※ああ、またしても前後編・・・。何とかコンパクトにまとめることは、ちゃんちゃん☆ には不可能なのでしょうか?? とにかく、本文をどうぞv ************************* 茂保衛門様 快刀乱麻!(9)後編 「・・・もういいよ、九桐。あたしから正直に話すから・・・」 媚びているようで、その実意志のはっきりとした切れ長の目をした桔梗は、辛そうな顔を伏せたまま話を始めた。 「あんたたちの言う、勇之介を利用できないかって企んだ人間って言うのは・・・他ならぬあたしさ」 「なっ!?」 「けど、彼らを利用しようとしたんじゃないんだ。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど。あたしはあの子があまりに不憫だったから・・・。姉さんを止められなかったことを、姉さんを助けることが出来なかったことを、悔やんで悲しんでたあのコの無念を晴らしてあげたくって・・・」 そこまで言ったところで、桔梗はキッ、と顔を上げた。 「あんまりじゃないか、あの姉弟たちは一生懸命支え合って生きて来たって言うのに。自分たちの目先の欲にかられた連中に、見殺しにされた挙げ句に言い訳もできないなんて! 弱い人間は何をされても、たとえ殺されても泣き寝入りするしかないなんて、一体誰が決めたって言うんだよ? ・・・だから、だからあたしはあたしの力をあの子に貸してやったんだ。おろくと勇之介の味わった灼熱地獄の苦しみを、他人にも味合わせてやる力をっ・・・!」 パン・・・ッ! 自分の感傷に浸ってる女の言葉なんて、これ以上聞いていたくなくて。 ・・・気が付けばあたしは、桔梗に平手打ちを見舞っていた。 仕返しされるとか、あたしも呪殺されるんじゃないかとか、そんなことはその時はこれっぽっちも考えずに。 「あんたは・・・あんたは何てことしでかしてくれたのよ? 灼熱地獄を味合わせるですって? 襲われた2人の男に関しては、確かに自業自得かもしれないわ。だけど勇之介が付けた火が、もし何の関係もない人間に燃え移りでもしてたらどうするのよ!? あんたは第二、第三の勇之介を作るつもりなわけ!?」 「それは・・・」 桔梗の顔色が目に見えて悪くなるのが分かっても、あたしの糾弾は止まりはしない。 「いくら泣き寝入りが嫌だったからって、どうしてそっちの方面でしか力を貸す事が出来なかったのよ? 勇之介の声が他人にも聞こえるように、おろくの火付けを見て見ぬふりをした男たちを糾弾できるようにすることだって、できたはずじゃないっ!」 「・・・・・・・」 黙りこくった桔梗の代わりに、あたしたちの間に割って入ったのは血の気の多い風祭。 「何言ってやがるんだよ。大体お前らお役人が不甲斐ないから、おろくも勇之介も苦しむ羽目になったんじゃねえかっ。糾弾するくらいで勇之介の無念が晴らせるかよ? 糾弾したからって、火あぶりにされたおろくが生き返るのかよっ」 「勇之介は極楽浄土へ行けるでありましょうか───おろくはそう言ってたのよっ、火あぶりにされる前にねっ!」 「・・・っ!」 「おろくはねえ、自分のしでかした罪を悔いながらも、死した勇之介の身を案じていたの。・・・分かる!? あんたたちが余計なことをしたお陰で、可哀想な勇之介は極楽浄土にすらいけなくなったのよ? あんたたちはおろくの優しい姉心も踏みにじった挙げ句、あるいは勇之介ですら望んでいなかったかもしれない復讐を、強いたかも知れないってことじゃないっ。 ・・・見損なったわ《鬼道衆》。あんたたちはやっぱり、鬼でしかないのよっ!」 さしもの風祭も言葉を失い。 「分かってるよ・・・あたしのやらかしたことがどんなに一人よがりなことだって事は、嫌ってほど分かってるさ。・・・だから今、止めにきたんじゃないかっ」 涙の交じった声で桔梗が呟くのを、あたしはなかば歯ぎしりしながら聞いていた。 ったく! だから女って奴は嫌いなのよ。すぐ感情で揉め事起こして、周りなんて見えてやしないんだからっ! ───と言っても、これ以上感情論をぶつけ合ったところで、問題が解決するわけじゃない。 「・・・・・」 無理矢理怒りを噛み潰し、あたしは御厨さんに視線で合図を送った。 頷いた御厨さんは、心得たように桔梗への質問を続行する。あたしの代わりに。 今下手に口を開いたら、あたしが桔梗を罵倒し続けるのは疑いない。それも、半ば八つ当たりの形で。 ・・・悔しいけど、さっき風祭が指摘したことは確かに当たってるのよ。あたしたち火附盗賊改がしっかりしてなかったから、おろくの火付けに隠されたもう1つの陰謀に気づかなかった、って辺りはね。 笹屋・久兵衛と岸井屋・又之助が火事の後挙動不審だったのは、分かっていたはずなのだ。でもおろくが自分の罪を名乗り出たため、彼らへの尋問はそれ以上行われなかった。ここで面倒がらずに追及の手をゆるめずにいれば、あるいは勇之介の凶行を防げたかもしれないのに・・・。 それを自覚していたから、あたしは自分で桔梗に相対するのはやめにしたのである。今は時間が惜しい。とにかく冷静に事に当たらないと。 「・・・それで? これ以上の被害者を出さないために勇之介を説得しに来た、と言ったな。勇之介が狙う人間に心当たりがあると言うわけか? 一体誰なのだ?」 「それが・・・名前は全然聞いていないんだよ。勇之介自身、相手が誰か知らなかったみたいだし」 「ったく、狙われてる人間が誰なのか知ってるなら、俺たちがわざわざここへ来るはずねえだろ? 勇之介の終焉の場所ぐらいしか、他にあいつが行く場所なんて見当がつかねえんだよ」 「一言多いぞ、風祭。喧嘩腰になるな。・・・八丁堀、さっき榊殿は勇之介の手にかかって男が2人死んだ、と言っていたな。本当なのか? それは」 一同の中では一番冷静な九桐が、風祭たちの押し問答を見かねて口を挟んで来る。 話していいものか判断に迷い、視線を送って来た御厨さんの要望にあたしは答えてあげることにした。 少しだけど、冷静な心が戻りつつある。 「・・・半分本当で、半分は嘘ですよ。1人は確かに、あたしの目の前で燃え上がって絶命いたしましたけれど、もう1人は未だに生きています。もっとも、半ば廃人と化していますがね」 「焼き死んだのを、目の前で目撃したと言うわけか・・・なるほど、わざわざ火附盗賊改の貴殿らが出張ってくるわけだ」 「感心していないで、話を元に戻しましょうか。あんたたちは死せる勇之介と話をしたわけでしょう? 彼が狙う人間の特徴とか何か、聞いていないの?」 勇之介が、自分を害した人間の名前を知らないとなれば。 じかに勇之介から話を聞いたらしい桔梗の証言だけが、あたしたちにとっては頼りの綱だわ。 