先日、近所に新しい店が出来たので、行ってみた。 今風に言えば、「新しいカフェがオープンした」となる。 丁度お昼の時間で、何組かの御婦人達が先客として座っていた。 空いているテーブル席に座っても良いかとボーイに尋ねると、お一人様はこちらでお願いしますとカウンター席に通された。 座面が小さい上に硬く、座り心地が宜しくない席で、まるでさっさと帰れと言われているようである。 しかも椅子が高い。チビやデブなら、乗り降りするのも一苦労である。 提示されたメニューにはランチが二種類記載されていたので、高い方を頼んだら、それはもう出てしまって今日はパスタしか無いと言うではないか。 それなら何故最初からそれを告げない? 料理は美味しかったが、随分気の利かないボーイだなあと呆れてしまった。
今日は気が向いたので、正午前に同じ店に行ってみた。 客は私一人だったので、テーブル席に座らせて貰えたが、これまた座面が硬く、尻が痺れそうである。 飲食店は回転を上げないと儲からないのは解るが、居心地悪いのは一寸如何なものかと思う。 今日は高い方のランチにありつけて、これも美味しかったのだが、会計時にそれも吹っ飛んだ。 1,200円に対して、小銭が無かったので千円札を2枚渡したら、お釣りが何故か百円硬貨2枚であった。 私もボケっとしていたので、財布に入れる直前になってやっと気付いた。 「あれ? ランチは1,200円だったよね?」 と、掌の上に貰った釣銭を見せると、彼は 「あ、そうですね」 と誤魔化すような薄笑いを浮かべて、正しいお釣りを返して来た。 レジもレシートも使わないこの店のシステムに問題があるとしても、間違ったのはお前なんだから、まずは客に謝れよ……! ヘラヘラしていて好印象を持てないボーイだと思っていたが、これにはムッとした。
という話を主人にしたら、 「あれこれ怒る事が多くて、シオンは大変だなあ。僕なら、『嗚呼こいつは頭が悪いんだなあ』と思ってお仕舞いだけど」 と言われた。 「そりゃ怒るわ。寧ろ、何故貴方は怒らないのか知りたいぐらいよ」 「いちいちそんな事ぐらいで怒っていたら、心がもたないよ。その程度の事は仕事中に山ほど遭遇するからさ」 なるほどねえ。 ゆとり世代を相手にしている人は、忍耐力が無いとやって行けないらしい。 それにしても、こういうとき都会なら選択肢が山ほどあるのだろうけれど、田舎だと「美味くて煙草臭くない店」が少ないので困る。 料理は良くても、接客のマナーがまるでなっていない店員のいる店には、あまり行きたくない。あのボーイ、さっさとクビにしてくれないかなあ。
買い出しからの帰り道、いつもの抜け道を車で走っていると、前方に何かが落ちていた。 スピードを落としながら近付いてみると、猫の死骸であった。 勿論避けて通る。 こういう時、可哀相と思ってはいけないらしいが、ザマアミロとも思えず、やっぱり可哀相にと思ってしまった。 聞いた話によると、可哀相と思ってしまうと、付いて来ちゃうらしい。霊が。 しかし、果たして動物には魂があるのだろうか。 霊体験豊富で、あの世のものに詳しい主人に訊いてみたところ、 「凄いねシオンは、デカルトみたいな事を言うなあ」 と言われた。聞き覚えはあるが、誰だっけデカルト。 「哲学者だよ。二元論を説いた人。『我思う、故に我あり』も、この人の言葉だね」 ルネ・デカルトはフランスの哲学者、数学者。合理主義哲学の祖であり、近世哲学の祖として知られる。(byウィキペディア) 「『我思う』は知ってる〜。自分の存在を疑う時、疑っている自分は確かにいるのだから、自分は存在するのだって奴だよね」 「まあそんな感じ。二元論ってのは、世界には物質世界と精神世界の2つが存在するのだという説で、その両方を兼ね備えている、つまり肉体と魂を持っている唯一の存在が人間であると彼は主張した。 つまり、二元論的には、猫に魂は無いと言う事になる」 流石に私より長生きしているだけあって、主人は色々な事を知っている。 凄いなあと素直に感心した。 「なるほど、デカルト的にはそうなるのね。じゃあ貴方の説は?」 「猫にも犬にも魂はあると思うよ。デカルトは人間以外の動物を『自動機械』と位置付けたけれど、うちの実家で飼っていた犬も猫も、僕は心で通じ合えた実感があるから、動物にも魂はあると思うよ」 「じゃあ、どこまでが動物? 単細胞生物は? 植物は? どこで区切られるの?」 「植物にも魂はあると思うよ。固体による区切りではなく、生きとし生けるもの全てに存在するんじゃないかな」 なんだか仏教的な話になって来た。
その日の夜、お風呂に入っていると、磨り硝子(と言っても素材は硝子ではない)の向こうで、主人が、 「チャオ」 と言うのが聞こえた。 何?と訊き返しても返事が無いので、居間に戻ったのかと思って呼び出し釦を押して、主人を呼び戻した。 どうかした?と言われたので、 「いや、今そこにいたでしょ。よく聞こえなかったけれど、何て仰ったの? チャオ?」 と訊くと、 「知らないよ、ずっと居間でテレビ見てたもん。その音だったんじゃないの」 と言って、主人は居間に帰ってしまった。 この家には主人と私しかいないし、さっきのは男性の声だったからてっきり主人だと思ったのだが、ほかに誰かいるのか。 まさか、昼間の猫じゃないだろうな。チャオではなくてニャオ……。 しかし猫の声ではなかった。ううむ。 いよいよ私も霊能者の仲間入り?
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