鼻くそ駄文日記
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2003年08月28日(木) 夏休み企画最終回

強引に終わらせました。うーん。
追記・ちょっと燃え尽きたので、来週月曜まで書きません。では。

   家族のため



 ネクタイで首をしめて家を出る。
 仕事なんてちっともおもしろいもんじゃない。
 家族を守るために働く、と言えば聞こえはいいがろくなことはない。人に頭を下げて、人に怒鳴られる。中堅の年頃になった最近では、明らかに自分のことを尊敬してない若い奴を怒鳴り、その若い奴のへまで身に覚えのないことまで頭を下げる。それで家族は守れるもんかね。
 もっとも、家族も守りたいと思えるほどいいもんじゃない。女房は三食昼寝付きで、いっぱしのことは言うが、何も社会には消費でしか貢献していない。息子の弘晃は反抗期でおれのことを心底憎んでやがる。おれを見るときの息子の顔には「さえねえ、親父だなあ」と書いてある。そのくせ、息子がさえているかと言えばそうでもなく、このあいだ学校から女房と一緒に呼び出された。女の先生を殴ったらしい。まったく、力の強い男に刃向かって喧嘩を売るならまだ見所もあるが、弱い女性を殴るなんてなあ。誰に似たんだ?
 唯一、守りたいと思うのが娘の和美だが、おそらく和美も弘晃のようにおれを毛嫌いするようになるだろう。佐藤さんとこの娘さんはこのあいだ、真顔で奥さんに「あたし、お父さんみたいな人とは絶対結婚しない。どうしてお母さんはお父さんみたいな人と結婚したの」と言ったそうだ。佐藤さんは「困ったなあ」と笑っていたが、内心はひどくショックを受けているようだった。おれだって、娘にそんなことを言われてしまえば、表向きは「くそ生意気な娘でねえ」と笑うだろうが、十代の頃の失恋ぐらいのショックはらくに受けるだろう。
 また、もし、和美がいまのまま、おれをいいパパとして好きでいてくれても、問題がないわけじゃない。
 先日、ついに和美は初潮を迎えてしまった。これで大人になったね、なんて世間知らずの女房は浮かれていたが、おれにしてみれば冗談じゃない。子供を作れるからだに娘がなってしまったということは、娘が子供を作るようなことをするかしれない、ということなのだ。そんな日に赤飯炊いて祝う女房も女房だ。おれはきちんと、むやみに子供を作るようなことをしてはいけないぞと娘に注意しておこうと思ったが、女房が浮かれて「乾杯」なんて言い出すから、ついぞその機会には恵まれなかった。
 まあ、まだ小学五年生であるからその心配はいまのところはないのだが、あと五年後にはどうなっているかと考えるだけで、和美の同世代の男という男を抹殺したくなる。セックスをしないにしても、恋愛ぐらいはするだろう。好きな男が出来て、手をつなぐかもしれない。最近の若い奴は早いと言うから、すぐにキスをするかもしれない。このおれでさえ、和美とのキスは三年以上してないのに!
 ぜひとも、娘には出会いの少ない女子校に行ってもらいたいと思っている。
 だが、いくら女子校に行こうと、いくらもてなかろうと、いつかは結婚する。おれはそれを考えると、何のために家族を守っているのかがわからないのだ。
 バス停に通勤客をたくさん乗せたバスがやってきた。バス停にもおれを含めて五人の通勤客がいる。いまごろ、女房は小学校の娘を送り出して二度寝をはじめている頃だろう。おれは家族を守るために、会社へ向かう。