皆の注目の中、桔梗は懸命に自分の記憶を呼び起こそうとする。 「誰が実際に呪殺されたのかは知らないけど・・・確か勇之介を殴ったのは、巾着袋を凶器代りに使った気の弱そうな男で。勇之介は裏口に捨て置こうとしたもう1人の男に必死に抵抗して、顎の辺りを爪で思い切り引っかいた、って言ってたっけ」 「・・・榊さん・・・」 「あたしの推理力の正確さに、目眩がしますよ全く☆」 間違いない。気の弱そうな男って言うのが、廃人と化した笹屋・久兵衛。そして顎の辺りに引っ掻き傷を作っていたって言うのが、こんがりおこげをあたしの目の前でご披露してくれた、岸井屋・又之助だわ。 「その2人ならとっくに襲撃された後ですよ。けど・・・今のあんたたちの言い草じゃ、ここに第三者が挟まる余地はないように思えるんだけど。一体どんな人間なわけ?」 あたしの質問に、桔梗は苦り切った表情を見せる。 「それが・・・どうやら行商人らしいって言うんだよ。それも勇之介が小津屋へ急いでいた時、道を尋ねたって話で・・・」 「・・・行商人?」 何かが、あたしの頭の中に引っ掛かる。 「たったそれだけのことで、どうして勇之介が怨むと言うのだ?」 御厨さんも疑問に思ったらしい。鋭く突っ込んで来る。 「あたしもそう思ったんだけど、さっき言った男2人はその行商人から、勇之介の身柄を預かったって話なんだ」 「預かる?」 ああ、また何かが・・・。 「そう。つまり、その行商人に小津屋まで連れて行ってもらおうとしたところで、声をかけて来たんだって。 『小津屋がどうのと話をしていたようだが、ちょうど今から我々が行くところなんだ。よかったら案内しようか』って親切ごかして。だから・・・その、もしその行商人のおじさんが最後まで自分について来てくれていたら、あの2人も自分を殺そうとしなかったんじゃないか、って・・・」 「おいおい、それはちょっと逆恨みっぽくねえのか? ・・・・ってえっ☆ 何で蹴飛ばすんだよ、九桐」 「口を慎め、風祭。今はそんなことを言っている場合じゃないだろう。それで、それ以外に何か特徴は聞いてないのか? 桔梗」 「う・・・ん、それがあんまり・・・でも、そう言えば、その男は首から何かぶら下げてたって、聞いたような・・・」 ・・・・・・・!? 「何をぶら下げてたんだよ?」 「分からない。とにかく何かの弾みで、胸元からもそれが見えてたって」 「首からぶら下げるものか・・・手ぬぐいとかそんなものとは違うんだろうな。後は数珠とか、真那殿が持っているような首飾りとか。榊さんは何か心当たりは・・・」 「・・・・・榊殿?」 「榊さん!? どうなさったんですか? 顔が真っ青ですよ」 九桐が怪訝がり、御厨さんが心配そうに覗き込んで来たけど、その時のあたしは他人を気にする余裕なんてなかった。 血の気と言う血の気が引いてしまっている顔色を自覚していながら、どうしようも出来ずに立ちすくむのみ・・・。 行商人。 預かる。 そして首から何かをぶら下げていた───それらの事柄はあたしに思い出させる。そう、詰所で報告させた時の与助の言葉を。 『赤いお守り袋を首から下げてる奴、とか言ってたなあ。とにかくそいつが、死んだ又之助につかみ掛かってたらしいっすよ。�牋貘里匹Δい�事なんだ�瓩箸��爐修鵑覆弔發蠅任△鵑燭僕造韻燭鵑犬磴覆�ったのに�瓩箸�、怒りまくっていたって話でさあ・・・・・』 まさか・・・まさかあれは、そういう意味だったと言うの!? 「・・・戻りますよ、御厨さん」 「榊さん?」 「何をグズグズしてるんですか。早く行かないと・・・・・!」 早く行かないと、間に合わない。 ───その言葉を不自然に飲み込んで、あたしは小走りにその場を走り去ることにしたのであった。 九桐たち《鬼道衆》に不審がられるのも、承知の上で。 《続》 ※今回の話はむちゃくちゃ難産でした。ワンピに浮気したと言うことも確かに理由の1つなのですが(汗)、榊さんたちがどうやって九桐たちに真相を聞き出すかに、頭を悩ませてしまったんです。だって彼らにしてみれば、火附盗賊改相手で下手にバラせば身の破滅。《鬼道衆》の存亡にも繋がりますから、そう簡単に話すはずもない。あれでもない、これでもないと色々と書きなぐっていたのですが、ふと思い付いたことが。 「敵を欺くにはまず味方。そーだ、榊さんに見てくれ通りの小悪党を演じてもらおうっとv」 ・・・そうでなくても陰ディスクでは榊さん、悲しいくらいにイイトコないですから。そんな彼しか知らない風祭たちなら逆に、きっと騙されるんじゃなかろうかと。 しかし、ここで予想外だったのは御厨親分の行動。榊さんを殺そうとした風祭にまさか斬りかかろうとするとは、書く寸前まで思いもよらなかったです。ハイ(苦笑)。こう言うのをいわゆる「キャラが勝手に動いた」と言うんでしょうが・・・忠義者だなあホントに。(説明しても意味がなかったので書きませんでしたが、九桐があの場で槍を持ち出したのは、御厨さんの剣を止めるためもあったんです。もちろん風祭に、無用な殺生をさせない意味合いも込められてましたが) 尚この事件は、陰ディスク「慟哭」後編の後の出来事、と言う設定になってます。又一郎とお政のアノ出来事があったから、桔梗は一時の感情にかられて勇之介に呪いの力を貸したことを、心底後悔しているわけでして・・・。でも、文中では榊さんに批判的な意見を言わせていますけど、ちゃんちゃん☆ は桔梗のあの行動に関しては肯定も、否定も出来ないです。多分自分が同じ目に遭っていたとしたら、そして桔梗のような力を持っていたとしたら、思わず手を差し伸べていたかもしれないですし。ただ、榊さんのような考え方も確かにあるのは事実ですから、あえて彼に語ってもらいました。例え結果論だとしても。後からなら何とでも言える、と言われても。 ・・・・しかし、いくら難産だったとは言え、もう少しでタイムリミットの3ヶ月になるところで、正直焦りましたわ☆ このレンタル日記「エンピツ」は、3ヶ月以上書き込みがなかったら自然消滅する代物ですので。やれやれ、な気分です。
