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この物語は以前、某有名サークルさんが銀英伝の小説を同人誌掲載用に募集していた時に応募しようとして・・・・・見事頓挫したものであります(汗)。まあ今にしてみれば、それで良かったような気がしますが。何せ原作中、キャラクター的には結構目立っていたにもかかわらず、同人界ではどちらかと言うとマイナーか、お笑い役に回る事の多いキャラが主役だったのですから。それに文体も合いそうにないし・・・。 こういうレンタル日記を借りたこともあり、こーなったら過去の恥は掻き捨て! とばかりに発表させて行きたいと思います。ちなみに、一応はシリアスでありますが、原作至上主義の方々に言わせれば、「パラレルワールド」と受け取られても仕方ない設定になっております。何せ、同盟の人間と帝国軍人が、オーディンで知り合うと言う無茶な話ですから・・・(苦笑)。 *********************** 少年は、父が好きだった。 遠い戦地から戻って来た彼を出迎えた時、満面の笑顔と共にそのたくましい両腕で抱きしめられるのが、たまらなく大好きだったのだ・・・。 銀英伝パロ オーディンの空の下(1) 「・・・いいですか、閣下。何度も言いましたが、お相手は怪我人なのですから、あまり気を使わせることはございませんよう」 病院へ向かう車中、心配性の副官にそう囁かれながら、男は不機嫌な表情を隠しきれずにいた。それも、珍しく黙りこんで。 同僚が戦地で思わぬ大怪我をし、このオーディンに帰って来たのである。皇帝陛下から帯びた任務は何とか果たし終えはしたが、彼は2度と取り戻せないものを失ってしまった。軍人としては決して避けることの出来ない事態ではあるものの、将官としての日々が永くなってしまった今では、その認識を忘れそうになる───そんな矢先での事件だったのだ。 「くれぐれも、『自分が志願したのを横取りしたバチが当たった』などと言う事はおっしゃられますな」 「・・・ほう、その手があったか」 やっと話し出したかと思うと、その口調には常になく毒が混ざっている。 「閣下・・・」 「心配するな。これでも俺はデリカシーはある方だ。間違っても『今は義手の良いのが出回ってるから腕の1本や2本、なくしたところで気に病むな』とは言わんさ」 まるで、見舞いに行く前に言いたいことを全部吐き出してしまおう、と言わんばかりの暴言だ。 だが男の部下達はそれらの言葉が、決して相手を傷つけるために発せられたものだとは思っていない。変に気を使った方がかえって、相手を追い詰める事があるのだ。彼なりに、怪我人のことを慮っているのだと、ここに同乗している幕僚たちには分かっている。 ちなみに、男が先ほどから黙っていたのは、怪我をした同僚に思いをはせていたからでも、かけるべき言葉を考えていたからでも、決してない。 「どうも、病院って奴は性に合わん・・・」 銀河帝国でも並ぶ者がないくらい戦火の中に身を投じて来ていながら、1度として大怪我に見舞われたことがない男。その彼が、まさか病院嫌いとは。いや、注射嫌いか。 ・・・あまりにそぐわぬ事実に、つい微笑ましさを感じずにはいられない、幕僚たちであった。 車は何の支障もなく、軍病院に到着した。 静かに正面玄関前につけられた車内から運転手がすばやく走り出て、主たちのためにドアを開ける。 次々に車外へ降りる部下達を尻目に、男はまだ車内に留まっていた。少しでも病院にいる時間を短くしよう、という子供っぽさの現われなのだったのだが・・・。 「?」 その時、彼の目に不可解な風景が映る。 1人の男が、泣き叫ぶ少年を抱きかかえて走り去ったような気がしたのだ。 「病院嫌いはどこでも変わらんようだな・・・」 そう呟いて、ふと首を傾げる。これが病院へ駈け込んだと言うのなら、別におかしくも何ともない。