2003年08月27日(水) 夏休み企画本当は12

さあて、小説です。

  来年の今頃


 父親は探りも入れずに、一言、ぐさりと言った。
「おまえ、進学はちゃんと考えてるんだろうな」
「ああ。うんじゃ、学校に行って来るね」
 教科書の入っていない鞄を抱えて家を出る。父親が見ている新聞は、ジャイアンツが負けたことを伝えていた。
 来年のペナントレースをぼくは違う環境で見ることになっているだろう。
 先のことは考えたくない。
 しかし、日にちは一日一日、さっさと過ぎ去ってしまう。
 そして、あの日が近づいてくる。
 ぼくは、希望の高校の試験会場で試験を受けている自分を想像できない。ましてや、高校生になる自分なんかわからない。
 いまのこの楽しい中学生活を大切に生きたい。
 だけど、誰かがそれのじゃまをする。
 今日は父親だ。
 先のことを考えれば、今日の楽しさは半減してしまうのに、ぼくに先のことを考えさせる。
 そんなことより、ぼくは学校で章二たちと昨日のテレビの話をしたい。
 なんでもいいから、真沙美と話がしたい。
 小学校を卒業するときもそうだった。
 ぼくは残り少ない小学生生活の一日一日を楽しみたかったのに、まわりは小学六年生の春先から「来年は中学生だね」とあおった。夏休みになれば「小学生活最後の夏休み、人生でいちばん楽しいときだ」とこれからの人生にはこれ以上の楽しみがないというような口調でぼくをあせらせた。夏休みが過ぎれば「あと半年もすれば中学生」と言い、正月には親戚中から「春になれば中学生か」と言われた。
 ぼくの小学六年生は、中学生になることへの不安で苦しめられた一年だった。
 貴重な中学三年生まで、不安に苦しめられる一年にはしたくない。
 夜中に目を覚ますことがある。
 だいたい、午前二時半から三時半の間。
 この時間に目を覚ませば地獄だ。
 頭の中は先のことでいっぱいになる。
 まず受験のこと。
 勉強しなくちゃ。
 たぶん、このままでは私立のヤンキー高しか受からない。
 そんなのはいやだ。
 それから、なんとか受験にクリアーしたとしても高校生活。
 小学校、中学校と違い、高校は家が近所の人ばかりが集まっているわけではない。いろいろなところから、人が集まってくる。
 そんななかで、友達を作れるだろうか?
 高校の先生は中学ほど親しく生徒とふれあわないとも聞く。
 ぼくは英語の筆記体が満足に書けない。
 人が書いた筆記体も読めない。
 そんなぼくの苦手をわかって融通を利かせてくれるだろうか?
 それとも落ちこぼれとして置いていかれるのか?
 どうしようもなく、不安ばかりが駆けめぐって胸が苦しくなる。涙腺が危うくなる。
 だけど、日にちは一日一日過ぎ去っていくのだ。まるで、ぼくが中学生活を楽しむのが悪いことのように。
 中学校の校舎が見えてきた。一年であることを示す「�機廚粒愬�章をつけた生徒が男女ふたりで校門に立っている。彼らは、あと二年もここに通える。うらやましい。来年の今頃、ぼくはここには通えない。


