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えーーー。「茂保衛門様」書かずに、いきなりこちらの更新です。最後に書いたのが2001年11月02日だったから、実に1年5ヶ月ぶりの新作と言うことになるんだなあ・・・(滝汗)。 何で久しぶりにこのシリーズを? とお思いでしょうが、色々なワケがございまして。 1つ目は、せめてこのレンタル日記を1ヶ月更新状態にしておきたいと言う事。でも「茂保衛門様」は、書くのにそれなりの労力が必要になるので、そっちを1ヶ月更新というのは、さすがに無理。それで、一応まだネタが残ってるし、そんなに長丁場でもないこのシリーズを、久しぶりに書いてみようかということであります。 そして、もう1つの理由。・・・実はこのシリーズに、初のメールでの感想が送られてきたんだったりして(感涙)。VETTYさん、ありがとうございます。都合で返事書けませんが、とりあえず新作復活!ということで、良かったらお許し下さいませ。 ************** Darling(6) 睡眠不足の体を抱え、流川は富ヶ岡中学の廊下を不機嫌な顔で歩いていた。 「・・・見つかんねえ・・・」 断わっておくが、家ではきちんと睡眠をとっている。ただ困ったことに、学校の授業中眠ろうとしたところ、全然眠くならなかったのだ。 そもそも授業中に眠るとはどういうことだ、と教師から反論が来そうではあるが 、そこは流川の日頃の行ないがモノを言った。いつもぐーだらと眠りこけている問題児が、目の座った顔で親の敵を見るような目つきでこちらを睨み付けてくるのである(本人は単に、不機嫌だっただけだが)。その間、教師とクラスメートたちは(一部女子生徒を除き)生きた心地がしなかった。 教室の平和と、教師の心の平安のためには、やはり流川にはいつもの通り眠っていてもらった方が良い、と、半ば野放し状態に決定されてしまったのであった。むろん、本人は知らぬことではあるが。 とにかく今の流川は、安眠できる環境を手に入れようと、校内を徘徊している状態なのであった。 2年の教室棟まで来た時である。何やら廊下のつきあたりで人だかりを見つけた。 見れば掲示板に、テストの成績が張り出してあるらしい。皆が悲喜こもごもの声を上げるのを、単なる傍観者の流川はさめた目で見ていたのだが。 「げーーーっ、彩子ってば、また順位上げたわよ」 「バスケのマネージャーしてて毎日クタクタのくせに、バケモノよバケモノ」 「天はニ物を与えるって、やっぱアリなのかねえ」 ・・・少々のやっかみと、好意を感じる声に、ふと成績表を見やる。 確かにそこには彩子の名前が、何と10位以内に書かれていたのだった。 <ま、俺にはカンケーねーけど> 「あれ、どうしたの流川」 声をかけられ、振り返る。 そこには、流川がずっと探していた彩子。 「あんたが2年の教室棟まで足を運ぶなんて、一体どう言う風の吹きまわし? 困るわよー、今日は傘持ってきてないんだからさ」 「雨なんて降らねえっス」 笑いながらのからかい言葉に、さすがの流川も即座に反論を返していた。 「あはは、ゴメンゴメン。だけど、本当にどうしたのよ? いつもなら休み時間なんて、あんたの絶好のお昼寝タイムじゃない」 何で知ってるのか、とか、あんたは俺が昼寝してるところを見たのか、とか、色んな言葉が頭の中を交錯したが、あえて流川が口にしたのは1つだけ。 「イエ・・・眠れなくて」 ───流川のその言葉を聞いた時の彩子の表情と来たら。 こういう表情こそ、「鳩が豆鉄砲を食らったような」と言うにふさわしいものだろう。 「眠れないって・・・あんたが?」 「そう」 「一体何があったのよ? 何か拾い食いでもして、お腹こわしたとか?」 「俺は犬じゃねえ☆」 「だ、だけどさあ・・・」 彩子の心配そうな声が、耳に心地よく響く。 女の声は高いから苦手だし、おまけに結構大きな声だと言うのに、どうしてだ? と流川が訝しがった時。 ぺとっ。 彩子の、柔らかくてすべすべした掌が、流川のおでこに押し付けられた。 「・・・・・っ!?」 流川はあろうことか、ひどく動揺した。そして思わず後ずさってしまう。 当然、彩子の掌はおでこから外れたわけなのだが・・・。 「あ、ゴメン、イヤだった? でも熱はなかったみたいで、安心したわ」 流川の今の態度を、女性への嫌悪と受け取ったのだろう。苦笑まじりに彩子は、手を元の場所に下ろす。 そのやわらかな手を、流川は半ばボーゼンとして見送っていた。 ───あの手の感触がなくなったおでこが、こんなにもスースーするものだとは、思いもよらなくて。 「でも気分が悪くなったら、ちゃんと保健室に行くのよ? 我慢しちゃダメよ流川」 彩子の忠告にも、ただ馬鹿みたいにブンブンと首を振るしか出来なくて。 ───この時。 さしもの流川も、自分がどうやら彩子に対して特別の感情を抱いていると言う事実を、自覚せざるを得なくなったのだった。 実のところ、流川が休み時間を利用して2年の教室棟まで来たのは、彩子に会うためだったのである。 昨日、試合帰りのバスの中、流川はいつの間にか彩子の膝枕で寝てしまう、という失態を起こしてしまった。目が覚めた後でチームメートから、完全にやっかみの声を浴びせられたわけだが、別にそんなことで堪える流川ではない。 ただ・・・彩子の膝枕の使い心地はと言えば、家の自分のベッドでの寝心地に勝るとも劣らないものだった。ふんわりとして、あたたかくて、時々いい匂いがして・・・。それを思い出すと、教室の固い机の上などではどうにも眠ることが出来ず、結果寝不足になってしまった。 それで、出来たら膝など貸してもらえないだろうか、と、後先まるで考えずにここまで足を運んでいたのだけれど。 <出来るかああっ! 掌だけでこんなにドキドキすンのに、膝枕してくれなんて、言えるわけねえええっ!