※気が付けば2ヶ月以上、間空いちゃってましたねえ(汗)。その間にも、6月某日には茂保衛門さんの誕生日が来るわ、律義な坪井さんがわざわざ「来楽堂」においでくださるわ、いおりんさんもご自分のHPにて榊さんSS書いて下さるわ、で、結構忙しくも楽しかったですけど。 さて今回の話にて、絶対避けて通れない辛い真相が明かされます。当事者と第三者それぞれの言い分・・・それらは決してどちらも間違っているとは言えないんですよねえ。結果がどうあれ。難しいです。 では本文行きます! ******************** 茂保衛門様 快刀乱麻!(9)前編 「《鬼道衆》、だと・・・?」 自分の発言が失言だってあたしが気づいたのは、御厨さんがうめくように呟く声を聞いた瞬間。 ───マズい、マズいわよコレはっ! 一体どう言い訳すればいいのっ!? でも、てっきり堅物な部下から追及されるかと思いきや、彼の険しい視線は奴ら、《鬼道衆》3人に釘付けになったきり。 ・・・どうやらこの唐変木、目の前の緊急事態にめいいっぱいで、あたしが口にしたことをこれっぽっちも不審には思わなかったらしい。 やれやれ、と胸をなで下ろすあたしに御厨さんは気づきもせず、いつも通りの生真面目さを発揮する。 「貴様たち・・・まさかここに来たのが偶然、などと戯言を言うつもりではあるまいな? 何を知っている?」 「何、とは?」 「とぼけるな! ここで起きた・・・ムゴッ!?」 でも、詰問を続けかけた御厨さんの口を、あたしはとっさに後ろから手を伸ばすことで塞ぐ。 ゴメンナサイね。でもここで真っ正直なあんたが何言ったところで、状況は進展しないと思うのよ。 「ここで起きた・・・何だと言うのだ?」 白々しくも僧装の男がそう尋ねてくるけど、あたしはもちろん信じやしない。 こうなったら賭けだわ。こっちは《鬼道衆》の企んでることなんかみーんな分かっちゃってる、ってフリをして、向こうがどんな反応を見せるか確認してやる! 《鬼道衆》の方へとゆっくりと一歩踏み出したあたしは、余裕を装って口火を切った。 「・・・知らん振りするのはよしましょうよ、お互い。あたしたちにはとりあえず分かっちゃってるんだから。 例えば・・・ここで焼け死んだ、火付け犯のおろくの弟・勇之介が、あまりの無念ゆえに成仏できずに迷っていたとか。彼がここで火事に巻き込まれた本当の真相は、おろくの凶行を止めに来たにもかかわらず、目の前の保身に目が眩んだ2人ばかりの男たちに殴られて気絶させられた挙げ句、置き去られたせいだとか。 ・・・で、彼ら姉弟の怨みをこの際、幕府の足元を揺るがせる材料として利用できないか。そう企んだどこかの誰かさんが、復讐する術を何も持たなかったはずの勇之介に、呪殺の手ほどきをしたとか。そしてめでたく、先述の2人を呪いの炎で殺すことに成功し、世間を恐怖に陥れることに成功しつつある、とかね・・・」 あたしの言葉にあいにく、サッと顔色が変わったのは風祭と、桔梗、と呼ばれた女の方だけ。 肝心要の僧侶? は少し眉をひそめただけである。 「ほう、それは興味のある推理だな。・・・だが、いわれのない嫌疑をかけられるのは正直言って、迷惑極まりない。何の証拠もないのに言い掛かりを付けるのが、ひょっとして火附盗賊改のやり口なのか?」 ・・・どころか、いけしゃあしゃあととんでもないことまで言う始末。 フン。こっちもそう簡単に口を割ってくれるとは思ってませんけどね。引っかけるにはもっと大きいエサが必要みたいだわ。 だからあたしは、少々悩ましげな目をして男に擦り寄ることにしたの。 「まあまあ、そんなに目くじら立てなくたっていいじゃないですか。あたしは取り引きをしようって言うんですよ」 「・・・取り引き?」 「ええ。実はねえ、御厨さんは頭でっかちで正義感が強いから、この件を《龍閃組》に任せようって考えてるらしくって。知ってるでしょ? あんたたちも《龍閃組》のことはさ。・・・けどあたしは反対なの。呪い殺された2人は言わば自業自得だったんだし、今更怨霊退治ったってあたしの出世にはなーんの役にも立たない。 ・・・だったらどうせだから、勇之介の怨霊をアタシに貸してくれないかしら? って思って。あたしの出世に邪魔なお偉方とか、呪い殺すのに使えたら最高v じゃない?」 「・・・・・・・・榊さん!? いきなり何をおっしゃるんですかっ!?」 「幸いって言うか、このことに勘付いてるのはあたしと御厨さんだけなんですよ。だから後は、御厨さんの口を封じてしまえば万事うまく行くと言うわけ。・・・どうです? 悪い取り引きではないと思いますけどね」 「榊さんっ!!」 あたしのあまりの言い草に、御厨さんは思い切り声を荒げた。 と言っても、あたしのけしからん企みを本気で危ぶんでいる、って感じじゃない。どちらかと言えば、あたしがいきなり自分の想像を超えたことを言い出したものだから、頭がついていけないって顔になってる。 もっとも《鬼道衆》はそんな細かいことなんて気づいちゃいない。単にあたしと御厨さんが仲間割れしたんだと、ウマい具合に誤解してくれたみたいだ。 「てめえ・・・! 仮にも火附盗賊改が俺たちと裏取り引きしようって言うのかよ、しかも仲間まで売って!? 心底腐ってやがるぜ、幕府はよ!」 怒髪天をついたって形相で拳を握り締めたのは、やはりと言うか、単純極まりない風祭。 「ああ、確かに悪くない取り引きだよなあ。けど、殺して口封じするのは何も八丁堀の方じゃなくてもいいんじゃねえのかっ!」 言うが早いか、拳を振り上げる。あたし目掛けて。 ・・・って、いきなりこっちへ来るかあ!? てっきりこれ幸いとばかりに、御厨さんの方に襲い掛かると思ってたのにっ! あたしは半分腰を抜かしながら、それでも早口でこう叫んでやった。 「い、いわれのない嫌疑とか言いながら、やっぱり後ろ暗いところがあったのね、あんたたちにはっ!!」 風祭はハッ、と拳を止める。 そしてほぼ同時に聞こえたのは、キィン・・・! と言う、刀のぶつかり合う音。 おそるおそる見たあたしの頭上で、風祭の攻撃を阻むかのように2本の刃物が、交差しているのが見えた。 1本は、もちろんあたしを庇ってくれた御厨さんの刀で。 もう1本は───どうやら僧侶の得物らしい、槍である。 「く、九桐・・・」 「お前は血の気が多すぎるぞ、風祭。今のが榊とか言う者の策略だと言うことに、どうして早く気づかんのだ」 苦り切った顔でその九桐、と呼ばれた僧侶は風祭をたしなめる。 「おまけに今ので、すっかり八丁堀に敵意を抱かせてしまったらしいし、な。この忙しいのに問題を増やしてどうする・・・」 ───九桐の言う通り。 御厨さんの今の形相と来たら、さっき背中にあたしを庇ってた時のとは比べ物にならないくらい、怖いものになっちゃってる。彼のこういう表情見るのって、卑劣で凶悪な盗賊と斬り合いになった時、以来だわ。 あーあ、こうなると経験上、ちょっとやそっとじゃ怒りが収まらないわよ。 「・・・刀を、納めてくれないか八丁堀」 槍を渾身の力で弾き、再びあたしを背中に庇う格好になった御厨さんに、九桐は話し掛ける。困ったような顔をして。 「貴殿の上司に───榊殿と言ったか、害を加えようとした無礼は詫びる。