だが男は、病院から外へと走って行ったのである。 それに───なにより彼には、泣いていた少年の方に見覚えがあったから。 一体何が起きているのか、と怪訝に思っていた時だった。 「き、貴様何をする!?」 「悪いね、緊急事態なんだよ」 外で部下達がもめている声がしたかと思うと、いきなりドアから1人の男が飛び込んで来た。 緑色の目をした、なかなか精悍な顔つきのその男は、だが見覚えのない人物である。着ているのがラフなジャンパーと言う辺り、どうやら軍人でもなさそうだ。 「ありゃ、まだ人がいたのか」 そして、彼が口にしたのは明らかに帝国語ではなかった。 「・・・悪いけど、あんたを降ろしてる暇はないんだ。そのまま乗っててくれ」 言うが早いか男はドアを中から閉めると、いきなり車を急発進させてしまったのである。 「閣下ーー!」 残された部下が悲痛な悲鳴を上げるのを、だが男は他人事のように愉快な気持ちで見送った。 言わば車ごと埒されたにもかかわらず、軍人である男は動じる事なく相手に尋ねた。 「・・・何なんだお前は。軍人の車をカージャックとは、あまり利口なやり口じゃないぞ」 それも、仮にも上級大将の車をだ。鋭利目的の誘拐か、単に車を拝借したかっただけなのかは知らないが、このままではただで済むはずもない。 もっとも、それほどの地位の者があっさり車を奪われたとなると、いい笑い者になるのも否めないが。 「用が済めばすぐに返すって。別にあんた、急ぎの用でもなかったようだし」 道路を猛スピードで走らせながら、緑色の目をした青年はニヤリと笑う。どうやら男が降りるのに躊躇していた事は、お見通しらしい。 「急ぎ? 一体何があったって言うんだ?」 「・・・知り合いの坊主が、誘拐されちまったんだよ。だから後を追ってる真っ最中さ」 その言葉に、男はやっと思い出した。先ほど見かけた少年が、誰の息子であったかを。 「じゃあさっきのは、やっぱりワーレンの息子か!?」 それからの男の行動は迅速だった。手元にあった電話で、どこかへと連絡をとり始める。 「・・・憲兵本部か? 緊急事態だ、お前らのボスを呼べ。今すぐだ。・・・そうだ、ケスラーをだ、とっととしろ!」 ───緑色の目をした青年の表情に、困惑の色が浮かぶ。 手っ取り早く子供を取り戻そうと、この車を掻っ攫ったまでは良かったが、乗っていた軍人はどうやらとんでもない人物のようだ。帝国軍の上級大将であるはずのワーレンとケスラー憲兵長官を、こともあろうに呼び捨てにするとは、普通ありえない。よほど肝が据わっているか、それとも彼らと同等の地位を手中にしているかの、どちらかでない限り。 ものすごく、イヤな予感がする・・・。 一見、粗野で乱暴な下士官風のこの男の正体を計りかねて───ローエングラム新王朝になってからの新しい軍服の判別法を彼はまだ知らなかったから───青年は結局、直接聞くことにした。 「聞き忘れていたんだが・・・あんた何者なんだ?」 「ビッテンフェルト。フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトだ。お前こそ何者なんだ。何でワーレンの息子を知っている?」 ビッテンフェルト上級大将・・・!? 良くも悪くも猛将と称えられる、臆病とは無縁の、ローエングラム新王朝の重鎮中の重鎮───!? 「・・・俺はフェザーン商人・イワン・マリネスクと言う者だ・・・」 冷静を装ってそう応えた青年であったが、心の中は困惑の嵐が吹きあれている。 何故なら、彼の本名はイワン・マリネスクなどというものではなく。 書類上では戦死扱いとなっている同盟軍元中佐オリビエ・ポプランこそが、それであったからだ。 ≪続≫