> 外見こそいつもの無表情な流川であったが、その中身は相当焦りまくっている。 「? どうしたの、何か顔赤くない?」 おまけに、心配そうに彩子が顔を覗きこんで来ては、表面上はただただ沈黙を守るしかなくて。 そんな流川の葛藤にケリをつけたのは、だが、新たなる葛藤の始まりを告げるものでもあったのだが・・・。 「彩子くん、テストの結果見たよ。すごいじゃないか」 いきなり彩子にかけられた声に、我に返る流川。見れば声の主は流川も知っている、バスケ部の顧問教師だ。 「ええ、まあ、今回は頑張りましたから」 「しかし、バスケ部のマネージャーは休んでなかったじゃないか。私も鼻が高いよ。『バスケばっかりやって、勉強がおざなりになる』なんて言葉、平気で使ってくる先生もいるからねえ。彩子くんを見たまえ、と言ってやりたいよ」 完全に流川の存在は無視されている。イヤ、気付いていないのかもしれない。 <そろそろ教室に戻るか・・・> 一抹の寂しさと、どこかしらの安堵感を覚えつつも、流川はこの場を立ち去ろうとしたのだが。 「どうだね? 神奈川でも1、2を争う進学校を志望校にしたら?」 教師の口から飛び出した言葉に、思わず足を止めていたのである。 ・・・突然だが、流川の学校での成績はというと、さんさんたるものだ。いつも授業中居眠りしているのだから、当たり前ではあるが。 だから、進路希望相談係の教師からは、「バスケで行ける高校を目指したら?」とまで言われるくらいで、本人もそのつもりでいた。 バスケ顧問の教師から、爆弾発言が飛び出すまでは! 「そこって、バスケ部あるんスか?」 流川は感情の赴くまま、彩子と教師の話に首を突っ込んでいた。 「る、流川?」 「は? バスケ部? い、いや、確かなかったと思うよ。進学校だからね、どちらかと言えば文科系の部が多いところだし」 教師はとりあえず、そう答えたが。 「・・・・・・・」 目の据わった流川ににらみ付けるようにされては、それ以上の言葉を口に出せずにいる。 そのうち。 キーンコーンカーンコーン・・・。 休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響き、とりあえず教師に安堵の息をつかせたのだった。 「早く教室に戻んなさい」と彩子に促され、教室への階段を降りる流川。だがその内面はと言えば、平穏なものとは程遠かった。 目はすっかり覚めている。と言うより、睡眠不足を忘れてしまうほど、彩子の進路方向は彼にとって、青天の霹靂だったのだ。 下手をすれば、自分が彩子と一緒にいられる時間は、あと2年しかないと言うことになるじゃないか! 恋心を自覚した直後の衝撃の事実に、流川は足元がおぼつかない自分を感じるのであった。 <続> *************** ※良いのか? 流川。あんな言い方じゃ、聡い先生なら流川→彩子に気付いてると思うんだけど(汗)。 ところで今回出てきた、バスケ部の顧問教師ですが、実は登場は初めてじゃないんですよねえ。以前、塚本と彩子の問題で、キャプテンの二階堂と一緒に、流川に話を聞いていた教師と同一人物だったりします。新しいキャラ持ってきても、ややこしいだけだからなあ・・・。
※皆様いかがお過ごしでしょうか? すっかり3ヶ月ごとの更新が身に付いてしまった(汗)、ちゃんちゃん☆ でございます。ああ・・・ついに禁断の「空更新」やってしまった・・・☆ (解説しよう。 このSSが掲載されているレンタル日記では、3ヶ月何も更新しないと解約されてしまうんである。そこで、書くネタがないけど解約もされたくない! って人のために、『空更新』と言う隠し技が用意されているのだ。つまり、以前書いたページを何の修正もせずに『修正』する方法。これはちゃんとここでも認められている方法だったりするんだが・・・はっきり言ってこれって、かなり情けない状況ですよね? しくしくしく) さてそれはともあれ。今回やっとこさ、書きたいシーンの1つにたどり着きました。それでもクライマックス、そして完結まではまだ先が長いです。よろしければそれまで、どうぞお付き合い下さいませ。 ・・・これが終わったら、ちゃんちゃん☆ が勝手に「侍魂(サムライダマシイ)」シリーズと銘打った一連の物語が、終結するんですけどねえ。(ワンピのゾロBD記念に書いた「人斬リニアラズ」と、るろ剣「地図にない未来」が該当作。3人3様の『侍』って意味で)はてさて、いつのこととなりますことやら・・・(汗)。では。 ************************** 茂保衛門様 快刀乱麻!(12) ───後になって思えば。 この時ほど勝算のない戦い、ってものは、先にも後にも経験したことはなかったわね。したくもないけど。 何せ、周りをぐるりと鬼火に囲まれてるわ、出口から助っ人を呼べないわ、どうやって鬼火を倒せばいいか分からないわ、おまけに、すぐ外に井戸があるって分かってるのに活用できないわ、ですもの。・・・今でも思い出せば、背筋にぞっと寒気が走るくらいだわ。 でも、引き下がることは出来ないってことも確かだった。何もこれは自分たちの命運や、油売りの彦一のためだけじゃない。ここで延焼を食い止められなかったら、まず間違いなくこの江戸は火の海の下に沈む、ってことですもの。無理だって分かってても、血路を見出すしかなかったのよね。 とは言うものの、普通に刀を振り回すって言うだけの戦法に、一抹の心細さを感じたのも、また事実。だからそれとなく周囲をもう1度見渡したところ、どうやら汲み置き用らしき水瓶を発見した。 これは良い、って言うんで、鬼火からは目を離さないまま柄杓を手に取ったあたしは、素早く、でもなるたけ音を立てないように水を汲んだ。そしてそれを、抜かれた刀の刃へそっと注ぐ。 ───まあこれは、一種の魔物であるところの鬼火に対して清め水を打つ意味もあり、火も水には弱いってんで少しでも足しになるだろう、って思惑もあったのよね。 