2003年08月26日(火) 夏休み企画12

そろそろ無理矢理終わらせます。
  『内弁慶』

 ぼくはいつも腹が減っている。母親はそのことを承知している。中学に入ったときから、ぼくの茶碗は父親のそれよりもひとまわりでかい、ほとんどどんぶりではないかというようなものになったし、おかずだって他の家族よりも多めにぼくのぶんを作る。
 ただし、これは家での話だ。
 母親はよく言う。
「章二くんのお母さんにあったんだけど、あなた、あんまりごはんいただかなかったそうね。章二くんのお母さんが、弘晃くんは章二に比べて食が細いと言ってたわよ」
「あなた、おばあちゃん家に行ってもあんまりご飯食べないわね。家に帰ったとたん、お腹が空いたなんて。よっぽど家のご飯がおいしいのね」
 そうなのだ。ぼくはよその家のご飯を食べることが苦手なのだ。特に中学に入って給食がなくなってからこの傾向は顕著になった。
 とは言っても、外食が苦手だ、ということではない。飲食店での外食やコンビニでの買い食いは清潔そうだから平気だ。むしろ、家の食事よりも好きなぐらいである。ぼくが苦手のは、よその家に上がってよその家の食事を食べることである。
 よその家の食事は怖い。
 すごく不潔な気がする。
 たとえば、章二の家でご飯を食べたときの話をしよう。
 中間試験中、ぼくは章二の家で勉強と称して遊んでいた。不思議なもので、試験中にひとりで部屋のテレビを見ていると、勉強しなくちゃいけないのにと罪悪感で胸がいっぱいになるが、友達の家で友達とテレビを見れば、こいつも勉強してないのだから大丈夫だと安心できる。ぼくはひとりになりたくなくて、暗くなっても章二の部屋にいた。章二も気持ちは同じようで、ぼくがまずいかなあと思って帰ろうかとするたびに「まだ、大丈夫だろ。いろよ、ここに」と引き留めた。
 外は暗くなっていた。時計が七時を回った頃、章二の母親は声をかけた。
「もうすぐ、ご飯食べようと思ってるんだけど、弘晃くんも一緒に食べていかない?」
 ぼくはささやかに抵抗した。
「いや、結構です。もうそんな時間ですか? それではうちのものが心配するといけないので帰ります」
 しかし、章二の母親のほうが一枚上手だった。
「ううん、それは心配しなくていいのよ。もう、弘晃くんのお母さんには電話しておいたから。ちゃんと弘晃くんのぶんまで作ったから、食べていきなさいよ」
 すでにぼくが家に来たときから、ぼくに食べさせるつもりで章二の母親はちゃくちゃくと夕食作りに取りかかっていたのだ。
 わざわざ家の母親にまで電話を入れて。
 それも親切心から。
 ここまで用意周到にぼくに夕食を食べさせようとしている人の招待を断ることなどできるだろうか?
 ぼくはよその家でご飯を食べるのは苦手なのでいらないです。
 それが本音にしても、言えるわけがない。
「わかりました。では、いただきます」
 ぼくにはそう言うことしかできなかった。
 章二の母親の案内で、食卓へ行く。
 よその家の食卓は変な臭いがする。まあ、よその家から見たら家の食卓だって変な臭いがしているのだろうけど、自分の家だから気にはならない。他人の鼻くそは触れなくても、自分の鼻くそは触れるものだ。
 ぼくは、よその家の食卓や玄関では、短い時間で済むときならぼくは息を止めるようにしているが、息を止める限界を超える時間滞在しなくてはならない場合は、嗅覚を麻痺させるために臭いを思いっきり嗅ぐことにしている。この臭いも三分も嗅いでりゃ慣れるんだ、と自分に言い聞かせた。
「おみそ汁、温めるね」
 章二の母親は言った。ぼくは章二に勧められるままに冷蔵庫の隣の椅子に座った。幸いなことに、章二の家族は他にはいなかった。ぼくは自分の家の父親も苦手だが、よその家の父親も苦手だ。これは、自分のうんこを触るのはいやだが、他人のうんこを触るのはもっといやだというのに似ていると思う。
 章二はテーブルに鳥の唐揚げやほうれん草のおひたしなどのおかずを並べてから、ぼくの向かいに座った。その後ろのキッチンで章二の母親がみそ汁を温めている。
 そして、ぼくは衝撃的なシーンを見てしまった。
「今朝作ったのだから、味が濃くなってるかもしれないねえ」
 章二の母親はそう言った直後、鍋をかき混ぜていたおたまを取りだし、スープを飲むときのスプーンのようにそれに口をつけたのである。更に、その口をつけたおたまをまた、みそ汁を温めている鍋に沈めた。
 見てはいけないものを見てしまった。
 ぼくは一度に食欲を失った。
 家の母親はおたまを使って味見なんかしない。鍋におたまを入れて、味見をするぶんぐらい掬うとそれを小皿に入れて味見をする。そうすれば、おたまに唾液が付着することもなく清潔だ。ぼくはそのことを知っている。だから、母親の料理は信頼して食べることが出来る。
 外食だって、衛生の資格なんてものまであるぐらいだから、衛生面には気を使っているだろう。そう思って、何とか食べることが出来る。
 だが、章二の母親は衛生面に気を使ってないことを目の前で露呈してくれた。食器をスプーンに使うのが平気な人なんだから、目の前に並べられた鳥の唐揚げやほうれん草のおひたしもどんな味見をされたかわかったもんじゃない。そんな、汚いもん、食べられるかい!
 と思っても、親切心からごちそうしていただいている身分なので食べなければならない。
 だから、ぼくはよその家での食事は苦手なのである。そしてもちろん、そんな状態だからあんまり食べない。
 ちなみに、よその家の食事でぼくがいちばん苦手なのはおにぎりである。これだけは喰えない。
 よそのお母さんが、素手で握りしめたご飯粒の固まり。手にご飯粒が付いたらそのままぺろりと嘗めたことも容易に想像できる一品。あの味は他人の汗の味がして、吐き気がする。