1ヶ月まともにあいてしまいましたねえ(汗)。お久しぶりの更新です。少しはラブコメみたいな展開にしたいんですけど、さてどんなことになるやら。 ところで、先日「流川と承太郎は無言実行型」と書きましたが、他にも共通点がありましたね、この2人。 「女性にはミョーに冷たいところ」・・・まあ、必要最低限の礼儀は知ってるみたいですが、承太郎なんて「実の娘に対する態度がなっちゃいねえ」ってどこかのHPで読んだ記憶があるし(第5部から読んでないんですってば☆)、流川の女嫌いっぽいところは、言うまでもないです。でも、そーゆーところが逆にトキメキを感じる、とか言ったら・・・もはや重症ですな(汗)。 ******************** 試合も後半戦に差し掛かる頃には、既に富ヶ岡中の勝利は確定的になっていた。 それほどの点数差を稼ぎ出したスーパールーキー・流川楓。彼のプレイの1つ1つが、自分たちの視線を釘付けにしてしまっていることを、観客はみな気づいている。 「とはいえ・・・流川の奴、前半戦から比べればパワーが落ちたわね。それに、ディフェンスが今1つってところもあるし」 スコアブックをつけながら、彩子は後輩の弱点をすばやく分析している。 しかし、それはたいしたことではない。弱点は人間、誰にでもあることだし、既に完成され尽くしてしまった選手ほど、見ていて痛々しいものはない。 流川は違う。これからの特訓如何で、どれだけでも伸びる可能性がある選手だ。 「ま、それには、あいつが自分の弱点を素直に認めるかどうか、にかかってるみたいだけど」 自分の弱さを認めたがらず、無茶な練習をした挙句、故障したり挫折した選手が、一体何人いることか。 流川には、そうはなってほしくないものだけれど・・・。彩子がそう、呟いた時である。 「メンバーチェンジ!」 主審の声に、我に返る。 チェンジアップを済ませた選手の代わりに、フラフラな足取りでベンチへ戻って来たのは・・・。 「流川!?」 「・・・・・」 彩子は慌てて流川に駆け寄る。そして彼が目で、ふ、と、彩子を認めるやいなや、膝からガクッと倒れ掛かる。 「危ない!」 とっさに支えると、ずっしりとした重みを感じると共に肩の辺りで、流川の息遣いと囁きが聞こえた。 「・・・・・スミマセン・・・」 「! ああ、ああ、いいから! さっさとベンチに座る!」 口調がぶっきらぼうになるのは、彼女らしからぬ挙動だ。が、彩子にしてみれば、流川に抱きつかれた格好になった自分を自覚するに、動揺せずにはいられないのだ。 「流川、後は俺たちに任せとけ」 ベンチに座った流川に、二階堂がそう声をかける。 ふ、と流川の意識がそちらへそれて、残念なような、ほっとしたような気持ちにさせられる彩子だった。 男の子、なんだなあ・・・。 あたしとそんなに身長とか、変わらないのに。 手の大きさとか、肩幅とか、腕の筋肉とか全然違う・・・。 ちょっとだけ・・・くやしいな。 まるでバスケをやるために生まれてきたような彼の体に、少しどぎまぎしながらも、彩子は刹那、嫉妬も感ぜずにはいられない。 ───だから尚更、この発展途上中の後輩にはこの先もずっと、伸びて行って欲しい。 その思いが、彩子にキツイ口をきかせたのだろう。 「どうしてあんたが、交代させられたんだと思う? 流川」 流川は即答しなかった。息を整える事で精一杯なのか、と思いきや、彼はこちらをじっと睨むように見つめ返して来ている。聞こえなかったわけではなさそうだ。 「・・・どうしてそんな分かりきった事を聞くんだ、って思ってるの?」 何となく思い当たった考えに、頷く流川。 「だって、心の中でただ思ってることと、口に実際出してしまうって、全然違う事でしょ? 言葉にして吐き出すのって、それを自分の考えとして認めた上でないと、出来ない事じゃない。他人が聞いてるわけだしさ。・・・つまりあたしが言いたいのは、あんたが自分のプレイヤーとしての欠陥を、ちゃんと自分のこととして認めることが出来るのかしら、ってことなの」 「・・・体力が、ないってことスか」 苦々しい流川のその口調は、常日頃彼が気にしていることの表れだろう。 