そう言えば・・・村雨って言う、里見八犬伝に出て来る不思議な刀は、その刀身から絶えず水が滴り、人を斬っても決してその刃の切れ味が落ちることはない、って言われてるみたい。もっとも鬼火に対して、そう言うやり口が通用するとは思えないし(大体、血糊が出るとは思えない)、所詮空想の世界の刀の話を今持ち出しても、意味ないんだけどね。 とにかく。 あたしがそうして、刀に未だ残る水を切るように振り払ったところ。 オ・・・ォオオ・・・。 鬼火たちから、明らかな恐れの感情が漂って来る。 そして刀を鬼火たちに向けたまま一歩進むと、わずかだけど『奴等』が退くのが分かる。早速効果覿面、ってところね。 こっちの目論見に気づいたらしい。後ろで御厨さんも、あたしの動作に習うようにしたけど、ふと思い付いたことをそのまんま素朴に、耳打ちしてくる。 「榊さん、ひょっとしたらこの水瓶をそのまま『奴等』にぶつけてやった方が、手っ取り早いんじゃありませんか?」 「・・・それはあたしも、一旦は考えたんですけどね・・・」 そうとだけ言って口を閉ざすと、さすがに賢明な彼のこと、どうやら良策ではなかったと悟ってそれ以上は聞いて来ない。 何で御厨さんの作戦を選ばなかったのか、ですって? 『奴等』が水を怖がっているのは事実だから、水瓶の中身をぶちまければ確かに、一時的には有効でしょうよ。・・・だけどあくまでも、それは一時的な処置。 ───さて、ここで問題です。汲み置き水をそうやって全て使い切ったところで、万が一にも鬼火が一匹? でも生き残ったら、一体どうなるでしょう? 答えは簡単。仲間たちの敵討ちにと、躊躇うこともなくこっちに襲いかかって来るだろう。そしてその時のあたしたちには既に、『奴等』に有効な手だては残っちゃいないから、焼き殺されるのは十中八九決まり切ってる。もちろん焼け死ぬのはあたしたちだけじゃない。『奴等』の最大の標的であるだろう、油売りの彦一もでしょうね。 少しでも生き残る算段をしなきゃいけない時に、焦りは禁物ってことよ、つまりのところは。 加えて、どうしてあたしがそのことを懇切丁寧に御厨さんに説明しなかったかも、この際教えてあげましょうか? あたしたちの目の前にいる鬼火たちは、本能だけの生き物と思いきや、その実そうじゃない。それは、さっき御厨さんがうかつにも彦一の名前を・・・と言うか、この部屋に彦一と言う名の油売りがいるらしいって可能性を口にした途端、自分たちも彼をおびきよせようとしたことからも、分かるでしょ? それなりに思考能力も備わってるらしいって事なのよね。 だから、この場でうっかり御厨さんの作戦の難点を話しでもしたら、そしてそれを鬼火に聞かれでもしたら、最悪、虎の子の水瓶を叩き割られてしまう、って事態もありうるわけ。 ・・・他に有効な手段がない今、それだけは避けたいじゃない。 「さて、と・・・」 鬼火の動向をうかがいつつも、次にあたしは柄杓の水を、着物の上から浴びせかけることにした。 こうすればとりあえず、襲われて即・火だるまってことだけは防げる。それでも頭を濡らすのをやめたのは、何も身だしなみに気を払っただけの理由じゃない。一瞬の隙が命取りの現状だって言うのに、水が目に入ったらそれだけで充分『隙』を作っちゃう。それに視界も狭くなるしね。 ところが敵もさるもの。このままじゃ埒があかないと悟ったのか、一斉にあたしたち目掛けて襲いかかって来たのだ! ゴウ・・・ッ! 唸りをあげて迫り来る炎に、とっさに刀を振り回すあたし。 ジュッ! だけど水は蒸気と化し、刀はたちまち乾いてしまう。水瓶に近寄ろうにも、何時の間にかぐるりと周りを鬼火に取り囲まれていては、それも叶わない。死なないためにも、次の手を講じるためにも、ここは何としても鬼火たちを切り伏せないと! 「このっ!」 焦って突き出した刀はあえなく躱されて。完全に無防備になった脇目掛けて、鬼火が今まさに襲いかかろうとしたその瞬間、だった。 『水神之玉!!』 鋭い声と共に、何かがあたしの側へと飛んで来たのは。 青色のその玉が、床に落ちるが早いかまばゆい光を放ったかと思うと・・・。 ジュウウウウウウ! 焼けた石に水をかけたような音が響き渡り、視界は一瞬薄い霧のようなものに覆われる。 本来ならこれは、敵中で見渡しが利かないって意味で、あたしにとっては危険極まりない状況のはず。だけどその時のあたしは、鬼火たちもこの機に乗じて襲いかかってくるような度胸はないだろう───そう察した。 何故なら、この霧からは水の感触を感じたから。 「榊殿! 御厨殿! 無事か!?」 続いてかけられた聞き覚えのある声と、どやどやと何者かが駆け込んで来た気配に、あたしは思わず「げっ☆」と、お下品な声が出てしまう。 『妖化生・九尾猟!!』 『四霊・麒麟!!』 ドカッ! バキッ!! 見れば、戸口近くで鬼火相手に素手やら、怪しげな術やらで、見事なまでに渡り合っている少年と女人。───こともあろうに、《鬼道衆》の風祭と桔梗だ。やっぱりと言うか、あたしたちを追いかけてここまで来たらしい。 「何であんたたちが来てるのよ!?」 そして同じく追いかけて来たらしい、九桐が槍を手に現われるに至って、さすがに温厚で物分かりの良いあたしもブチ切れた。 「罪人の分際で木戸、突破して来たってわけ!? 良い度胸してるじゃないですか!」 「仮にも命の恩人に向かって、そんな口利くかよ!?」 鬼火をぶっ叩きながら振り向きざま毒づくのは、当然血の気の多そうな風祭。 「誰もあんたたちに助けてもらおうなんて、これっぽっちも思っちゃいませんよ!」 「あたしだって別に、あんたたち幕府の狗を助けるつもりで来たんじゃないよ! あたしなりのケリをつけに来ただけさ!」 聞き取り不明な呪文を唱えつつも、そう反論したのは桔梗である。 ところが1人だけ、やけに冷静な九桐は笑みさえ湛えながらこう言ったのだ。 「2人とも嘘はいけないぞ。