だがそれは風祭の貴殿への好意の表われだと、解釈してはくれないか? まさかこちらを引っかけるための芝居だとは、風祭は思いもよらなかったのだ」 「・・・榊さんはこれでも、正義感の熱い御方なのだ。上からの圧力にも屈せず、火附盗賊改与力としてのお役を貫こうとしたほどのな。そんな榊さんが、汚い裏取り引きなどするものか! 見くびるな!」 御厨さんてば、あたしの命の危機ももちろんのこと、あたしが変に誤解されたからって激怒してるみたいだわ。 その気持ちは分かるし、上司冥利に尽きるって奴だけど・・・そう持ち掛けたのは他ならないあたしなんだし、このままじゃ話が進まないのも事実よね。 「御厨さん。刀を納めて下さって構いませんよ」 あたしは静かにそう、御厨さんに告げる。 「し、しかし・・・」 「相手にはもう敵意はなさそうです。それにあたしたちに害をなそうって言うのなら、問答無用で一気に斬り捨てるくらいの腕は、持ちあわせていますからね、彼らは」 「だったら尚のこと・・・」 「あたしに考えがあるの。良いから刀をおしまいなさいな」 渋々刀を鞘に納めつつも警戒を怠らない御厨さんを目の端にとどめながら、あたしはゆっくりと九桐たちへと向き合った。 「・・・それで? あたしたちに何か、話でもあるんじゃないんですか?」 さっきも言った通り、口封じに殺すのならとっくに彼らはそうしているに違いない。 でも彼らにはもはや闘争心はないみたいし、わざわざ「刀を納めてくれ」とまで言っている。 これってつまり、あたしたちに話なり、取り引きなりしようとしているんだって、あたしは踏んだのだけど・・・・・どうやら正解だったみたいだ。 九桐は言葉を選びながら、って感じでゆっくりと話し始める。 「榊殿、と言われたな? ・・・さっき貴殿が言ったことは、確かにほぼ当たっている。《龍閃組》の力を借りずに、どうしてここまで調べる事が出来たのかは知らないがな。見事なものだ」 少しは《龍閃組》から情報を得たから、火附盗賊改単独ってわけじゃないけどね。 心の中でだけそう呟いておいて、先を促す。 「・・・ただ、1つだけ間違っているところがある。彼ら姉弟の怨みを、幕府の足元を揺るがせる材料として利用しようとした、と言うくだりだ」 「・・・どう違うと言うんですか?」 いきなり何を言い出すかと思えば。 九桐とやらの主張は、あたしの《鬼道衆》への認識を、再び少しばかりながら軌道修正させらるものみたい。 「我々はおろく姉弟を利用したかったわけじゃない。結果的にはそう見られても仕方がないが。・・・だからこれ以上の被害者を出さないよう、勇之介を説得しにここへ足を運んだのだ。頼む、何か手がかりがあるのなら、我々に教えてはくれないだろうか?」 説得って・・・。これ以上の被害者って・・・。 「何よそれ? あのおろくの火事の陰謀に、まだ関わってる人間がいるってこと? おまけにそいつがまだ、勇之介に狙われてるって言うの?」 「断定はできないが・・・多分」 「怨みを晴らしたから成仏したとか、だから勇之介の姿が見当たらないとか、そういうことはないのか?」 険しい表情ながらもお人好しの御厨さんが、彼らしい明るい? 展望を口にしたけど、九桐の首を縦に振らせることはかなわない。 「成仏は・・・出来ない。たとえ本人がしたいと望んでも・・・」 「一体どういうことよそれ!?」 相手のはっきりしない態度に焦れて、あたしが詰め寄ったその時である。 今までずっと沈黙を守っていた桔梗、って呼ばれてた女が口を開いたのは。 〜茂保衛門様 快刀乱麻!(9)後編に続く〜
*CDドラマ「妖鬼譚」後編、聞きました〜♪ いやー、榊さんがことのほか喋ってくれちゃったんで、満足満足v あいにく活躍の場こそありませんでしたが、御厨さんを諭すセリフが名文句だったので、宜しいのじゃありませんか?【喜】 しかーし、それで尚更困ったと言うか、好都合と言うかの状況になっちゃいましたわ。結局「妖鬼譚」では御厨さんも、●●●の正体については知らぬ? まま。なので、この「茂保衛門様 快刀乱麻!」が「妖鬼譚」の後日談と言っても、(多少の矛盾を除けば)不自然じゃなくなったんですもんねえ。設定どうしよう・・・思い切って「妖鬼譚」の後の話ってホラ吹いちゃおうか(苦笑)。 で、今回はその●●●が登場しますっ! 「●●●」が何かは、読んでからのお楽しみ♪ でわっ! ******************* 茂保衛門様 快刀乱麻!(8) あたしは、無力だ。 ───別に自分が、この世の全ての人々の生活を守ることができる、なんてうぬぼれているわけじゃない。 だってそんなことは不可能に近いもの。大体、各々の幸せって言うのは必ずしも皆同じじゃないし、その事実こそが人が人たる由縁だから。 そういうわけで、あたしは自分が極めて『無能』だって自覚はあるのよ。人には出来る事、出来ない事があるってことも。 でも、だからって。 自分の力じゃどうにもならない壁に突き当たった時、「ああやっぱり自分には無理だった」なんて、いつもいつもお利口さんに納得できるわけじゃない。 歯ぎしりしたくなるほど悔しくて、だけどどうしようもない憤りを腹の中にため込んで悶々としてる、なんてことはザラだわ。 きっとこういう心理状態の時なんでしょうね。あたしがあんな夢を見るのは。 剣術も、妖術も使いこなせる、万能で優秀な与力として活躍する、夢・・・なんて、見るだけ空しいのが分かってるのにさあ。 とりあえず───ついさっき仮眠を取ったばかりで、しばらく起きているつもりの今のあたしには、夢の世界に逃げ込む術(すべ)も暇もない。 だから他の事で気分転換するのが、一番健康的な欲求不満解消法なんだけど・・・お気に入りの長命寺へ足を運ぶには、少々遅い時間よねえ。 「ちょっと出掛けて来ますよ」 街の巡回でもしようと、用意させた雪洞に手を伸ばしたあたしだけど、横合いから素早く奪われてしまう。 「・・・ご一緒させていただきますよ。例え近くまでと言っても、このところ1人では物騒ですから」 生真面目な御厨さんの仕業だった。 まあ・・・通常武士はどこへ赴くにしても、必ず供を付けているものだから、別段おかしくはないんですけどねえ。過保護、とか、心配性、とかいった単語が、さっきから頭の中を飛びかってしょうがないわ。 「勝手になさい。念のため断っておきますけど、吉原には寄りませんからね。どちらかと言うと殺風景なところへ行くつもりですから」 「・・・そこでどうして吉原って言葉が出るんですか」 「ああら、お凛のと・こ・ろ、って言い直した方がよかったかしら♪ おーっほほほほっ♪」 「さ、榊さんっ!!」 純情唐変木な部下をからかうことで、多少は気が紛れ。 