「まあ、体力不足もその1つよね。でもまだまだ技術不足とか、ディフェンスがなってないとか、傍から見てると色々見えてくるものなのよ。ただ・・・今日の場合、あんた体力配分ってもの、してなかったように思えるのよね」 「?」 「・・・あんた、結構ムキになる性格でしょ?」 「!」 何故か流川は目を見開いた。何で分かるんだ、と言いたげに。 「だってさ、向こうの3年にブロックされた時、後で自分にボールが渡ったらまたその選手に挑もうとしてたじゃない。あー言うのって、相手の思うつぼだと思うんだけど」 「・・・もう1回やれば負けねー、そう・・・思ったから・・・」 負けず嫌いのセリフに、ついつい彩子も苦笑を誘われる。 「気持ちは分かるけどねえ。それじゃあ攻撃パターンが相手に読まれちゃうわよ。今度対戦する時にまで、リベンジはお預けにしておきなさい。必ずしも試合中に決着をつける必要は、ないと思うわ。・・・だからキャプテンも交代させたんじゃないかしら。あんたの頭を冷やすためにね」 「・・・そースか・・・」 流川はそう応えただけだったが、多分彼の心の中にはいろいろな葛藤が入り混じっている最中なのだろう。そう思って彩子は、それ以上彼に話し掛けようとはしなかった。 あとは、彼がどうするか、の問題なのだから。 結局、富ヶ岡中は点差をあれ以上縮められることなく、競り勝つことができた。塚本が出場できないと分かった時は沈んでいた空気も、今は明るいものになっている。 彼なしでも自分たちはやれるんだ───そう、自信づけられたから。 そしてその最大の功労者は、と言うと、送迎バスの一番後ろの席で、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。彩子の肩にもたれかけながら。 「・・・ご苦労さん」 その屈託のない寝顔を見ているうちに、いつの間にか眠りに誘われてしまう自分を感じる彩子。 ちょっとだけ、ね。 またすぐに、起きるから・・・・。 そのまま流川の肩に寄りかかるように、彩子は静かに目を閉じた。 ≪続≫
今現在、HPの方の更新の〆切りが差し迫っているので、今月中はこのコーナーの更新はないと思ってください。 ネタはあるんですよ・・・流×彩も、康一話も、途中まで書いたデーターがちゃんとあるんですが・・・(汗)。
ここでのパロ小説を書いているうち、気がついた事があります。 「流×彩も康一話も、何で無口なキャラがメインなんだ〜!?」 流×彩では言わずと知れた流川。JOJOでは空条承太郎氏・第4部仕様。まあこの2人、実に喋らない。無言実行型を地で行くんだもんなあ。まあ流川は「めんどくさいから喋らない」で、承太郎の場合は「話さなくても他人には自分の思ってる事は分かると思ってる」で、全然違うキャラですが。 で今回、本来なら無口な承太郎が喋りまくります。そしてこれこそが、ちゃんちゃん☆が康一に言ってあげたかった事でも、あります。でわ! ******************** 本当に馬鹿げた話だと思う。「もしも」なんて仮定が、未来の事ならまだしも、もう過ぎ去ってしまった過去の話だなんて。 だけど、時々情けなくなる気持ちはどうしようもない。「もしも」スタンド能力がなかったら、僕と友人付き合いをする人はそんなにいなかったんじゃないか、って。 だってそれって、スタンドしか僕の取り柄がない、ってことと同意語だから。 「・・・康一くん」 承太郎さんが口を開いた。 その表情からは、もう困惑は消えている。強いて言えば、何かを強く決心した表情に見えるのは、僕の気のせいだろうか? 「仗助が・・・以前私に話した事がある。君の事だ」 「・・・僕の?」 何だろう? 恥ずかしい事だったら、ヤだな。 「虹村形兆と君たちが対決したことがあった。『弓と矢』を巡って。とりあえずケリがついた時、君はあいつに言ったそうだな。 『弓と矢はどうするの?』