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毛利小五郎という人物(2) 名探偵■ナン
2025年06月13日(金)

毛利小五郎という人物(2)

 随分久しぶりの更新となりました。まあ先日、ブラックユーモア系の【コ●ン】なら投稿しはしましたけどね。

 こちらは、2005年6月に投稿した話を、きちんと完結させたものです。つまり、構想20年と言う、とんでもない代物・・・(滝汗)。最近何とか書く意欲が出てきたんで、執筆の運びと相成りましたv

 ええ。全ては2018年度の劇場版の『おかげ』です。おっちゃんがあろうことか冤罪に陥れられるなんて、オイシイしいけど、どっか許せない気分がふつふつと・・・【怒】
 え? あれから7年経ってる? それは言わないお約束www

 ぴくしぶにもほぼ、同じものが投稿してあります。違うのは、こちらの(1)の方はほとんど当時の原文のまま。必要最低限でしか修正していないこと。良かったらどう違うのか、見比べるのも面白いかもしれませんね。
(わざわざ修正しなおすのがメンドクサイから、とも言うが)

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 件の店を知っているはずの江戸川コナンだったら、必ず取るであろう選択。
 だがそれを選ばなかったことへの、毛利氏の不信感ありありの視線。

 ───まさか、私が工藤君と入れ替わっていることが、バレている・・・!?

 いつもの腑抜けた彼しか知らないだけに、こんな事態は予想外だった。けれどおそらく、私の勘は外れてはいない。
 でもどうして・・・?


「な、何のこと? おじさん。ほ、ほら、ボク風邪気味だから、ちょっと記憶違いしただけだと思うよ」


 顔ではそう、平然と装いながらも、頭の中で必死に打開策を探る私。

 けれど、そんな私の焦りが分かったのかも知れない。毛利氏は少し優しげな視線になって、こちらへ話しかけて来た。
 わざわざしゃがみ込み、視線の高さまで合わせてくれて。


「・・・あのなあ、別に俺ぁ、責めてるわけじゃねえんだぜ? ただ、そうやって気張ってても疲れるだけだろう、って言ってんだよ。
おめー、阿笠博士ンとこの、ええと・・・灰原、とか言う女の子だろ?」

「・・・・・・っ!?」

「どーせ、あの探偵小僧にでも頼まれて、あいつのフリをする羽目になっちまった、ってところか? 苦労するな、お前」


 ───私が江戸川君ではない、と露呈しているだけならいざ知らず。
 あろうことか、その正体が灰原哀だということまで、知られているだなんて・・・!

 この時、私の脳裏に点滅していたのは『詰み』と言う文字。

 ここで私が「僕は灰原じゃない」と否定したところで、「じゃあ今から阿笠博士のところへ行って確かめて来る」なんてことになれば、完全に終わりだ。入れ替わり工作は早々(はやばや)と不成立になってしまう。

 今回の入れ替わりは、私から、工藤君に言い出したことだ。だから、彼が計画するよりはどうしても穴があるだろうけれど、まさかこんなところで頓挫してしまうなんて。完全に予想外じゃない。

 私としても、この毛利氏を騙すことに罪悪感がなかった、と言えばきっと嘘になる。ただ、甘く見積もったのが間違いだったのだろう。
 普段から『眠りの小五郎』のカラクリに気づいていないのなら、今回も分からないだろう、と。それこそが早合点だったと言ったところか。

 それにしても・・・。


「・・・どうして・・・」
「あん?」
「どうして私が、江戸川君じゃないってことが分かったの?」


 毛利氏の推理をほぼ認める格好で、私はこわごわと声を発する。
 これは一応、これ以上彼を騙すつもりはない、と表明したようなものだ。

 多分、それを察したのだろう。いつも工藤君に見せるケンカ腰なものとは違った、自愛に満ちた目で彼は私を見た。
 ・・・こちらがオンナノコだということで、配慮してくれたのかもね。


「それはともかく、コナンのその声を何とかしてくれねえか? あいつがそんなに殊勝な声出してるのなんて、不自然極まりなくて気色悪い。どうせ阿笠博士の発明品なんだろ」
「え、ええ。はい」


 大慌てでマスクを外し、それでも変装は解かないまま、私は現状に向き合う。
 一方の毛利氏は、気のせいか、居心地の悪そうな顔になっていた。


「一番の理由は・・・あー、ええと、体の匂い、体臭、だな」
「・・・体臭?」
「確かにお前さん、コナンから洋服を借りているせいか、あんまり違和感はねえよ。
ただ、俺は毎朝毎晩、あいつと同じ部屋で寝起きしてるんだぞ? 要するに、あいつの体臭にいい加減慣らされちまってるんだ。そこからあれ? と疑問に思ったってだけさ」
「ああ・・・なるほど」


