが、 例え仕事をしていない身でさえ、 厳しい状況になってしまったからだ。
体が華奢だからと軽い薬をくれ、 家族のこと夫婦のこと今の状況のこと。
ことこまかに聞いてくれた。
なんだか泣きそうになった。
心底「大変だね、かわいそうに」と思いながら、 話を聞いてくれる人は実生活では本当に少ない。
心底「大変なの、助けて欲しい」と思いながら、 話ができる相手は実生活では本当に少ない。
処方された薬の半分の量で、 すっかり寝付けるようになったのは、
薬のせいだけでもなさそうだ。
ゴミを持ってベランダにでた。 視界のほんの隅っこに、 オレンジ色が入った。
思い当たる節が無くて横を向くと、 それは以前部屋に置いておくと小さな虫が発生するということで、 ベランダに放置したカランコイエだった。
すっかり枯れてしまったと思っていたのに、 カラカラになった枝の先には小さな花。
そしてその花を守るために、 そのためだけに、 ついているかのような最小限の葉。
よくよく見てみるといくつか蕾もある。
カランコイエは生命力が強いと思っていたけど、 まさかここまでとは。
なんだか心打たれてその花と、 いくつかの蕾をはさみで切って、 小さなボールに水をはって浮かべた。
この花はこうしておくと根が生えてくるのだ。
よかった。 私にはまだ花を愛でる余裕がある。
ダンナが切れ気味。 そりゃそうだよね。
こんな使えない妻、 私だって要らない。
「キミは寝たの?」
毎朝、ダンナに聞かれる。
私は「おはよう」とだけ答える。 『昼間に一杯寝て眠れなくて』という顔を作る。
ダンナにだけはこのうつ傾向を知られたくない。
知られてしまったら、 私はもう歯止めがきかない。
私は弱さを武器にして、 彼の優しさにつけこんで、
きっと今以上に、 最悪の人間になってしまうことが、
手にとるようにわかるから。
ダンナの些細な一言で、 驚くほど涙がこぼれた。
ちゃんと愛が根底にある、 全くくだらない冷やかしだったのに。
泣きじゃくりながら抱きついた私に、 「ごめんねー」と心底すまなそうに謝りながら、 ずっと背中を撫でてくれた。
彼の肩をベトベトにしながら、 幸せをかみしめる。
誰かの言葉に、 衝撃を受けたとして。
でも傷ついた顔をして、 場を気まずくする勇気もなくて。
かといってそれをなんでもなかったかのように、 忘れられるほど心も広くなくて。
うたれ弱い自分を甘やかしてばかりいるのに、 そんな自分を「面倒くさがり」と処理して。
気分が落ちていると告げたらダンナに、 「俺がワガママばかり言うから?」と謝罪されて。
悩みがないわけでは決してないのに、 明るく振舞える人間を羨ましく思い。
母の親切が大きなお世話にしか感じられなくて、 自分の持っている全ての悪を彼女のせいにして。
人の痛みがわからず、人の苦労がわからず。
それなのに今日も私は、 みんなと同じ立場を求めてしまう。
タバコが無くなった事で、 それを買いに外に出ることが出来た。
薄暗くなった頃を狙って、 足元を見ながら徒歩1分の自販機へ。
鎧の何もかもが剥がれ落ちてしまっている私には、 すれ違う人の視線にすら怯えていて、
自意識過剰っぷりも災いし、 相手の視線と自分の視線がぶつかった瞬間に、
今の私はちゃんと世の中に溶け込んでいないのかと、 不安に叩き落される。
だから一人での外出は難しい。
誰かが一緒にいてくれたら、 私の全神経はその人に注ぐことができるのに。
去年の4月1日のように焼肉を食べにいこうと思ったんだけど、 行きつけの店は月曜定休。
ついてない。
文句のつけようがないほどの青空なのに、 私は今あまりよくない時期。
夜までには浮上しないとね。 せっかくの記念日に、 こんな顔はみせられない。
生爪はがしたのなんて、 何年ぶりだろう。 左中指の爪が痛い。
ここ数年マメも作ってないな。
子供時代は過酷だったね。
自分の家庭を持てる程に成長した、
私におめでとう。
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