榊殿が真っ先にたった1人でこの部屋に飛び込んだと聞いた途端、目の色変えて駆け出したじゃないか」 「「うるさいっ!!」」 もっとも彼の言い分は、即座に遮られたけど。 「だ、大体なあ九桐! お前は何で、炎への耐性が人並み以下なんだよ!? 水属性の技だって一個も覚えちゃいないし、何のために『空せ身』持ってるんだ!! 俺と女狐だけで闘えってか!?」 何やら顔を赤らめながら、風祭は九桐に苦言をぶつ。・・・どうでもいいけど、こいつら鬼火と闘いながらも、会話がかわせるのね。こうも緊張感が欠片も感じられないって、どういうことよ。 「どうせ覚えるのなら、もっと面白い技を覚えたいじゃないか」 のほほん、と答えながらも九桐が、こっち目掛けて攻撃して来る鬼火を槍でちゃんと退けている。 ・・・って、ちょっと? 「どうしてあなたが、あたしの前にいるんですか!」 何時の間にか九桐が前方に立って、あたしを庇うようにしている。 一体どういうことよ、これは。敵に庇われるって事ほど、屈辱的なことはないって言うのに。・・・まあ逆に言えば、あたしへの嫌がらせ、ってこともありうるけど。 そしたら九桐は、その顔に張り付いたような笑顔で辛辣なことを言い出した。 「拝見したところ、あいにく榊殿の腕前では、こいつらを撃退することは出来ぬと思ったものでな」 「ぐっ・・・」 「まさかこの期に及んで、《鬼道衆》に庇われるくらいなら焼死した方がまし、なんて言うまい? この鬼火たちを退治するには、1人でも手数が多いにこしたことはないのだから」 「い、いけしゃあしゃあと言ってくれますね・・・」 怒りと屈辱で、あたしはそう言うのがやっと。 一方御厨さんは、と言うと、刀を振り回しても自分では鬼火を切れないと取るや、すぐさま水瓶の水を柄杓で、周囲にばら蒔くことに専念し始めた。 だけどそれだけで手詰まりだ、と悟ったようで。 「お前たちは一体、どうやって鬼火を切り伏せているのだ!?」 ・・・あたしの部下は、思いの外『したたか』だった。先ほどの九桐の言い分を逆手にとって、鬼火の退治法を伝授してもらうつもりらしい。 そして九桐の方も、御厨さんのその態度を決して不快とはとらなかった。 「・・・2人とも、人を斬ったことは?」 「ある」 「泣く子も黙る火附盗賊改ですよ、経験あって当然でしょ」 「なら話は早い。方法と言っても、結局は人と対するのと変わらぬ」 「しかし・・・」 「炎と言う外見に惑わされるな。己の刀に負けられぬ、と言う魂を込めて打ち据える、それだけだ。少なくともそれで、鬼火の動きぐらいは止めることが叶おう・・・こうやってな!!」 言うや否や、九桐の槍が前方の鬼火の攻撃を阻む。そうしておいて、 『横倒!!』 ザンッ! 鋭い一撃を食らわせると、鬼火の動きが止まってしまう。その一瞬の隙を見逃さずに、九桐はそのまま横薙ぎの剣閃で見事、鬼火を屠るのであった。 オオオオオオオッ・・・! 断末魔の叫びが響く中、あたしと御厨さんも行動を開始せざるを得なくなる。 「はあっ!」 掛け声も勇ましく、御厨さんの刀が閃く。 その姿はまさに、凶悪な盗賊たちと対峙した時そのもので、何とか鬼火を弾き返すのに成功していた。そして退いた鬼火をそのまま追いかけたりはせず、向こうの方から襲いかかって来るのを待ち構え、渾身の力を込めて2度、刃を叩き付ける。 ヒャアアアアッ・・・! さすがに一刀両断とまではいかなかったものの、それでも何とか鬼火は悲鳴を上げて消えていった。 だけど、彼の上司であるあたしはと言えば、正直言ってへっぴり腰も良いところ。 いくら『炎と言う外見に惑わされるな』って助言されたって、炎は炎なのよ。熱いし、近付いただけでチリチリとした痛みに似た感触に、つい体が逃げてしまう。 その消極的さがマズかったみたいだわ。 ガクッ☆ 「きゃあっ!?」 足元が不安定な場所での斬り合いに、後ずさった足が滑ってしまう。その弾みでこともあろうに、持っていた刀を床に落としてしまったのだ。大慌てで刀を拾おうと屈んだあたしの背中に、熱い空気が襲いかかる───! 『飛水十字!!』 その時だった。凛とした声と共に、どこからともなく飛んで来た苦無手裏剣が、鬼火をしとめたのは。 シュウウウウウ・・・。 まるで水をかけられたかのような蒸気を発し、鬼火は見る見るうちに消えていく。 呆気に取られたあたしの目前にはいつしか、見覚えのあるやけに露出度が高い着物を身に付けた女人の背中があった。まるで、鬼火からあたしを庇っているかのように・・・。 「あ、あんたは・・・」 「ご無事ですか、榊様」 振り返った涼しげな顔は、まさに《龍閃組》の涼浬のものだった。 《続》 ************ ※ああ・・・こんなに進行具合がトロいとは。予定ではもっと、話が進むはずだったんですけどね。これ以上更新が遅れるのもなんですので、今日はこの辺りで終わっておこうっと。 ところで、今回何が苦労したかって、《鬼道衆》の3人の戦闘法です。澳継はともかくも、九桐と桔梗の2人ってば、鬼火に有効な『水』属性の技、何も持っていないんですもん(汗)。『水』属性の武器や、九桐の『龍蔵院奥義・胤影』を活用することも考えたんですが、あまりに唐突ですからねえ。ま、そのせいで思い切り苦戦した、って説明は付くからいいか・・・。 さて次回は、おそらくは皆様も想像が付いているであろう、《鬼道衆》と《龍閃組》の共同戦線とあいなります。ややこしいことになること、疑いないなあ(苦笑)。とりあえず今は、ウソップの長編SS書いてかからないと。では、次回またお会いしましょうv
