※ああ、またしても前後編・・・。何とかコンパクトにまとめることは、ちゃんちゃん☆ には不可能なのでしょうか?? とにかく、本文をどうぞv ************************* 茂保衛門様 快刀乱麻!(9)後編 「・・・もういいよ、九桐。あたしから正直に話すから・・・」 媚びているようで、その実意志のはっきりとした切れ長の目をした桔梗は、辛そうな顔を伏せたまま話を始めた。 「あんたたちの言う、勇之介を利用できないかって企んだ人間って言うのは・・・他ならぬあたしさ」 「なっ!?」 「けど、彼らを利用しようとしたんじゃないんだ。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど。あたしはあの子があまりに不憫だったから・・・。姉さんを止められなかったことを、姉さんを助けることが出来なかったことを、悔やんで悲しんでたあのコの無念を晴らしてあげたくって・・・」 そこまで言ったところで、桔梗はキッ、と顔を上げた。 「あんまりじゃないか、あの姉弟たちは一生懸命支え合って生きて来たって言うのに。自分たちの目先の欲にかられた連中に、見殺しにされた挙げ句に言い訳もできないなんて! 弱い人間は何をされても、たとえ殺されても泣き寝入りするしかないなんて、一体誰が決めたって言うんだよ? ・・・だから、だからあたしはあたしの力をあの子に貸してやったんだ。おろくと勇之介の味わった灼熱地獄の苦しみを、他人にも味合わせてやる力をっ・・・!」 パン・・・ッ! 自分の感傷に浸ってる女の言葉なんて、これ以上聞いていたくなくて。 ・・・気が付けばあたしは、桔梗に平手打ちを見舞っていた。 仕返しされるとか、あたしも呪殺されるんじゃないかとか、そんなことはその時はこれっぽっちも考えずに。 「あんたは・・・あんたは何てことしでかしてくれたのよ? 灼熱地獄を味合わせるですって? 襲われた2人の男に関しては、確かに自業自得かもしれないわ。だけど勇之介が付けた火が、もし何の関係もない人間に燃え移りでもしてたらどうするのよ!? あんたは第二、第三の勇之介を作るつもりなわけ!?」 「それは・・・」 桔梗の顔色が目に見えて悪くなるのが分かっても、あたしの糾弾は止まりはしない。 「いくら泣き寝入りが嫌だったからって、どうしてそっちの方面でしか力を貸す事が出来なかったのよ? 勇之介の声が他人にも聞こえるように、おろくの火付けを見て見ぬふりをした男たちを糾弾できるようにすることだって、できたはずじゃないっ!」 「・・・・・・・」 黙りこくった桔梗の代わりに、あたしたちの間に割って入ったのは血の気の多い風祭。 「何言ってやがるんだよ。大体お前らお役人が不甲斐ないから、おろくも勇之介も苦しむ羽目になったんじゃねえかっ。糾弾するくらいで勇之介の無念が晴らせるかよ? 糾弾したからって、火あぶりにされたおろくが生き返るのかよっ」 「勇之介は極楽浄土へ行けるでありましょうか───おろくはそう言ってたのよっ、火あぶりにされる前にねっ!」 「・・・っ!」 「おろくはねえ、自分のしでかした罪を悔いながらも、死した勇之介の身を案じていたの。・・・分かる!? あんたたちが余計なことをしたお陰で、可哀想な勇之介は極楽浄土にすらいけなくなったのよ? あんたたちはおろくの優しい姉心も踏みにじった挙げ句、あるいは勇之介ですら望んでいなかったかもしれない復讐を、強いたかも知れないってことじゃないっ。 ・・・見損なったわ《鬼道衆》。あんたたちはやっぱり、鬼でしかないのよっ!」 さしもの風祭も言葉を失い。 「分かってるよ・・・あたしのやらかしたことがどんなに一人よがりなことだって事は、嫌ってほど分かってるさ。・・・だから今、止めにきたんじゃないかっ」 涙の交じった声で桔梗が呟くのを、あたしはなかば歯ぎしりしながら聞いていた。 ったく! だから女って奴は嫌いなのよ。