あたしはてくてくと夜の街を歩く事にした。 ***************** 夕闇が押し迫ってくる時刻ともなると、通りにも人はそんなに見掛けない。そして数少ない通行人は皆が皆、雪洞を手に持って歩いてる。このところ物騒だから、尚更ね。 みんなが家路に、そして色街へと急ぐ中、あたしと御厨さんはどこかしら人寂しい方向へと足を進めていた。 上司のあたしが喋らないものだから、ずっと押し黙ったまま後をついて来ていた御厨さんだけど、そのうち周囲を見渡しながら尋ねて来た。 「・・・ひょっとして、榊さんが今行かれようとしているのは日本橋、ですか? それも、小津屋の焼け跡の」 さすがと言うか、上司の思考傾向をよく把握してるわね。 「ま、そんなところですよ」 「どうしてまた。事件の事で何か、気になる事でもおありになるのですか?」 「あったら1人で行こうなんて思うものですか。・・・そうね、単なる暇つぶし、と言ったところですかしらねえ。そもそも今回の一連の事件は、小津屋の大火事から始まったと言っても過言じゃないでしょうから、何となくもう1度見ておきたいと思っただけですよ」 どちらかと言うと暇つぶしと言うよりは、感傷的儀式って感じだけど。 ・・・御厨さんも鈍感じゃないから、そんな心情を汲み取ったんでしょうね。少々居心地の悪そうな顔をしていたけど、あたしは見ないフリをした。 そのうち彼の方も開き直ったような表情になる。下手に気を遣ったが最後、「だったら先に役宅へ戻れ」と言われるのを危惧したに違いないわ。ちっ、読まれたわね☆ それからまたしばらく、あたしと御厨さんは黙ったまま夜の道を歩き続けていたのだけれど。 「・・・それにしても・・・今回の事件、何かおかしいと思いませんか?」 向こうの方から話し掛けてきたのは、ちょうどあたしたちが日本橋に差し掛かった頃だった。 ********* 「おかしい?」 辺りは暗くなってきた。 雪洞に灯りを点してやりながら、あたしは憮然として聞き返す。 「あたしの推理がですか? ・・・まあ、所詮は状況証拠だけで積み重ねた代物ですからねえ、矛盾や綻びがあってもおかしくはないですけど」 「あ、いえ、榊さんのお考えに対してじゃないんです」 あたしの口調がどうしても不機嫌なものになっちゃったから、御厨さんとしても慌てたんでしょうね。その点だけはきっちりと否定する。 「・・・じゃあ、何がおかしいと言うんです?」 「上手く言えないんですが・・・どこか極端だと思いまして」 時刻が夜だと言う事と、話す内容が火附盗賊改同心としての発言である事で、歩きながらの御厨さんの声は知らず、低くなる。 「いいですか? 勇之介は姉のおろくの凶行を止めようとして、又之助と久兵衛に邪魔をされてしまい、挙げ句姉の付けた火で命を落とした。当然おろくは火あぶりに課せられ、勇之介は又之助たちを憎む怨霊となった・・・」 「別におかしくはないでしょう? 仲の良い姉弟だと言う話でしたから」 「でしたら何故勇之介は、真っ先に又之助たちの謀りごとを訴え出なかったんです?」 ───御厨さんの指摘は。 一瞬とは言え、あたしの足を止めるに充分の威力を持っていた。 「私が勇之介なら多分、そうします。姉の罪が軽くなる方法があるのなら、他の何を投げ打ってでもそちらに賭けるでしょう」 まあ確かにこの実直な男だったら、間違いなくそうやって足掻いてみせるわね。 ああ、今にも情景が目に浮かぶようだわ☆ 「・・・・・。焼け死んだ直後は単なる弱々しい幽霊だったかもしれませんよ。他人に自分の意志を伝える事が出来ないような、ね。おろくが刑場の露と消えてしまってから、憎しみのあまり怨霊と化したとしても、別におかしくはないと思いますけど」 「だからと言ってすぐに又之助たちを殺す、と考えるのはあまりに極端だと思ったもので。・・・確かに彼らは憎いでしょうが、まずは姉の無念を晴らしてやる方が、先決じゃないでしょうか」 「おろくはとっくに死んでいると言うのに?」 「それでも、です。───榊さんの推理通りなのなら、言わば彼女は嵌められたわけでしょう。なら弟としては、姉の『無実』と又之助たちの策略を、まずは世間に知らしめたいと思うものではないか、そう感じたものですから」 ふん。 全くもって御厨さんらしい考え方よね。 だけど・・・確かに彼の言う通りではあるわ。 火附盗賊改なんて因果な役職柄、どうも考え方が物騒になってしまっていたけど、良く考えれば勇之介は子供な上に、武士でもない。盗賊たちみたいに「やられたらやりかえせ」みたいな行動、起こすと思う方がまず間違ってるのかもしれない。 ───そこまで考えて。 あたしはやっと、御厨さんがずっと言いたかった事が分かり、愕然となった。 「で・・・でも現実には、又之助は殺されて久兵衛は廃人と化した、わ。彼らの策略が白日の下にさらされる事、なく・・・」 「ええ、そうです。ですから、あるいは私の考え過ぎかもしれませんが・・・誰かが勇之介の霊をそそのかしたのだ、としたら? この江戸の街を混乱させたいがために、彼を利用しようとしたのだとしたら? そう、世にも名高い八百屋お七火事をそそのかした、ならずものの吉三郎のように・・・」 この事件の裏には、勇之介とは別の黒幕がいる───!? 「冗談じゃないわよ・・・!」 あたしは思わず唸らずにはいられない。握りこぶし込み、で。 「怨霊に火を付けさせておいて、自分たちは何しでかそうって腹なわけ? 人殺し? 押込み強盗? それとも両方? ふざけんじゃねえぞっっっ!!!」 「さ、榊さん落ち着いて下さいっ、そうと決まったわけじゃないんですからっ」 あくまでも御厨さんの仮説の1つに過ぎないにもかかわらず、あたしはすっかり頭に血が上ってしまっていた。夜だと言うのにはしたなくも口汚なく、誰にともなく罵りの言葉を浴びせ掛ける。 ・・・ああ、すっかり荒くれ者ぞろいの火附盗賊改の雰囲気に、染まってきちゃってるわね。お上品な以前のあたしってばどこへ行ったのかしら(笑)。 「と、とにかく小津屋はもうすぐですよ」 御厨さんに言われて気が付けば。 いつの間にやらあたしたちは、小津屋の焼け跡の小路1つ手前までたどり着いていた。 ここの角を曲がれば小津屋、と言うところで。 ドンッ☆ 「おっと」 「きゃっ!」 御厨さんが、前方から走って来た誰かとぶつかった。 普段の彼ならそうそうないことだけど、怒り心頭のあたしに気を取られたせいなんでしょうね。 「大丈夫か? すまなかったな」 そう言って、御厨さんが手を差し伸べた相手。それは幼い少女だった。泣いていたのか、ちょっと目が赤い。 