間にしょうもないギャグを挟んでしまいましたが、やっと本命、榊さんの活躍話の続きであります。・・・とは言っても、最後に「茂保衛門様〜」書いてから3ヶ月(!!)、モロに経ってますし、おまけに「OP」の某・剣豪の長編なんぞ書いてしまったんで、感覚取り戻すのに時間かかりそうですが。 さて、今回はいよいよ榊さんが、勝ち目のない(汗)戦いに身を投じる羽目になります。こういう時なんでしょうね、人間の本質って言うものが如実に分かるのは。でわっ! ************************** 茂保衛門様 快刀乱麻!(11) 馬を急き立て走らせてから、一体どのくらい経ったかしら。 あたしたちは何とか、目的地の神田までたどり着いたみたい。そして今まさに、木戸を閉めようとしているところに出くわす。 そう言えばついさっき、夜の四つ刻を知らせる鐘が聞こえたような気がする。まさに間一髪、だったようね。(まあ例え木戸が締め切られたところで、盗賊改絡みなら開けては貰えるんでしょうけど、色々面倒でしょ?) あまりの狼藉に仰天しちゃってる警備所員には構わず、あたしはそのまま馬で木戸を飛び越えた。大声を張り上げながら。 「火急の用件です! 私は火附盗賊改方与力・榊茂保衛門! この木戸はしばらく開けておきなさい! そして町火消と火附盗賊改にただちに連絡を!」 高らかに、と言いたいところだけれど、この時のあたしってば馬を乗りこなしてここまで来るだけで疲労困憊。正直なところ声もところどころ掠れ、息も途切れ途切れだったことは否めない。 ・・・でも誰も失笑なんてしなかった。あたしが大慌てでここまで来たことは一目瞭然だったし、何より発せられた言葉から、緊急事態だってことを察したのだろう。 血相を変えた者によって木戸が開けられ、1人ほど番所へ知らせにであろう、沫を食って駆け出して行くのを目の端に留めつつ、あたしはほとんど転げ落ちるように馬から下りた。 「だ、大丈夫ですか? 榊さん」 こちらの声は、松明を持ちながらも懸命に馬にしがみ付いていた、御厨さんのもの。 彼も、ただでさえ最低限の身だしなみしかしていない男だってのに、髪は乱れ、着物もシワだらけときている。ま、かなり馬を飛ばしましたからね、やむを得ないってところなんでしょうが 「・・・上司の、心配を、している暇が、あるんでしたら、すぐさま、行動に移りなさいな、御厨さん。例の、あ、油売りの、住居を聞き出さなければ」 「分かりました。では早速・・・」 それでも御厨さんの声は、比較的落ち着いている。これなら少しぐらいの立ち回りは期待できるかしら。 ───そう、思った矢先だった。 「うわあああああっ!?」 狼狽しきった男が数十名、裏長屋の1つから転がるようにして、こちらの木戸目掛けて押し寄せて来たのは! ・・・どうやら、油売りの住居を聞き出すまでもなさそうね。おおよその見当は付いたわ。 それでも生真面目な御厨さんは、まずはそちらへ駆け付け、何があったのかを逃げ出してきた男たちに聞き出そうとしている。 「お前たち、一体何があったと言うのだ!?」 「火、火、火が・・・」 「火だと!?」 「そうですだ、お侍様! めらめらと燃える火が、あちこちから湧いて出たんでございますよお!」 「・・・それにしては、物の焼ける匂いはしないが?」 御厨さんの指摘通りここには、あたしたちにはお馴染みになってしまっている『火』独特の匂いは、まだ漂ってきていない。火事を知らせる半鐘も、鳴ってやしない。 とは言え。 「だから尚更不気味なんじゃありやせんかあ!」 「と、とにかく落ち着け。誰か、ここに住んでいると言う油売りの行商のことを知らぬか!?」 いくら『お侍様』の命令でも、彼らがそうそう落ち着けるわけがない。当然、御厨さんの質問にも答えられるはずもなくて・・・。 まったく、仮にもあたしの部下ともあろう男が、もっと効率よく用件を聞き出せないわけ? 「御厨さん! そんな混乱状態の者など放っておきなさい。それよりここが長屋なのなら、大家がいるはずでしょう? 店子の事情なら大家に聞きなさいな、一番間違いがないんですから」 「は、はい、急いで!」 ・・・こういう初歩の初歩を忘れるなんて、御厨さんにしては珍しいですこと。それだけ彼も動揺しているって事なのかもしれないけど、まだまだ若いわねえ。 そうしてほどなく、件の大家夫婦があたしたちの前に引っ張り出されるようにして、現われた。 一番聞きたいことはさておいて。彼らを落ち着かせて大家としての領分を思い出させるためにも、まずは順当な質問から始めることにする。 ちなみにその間、他の人間はどうしているかと言うと、外へ出ないよう木戸近くにまとまって集まってもらっている。この中に放火魔が潜んでいるかもしれないから、という理由をでっち上げて。 時刻が時刻だし、下手に他の町内へと逃げた際にこの騒ぎを、会う人間ごとに片っ端から吹聴されちゃ適わない。それこそ要らぬ動揺が、彼らにまで飛び火しちゃうのがオチだもの。 本当に家に火が付いて燃え広がるようなら、凡例にのっとってすぐに逃がしてあげるつもりだけどね。 「落ち着いて答えなさいな。まずこの長屋には、一体何人の人間がいるのですか」 「へ、へえ、路地を挟んで六軒と七軒の長屋で、全部で三十人ちょうどでございます」 「それで、そのうち今の時間帯にいないのは何人?」 「岡引をやっている者が1人、ご浪人が2人、夜泣き蕎麦屋が1人でございますが」 「じゃ、いないのは4人のはずよね? ってことは、長屋の人間で今やここにいるのは全部で24人のはずだけれど、ちゃんと全員揃ってる?」 ここまでの質問のうちに、さすがに大家は徐々に冷静さを取り戻しているみたい。職業病ってところでしょうけど、助かったわ。正直なところあたしの目からだと、普通の町人と裏長屋に住んでる連中の区別が、つかないんですもの。 とにかく大家は店子の顔を1人1人、目で確認し始める。 そのうち、 「あんた、お夏ちゃんたちがいないじゃないか!」 と、大家の奥方の方が血相を変えた。 「お夏? 誰よそれ」 唐突に放たれた固有名詞に、首を捻る。この緊急事態で出てくるんだから、よほどのワケあり、と見るべきだろう。 思わず尋ねたあたしに、大家夫妻はかわるがわる説明をしてくれた。 