2003年08月25日(月) 夏休み企画10

ごめん、今日の小説、まじ下手です。

   『あれからこっちは』


 和美が録画していた音楽番組を再生する。平日の午前中、この時間のテレビは、おばさん好きのするものばかりでおもしろくない。
 和美は浜崎あゆみが好きらしい。彼女の歌詞に心から共感している。
 再生したビデオには浜崎あゆみが映っている。ちっちゃい茶髪の女の子だ。見たいのはこの子じゃない。だけど、画面に目を凝らす。
 いた!
 浜崎あゆみの後ろで踊りながらギターを弾いている彼――野村義男が。
 金八先生の頃から彼のファンだ。ニヤついた愛想の良さがたまらなく好きだった。
 たのきんトリオの他のふたりが、ヒット曲を出してばりばりのアイドルになっていくなかで、よっちゃんは地味な存在になり女子高生の噂からも消えていった。
 そのよっちゃんがいまもテレビで見られる。相変わらずの笑顔を見せてくれる。
 電話が鳴った。
 ビデオのリモコンで停止をする。呼び出し音は鳴り続けている。
 ビデオのリモコンでテレビをミュートする。やっと、電話にたどり着き受話器を取った。
「もしもし?」
「恭子? 何してるの?」
「敦子か。今日はお休み?」
 そう言って、またビデオを再生し直した。テレビのミュートは解除しない。
「そうなのよ。だけど、仕事しているときはいつも休みたいと思うけど、休んでみるとすることがないのよね。だから電話しちゃった。暇をもてあましてるの。あたし、専業主婦にならなくてよかったわ」
「そうね。敦子は昔から」
「落ち着きがなかったって言いたいんでしょ。ひひひ。じっとしてられないのよね。何かをやってないと楽しくないじゃない」
「そうね」
 浜崎あゆみが歌い終えたようだ。ビデオを曲の頭まで巻き戻す。
「そうよ。昔はよく遊んだわね。恭子もあたしもノリがいいから楽しかった。高校生からディスコにも言ってたもんね。煙草もパカパカ吸ってた。そう言えば、あんた、煙草やめたのいつだっけ?」
「上の子を妊娠したとき。子供に悪影響」
「悪影響って、恭子、あたしたち長いスカート履いてぶいぶい言わせてたじゃない。子供がグレても文句言えないんじゃないの、あたしたちって」
「そういう悪影響よりも、五体満足に生まれるかの不安が」
「そういえば、上の子ってもういくつになったの?」
「中三」
「えー! もうそんなになるんだ。恭子も老けるはずだね。それじゃあ。じゃあ、もう高校受験?」
「ええ」
「大変でしょ?」
「まあ」
「うちのバカせがれでも、私立の付属校でエスカレータで高校に行けることになってたけど、大変だったもん。いくら付属校のエスカレータと言っても成績が悪ければ行かせてもらえないこともあるのよ。だから、苦労したわ。だけど、公立の中学から高校へ行くのってもっと大変でしょ。内申書をよく書いてもらうために、先生にごまもすらなきゃいけないんでしょ」
「そんなことはないけど」
「本当? あたしの会社の主任の奥さん、息子さんの公立高校受験の年には担任の先生にお歳暮を出してたわよ。恭子もお歳暮ぐらいは出したほうがいいと思うわ。公立高校って内申書のウエイトが大きいらしいから」
 曲の間奏の間に二回、野村義男のアップがあった。
 受話器を持ったまま、野村義男の顔を見る。
 老けたな、と思う。もう、あれから二十年以上。
「でも、そんな話、うちの校区じゃ聞かないけど」
「賄賂を渡したということを公言する人はいないわよ。みんな、したたかにやっているのよ。恭子は昔からよね。細かいことに無頓着でぼけーっとしててよく知らないの」
「そうなの。考えておくわ」
「いいアドバイスだったでしょ」
 と言ってから敦子は笑った。