と」 そう言えばそんなことがあったっけ。 「仗助はその時、一刻も早く屋敷を逃げようと考えていた。まあ当然だろう。刑兆にやられたダメージがあったからな。だから今は放っておこうとしたが・・・君は断固反対した。『弓と矢』をそのままにしておけば、この街でまた誰かが死ぬ事になるから・・・そう言って、自分1人で屋敷内を捜索しようとした、と」 「・・・?」 今度は僕が、承太郎さんの言いたい事を理解できなくなる番みたいだ。何とも相槌の打ちようもなくって、馬鹿みたいに口を開けたままにしてたんだけど。 次に承太郎さんが言ったセリフに、耳を疑った。 「仗助は・・・あいつはその時、君にはかなわない、そう思ったと言っていた」 ・・・何、それ? 仗助くんが僕にはかなわない、って一体・・・。 「私も・・・正直言ってあいつの言いたい事が分からなかった。だが、仗助が続けてこういった時、やっと理解する事が出来たんだ。 『いくら怪我をしてたからって、俺はスタンドが使える。なのに何もしようとしなかった。あいつはスタンドを使えないまでも、何とかしようとしたのに。情けねえ・・・そう恥じていたら、不思議に怪我だらけの体なのに力が湧いた』と」 ───仗助くんがそんな風に思っていたなんて、知らなかった。 あの時僕と一緒に『弓と矢』を探してくれたのはてっきり、僕が頼りなくて見てられなかったからだと思ってたから・・・。 「仗助は、君が1人でも探すと言ったからこそ、手を貸したんだ。これは決して、スタンドの力じゃあない。君本来の、魂の力だ」 「・・・承太郎さん・・・」 「君はもっと、自分を誇りに思ってもいい。私はそう思っている」 魂の力・・・。 すごく良い言葉だ。 心の底から勇気がにじみ出てくるような、そんな力強い響き。 「・・・コーヒーのお代わりはいるか?」 唐突に承太郎さんが聞いてきて、僕は慌ててカップを差し出した。 コーヒーの香りが、部屋中を満たして行く。 承太郎さんは僕にコーヒー入りのカップを返してから、傍らの椅子に腰掛けたんだけど・・・どこか疲れているように見える。 「・・・康一くん」 「はい?」 「私は・・・昔、スタンド能力を身につけた時、自分を呪わしいと思った事がある」 ・・・何だか今日は、承太郎さんの言葉に驚かされっぱなしのような気がするなあ・・・。 「悪霊だと、思っていたんだ。今にしてみれば、とんだ勘違いなんだが。周囲にはスタンド使いがいなかったからな。・・・祖父に教えられて初めて、スタンドと言うものの存在を知ったんだ。使い方も」 確かに・・・それはそうかもしれない。杜王町みたいに、歩けばスタンド使いに当たる、みたいな場所こそが異常なんだろう。 そういう考えにとらわれていた僕は、またもや承太郎さんの言葉に驚かされてしまったんだ。 「君は・・・そう思った事はないのか? 無理矢理、スタンド能力を引き出されたようなものだろう」 ・・・・・考えた事もなかったな。 それが、僕の本音。 だけどそれを、直接的に告げるのはためらわれて、僕は必死にふさわしい言葉を頭の中で探す。 承太郎さんの告白は、でもこれだけじゃあなかった。 「仗助が・・・君のことで気にしていた事がある。『弓と矢』に刺された君を不用意に治してしまった・・・そう言って」 「不用意って・・・」 何でそうなるんだろう? あの時仗助くんが『クレイジーダイヤモンド』で治してくれなかったら、確実に僕は死んでいたって言うのに。 僕の表情に、考えている事がまともに出ていたんだろう。承太郎さんは何度かためらったあと、静かにこう言ったんだ。 「『クレイジーダイヤモンド』で治さなければ、君がスタンド能力を身につける事はなかったんじゃないか・・・仗助はそう、思っているらしい」 つまり、承太郎さんは・・・って言うか、仗助くんはこう、言いたかったんだろう。 本来なら助かるはずもなかった命と引き換えに、僕はスタンド能力を身につけて『しまった』。