 私だって、阿笠博士と同居している以上、何となくではあるものの彼の体臭を知っている状態だ。と言っても、入浴したらボディソープの香りで紛れてしまう程度で、とても『嗅ぎ分ける』ことなど出来そうにないが。

 つまり、『コナン』が一晩で全く違う体臭になっていたから、毛利氏に気づかれてしまったのだろう。彼の服を借りていたからまだ、即行バレが避けられただけで。
 本当に迂闊だった。もし再び工藤君に成り代わる必要があった場合、是非考慮すべきだ。
もう2度目はないだろうけどね。


「変態チックな話で、悪いな」
「いいえ。ものすごく納得したわ。単なる勘、なんて言ういつかの誰かよりはよほど」
「????? で? 嬢ちゃんは今晩何が食いたい?」
「え」?」


 てっきりその後、こちらの事情を説明するよう求められると思いきや。どうやら彼には、もっと先決させたいものがあるようで。


「色々聞きたいことは山ほどあるが、今は腹の虫を収めてえんだよ・・・」


 確かに、さっきから空腹時特有の音が、彼の腹部から聞こえる。随分呑気な日常に、何となく苦笑を禁じ得ない。


「そうね。まずは腹ごしらえね」


 結局私は、チャーハンと揚げ物とスープのセット。そして毛利氏はラーメンと半チャーハンをデリバリーで頼み、大人しく事務所のソファーで食すこととなった。


「揚げ物、半分食べてくれる?」
「おお。小学生じゃ胃袋小さくて、あんまりたくさん食えねえか。・・・うん、結構うめえぞ、これ。良いのか? 残り食っちまっても」
「小学生の栄養バランス的には、これくらいがちょうど良いわ」


 阿笠博士との夕食なら度々ある『惣菜の分け合い』を、この事務所で行なう事になるとは、数時間前までは思いもよらなかった私。

 揚げ物を注文したのは、チャーハンとスープだけでは栄養が偏っていたから。ついでに、毛利氏の栄養補充になれば良い、とも思ったから。
 決して、追究を緩めて欲しいためのワイロ、と言う訳ではない。
(そもそもお金を出すのは彼なのだし、ワイロ以前の問題だ)

 子供の私が見ている、と言うこともあるのだろう。毛利氏は、工藤君から聞いているよりはるかに行儀良く、ご飯の一粒も残さずに、食事を終えた。ついでに、使い捨ての容器をさっさとゴミ袋にまとめ、室内を見苦しくない程度に片付ける。


 お腹は膨れた。となれば、後はこちらの説明を待つばかり。


「・・・どうせ、他人に聞かれたくねえ話なんだろ? 悪いが、事務所の鍵を閉めても良いか?」


 ここできちんとこちらの了承を得る辺り、彼は本当に常識人だ。
 そう。後日、我が身に盗聴騒ぎが降りかかった際、つくづくそれを懐かしく思ったっけ。

 それはともかく、私の頷きを見届けてから、毛利氏は静かに事務所を中から施錠した。
 そうして私は依頼者側の席、彼は向かい側に座って、話を再会する。


「ええと・・・何から話せば良いのかしら?」
「まずはお前さんのその格好が、あのガキの強制じゃねえのか、ってことだな」


 予想外の質問に、私はしばし目を瞬かせるしかない。


「え? く・・・江戸川君からの強制だ、ってあなたは思ってるの?」
「おうよ」


 重々しく首を縦に振る毛利氏の顔は、「あのクソガキ、オンナノコに何てことさせてやがる」との憤慨がありありと伺える。

 そう言えば、ここは年上なのを敬うためにも『おじさん』呼びした方が良かったのかも。けど、当の毛利氏は、私の『あなた』呼ばわりを大して咎めなかった。


「どーせあの生意気なガキは、俺の娘にホレてるんだろうが。見てりゃ分かるぜ。
で、新一のバカとも、こっそり連絡を取り合ってる。となれば、新一が帰って来るってことも事前に知らされていた、って考えた方が自然だろうがよ」
「・・・・・・」


 最初の恋愛談はともかく、『江戸川コナン=工藤新一』が幸運にも露呈していないことには、心底安堵した。ついでに、その他の推理は全部的外れなことに、つい苦笑する。

 だから、なのだろう。毛利氏のそのトンデモ推理が、私にとんでもない動揺をもたらすことになるなんて、考えも見なかったのは。


「だから、だな。
その、嬢ちゃんにはちょっと酷、ええと、残酷な話になるんだけどよ。

ひょっとしてコナンの奴が、失恋確定だ、今は蘭のそばにはいたくねえ! かと言って、家出して蘭を困らせるのはガキのやることだ、なんつーてカッコつけた挙句、嬢ちゃんに自分の代わりをさせることにしたんじゃねえか、と思ったんだ。違うか?」