すぐ感情で揉め事起こして、周りなんて見えてやしないんだからっ! ───と言っても、これ以上感情論をぶつけ合ったところで、問題が解決するわけじゃない。 「・・・・・」 無理矢理怒りを噛み潰し、あたしは御厨さんに視線で合図を送った。 頷いた御厨さんは、心得たように桔梗への質問を続行する。あたしの代わりに。 今下手に口を開いたら、あたしが桔梗を罵倒し続けるのは疑いない。それも、半ば八つ当たりの形で。 ・・・悔しいけど、さっき風祭が指摘したことは確かに当たってるのよ。あたしたち火附盗賊改がしっかりしてなかったから、おろくの火付けに隠されたもう1つの陰謀に気づかなかった、って辺りはね。 笹屋・久兵衛と岸井屋・又之助が火事の後挙動不審だったのは、分かっていたはずなのだ。でもおろくが自分の罪を名乗り出たため、彼らへの尋問はそれ以上行われなかった。ここで面倒がらずに追及の手をゆるめずにいれば、あるいは勇之介の凶行を防げたかもしれないのに・・・。 それを自覚していたから、あたしは自分で桔梗に相対するのはやめにしたのである。今は時間が惜しい。とにかく冷静に事に当たらないと。 「・・・それで? これ以上の被害者を出さないために勇之介を説得しに来た、と言ったな。勇之介が狙う人間に心当たりがあると言うわけか? 一体誰なのだ?」 「それが・・・名前は全然聞いていないんだよ。勇之介自身、相手が誰か知らなかったみたいだし」 「ったく、狙われてる人間が誰なのか知ってるなら、俺たちがわざわざここへ来るはずねえだろ? 勇之介の終焉の場所ぐらいしか、他にあいつが行く場所なんて見当がつかねえんだよ」 「一言多いぞ、風祭。喧嘩腰になるな。・・・八丁堀、さっき榊殿は勇之介の手にかかって男が2人死んだ、と言っていたな。本当なのか? それは」 一同の中では一番冷静な九桐が、風祭たちの押し問答を見かねて口を挟んで来る。 話していいものか判断に迷い、視線を送って来た御厨さんの要望にあたしは答えてあげることにした。 少しだけど、冷静な心が戻りつつある。 「・・・半分本当で、半分は嘘ですよ。1人は確かに、あたしの目の前で燃え上がって絶命いたしましたけれど、もう1人は未だに生きています。もっとも、半ば廃人と化していますがね」 「焼き死んだのを、目の前で目撃したと言うわけか・・・なるほど、わざわざ火附盗賊改の貴殿らが出張ってくるわけだ」 「感心していないで、話を元に戻しましょうか。あんたたちは死せる勇之介と話をしたわけでしょう? 彼が狙う人間の特徴とか何か、聞いていないの?」 勇之介が、自分を害した人間の名前を知らないとなれば。 じかに勇之介から話を聞いたらしい桔梗の証言だけが、あたしたちにとっては頼りの綱だわ。 皆の注目の中、桔梗は懸命に自分の記憶を呼び起こそうとする。 「誰が実際に呪殺されたのかは知らないけど・・・確か勇之介を殴ったのは、巾着袋を凶器代りに使った気の弱そうな男で。勇之介は裏口に捨て置こうとしたもう1人の男に必死に抵抗して、顎の辺りを爪で思い切り引っかいた、って言ってたっけ」 「・・・榊さん・・・」 「あたしの推理力の正確さに、目眩がしますよ全く☆」 間違いない。気の弱そうな男って言うのが、廃人と化した笹屋・久兵衛。そして顎の辺りに引っ掻き傷を作っていたって言うのが、こんがりおこげをあたしの目の前でご披露してくれた、岸井屋・又之助だわ。 「その2人ならとっくに襲撃された後ですよ。けど・・・今のあんたたちの言い草じゃ、ここに第三者が挟まる余地はないように思えるんだけど。一体どんな人間なわけ?」 あたしの質問に、桔梗は苦り切った表情を見せる。 「それが・・・どうやら行商人らしいって言うんだよ。それも勇之介が小津屋へ急いでいた時、道を尋ねたって話で・・・」 「・・・行商人?」 何かが、あたしの頭の中に引っ掛かる。 「たったそれだけのことで、どうして勇之介が怨むと言うのだ?」 