「あ、ありがとう・・・」 目をこすりつつ立ち上がったその子は、少し怖がりながらもそれでもちゃんと御厨さんにお礼を言ってから、走り去った。 「・・・何かあったんでしょうか? あんな子供がこんな時間まで出歩いているなんて・・・」 単に遊んでいたとは思えないし、と御厨さんも不審がるけど、ふと地面に目を落としたあたしには、何となく事情が分かった。 「ここで焼け死んだ者の縁の者でしょうよ」 「え?」 「添える花を探していて、それでこんなに遅くなったと言ったところでしょうね」 あたしが目で指し示した道の脇には、小さな石を2、3個積んだものがある。どうやら墓に見立てられたらしきその前には、摘んだばかりで草の匂い漂う野の花が、ひっそりと添えられていた。 1月前までは、日本橋で屈指の呉服屋だった小津屋。でもすでにここには、建物の残骸はない。もうしばらくすると、また別の新しい店でも建てられるのだろう。 それでも───ここで死んだ者たちの苦しみと、残された者たちの悲しみがなくなる事は決してないのだ。まるで呪いのごとく、幽霊のごとく、心の奥底に染み付き漂い続ける・・・。 さっきの少女との出会いは、あたしにそのことを再確認させるに充分のきっかけだった。自分の無力さや『無能さ』にいじけている暇なんてないんだ、って事実を思い起こすのにも、ね。 「・・・いませんね」 どこかしら寂しそうに吹きすさぶ風をしばらくやり過ごした後、御厨さんがポツリと呟く。 「いないって、何がです?」 「榊さんもそのおつもりで来られたんじゃないんですか? ここで焼け死んだ勇之介の怨霊でも出没していれば、しめたものだと思ったのですが・・・」 ・・・いつもは朴念仁の癖に、今日はやけに勘が鋭いですこと☆ だけど根っからのひねくれ根性は、自分のそんな気弱な感情を認めたがらなくて。 「よ、世の中、そう簡単にはいくはずないじゃないですか。だ、大体・・・長命寺近くと京橋で人を襲った怨霊がわざわざここへ戻る理由があるか、ってことの方にあたしは首を傾げたいですよ。姉との思い出がたくさんある自宅の方と言うのなら、ともかくもね」 そう憎まれ口を叩いているうちあたしは、自分が無意識のうちに事の真相にたどり着いている気がしてきた。 そうよ。 どちらかと言えば、むごい最期を迎えることになったここよりは、おろくと勇之介が住んでいた家の方に立ち寄る可能性の方が、高いじゃないの。 全く、迂闊だったわ。 「ここへは単なる暇つぶしに来た、って言ったじゃないですか。・・・それよりも、おろくたちの以前住んでいたところって、どこになるんでしたっけ? べ、別にこれから寄ろうってわけじゃないですよ。もう遅いですし。明日《龍閃組》に説明する時の材料に、と思いましてね」 あたしの苦し紛れの話題転換をどう思ったかは知らないけど、御厨さんはいつも通りに律義に応えようとした。 「確か・・・神田の・・・」 その直後。 「・・・っ!?」 彼らしくなく、強引な唐突さで会話を打ち切る御厨さん。 そして、こちらから視線をさりげなく外したくせに、何故か体はあたしの近くへすっ、とばかりに擦り寄る。 その左親指で、刀の鍔を静かに持ち上げながら・・・。 「御厨さん?」 「榊さん、私から離れないで下さい」 低く押さえられた彼の声からは、いつになく緊張と殺気が満ち満ちていて。 ───それでやっとあたしは、御厨さんが上司であるあたしを庇っていることに気が付いたんだった。 誰から、ですって? さっきからずっと息を潜めてこちらの様子をうかがってる、物陰の無粋な連中から、よっ! こういう時、剣術がからっきしって言うのは不利よね。連中の気配にすら、あたしは言われるまで気づかなかったんだもの。 けど、これでも火附盗賊改方与力の端くれですからね。部下ばかりに危ないことをさせるわけにはいかないわ。一刀両断は無理でも、戦闘不能に陥らせる方法はいくらでもあるんだから。 ───などと、頭の中で何とか戦闘作戦? を練り終わったところで。 刀に手をかけた御厨さんの厳しい誰何(すいか)の声が発せられた。 「そこに潜んでいるのは分かっている! こそこそしていないで出てきたらどうなんだ!? 我らを火附盗賊改方と知ってのことであろう!」 今の、御厨さんの剣幕に恐れをなした連中が、引き上げてくれたら楽なんだけど・・・。それでも、向こうからの奇襲だけは防ぐことができたわけだから、上出来よね。 一応あたしは、次に敵がとる手段についていくつか予測を立てていたの。 でも。連中の行動と来たらそのどれらでもなくって、あたしを一瞬だけ呆れさせたわ。 「・・・そう喧嘩腰に怒鳴られても困るな。刀を納めてくれないか? 八丁堀。別に俺たちは危害を加えるつもりはないのだから」 どこかで聞いたような声。 「・・・お前たちは・・・」 あいにくあたしからは、御厨さんの体に隠れて相手の顔は見えないけど、どうやら知った顔だったらしい。 御厨さんの肩から、露骨なまでに力が抜けるのが見て取れる。 ───一体誰かしら? あたしは必死で、声だけで記憶を溯ることにした。 「だったらこそこそしていないで、堂々と声をかけてくれたら良かったのだぞ」 「いや、単に様子をうかがっていただけで・・・何やら神妙な話をしている風に思えたから、どことなく声がかけづらくてな。これが与助と一緒なのなら、多分気安く声をかけたんだろうが・・・」 「ほう? ・・・桔梗殿もそう思うのか?」 「そうだねえ。確かにその方が声をかけやすいだろうよ」 今度はやけに艶っぽい女の声。これも・・・どこかで聞いたことがあるような。 「与助がそれを聞けばきっと喜ぶだろうな」 あらあら。御厨さんてば、随分優しい口調になっていますこと。女相手だからって、鼻の下を伸ばしてるんじゃないでしょうねえ。お凛に言いつけちゃおうかしら。 でも。 悠長に「声だけ判断」をしていられたのもここまでだった。 「いい気になるだけなんじゃねえのか? あいつにわざわざ言うことねえぞ。そうでなくても与助の野郎、いつもいつも騒がしいんだからよ」 ───今聞こえた3人目の声は、忘れようたって忘れられないにっくきあの男と同じもの! 「風祭・・・お前に騒がしいなどと評されると、与助が気の毒なのではないか?」 「あはは、それはそうだ。坊やも与助と似たり寄ったりの騒がしさだものねえ」 「何だとおっ」 会話そのものは平和極まりない内容だったけど、あたしはいてもたってもいられなかった。 風祭とやらの男の顔を確かめるべく、あたしを庇ってくれていた御厨さんの体を押しのける。 「榊さん?」 御厨さんが怪訝がって。 「そう言えばさっきから、誰を庇っていたんだい? 八丁堀」 あたしの行動に気づいた桔梗、と呼ばれた女が尋ね。 