「硝子の月」
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『君に迫る危機とはもっと大きなものだよティオ・ホージュ』 「ご託はいい」 少年は苛々とその声を遮る。 「どうすればこのふざけたところから出られるのかをとっとと教えろ」 『せっかちだな。ここでは時の流れが違うと教えたのに』 しかしそう言いながら、声の主は変化を現す。 ティオの前に、両腕で抱え込めるくらいの球体の景色が現れた。 『それでは、危機の説明は次回に回そう。その景色、止まっているように見えるだろう? それが今の、半歩ばかりずれた場所の様子だ』 確かにそれは祭りのざわめきに満ち、その上を恐怖に塗り潰されようとする広場の様子だった。 『その閃光から凶暴性だけを引き抜くがいい。そうすれば広場の人々は救われる。もちろんあの少女も』 「引き抜く……って、どうやんだよ」 『君はそれを知っているはずなのだよ』 「知らねぇよ!」 『そう決めつけるものではない。ものは試しにやってみるがいいさ』 「ちょっと待て! おい!」 しかし、声は黙ってしまった。漠然と存在していた気配も感じられない。 「くそっ!」 怒りのぶつけ先が無く、ただ呟くことしか出来なかった。
どれだけの時間が過ぎたのだろう。 球体の景色は全く動いたようには見えない。あの声のいっていたことが本当ならば、そちらの時間は止まっているも同然なのだろう。 (わけわかんねぇよ) 『閃光の凶暴性だけを引き抜く』などと。 何度も深呼吸を繰り返す。慣れたくはないが、落ち着いて考えねばならない。 (要はこの光を爆発とかしないようにすればいいってことだろ?) そこまではわかる。
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