御厨さんも疑問に思ったらしい。鋭く突っ込んで来る。 「あたしもそう思ったんだけど、さっき言った男2人はその行商人から、勇之介の身柄を預かったって話なんだ」 「預かる?」 ああ、また何かが・・・。 「そう。つまり、その行商人に小津屋まで連れて行ってもらおうとしたところで、声をかけて来たんだって。 『小津屋がどうのと話をしていたようだが、ちょうど今から我々が行くところなんだ。よかったら案内しようか』って親切ごかして。だから・・・その、もしその行商人のおじさんが最後まで自分について来てくれていたら、あの2人も自分を殺そうとしなかったんじゃないか、って・・・」 「おいおい、それはちょっと逆恨みっぽくねえのか? ・・・・ってえっ☆ 何で蹴飛ばすんだよ、九桐」 「口を慎め、風祭。今はそんなことを言っている場合じゃないだろう。それで、それ以外に何か特徴は聞いてないのか? 桔梗」 「う・・・ん、それがあんまり・・・でも、そう言えば、その男は首から何かぶら下げてたって、聞いたような・・・」 ・・・・・・・!? 「何をぶら下げてたんだよ?」 「分からない。とにかく何かの弾みで、胸元からもそれが見えてたって」 「首からぶら下げるものか・・・手ぬぐいとかそんなものとは違うんだろうな。後は数珠とか、真那殿が持っているような首飾りとか。榊さんは何か心当たりは・・・」 「・・・・・榊殿?」 「榊さん!? どうなさったんですか? 顔が真っ青ですよ」 九桐が怪訝がり、御厨さんが心配そうに覗き込んで来たけど、その時のあたしは他人を気にする余裕なんてなかった。 血の気と言う血の気が引いてしまっている顔色を自覚していながら、どうしようも出来ずに立ちすくむのみ・・・。 行商人。 預かる。 そして首から何かをぶら下げていた───それらの事柄はあたしに思い出させる。そう、詰所で報告させた時の与助の言葉を。 『赤いお守り袋を首から下げてる奴、とか言ってたなあ。とにかくそいつが、死んだ又之助につかみ掛かってたらしいっすよ。�牋貘里匹Δい�事なんだ�瓩箸��爐修鵑覆弔發蠅任△鵑燭僕造韻燭鵑犬磴覆�ったのに�瓩箸�、怒りまくっていたって話でさあ・・・・・』 まさか・・・まさかあれは、そういう意味だったと言うの!? 「・・・戻りますよ、御厨さん」 「榊さん?」 「何をグズグズしてるんですか。早く行かないと・・・・・!」 早く行かないと、間に合わない。 ───その言葉を不自然に飲み込んで、あたしは小走りにその場を走り去ることにしたのであった。 九桐たち《鬼道衆》に不審がられるのも、承知の上で。 《続》 ※今回の話はむちゃくちゃ難産でした。ワンピに浮気したと言うことも確かに理由の1つなのですが(汗)、榊さんたちがどうやって九桐たちに真相を聞き出すかに、頭を悩ませてしまったんです。だって彼らにしてみれば、火附盗賊改相手で下手にバラせば身の破滅。《鬼道衆》の存亡にも繋がりますから、そう簡単に話すはずもない。あれでもない、これでもないと色々と書きなぐっていたのですが、ふと思い付いたことが。 「敵を欺くにはまず味方。そーだ、榊さんに見てくれ通りの小悪党を演じてもらおうっとv」 ・・・そうでなくても陰ディスクでは榊さん、悲しいくらいにイイトコないですから。そんな彼しか知らない風祭たちなら逆に、きっと騙されるんじゃなかろうかと。 しかし、ここで予想外だったのは御厨親分の行動。榊さんを殺そうとした風祭にまさか斬りかかろうとするとは、書く寸前まで思いもよらなかったです。ハイ(苦笑)。こう言うのをいわゆる「キャラが勝手に動いた」と言うんでしょうが・・・忠義者だなあホントに。(説明しても意味がなかったので書きませんでしたが、九桐があの場で槍を持ち出したのは、御厨さんの剣を止めるためもあったんです。もちろん風祭に、無用な殺生をさせない意味合いも込められてましたが) 尚この事件は、陰ディスク「慟哭」後編の後の出来事、と言う設定になってます。