「へえ、一昨年奥方をなくした彦一と言う男が、娘と2人で暮らしてまして」 「その娘の名前が、お夏と言うんでございますよ」 「そ、それで、その彦一はつい先日から寝込んでいまして。ずっとお夏ちゃんが看病しておるのですが・・・」 ・・・寝込む、ですって? 直感的にあたしは、大家夫妻につかみ掛かっていた。 「その父親って何をしていて、どの部屋に住んでるの!?」 「油売りの行商で。ここからは一番奥の、井戸横の・・・」 その答えが脳に意味ある言葉として到達する前に、あたしは走り出していた。 大家の言った奥の井戸横の部屋へ息せき切ってたどり着き、ものも言わずに戸を開け放つ。 途端。 「うっ!?」 目の前に広がっていた光景に、悲鳴も上げなければ後ずさりもしなかったのは、我ながら天晴れだったわよ。 何故なら・・・そこは文字通り既に『火の海』だったから。 部屋の中は轟々と燃え盛る炎で、覆われていたのだから!! ───だけど、そこはそれなりに場数を踏んできた経験上、あたしはすぐにおかしい、と直感する。 だってこの部屋からはまだ、『火事の匂い』がしないんですもの。 確かに空気が熱い、と感じはする。炎の燃える音も聞こえる。なのに、ものが燃えた時独特の『悪臭』がしないなんて、そんな馬鹿なことがあってたまるものですか。 ひょっとしてこれは、何かの術か、幻でも見せられているの? とっさにそう判断したあたしは、おそるおそる炎へと1歩、足を踏み出したんだけれど。 ヒョオオオオオオオオ・・・・・・!! あろう事か、炎が動いたのだ。吠えたのだ。近寄るな、と言うように。 そして、思わずゾッ! と立ちすくむあたしに、それこそ焼き殺さんばかりの激しい殺気が叩き付けられる。 断っておくけど、これでもあたしはそれなりに盗賊との斬り合いにも捕物にも、何度も立ち合ってきたのだ。血飛沫飛び交う現場に居合わせたことだってあるし、ほんの駆け出しの盗賊に睨まれたくらいだったら、そうそう怯んだりはしない。 だけど・・・。 鬼火、という名称が、あたしの脳裏で瞬いた。 この部屋に集まってきた炎は、煮炊きをする火とも夜を照らす行灯の火とも、全く違う。それらの火はこれほどまで毒々しい色を、してはいなかった。もっと優しい、心休まる色をしていた。 だけど・・・信じられないけど、こうして目の前にしても信じづらいけど、この鬼火たちは人間をただ焼き殺したいがために生まれたのだ───そう、感じずにはいられない。 早く『彼』を逃がさないと───。 だが・・・この時あたしは、自分がのっぴきならぬ状況に追い込まれたことを悟ったのである。 明らかにここの鬼火たちは、誰か特定の人物を殺しに現われたのだ。それは多分、この部屋の主であたしたちが訪ねてきた、行商の油売りの男・彦一。 幸い彼はまだ、鬼火たちには見つかってはいないらしい。もし焼き殺されでもしていれば、少なくともあたしには分かるから。匂いで。岸井屋の又之助が焼き殺された現場に居合わせた時、みたいに。 だから一刻も早く油売りを探し出し、逃がさなくてはいけないのだけれど・・・一体どうすれば、それを果たすことが出来ると言うのよ!? 彼がこの部屋にいないのなら、まだ救いはある。が、今は夜の四つ刻で、在宅している可能性の方が高い。そして、鬼火たちに視界を遮られたせいで、あたしの今いる場所からは室内をくまなく探す、と言うわけにはいかない。 このところずっと寝込んでいた、という話だから、例えば布団の中にいたところをこの鬼火たちに踏み入られたとしたら。ひょっとしたら今はガタガタ震えながらも布団に潜り込んでいるだけ、かもしれないのだ。 なのに、こちらが迂闊に動いたせいで、鬼火たちに彼の存在に気づかれでもしたら・・・! だが。 あたしが自分の判断に躊躇していた、まさにその時だった。誰かが、この部屋目指して駆け付けてくる足音が近付いて来たのは。 入るな、とも、よしなさい、とも叫ぶ暇も与えられなかった。その誰か───御厨さんは部屋へ飛び込んで来るや否や、こう口走ったのだから。 「油売りの彦一! 無事か!」 「御厨さんの馬鹿っっ!!」 今度はあたしも躊躇なく、御厨さんをひっぱたく。 いきなりの暴挙に、さすがの御厨さんも苦言を発しそうになったが。 オォオオオオオオオオォ・・・・・・! どこだあ・・・油売りはどこだあ・・・。 出て来おいぃぃぃぃぃ・・・・! ───鬼火たちの怨嗟の声を聞くに及んで、自らの失言を察してくれたみたいだ。口にしそうになった言葉を無理矢理飲み込み、それ以上何も反論しない。 どこにいるううううううう・・・・・! 聞いているだけで気がおかしくなりそうな声が、室内に響き渡る。が、肝心の彦一って男は恐ろしさのあまり気を失いでもしたのか、一言として返事をしない。 だとしたら。まだ転機はあるかもしれないってことじゃない! あたしはスラリ、と刀を抜いた。そして、怖がる足と体を宥め透かしながら、炎の向こう側を見据える。 「榊さん!?」 「け、血路を開きますよ、御厨さん」 彦一がいるであろう場所まで。 そうは言葉にしなかったが、優秀な人だけにこちらの言いたいことは分かってくれたらしい。無言で刀を抜き、油断なく周囲に目を配らせる御厨さん。 ───実のところ。 この時あたしには、勝機なんてこれっぽっちもなかったの。 だって御厨さんはともかく、あたしは剣術の心得はそれほどありはしない。そして腕力にも自信がなければ、<力>を使えるわけでもない。 加えて、この事件を引き受ける時に御厨さんに言った通り、あたしには幽霊とか鬼の類を斬り捨てた経験など、皆無だったから。 でもそんなことぐらい、あたしも御厨さんも承知の上だった。だって事は、一刻を争うことだったから。いつ彦一が恐怖にかられて、悲鳴を上げないとも限らないじゃない。 血路を開く事が出来るか、じゃない。開かなくちゃならないの! たとえ無理でも、絶対にっ!! 冷たい汗が背中を伝うのを感じつつも、あたしはここを引くわけにはいかないのだった。 《続》