「彼がカッコつけなのは否定しないけど。それで、どう私にとって残酷な話なの?」


 毛利氏が私を見る目に哀れみが含まれるのを感じ、首を傾げてしまう。
 どうして彼は、私をこうも不憫がっているんだろう? と。

『強制されたんじゃないか』と言ってはいたが、毛利の考えが本気で分からない。どんな理由で強制された、と思っているのだろう。

 すると毛利氏は、うー、とか、あー、とか、さんざん言いあぐねた末に、ボソッと言うのだった。



「だってよ・・・嬢ちゃん、あのクソガキのこと、好きなんだろう?」
「っっ!?!?!?」

「なのにあいつはそのことに気づかずに、失恋した自分を可哀想がるばっかでよ。挙句、惚れてる奴に自分の代わりをさせるなんざ、鈍感なのにもほどがあるってんだ・・・」


 はあ、とため息混じりに呟いた毛利氏の指摘に、私はそれこそ体中の血液が、一気に顔へと上がるのを自覚したのだった。

 ───さすが既婚者。さすがは一人娘を育て上げた父親。
 脳味噌お花畑のあのドンカン名探偵に、爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだわ。

 混乱のあまり、私は心で毛利氏を賞賛したが、それはともかく、今は誤解を解くことこそが肝心だ。気づかれたことの一部は、そのままの方が都合がいいと、打算の上で。


「ええと、あの、その、おじさん、その、私が江戸川くんのことを、あの、好き、なのは、その、違わないとは思うわ。で、でも、別に強制されたわけじゃないの。そこは勘違いしないで」
「・・・そうなのか? 無理してねえか?」

「してないから! 私が勝手に、その・・・そう、おじさんが言った通り、あんまりにも落ち込んでいたから、江戸川君が落ち着くまで代わりに蘭さんのことを見ていてあげようか、って言ったの!」


 色んな意味で顔が真っ赤になった私は、辻褄が合うようにするだけで精一杯。

 そう。理由こそ違えどあくまでも、すり代わりを持ちかけたのは、私の方。そこは訂正しておかないと、後日工藤君が戻って来た時、毛利氏からの風当たりが強くなっても気の毒だ。

 すると、毛利氏は私の主張を、変な方角へ曲解したのである。


「嬢ちゃん、お前さん、まだ小学生なのに、なかなかいい女だなあ。だが安心しな!お前さんならきっとそのうち、もっといい男が見つかるぜ。あんな鈍感男じゃない奴がな! 俺が保証する!」
「・・・・・・」


 とんでもなくあらぬ方向へ大暴投した推測に、眩暈がしそうだ。いや、「いい女だ」と言われたことは、ちょっとだけ嬉しいけど。そう、ちょっとだけ。
 だが、この際だ。せいぜい、その誤解を盛大に利用させてもらうことにする。その方が後々、齟齬を生まなくてすむだろう。

 ここで問題になってくるのは、私の羞恥心。とは言え、ここでうまく演技出来ないことには、どうしようもないではないか。他言無用を徹底さえすれば、外に露見するのは防げるわけだし。
 今だけ今だけ、と心の中で唱えつつ、私は毛利氏の良心に訴えかけることにした。


「あ、ありがとう、おじさん。それで、その・・・(目を潤ませて上目遣い)」
「分かってるって。入れ代わりがバレたことも、嬢ちゃんがあのクソガキに片思いしてることも、黙っててやるよ(頭なでなで)」
「・・・無理言ってごめんなさい。江戸川君に嫌われたくないの」


 本来の私は、こんなキャラじゃないのに。言ってることと真逆な理由で、恥ずかしくなって来る。

 何とか口裏を合わせ、黙ってもらうことにも了承してもらった私だけど。

 その後数日間、毛利家にいる間ずっと、毛利氏からはとてもとても優しくも生ぬるい目で見守られたのは、言うまでもない。

 ・・・ちょっとだけ嬉しく感じたことは、誰にも言わない私だけの秘密だ。






 そして、付け加えるならば。



「な、なあ、灰原。俺が留守してた間、何かあったのか? 気のせいかもしれないけど、おっちゃんが妙に冷たいように思えてさあ・・・」
「私は大人しく、風邪っぴきの患者として看病されてただけよ? 快適だったわー。
風邪が治った途端、事件現場へ突撃しようとした、あなたの自業自得じゃなくて?」


 後日、私の悪あがきの擁護が、生憎空振りに終わってしまったらしいことを、工藤君の愚痴で知ったのだった。やれやれ。
 


■おしまい■

※なお、あとがきはぴくしぶの方だけ、にします」。ご了承ください。





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