それは、平凡な生活との決別の証しで、決して欲しい能力ではなかったのに。いっそあのまま、死なせてくれれば良かったのに。 ・・・そう、思わないか、と。 僕は・・・その質問には答えられそうになかった。 だから代わりに、こんな話をしたんだ。 「承太郎さんは、外国のテレビ映画ってよく見ます?」 「? いや。アメリカで生活しているくせに、おかしな話だが」 「僕の父、そう言うのが好きなんですよ。それも、警察ものに目がなくって」 「・・・刑事コロンボか?」 「それも嫌いじゃないらしいんだけど・・・父の一番のお気に入りは、白バイものだったんです。一昔前の。何度もビデオで見てたんで、僕の目にも時々入ったりして。その中に、ひどく心に残った話があったんです・・・」 1人の熱心な警官がいた。彼は余命幾ばくもない病に取り付かれていた。 同僚は、早く彼を入院させようとしたんだけど、彼はそれを拒んだ。 そして彼はそのまま、警官としての生活を続け・・・ある日、死んでしまった。事故に遭いそうになった一般人を、身を挺して庇ったのだ。 彼は死に際にこう、言い残した・・・。 『生きていればこうやって・・・人の命を助ける事だって出来る』 「僕・・・この話を見た時、人目もはばからず泣いちゃったんですよ」 その生きざまに、ショックと感動を覚えて。 「僕は別に病気じゃないし、身を挺して、なんてカッコイイことなんて出来ないと思う。だけど、さっき承太郎さんから仗助くんの話を聞いた時、ふっと思い出しちゃって」 生きているからこそ。 そう、あの時仗助くんに助けられて生き長らえたからこそ、できた事が僕にはいっぱいある。 ひょっとしたら将来、スタンド能力の事で悩んだりする事も、あるかもしれないけど。 「僕は今、じゅうぶんに幸せだって思いますよ? 承太郎さん」 「・・・そうか」 僕の言葉に、承太郎さんはそうとだけ答え。 ほんの少しだけ・・・笑った。 ≪続≫ 参考:白バイ野郎・ジョン&パンチ(セリフうろ覚えだけど・・・)
本来の康一って、きっとこんなに悩んでないんだと思います。ただ、承太郎や仗助に色々と康一の事を話して欲しくって、こういう話にしたとゆー。・・・いいんかいな?? *****************: 「おーい、康一ぃ」 放課後。 手早く帰る用意をしていた僕を呼びとめたのは、億泰くんだった。すぐ横に、仗助くんも来ている。 「一緒に帰ろうぜえ? 今日『レインボー』に新しいアイス出るんだってよお」 「悪いけど僕、今日は早く帰らないと」 「何だよ何だよ? 『彼女』とデートかあ? つきあい悪ィなあ」 「ち、違うよ。承太郎さんと会う約束があるんだ」 何気なく僕は答えたんだけど、それは仗助くんに大声をあげさせるにはじゅうぶんだったみたいだ。 「なあにい! 承太郎さん来てるのかよお!? 聞いてねえぞ、俺はよお」 あれ? ひょっとして承太郎さんが杜王町に来るの、内緒だったりするのかな? でも、仗助くんに内緒にする理由なんて・・・? ちょっとマズかったかな、と思いつつも、僕はふと思いついてこう返したんだ。 「ふーん、やっぱり仗助くんもそう思うんだ?」 「・・・どう言う意味だよ?」 「だって仗助くん、時々承太郎さんと会ってるって話じゃない。ジョースターさんとも。人目があるから杜王町で、じゃないけどさ」 まあ、それ自身は何の不思議もないんだけどね。親戚同士なわけだし。(ジョースターさんとなんて、親子だし) 「なのに、一度だって教えてくれなかったじゃない。僕だって会いたかったのにさ。でもこれで、僕たちの心境ってものも分かってくれただろ? よかったじゃない」 「うっ☆」 仗助くんは苦い顔をして押し黙る。少しは悪かったと思ったんだろうなあ、きっと。 「けど、一体何の用なんだろうな? 承太郎さん。俺は頭ワリイから分かんねえけどよ」 「さあ? 頼みたいことがある、って言ってたけど」 億泰くんじゃないけど、承太郎さんの用件がどんなものかなんて、想像できない。