2003年08月24日(日) 夏バテで休みたいよ略して夏休み企画9

小説、なのかなあ?

   『反省文』



 小林先生へ、自分はとても反省しています。
 ただ、これまでの自分は英語になじめませんでした。授業のはじめに日直が「スタンダップ」と号令をかけるのも、「グットモーニング、ミスコバヤシ」と立ち上がってクラス全員で声をそろえて言うのも、恥ずかしくてしようがなくてすごくいやでした。いつも口をぱくぱくさせて声を出していませんでした。
 授業のはじめからこのような不真面目な気持ちがあったので、英語の授業は一度も真面目に受けたことがありません。そんな不真面目な自分に先生の態度に反発することなど、許されないことだと思います。
 先生が「この現在完了の have been in はどういう意味か、ミスターヒロアキ、わかる?」と自分に訊かれたとき、自分はわからなくても一生懸命考えるべきでした。だけど、自分は不真面目に「わかりません」と答えただけでした。だから、先生が自分に向かって「まあ、あなたじゃしようがないわね」とおっしゃられた気持ちもわかります。不真面目な自分が悪いのです。
 だけど、自分はあろうことかその先生に反発してしまいました。上靴を飛ばす勢いで机を蹴飛ばし、「それ、どういう意味なんでしょうか?」と厳しい口調で先生に詰め寄ってしまいました。他の生徒もはやし立て、先生は相当傷つかれたと思います。本当に申し訳ございません。
 しかし、先生は勇敢にも誠意を持って「いや、別にそんな深い意味はないんだけどね」と自分たちの愚かな質問に答えてくださりました。本来なら自分はここで素直に先生に謝罪するべきでした。
 なのに自分は「深い意味がなくても自分は傷つきました。謝ってください」と先生に謝罪を求めてしまうのです。あべこべな話で、いま思い出すだけでも大変恥ずかしくなります。
 そのうえ、学級委員の安田真子が「弘晃くんがかわいそうです。あやまってください」と言ってしまい、クラスは収拾がつかなくなるぐらいの大騒ぎになりました。このときの先生のお気持ちを察すると自分は苦しいです。
 先生は何も悪いことはされていませんが、クラスを落ち着かせるためにあやまってくださいました。教える側の立場を捨て、自分たちに「ソーリー」とあやまってくださいました。
 だけど、調子に乗ってしまった愚かな自分は、その先生のお優しいお心配りに気づけませんでした。「ソーリー、とはどういうことでしょうか? ちゃんと自分の言葉で、普段使っている言葉であやまってください」と自分は、先生が英語の授業だから英語であやまってくださったのに、そこにつけこんで言いがかりをつけてしまうのです。自分でも行動が幼すぎて開いた口がふさがりません。
 だから先生が「しつこいわね、あやまったじゃないの」と自分に注意された気持ちはよくわかります。どうしてこのとき自分は先生のお気持ちに気づけなかったのか、不思議なくらいです。
 それからは自分は「えらそうに、いい気になるんじゃねえぞ」と言って、お綺麗な先生のお顔を拳で殴ってしまいました。先生は教壇に体操座りのような姿勢で座り込まれました。あそこまで親切に応対したのに、その先生の意図をまるで理解しないで、むしろ何かにつけては揚げ足を取って反発する愚かな自分やクラスの生徒の顔をご覧になりたくはなかったのでしょう。
 だけど、自分はそれをいいことに、先生の真っ白なブラウスに黒板消しを投げつけました。先生のブラウスはチョークの粉で七色になりました。そして、そのチョークの粉がブラウスに残るように、湿り気のある雑巾を先生の背中にかけました。
 そこで担任の古本先生が教室にみえられました。
 以上が自分が小林先生にしてしまった恥ずかしいことです。
 小林先生へ、自分はとても反省しています。わかってください。