「・・・・・」 あいにく何の言葉も発しなかったのは、見れば僧侶風の男。 そして・・・。 「「ああーーーーーーっ!!」」 あたしと、そのお子様が叫び声をあげたのは、ほぼ同時だった。 髪を短く切ったそいつは一見、女の子みたいな優しげな顔をしている。 だけど口調は聞くからに乱暴だし、ガキ大将がそのまま大きくなったような奔放さと残忍性が見て取れる。 何より・・・あたしはこのガキんちょのことをよく知ってるもの。 あの日、あの刻、小傳馬町でっ! だから、つい。 「て、てめえはあン時の役人っ! 火付盗賊改ってマジだったのかよっ!?」 風祭、と呼ばれたお子様の大声につられてしまって。 「あ、あんたたちはっ! よくもおめおめとあたしの目の前に顔を出せたものですねっ! ああっ!? まさか・・・まさかあんたたちがここにいるって事は、勇之介の魂とやらをそそのかしたのは、他ならないあんたたちってことっ!?」 御厨さんが。 『部外者』がこの場にいたことを、思わず忘れ。 あたしは心の赴くまま、声に出してしまっていたのだった───あたしにとって禁忌中の禁忌であるはずの、その言葉。 「鬼道衆!」 と・・・・。 《続》 ******************* ※はああああ・・・やっとここまで来たぞ・・・。長かったああ・・・☆ とは言っても、これから更に長いですが(汗)。これから鬼道衆ファンにとっては、かなり納得のいかない展開になろうかと思いますけど、悪気はありません。ちゃんちゃん☆ も天戒さん初めとする鬼道衆は好きですんで、良かったらお付き合い下さいね。・・・え? どんな展開になるか? それではヒントを出しましょう。陰ディスク拾壱話の直後、と言えばあるいは分かるかもしれません。 ところで榊さんが、九桐さんや桔梗の声に聞き覚えはあっても思い出せず、風祭の声は一発で思い出したその理由は、実はゲーム本編・陰4話にて「オッサン」呼ばわりされた怨みがあるからなんですな(苦笑)。(蹴飛ばされたような気もするんだけど・・・記憶違い?)ウチの榊さんてば、そういう観点ではちょっとばかり心が狭いです。 ちなみに文中で書いた八百屋お七火事ですが、落語と人形浄瑠璃と歌舞伎とがあり、さらにそれぞれの役名が違ってたりします。吉三郎と言うのが実は、お七が思いを寄せた寺小姓の方だという話もあったり・・・(汗)。とりあえず今回は太郎兵衛=寺小姓、吉三郎=ならずものとさせていただきましたが、唐変木の御厨さんはこういうものに興味があったんでしょうか。まあ、このころの娯楽って言ったらそのくらいしかないから、そういう知識はあったと言うことにしておきませうv 本当は、もっと御厨さんを格好よく描いてあげたかったんですがねえ・・・下手をすると彼の色香に迷った、なんてとられてはシャレになんない☆ このSSでは榊さん=モーホー説は抹殺! しておりますんで、そのつもりで。
茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−2、何とか修正済みました。よろしければ読んでくださいませ。 しかし、本日のHPの日記にも書いたんですが、榊さんってモノホンのモーホーだったんですねえ(汗)。それならそうと早く言ってくれないと、な気分であります。今のところ「モーホーだからこういう行動は取らないだろう」みたいな文面は、書いてないからまだ助かってるんですけどね。 ってわけで、SS「茂保衛門様 快刀乱麻!」を読むに当たる注意事項が1つ、加わるわけであります。 曰く「この物語は、先日発売された『キャラクターズファイル』を読む前に構想&執筆されたものであります。よって、多少の人物設定に矛盾等あると思われますが、どうぞご了承下さいませ」。 ははははは・・・どこまで墓穴を掘れば気が済むんだろ・・・(滝汗)。
*また長くなってしまって申しわけありません。 おまけにこの(7)ー2に限り、後日加筆訂正の予定ありです。急ぎ働き・・・もとい、やっつけ仕事の執筆なんぞ、やるもんじゃありませんな。でもせめて休みに入る前に、このコーナー更新していきたかったもので・・・。 これからしばらく、PCの前にはいません。5月3日辺りまでですけど。よかったら感想とか、下さいね。約1名申告してくださった以外、誰も感想くれないんですもの・・・(涙) (4月29日加筆) ※と言うわけで、加筆修正しました。話の内容自体はあまり変わっていないのですが、具体的な描写を入れることで、隠された事件のおぞましさが伝わってくるのでは、と思います(汗)。一度でいいから人死にが出ない謎解き話、書いてみたいんですけどねえ・・・。では。 *********** 茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−2 「・・・榊さん、一体今のは何だったんですか? 又之助のあの引っ掻き傷に関しては、ちゃんと報告があったはずでしょう」 子供相手に大人げない口論をしたことで、御厨さんは呆れ顔をあたしに向けたけど、その問いにあたしは答えてあげない。あえて。 代わりにあたしがしたのは、別室から湯飲みを持ってくることだった。これは以前うっかり床に落としちゃって、飲み口の部分にヒビが入っちゃったやつ。気に入った形だったから直そうかとも思ったけど、実験にはちょうどいいわ。 呆気に取られている御厨さんをよそに、あたしは湯飲みを布にくるんだ状態で机の上に置き、まず上から拳で思いっきり! 叩いてみた。 ごすっ! 「・・・・・・いったあいぃ・・・☆」 や、やっぱりあたしの腕力じゃ無理みたいね。 お次は湯飲みを床に立て、手で支えた状態で足で蹴飛ばしてみる。 がつん! ううっ・・・例え蹴りでも単に足袋越しでだと、痛いのには変わりはないわ。でも今度は我慢我慢。 さっきよりは力が入ったみたいだけど、それでも納得の行く結果が出ない。 「榊さん、さっきから一体何を・・・その湯飲みを割って、何をなさるおつもりですか」 それでも御厨さんは、あたしがどうやらその湯飲みを自力で割ろうとしていることだけは、把握したみたい。 まあ、あたしの部下としてならそのくらい頭が働かないとね。欠片が飛び散らないようにと布に包んじゃった辺から、勘付いたってところかしら。 「・・・ダメね。御厨さんならあるいは、割れるかもしれないけど」 つれない湯飲みを、つんつんつつくあたし。 「私が試してみましょうか?」 「それじゃ意味がないのよ。あたしみたいに非力な人間にでも割れるかどうか、の実験なんだから」 言いながら、最後にあたしが持ち出したのは巾着袋だった。 「榊さん、それは大事な物証で・・・」 そう。