「なあなあ紅葉〜、面白いもの見つけたんだけどさー。コレ、編んでみるつもりない?」 壬生紅葉と緋勇龍麻は学校帰り、連れだって手芸ショップへと来ていた。 壬生のひそかなアルバイトの一つに手芸があり、その材料調達のために寄ったわけだが。 このような種類の店が初めての龍麻は、「へー」とか「わー」とか、少年にしては愛くるしいと言っていい容貌に相応しい、かわいらしい歓声を上げていたのだが。 好奇心をまんまんと湛えたその眼が、とある手芸セットに留まる。 それは材料と作り方が書かれたメモがセットになっている代物で、手芸初心者にはうってつけのものでは、あった。 が・・・その名称を見た壬生の顔が、ぴくく、と引き攣る。 「龍麻・・・何を期待しているかは知らないけれどね。これはあくまでもその編み方の出身地の名前であって、彼とは何の関係もないんだよ?」 「えー、そうなの? 『ボクが来たからもうアンシンねー』とか、『HAHAHA、タノシーねっ』とか、声が聞こえるんじゃないの?」 「聞こえたらさぞや、高値で売れるだろうけどね・・・」 「ちぇーっ、残念。あいつのそりゃあもお! あつっくるしい声が聞こえるんだったら、この冬は寒さとは無縁だと思ったのにー」 龍麻が手にしている手芸キットには、こう書かれていたのだった。 『手作りマフラー アラン編み』 ≪おしまい♪≫ *************** *実話です(汗)。本気でアラン編みと言うものは存在しまして、何でもネットで調べた情報によると、「アラン諸島の伝統的な模様」を編みこむ手法の事らしいです。 これをショッピングセンターの手芸センターで見たちゃんちゃん☆ は、 「HAHAHA、タノシーねっ!」 ・・・と言うアラン蔵人の高笑いが、真っ先に目に浮かびましたとさ(爆笑)。おかげで笑いを噛み殺すのに一苦労。周囲の人にはさぞや、不審人物として見えただろうなあ・・・・。 「茂保衛門様〜」書きたいのですが、いろいろとたてこんでまして。そのうちこのレンタル日記が更新されるのがイヤだったんで、こーゆーしょうもない話をUPした次第です。「空更新」て方法もなくはないんですが、さすがになけなしのプライドが許さん・・・・(汗)。
※ほとんど隔月間化している(隔月間どころじゃねえだろ☆)、と言われても仕方ない状況の、お久しぶりの「茂保衛門様〜」であります(汗)。でも、忘れてるわけじゃないんですよ? いくらワンピに浮気しようが、時々他のゲームのプレイ日記を挟もうが、榊さんはちゃんちゃん☆ にとって、『剣風帖』の伊周ちゃんとはまた違った意味で、思い入れがあるキャラですんで。 で今回でありますが・・・キャラの大暴走、とはこう言うことなんでしょうねえ。当初この話を考え付いた時は、よもやこんな大胆なことを榊さんがやらかすとは、思いもよらなかったです。ハイ(汗)。まあこの方法でしか、榊さんたちが《鬼道衆》を撒くすべはなかったわけですから、仕方がないと言えばそれまでですが。 いよいよ話は大詰め。怒涛の新展開と相成ります。では。 ********************** 茂保衛門様 快刀乱麻!(10) 正直言って、あたしはあんまり足の速い方じゃない。 とりあえず(内股走りの)逃げ足は速い、って、他の与力たちにからかい混じりで言われてるけど、そりゃ誰だってそうでしょ? 命がかかってるともなれば必死で走るんだからさ。 「さ、榊さん、一体、いきなり、どうなさったんですかっ!?」 そんなわけだからいくら前を走っていても、言わば体力バカの御厨さんにはすぐに、追いつかれちゃう。 それでもあたしは足を休めない。 御厨さんも、理由は聞かされていないものの、緊急事態だってことだけは勘付いてくれたんだろう。走りながら声をかけてくるのも質問だけで、一切苦情は口にしないのは有り難いことだわ。 後ろから彼以外の足音が聞こえてこないことを確認してから、あたしは事情を説明することにした。もちろん、走りながら、よ? 「さっきの、桔梗って女の話聞いて、御厨さんには心当たりがないんですかっ?」 「心当たりって・・・」 「『行商人』『預かる』。そして『首から何かをぶら下げていた』よ!? 夕刻、与助から聞いた人間の、特徴に、該当するじゃないですかっ、被害者候補の、特徴とっ!」 「・・・・・! 油売りの行商人ですかっ!? 赤いお守り袋を身に付けていたと言う!?」 「そうっ! 殺された又之助たちって、当然、火事の直前に、小津屋へ向かってたはずじゃない? 彼らに、油売りは、勇之介を『預けた』のよっ。 だ、だけど、火事の後で、勇之介らしき子供が、焼け死んだって知ったら? 当然、食って掛かるんじゃないですかっ」 『そんなつもりであんたに預けたんじゃなかったのに!』 ───そうだ。 確かにその油売りは偶然見たのかもしれない。小津屋から火の手が上がる前に、又之助と久兵衛が引き上げて来るのを、行商中に。 そしてあるいは、何の気なしに尋ねたかもしれない。 「あのボウズを届けて下さいましたか?」ぐらいは。 ・・・だから又之助と久兵衛は彼の存在を、あたしたち火付盗賊改に告げたのだろう。図々しくも、自分たちの『身の潔白』を証明するために。 だけどそのうち彼は知ってしまった。姉の凶行を止めるべく、病をおして駆け付けた弟がいたことを。そして紛れもなくその少年が、自分が又之助たちに託したあの少年だということを。 さぞや彼は愕然としただろう。そして憤然としただろう。与助が耳にしたと言う又之助との諍いは、きっと彼の義侠心の表われに違いない。 ・・・でも、彼の商いが油売りだったことがあるいは、彼の不運だったとしたら。 もし又之助が久兵衛やその奥方を脅したのと同じ形相で、油売りを脅したとしたら? 例えば、こんな風に。 「あんたが忙しさにかまけず、最後まで責任を持って小津屋へあのガキを届けていたら、あの火事は起こらなかったってことじゃないか。