2003年08月23日(土) 夏休みは夢の中企画8

小説だ

『いただきません』


 康平はあれからもう二週間も経つのに、腹の虫が治まってなかった。
 なんだい、みんな、きれいごとを言いやがって。
 康平は、言っていることとやっていることの違う人間こそよくないと思っていた。
 自分の言ったことには責任を持たなきゃ。
 嘘つきは泥棒のはじまりなんだから。
 そのことをちゃんとクラスのみんなに教えなければいけない。
 康平は怒りから使命感に燃えていた。
 そして、今日がそのチャンスなのである。ついに、給食当番が巡ってきたのだ。
 四時限目の授業が終わると、康平は急いで白い割烹着を羽織った。誰よりも早く配膳室に並べてあるワゴンに着いて、今日のメインディッシュ・白身魚のフライを配膳する役にならなければならない。
 他の給食当番はそれほど使命感には燃えていない。だから、康平は楽々と白身魚のフライを配膳する役回りにつけた。
 先端がVの字に割れているステンレス製のばかでかい毛抜きのような道具に力をこめて、白身魚のフライをつかむ。白身魚のフライはぐにゃっとつぶれた。だが、康平はつぶれたフライを気にせず食器に入れる。
 また、つかむ。ぐにゃっ。更につかむ。ぐにゃっ。
 しかし、並んでいる児童はそれを見て驚いた顔はしても、文句ひとつ康平には言わない。
「ごめん、また形がくずれちゃった。なんだか勘がつかめなくてね」
 康平は言う。並べられた食器には原型をとどめている白身魚のフライはひとつもなかった。
 担任の杉下はそれを見て、康平を注意しようかと思った。
 だが、康平がわざとではなかったら、と考えるとできなかった。
 苦手なことでも一生懸命やりなさい、と教室では話している。
 図工の時間で、できが悪くても一生懸命描いた絵なら先生はすばらしいと思う、とも言ってしまった。
 だから、杉下には康平を注意することが出来なかった。
 突然、配膳の列に並んでいる美樹子が叫んだ。
「こんな、汚いの、わたし食べれない!」
 美樹子の隣では和美がおろおろして立っている。
 杉下はあわてて美樹子に駆け寄った。
「どうしたんだい?」
 美樹子は康平がぐにゃっと潰した白身魚のフライを指さした。
「わたし、あんな汚いの食べれません」
「汚いもなにも清潔な給食だよ」
 杉下は美樹子の背中をなでながら言った。
「おい、美樹子、おまえ崩れたハンバーグを食べるって言ったじゃねえか。なんで、このフライが食べれないんだよ!」
 康平がマスクをしたまま美樹子を睨む。
「だって、あんたわざとやってるでしょ! テレビみたいに仕方なく崩れたのならしようがないかなあとも思うけど、そんなわざと汚くしたもの食べられるわけないでしょ」
 美樹子は言い返した。
 杉下は美樹子の背中をなで続ける。
「わかったわかった。美樹子、おまえが食べられないって言うんなら残してもいい。でも、康平だって一生懸命配膳したかもしれないんだ。だから、このフライの皿、受け取るだけ受け取りなさい」
 そう言って、美樹子の返事を待たないで杉下は美樹子のトレイに出来るだけ見栄えのいいフライをのせた。
 康平の顔は納得してなかった。美樹子の顔も納得していなかった。
 だが、十分後、教室はいつも通りの「いただきます」の声で給食がスタートした。