今あたしが手にしてるのは、さっき岸井屋が持ってきた血まみれの巾着袋なの。 御厨さんが止めるのも聞かないで、あたしはその巾着袋をゆっくりと湯飲みの上へと移動させ───そのまま落とした。 がっしゃーん!! 予想に違わず、湯飲みは粉々に割れてしまった。 「・・・よねえ、やっぱり」 あたしは巾着袋と、原形をとどめない湯飲みの包みを見比べながらひとりごちた。 「こんなに固い湯飲みでさえこうなっちゃうんだから、もしこれが人間に振り下ろされたりでもしたら、単なる巾着袋でもれっきとした武器になっちゃうわよねえ」 「なっ・・・!?」 あまりに飛躍した結論に、御厨さんが息を呑むのが分かる。 「ましてやそれが、体の弱い子供相手なら・・・昏倒させるのくらい、わけありませんよね」 「ま、待って下さい榊さん! いきなりどうしてそんなことを・・・大体この巾着袋は、岸井屋の持ち物ではないと言う話では・・・」 「・・・事件に関係してるとはまさか思わなかったから、あなたにはうっかり言い忘れていたんですけどね、御厨さん」 あたしの視線は哀れな『犠牲物』から、御厨さんへとゆっくりと移り、とどまる。 「先ほど訪問した笹屋で、あたしは奥方から打ち明けられたんですよ。亭主が持っていたはずの巾着袋が、おろくの火事以後見当たらないのだと。小銭も相当入っていたはずだと。・・・そして何より久兵衛自身、巾着袋なんてどうでもいいと、新しい巾着も作りたがらなかったそうなんですよ」 ───御厨さんの青褪めた顔がゆるゆると、驚愕から絶望の表情へと変貌していくのを、でもあたしはどこか他人事のように眺めていた。 ************ 多分───あたしと御厨さんは今、同じような情景を思い描いていることでしょうね。 刻は1ヶ月前。姉の凶行を止めるべく、病の身を押して日本橋の呉服屋・小津屋を目指す、おろくの弟・勇之介。 それが小津屋の裏手にたどり着いたところで、いきなり後ろから殴り掛かられ、必死に抵抗するもあえなく昏倒・・・。 血の滴り落ちる巾着袋を、悲鳴を上げて放り投げるは笹屋の久兵衛。それを拾い上げるは岸井屋の又之助。 2人は1度だけ振り向いたけれど、それは勇之介が起き上がらないことを確かめるため。微動だにしないのを見て取るや否や、一目散にその場を立ち去る。 そして・・・小津屋は炎に包まれた・・・・・!! 火付盗賊改を勤めるようになってから、何となく分かるようになった心理なんだけど。 ごくごくまっとうな生活をしている人間がうっかりある日、人を傷付けてしまったとする。そして自分のその犯罪を、世間から隠そうとしたとする。 すると人間の当然の心理として、その犯人は凶器なり事件を連想するものなりを無意識のうちに、避けてしまう傾向があるのよ。事件を自分自身思い出したくないと言うことと、下手な尻尾を出したくないって言う、自己防衛本能からね。 今回にもこの法則が、当てはまらないかしら? 巾着袋を無くしたくせに、新しいものを作りたがらなかった久兵衛。 「死んだ勇之介と似たような年頃の」息子を近寄らせたがらず、「顎の傷を作ったはずの」飼い猫は可愛がっていたと言う又之助。 そして───彼ら2人が襲われた時、どちらも『自分たちは小津屋の火事とは無関係だ』と言わんばかりに、発火しそうなものは何も持ちあわせていなかった、と言う、一見偶然にも見える共通点───! *************** 「まさか・・・まさか榊さんは、岸井屋と笹屋がおろくの火付けを知りながら止めなかったどころか、それを止めようとした弟まで見殺しにしたと、そうおっしゃるんですか・・・? そ、それじゃあ岸井屋は、万が一にも久兵衛の口から事件の真相がバレないようにと、共犯の質草としてあの巾着袋を預かっていたと・・・!?」 真っ正直な御厨さんだけに、あたしが立てたあまりにおぞましい仮説を、そしてその結論へ到達するに至った自分自身の心を、信じたくないに違いない。 けれどそれを否定するには、あまりに状況証拠が揃い過ぎていて。 「・・・物的証拠はどこにもありませんよ、御厨さん。それに・・・それを証言する者も、もう誰もいやしない。勇之介と岸井屋は焼け死に、笹屋は廃人同然。それこそイタコにでも縋るほか、ないじゃありませんか・・・」 何の慰めにもならないと分かっていながら、あたしは自分自身の心の平静のために、そう告げることにした。 ───おそらくは。 焼死した勇之介の怨霊だわ。岸井屋・又之助と笹屋・久兵衛を襲ったのは。 久兵衛は襲われた瞬間、そして又之助は久兵衛の様子を奥方から聞いて、そのことに勘付いたに違いない。 だから又之助は、久兵衛が襲われてから死ぬ直前まで、岡場所の遊女たちに庇ってもらっていたのよ。彼女たちの名を「おろく」と呼ぶことで、姉大事の勇之介が自分を害せないように・・・! けどこれはもはや、あたしたち火附盗賊改の仕事じゃない。鬼や物の怪の専門家とも言える《龍閃組》の領分だ───。 「明日にでも・・・龍泉寺の連中に、この事件の収拾を頼みに行くことにいたしましょう。そうすれば・・・勇之介とやらの迷える魂も、何とか見つけることぐらいはできるでしょうから・・・」 そう、強がりを呟きながら。 自分の無力さに、あたしは拳を固く握り締めるしかなかった。 《続》 **************** *・・・というわけであります。これじゃあ怪奇モノと言うよりは、二流推理小説と言った感じですな(苦笑)。 ところで文中、榊さんの過去やら家族構成やらが色々と出てきますが、もちろんこれはちゃんちゃん☆ のかんっぺき! な創作であります。だってえ、榊さんの人間像に関しては、初期に出版されたコー●ーの攻略本にしか、書かれてないんですもん・・・(涙)。あ、でも、そろそろ発売予定の外法帖関連本って、確かキャラクターに焦点を当てているそうだから、少しは榊さんの家族構成とか分かるのかしら。 でも・・・もしちゃんちゃん☆ の想像と大きく隔たっていたらどおしよお・・・CDドラマ発売後と同じような墓穴を、せっせせっせと掘りまくってないか、をい(汗)。でも、陰ディスクでの行動を見る限り、腕っ節や武術に関してはからっきし、ってところは当たらずとも遠からず、だと思うんだけどなあ・・・。 ちなみに、文中で出てきた「牝誑(めたらし)」と言う言葉は、皆さんもご存知であろうあの「鬼平犯科帳」で使用されているものから拝借しました。盗賊にも多分そういう役目はあったんだろうけど、実世界ではどのように呼ばれていたかは、ちゃんちゃん☆ は知りません。念のため。
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