草木も眠る丑三つ時。ふと目が覚めた。 薬の副作用でトイレが近くなるので、この時間帯に目が覚めるのはいつもの事だが、今日のは何となく違っていた。 どうやら単に目が覚めただけらしい。寝直そうと、布団を被り直したその時、 ゴチン! 隣で寝ていた主人が、頭突きをかまして来た。 私も驚いたが、主人も吃驚したらしい。目を覚まして、 「ご、ごめんね。何か夢を見ていた」 とふにゃふにゃ謝る様子がおかしくて、思わず笑ってしまった。
朝になって目が覚めると、主人は開口一番、頭突きの件を再び謝罪して来た。 何の夢だったのか訊いてみたが、それは覚えていないと言う。 それでも自分が現実にやった事はちゃんと覚えていて、謝るところが偉いと思った。 私なんて、寝ていて何度も主人を殴ったにも拘らず、これっぽっちも覚えていないというのに。
とうとう昨日のいやーな夢を主人に告白したところ、彼はこんな話をしてくれた。 ミシン発明者が実際に見たという夢の話である。 発明者は自動縫製機の仕組みは考えたものの、最後に針をどうするかで行き詰ってしまい、悩みに悩んでいたある日、夢を見た。 槍を持った原住民に捕らえられる夢で、その槍の先には、穴が開いていたという。 これだ!と夢から覚めた彼が作ったのが、針先に穴の開いたミシン針であった。 嘘のような本当の話だそうで、ネットで検索したらちゃんと載っていたため、主人の作り話ではない事が確定した。 「だからシオンの見た夢も、もしかしたら、何かのヒントかも知れないよ」 と主人は慰めてくれたが、一体何のヒントになるのか全く見当が付かない。 どうせなら、もっとわかり易いヒントくれよ!1から37までのうちの7つの数字とか!
一方主人は、帰宅途中に、「小さいおじさん」なるものを見かけたという。 「信号から一寸先に、美容室があるじゃん。昨日か一昨日あそこの駐車場で、黄色い合羽を着た小さいおじさんが、トコトコトコって小走りに、車の下に入って行ったんだ……」 と告白する主人に、何でその日のうちに教えてくれないの!と詰ったら、 「だって、仕事で疲れているのかな、とうとう気がおかしくなったのかなと思って……何か言えなかったんだよう」 と、もしょもしょと答えるのであった。 まあわかるけどね、その気持ち。 「そうね、私も嫌な夢の話を伝えるのに勇気が要ったもの。そんな人でなしと一緒に暮らして行けないと離婚を切り出されたらどうしようと」 「大丈夫だよ、シオンが人でなしなのは今に始まったことじゃないから。 でも僕は、この世のものではないものを見てしまった事がショックで。幽霊とか妖怪なんている訳が無いのに!」 と、霊体験豊富な人が言う矛盾。 「あっシオンの実家には絶対話しちゃ駄目だよ。気狂い扱いされるから」 早速妹に話そうと思っていたのに、釘を刺されてしまった。ちぇ。
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