2003年08月22日(金) 週末なのに夏休み企画7

小説です

  『崩れたハンバーグ』


 小学校には「道徳」の授業がある。子供相手に人の道を説いてどうするんだと反論もあるが、杉下は子供だって一人前の人間だから「道徳」の授業を行うことは意義のあることだと思っていた。
 子供たちには、大方この道徳の授業が好きだった。教材としてテレビが見られるし、何よりも試験がないからだ。通知表も道徳の課目は評価を免除されている。
 杉下のクラスは、いま、テレビを見たあとの感想文を書いている。杉下は感想文を書いている児童を見ながら、今日のテレビの内容を思い出していた。
 テレビのタイトルは「崩れたハンバーグ」。
 給食を配膳しているとき、ひとつだけハンバーグの形が崩れていた。クラスはこの崩れたハンバーグを誰が食べるか押し付け合いになった。そして、最終的にはクラスでいちばんおとなしい女の子のところに置かれてしまった。そんな内容だった。
 杉下はそれを見て、もし自分のクラスでそんなことが起こったら、おれが黙って食べるだろうなあと思ってた。自分が我慢すれば済む話なら自分だけがいやな思いをすればいい。それが人間の生きる道というものだ。
 児童に感想文を発表させる。
 まず、美樹子。
「わたしだったら、わたしが崩れたハンバーグを食べたと思います。なぜなら、崩れたハンバーグを食べた子が悲しい顔して食べるのを見るのがつらいからです。わたしが平気な顔をして食べたほうが、わたしにとっても、他のみんなにとってもいいことだと思います」
 次に英二。
「ぼくも崩れたハンバーグを食べると思う。だって、自分より立場の弱い人に無理矢理食べさせるのはよくないからだ。ぼくはそう思う」
 杉下は教え子の発表を頷きながら聞いていた。児童が自分と同じ感想を持ってくれたことが素直に嬉しかった。発表が終わるたびに「そうだな、先生もそう思うぞ」と何度も言った。
 しかし、その気持ちもすぐにぶち壊しにされた。
 康平に発表させてしまったのだ。
 以前から、康平の道徳の時間の発表は問題があった。
 大人ぶりたいのか、単にひねくれているのか、設題の意図に反した発表をしてしまうのだ。
 康平は杉下の目を見ないで発表をはじめた。
「ぼくなら、崩れたハンバーグは食べません。崩れたハンバーグは、犬の餌みたいで汚いからです」
 教室が沈黙する。
 杉下は困った。
 普段の康平はおとなしくて勉強もできるいい子なのだ。
「みんなとは意見が違うようなので、何か質問はありませんか?」  
 沈黙に業を煮やした康平は言った。自分が変わったことを言っているという自覚はあるらしく、それについて何か反応がほしいのだ。
 美樹子が手を挙げた。
「押し付けられた女の子がかわいそうだとは思わないのですか?」
 康平は嬉しそうに答える。
「思います。思いますけど、もし、自分がいやな思いをするなら、人にしてもらったほうがいいと思うのも人間の気持ちだと思います。じゃあ、美樹子は本当に崩れたハンバーグがあったら、自分から喜んで食べますか?」
「喜んでは食べないかもしれないけど、他の人が我慢するぐらいならわたしが我慢します」
 杉下は、他の児童が康平の意見に同調する前に止めなければならないと思った。康平と美樹子みたいに、男子と女子が言いあいになった場合、理屈もわからないのに男子に味方してしまう男子がいるからだ。
「うん、うん。人それぞれいろんな意見があるのはいいことだ。先生も康平の意見が正しいとは思わないが、康平がそうやって自分の気持ちを発表できることだとはいいことだと思うよ。そういう、人の心に触れるためにも道徳の勉強をしてるんだからね。それでは、感想文を後ろから集めてください。終わります」
 杉下はそうやってまとめた。
 感想文が前に送られ、日直が終業の号令をかける。
 杉下は、崩れたハンバーグをおとなしい女の子に押し付けたテレビの中の教室のゆがみを語りたかったが、それができなかったことを残念に思った。話したら、児童の目には杉下が美樹子をひいきしたように映るだろう。杉下はそれが怖かった。


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