大体、普段から無口な人だから、行動パターンはともかくも、思考パターンていうのは全然、分からない人なんだよね。 「ちぇっ、何で俺は蚊帳の外なんだよ。仮にも『叔父』だぜ? 俺は。『甥』として、もうちょっと頼ってくれたっていいじゃねえか、承太郎さん」 ・・・ブツブツと拗ねてる仗助くんの言葉に、僕は思わず笑ってしまった。 そうなんだよな。仗助くんはジョースターさんの息子だから、ジョースターさんの孫に当たる承太郎さんは甥、ってことになるんだ。それは分かってるんだけど・・・。 何だか、こうやって拗ねてる仗助くんを見てると、逆なんじゃないの? とか思っちゃっても、無理ないよねえ? 「承太郎さんは別に、仗助くんのことを信頼してないわけじゃないと思うよ? ほら以前話してくれた『狩り』の時、連れて行ったの仗助くんだけだったじゃないか」 「それはそうなんだけどよ・・・」 「とにかく、僕もう帰るね〜。また明日〜!」 これ以上遅刻するのはよくない。そう思って、僕はさっさと話を切り上げて教室を後にした。 「後で話、聞かせろよ〜」 「わざわざすまないな、康一くん」 杜王グランドホテルのロビーで、僕は承太郎さんと再会を果たした。 「それは構わないんですけど・・・承太郎さん、杜王町に来る事仗助くんには話してなかったんですね」 立ち話も何だしと、そのまま予約してある部屋まで一緒に歩く。 「・・・仗助に、話したのか?」 「・・・いけなかったですか? ひょっとして」 「いや、別に構わないが・・・ただ、これから依頼する用件に関しては、なるべく他言無用に願いたい。頼む」 何か・・・かなり難しい用件なんじゃないの? 「分かりました」 でも僕には、こう答えるしかなかったけどね。 部屋に通され、2人きりになってから承太郎さんに頼まれたことというのは、ちょっと意外なことだった。 イタリア在住のとある少年を探し出し、本人には知られないように『皮膚の一部』を採取してくること。何でもスピードワゴン社に送って、体質を調べたいって言うんだ。 旅費は全額負担してくれるって言うし、別に危険なことでもないって話だったから、僕は引き受けることにしたんだけど・・・。 「姉さんが不思議がってましたよ。僕の交友関係どうなってるのか、って」 承太郎さんが煎れてくれたコーヒーを飲みながら、僕は何となくそう話し出した。 「?」 「昨日、承太郎さんからの電話、受けたの姉さんだったもんで」 「ああ・・・」 「普通、歳の離れてる人たちと友達づきあいなんてしないじゃない、って。・・・そうなんですよね。承太郎さんに露伴先生、トニオさんに玉美さん・・・こうやって考えるとみんな、スタンド絡みで知り合った人たちばっかって言うのが、不思議って言うか・・・」 ───承太郎さんが怪訝そうな顔をしているのが分かる。僕が何を言いたいのか、理解できないんだろう。 僕も、どうしてこんなことを話題にしたのか、自分でも分からなかったんだ。 「僕って仗助くん以外、スタンド使い関連じゃないと友達になれないのかな、って思っちゃって」 そう、口にするまで・・・。 「・・・」 承太郎さんは何か言いかけ、やめた。彼にしてみれば珍しく、困惑しているのが丸分かりだ。 「あ、別にイヤとかそう言うんじゃないんです。みんな、イイ人ばっかだし。知り合えたからこそ、吉良の野望を止める事も出来たんだし。・・・ただ・・・」 大きなため息と共に、僕は本心を吐露する。 「ただ・・・僕がスタンド使いになったのは、本当に偶然だったから・・・。もし、なんて過程は無意味だとは思うんだけど・・・もしスタンド使いになってなかったら・・・」 「・・・」 「こんなに友達、出来てなかったんじゃないかな、って思っちゃって」 ≪続≫
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