又一郎とお政のアノ出来事があったから、桔梗は一時の感情にかられて勇之介に呪いの力を貸したことを、心底後悔しているわけでして・・・。でも、文中では榊さんに批判的な意見を言わせていますけど、ちゃんちゃん☆ は桔梗のあの行動に関しては肯定も、否定も出来ないです。多分自分が同じ目に遭っていたとしたら、そして桔梗のような力を持っていたとしたら、思わず手を差し伸べていたかもしれないですし。ただ、榊さんのような考え方も確かにあるのは事実ですから、あえて彼に語ってもらいました。例え結果論だとしても。後からなら何とでも言える、と言われても。 ・・・・しかし、いくら難産だったとは言え、もう少しでタイムリミットの3ヶ月になるところで、正直焦りましたわ☆ このレンタル日記「エンピツ」は、3ヶ月以上書き込みがなかったら自然消滅する代物ですので。やれやれ、な気分です。
※気が付けば2ヶ月以上、間空いちゃってましたねえ(汗)。その間にも、6月某日には茂保衛門さんの誕生日が来るわ、律義な坪井さんがわざわざ「来楽堂」においでくださるわ、いおりんさんもご自分のHPにて榊さんSS書いて下さるわ、で、結構忙しくも楽しかったですけど。 さて今回の話にて、絶対避けて通れない辛い真相が明かされます。当事者と第三者それぞれの言い分・・・それらは決してどちらも間違っているとは言えないんですよねえ。結果がどうあれ。難しいです。 では本文行きます! ******************** 茂保衛門様 快刀乱麻!(9)前編 「《鬼道衆》、だと・・・?」 自分の発言が失言だってあたしが気づいたのは、御厨さんがうめくように呟く声を聞いた瞬間。 ───マズい、マズいわよコレはっ! 一体どう言い訳すればいいのっ!? でも、てっきり堅物な部下から追及されるかと思いきや、彼の険しい視線は奴ら、《鬼道衆》3人に釘付けになったきり。 ・・・どうやらこの唐変木、目の前の緊急事態にめいいっぱいで、あたしが口にしたことをこれっぽっちも不審には思わなかったらしい。 やれやれ、と胸をなで下ろすあたしに御厨さんは気づきもせず、いつも通りの生真面目さを発揮する。 「貴様たち・・・まさかここに来たのが偶然、などと戯言を言うつもりではあるまいな? 何を知っている?」 「何、とは?」 「とぼけるな! ここで起きた・・・ムゴッ!?」 でも、詰問を続けかけた御厨さんの口を、あたしはとっさに後ろから手を伸ばすことで塞ぐ。 ゴメンナサイね。でもここで真っ正直なあんたが何言ったところで、状況は進展しないと思うのよ。 「ここで起きた・・・何だと言うのだ?」 白々しくも僧装の男がそう尋ねてくるけど、あたしはもちろん信じやしない。 こうなったら賭けだわ。こっちは《鬼道衆》の企んでることなんかみーんな分かっちゃってる、ってフリをして、向こうがどんな反応を見せるか確認してやる! 《鬼道衆》の方へとゆっくりと一歩踏み出したあたしは、余裕を装って口火を切った。 「・・・知らん振りするのはよしましょうよ、お互い。あたしたちにはとりあえず分かっちゃってるんだから。 例えば・・・ここで焼け死んだ、火付け犯のおろくの弟・勇之介が、あまりの無念ゆえに成仏できずに迷っていたとか。彼がここで火事に巻き込まれた本当の真相は、おろくの凶行を止めに来たにもかかわらず、目の前の保身に目が眩んだ2人ばかりの男たちに殴られて気絶させられた挙げ句、置き去られたせいだとか。 ・・・で、彼ら姉弟の怨みをこの際、幕府の足元を揺るがせる材料として利用できないか。そう企んだどこかの誰かさんが、復讐する術を何も持たなかったはずの勇之介に、呪殺の手ほどきをしたとか。そしてめでたく、先述の2人を呪いの炎で殺すことに成功し、世間を恐怖に陥れることに成功しつつある、とかね・・・」 あたしの言葉にあいにく、サッと顔色が変わったのは風祭と、桔梗、と呼ばれた女の方だけ。 肝心要の僧侶? は少し眉をひそめただけである。 「ほう、それは興味のある推理だな。・・・だが、いわれのない嫌疑をかけられるのは正直言って、迷惑極まりない。何の証拠もないのに言い掛かりを付けるのが、ひょっとして火附盗賊改のやり口なのか?」 ・・・どころか、いけしゃあしゃあととんでもないことまで言う始末。 フン。こっちもそう簡単に口を割ってくれるとは思ってませんけどね。引っかけるにはもっと大きいエサが必要みたいだわ。 だからあたしは、少々悩ましげな目をして男に擦り寄ることにしたの。 「まあまあ、そんなに目くじら立てなくたっていいじゃないですか。あたしは取り引きをしようって言うんですよ」 「・・・取り引き?」 「ええ。実はねえ、御厨さんは頭でっかちで正義感が強いから、この件を《龍閃組》に任せようって考えてるらしくって。知ってるでしょ? あんたたちも《龍閃組》のことはさ。・・・けどあたしは反対なの。呪い殺された2人は言わば自業自得だったんだし、今更怨霊退治ったってあたしの出世にはなーんの役にも立たない。 ・・・だったらどうせだから、勇之介の怨霊をアタシに貸してくれないかしら? って思って。あたしの出世に邪魔なお偉方とか、呪い殺すのに使えたら最高v じゃない?」 「・・・・・・・・榊さん!? いきなり何をおっしゃるんですかっ!?」 「幸いって言うか、このことに勘付いてるのはあたしと御厨さんだけなんですよ。だから後は、御厨さんの口を封じてしまえば万事うまく行くと言うわけ。・・・どうです? 悪い取り引きではないと思いますけどね」 「榊さんっ!!」 あたしのあまりの言い草に、御厨さんは思い切り声を荒げた。 と言っても、あたしのけしからん企みを本気で危ぶんでいる、って感じじゃない。どちらかと言えば、あたしがいきなり自分の想像を超えたことを言い出したものだから、頭がついていけないって顔になってる。 もっとも《鬼道衆》はそんな細かいことなんて気づいちゃいない。単にあたしと御厨さんが仲間割れしたんだと、ウマい具合に誤解してくれたみたいだ。 「てめえ・・・! 仮にも火附盗賊改が俺たちと裏取り引きしようって言うのかよ、しかも仲間まで売って!? 心底腐ってやがるぜ、幕府はよ!」 怒髪天をついたって形相で拳を握り締めたのは、やはりと言うか、単純極まりない風祭。 「ああ、確かに悪くない取り引きだよなあ。けど、殺して口封じするのは何も八丁堀の方じゃなくてもいいんじゃねえのかっ!」 言うが早いか、拳を振り上げる。あたし目掛けて。 ・・・って、いきなりこっちへ来るかあ!? てっきりこれ幸いとばかりに、御厨さんの方に襲い掛かると思ってたのにっ! あたしは半分腰を抜かしながら、それでも早口でこう叫んでやった。 「い、いわれのない嫌疑とか言いながら、やっぱり後ろ暗いところがあったのね、あんたたちにはっ!!」 風祭はハッ、と拳を止める。 そしてほぼ同時に聞こえたのは、キィン・・・! と言う、刀のぶつかり合う音。 おそるおそる見たあたしの頭上で、風祭の攻撃を阻むかのように2本の刃物が、交差しているのが見えた。 1本は、もちろんあたしを庇ってくれた御厨さんの刀で。 もう1本は───どうやら僧侶の得物らしい、槍である。 「く、九桐・・・」 「お前は血の気が多すぎるぞ、風祭。今のが榊とか言う者の策略だと言うことに、どうして早く気づかんのだ」 苦り切った顔でその九桐、と呼ばれた僧侶は風祭をたしなめる。 「おまけに今ので、すっかり八丁堀に敵意を抱かせてしまったらしいし、な。この忙しいのに問題を増やしてどうする・・・」 ───九桐の言う通り。 御厨さんの今の形相と来たら、さっき背中にあたしを庇ってた時のとは比べ物にならないくらい、怖いものになっちゃってる。彼のこういう表情見るのって、卑劣で凶悪な盗賊と斬り合いになった時、以来だわ。 あーあ、こうなると経験上、ちょっとやそっとじゃ怒りが収まらないわよ。 「・・・刀を、納めてくれないか八丁堀」 槍を渾身の力で弾き、再びあたしを背中に庇う格好になった御厨さんに、九桐は話し掛ける。困ったような顔をして。 「貴殿の上司に───榊殿と言ったか、害を加えようとした無礼は詫びる。だがそれは風祭の貴殿への好意の表われだと、解釈してはくれないか? まさかこちらを引っかけるための芝居だとは、風祭は思いもよらなかったのだ」 「・・・榊さんはこれでも、正義感の熱い御方なのだ。上からの圧力にも屈せず、火附盗賊改与力としてのお役を貫こうとしたほどのな。そんな榊さんが、汚い裏取り引きなどするものか! 見くびるな!」 御厨さんてば、あたしの命の危機ももちろんのこと、あたしが変に誤解されたからって激怒してるみたいだわ。 その気持ちは分かるし、上司冥利に尽きるって奴だけど・・・そう持ち掛けたのは他ならないあたしなんだし、このままじゃ話が進まないのも事実よね。 「御厨さん。刀を納めて下さって構いませんよ」 あたしは静かにそう、御厨さんに告げる。 「し、しかし・・・」 「相手にはもう敵意はなさそうです。それにあたしたちに害をなそうって言うのなら、問答無用で一気に斬り捨てるくらいの腕は、持ちあわせていますからね、彼らは」 「だったら尚のこと・・・」 「あたしに考えがあるの。良いから刀をおしまいなさいな」 渋々刀を鞘に納めつつも警戒を怠らない御厨さんを目の端にとどめながら、あたしはゆっくりと九桐たちへと向き合った。 「・・・それで? あたしたちに何か、話でもあるんじゃないんですか?」 さっきも言った通り、口封じに殺すのならとっくに彼らはそうしているに違いない。 でも彼らにはもはや闘争心はないみたいし、わざわざ「刀を納めてくれ」とまで言っている。 これってつまり、あたしたちに話なり、取り引きなりしようとしているんだって、あたしは踏んだのだけど・・・・・どうやら正解だったみたいだ。 九桐は言葉を選びながら、って感じでゆっくりと話し始める。 「榊殿、と言われたな? ・・・さっき貴殿が言ったことは、確かにほぼ当たっている。《龍閃組》の力を借りずに、どうしてここまで調べる事が出来たのかは知らないがな。見事なものだ」 少しは《龍閃組》から情報を得たから、火附盗賊改単独ってわけじゃないけどね。 心の中でだけそう呟いておいて、先を促す。 「・・・ただ、1つだけ間違っているところがある。彼ら姉弟の怨みを、幕府の足元を揺るがせる材料として利用しようとした、と言うくだりだ」 「・・・どう違うと言うんですか?」 いきなり何を言い出すかと思えば。 九桐とやらの主張は、あたしの《鬼道衆》への認識を、再び少しばかりながら軌道修正させらるものみたい。 「我々はおろく姉弟を利用したかったわけじゃない。結果的にはそう見られても仕方がないが。・・・だからこれ以上の被害者を出さないよう、勇之介を説得しにここへ足を運んだのだ。頼む、何か手がかりがあるのなら、我々に教えてはくれないだろうか?」 説得って・・・。これ以上の被害者って・・・。 「何よそれ? あのおろくの火事の陰謀に、まだ関わってる人間がいるってこと? おまけにそいつがまだ、勇之介に狙われてるって言うの?」 「断定はできないが・・・多分」 「怨みを晴らしたから成仏したとか、だから勇之介の姿が見当たらないとか、そういうことはないのか?」 険しい表情ながらもお人好しの御厨さんが、彼らしい明るい? 展望を口にしたけど、九桐の首を縦に振らせることはかなわない。 「成仏は・・・出来ない。たとえ本人がしたいと望んでも・・・」 「一体どういうことよそれ!?」 相手のはっきりしない態度に焦れて、あたしが詰め寄ったその時である。 今までずっと沈黙を守っていた桔梗、って呼ばれてた女が口を開いたのは。 〜茂保衛門様 快刀乱麻!(9)後編に続く〜
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