あんたにも責任はあるんだよ、あのガキが焼け死んだ責任はね。・・・へっ、お笑い草だねえ。油売りが火事を招いたなんて世間様に知れたら、商売上がったりどころの騒ぎじゃないんじゃないかい?」 ───自分が罪を逃れるためなら人は、どんなに残酷で卑怯なことでもしかねない、って話。 あたしは火附盗賊改として、それはもうイヤってくらいに身にしみて知ってる。 そして、人の心ってものが案外脆いってことも、ね。 もし本当にあたしの推測通りだったら、その油売りが火事以降寝込んでしまった本当の理由は、恐怖は恐怖でも火事そのものへの恐怖からじゃない。又之助に心の隙をまんまと突かれた挙げ句、過剰に促進された罪悪感から来る恐怖だってことに・・・なる。 「とにかく、あたしの推理が正しければ、勇之介が次に狙うのは、その油売りに違いないわっ! 御厨さん、彼の住まいはどこっ!?」 道の角を、減速せずに苦労して曲がり切りながらあたしは、律義に着いて来る御厨さんにそう尋ねたんだけど。 彼の返答は歯切れが悪いながら、端的だった。 「それが・・・神田の長屋なんですが・・・」 「神田あ!? 神田ですってえ!?」 あたしは大慌てで、その場に立ち止まることを余儀なくされた。 あまりに急激に止まざるを得なかったから、道の脇の木塀を思い切り蹴飛ばしたんで大きな穴が空いちゃったんだけど・・・不可抗力、よねえ? (もちろん後で直させますよ、当然費用はこちらもちでね) 大体、その時のあたしはもう、塀垣云々を気にしてる場合じゃなくなっていたんだから。だって・・・。 「よりにもよって、こっちとは正反対の方角じゃないのおっ!」 言われてみれば、《鬼道衆》が割り込んでくる直前に、そういう話を御厨さんから聞いたような気もするものの・・・時、既に遅し。 「すみません! もっと早く申し上げれば良かったのですが」 「・・・・・・・・・・・・・・・・別にあなたのせいじゃありませんよ、御厨さん」 どっと押し寄せてくる疲れと頭痛に、あたしはそう答えるのがやっと。 と言っても、この事態を引き起こしたのがあたしのせい、ってわけでもないのは当然よねえ。 だって、《鬼道衆》の連中が居合わせたあの場で、油売りの住まいを聞いてなんてご覧なさいな。あいつらが抜け目なく聞きつけて、そっちへ向かうのは必至。下手をすれば事態を悪化させないとも限らない。 ・・・え? あの桔梗って女もさすがに反省していたから、この際協力を仰ぐべきだろう、ですって? 冗談じゃないわ! 《鬼道衆》は曲がりなりにも、徳川幕府を転覆させようって連中なのよ? この事態を利用して、どんなとんでもない企てをしでかすか、分かったものじゃないわ。 彼らの情報は信用しても、彼ら自身を信用するな───これが今まで盗賊たちと渡り合ってきた、与力としてのあたしの経験から言えることなの。疑っておくにこしたことは、ないですからね。 とは言うものの、現状を打破するにはあまりに手持ちの材料が少なすぎるのも事実。 何せ今から引き換えそうにも、後ろからは《鬼道衆》のあの3人が追ってきているのは明白だ。そのまま引き連れていくわけにはもちろんいかないけど、あたしの足じゃ振り切ることも正直、不可能だと思う。 だからと言って、川沿いに船で行くわけにもいかないし、駕籠を呼ぼうにも時間がなさ過ぎる。とにかくこの場で《鬼道衆》の尾行を撒き、かつ、神田まで一刻も早くたどり着かないと・・・・・! その時。あたしのすこぶる優秀な耳が、遠くからこちらへと近付いてくる物音を捉える。 ガラガラガラ、と言う・・・これは荷車の車輪が転がる音かしら? いっそ《鬼道衆》を振り切るのは諦めて、一気に荷車で神田まで───と思った矢先、耳に飛び込んできたのはこれこそ地獄に仏と例えるべき、嘶き。 ブルルルル・・・。 <これだわっ!> とっさに判断し、あたしは走りに走った。 そしてちょうど角を曲がって来た荷車の前に、両手を広げて立ちふさがる。 「火附盗賊改です! 火急の用につき、止まりなさいっ!」 「榊さんっ!?」 ヒヒーン! いきなり飛び出して来た人間に驚いたのか。 荷車を引いていたその動物───馬、は何とかその場で停止したものの、後ろ足2本で立ち上がり興奮状態になってる。前足をガシガシと空中でかき、今にも前方のあたしを蹴飛ばしそうな勢いだ。 「うわああっ、おさむらいさま、おやめくだせえ! ウチの馬は気性が荒くてっ!」 「榊さん、危ない!」 馬子と御厨さんの、血相を変えた制止を振り切って。 あたしはツカツカ、と馬へ歩み寄ったかと思うと、即座に手綱をぐいっ! と引っ張った。 「静かになさいなっ!」と叱り付けて。 途端。 飼い主ですら恐れをなす暴れ馬は、おとなしくなった。 「「は・・・・・?」」 呆気に取られる他の2人を尻目に、あたしは馬の顔をゆっくりと撫で、落ち着かせる。 「いいわね? あたしを神田まで乗せて走るのよ? 間に合えば、美味しい飼い葉をご褒美にあげますから」 そう言ったところ、どうやらあたしを乗り手として認めたというのだろう。馬は頭を下げて、人間を乗せる体勢になった。 荷車を引いてる馬だから、さすがに鞍なんかは付けてないけれど・・・この際背に腹は変えられないわ。目的地まで、お尻が痛いのを我慢すれば済むことだし。 どうしても邪魔になる裾や袖口を、たすきがけにして動きやすい格好になった上で。 「よっ・・・と」 あたしが華麗な動作で馬にまたがると、やっと我に返った御厨さんが、合点がいった風に話し掛けてくる。 「・・・ひょっとして榊さん、乗馬がお得意なんですか?」 「まあね。こうして乗るのは久しぶりですけれど」 意地が悪いことに馬って生き物は、人間をなめてかかってるところがある。 その最たるものは、乗り手の実力を推し量ると言うもの。色々と狼藉を働いて人間を試し、手綱さばきが下手な人間の言うことなど聞こうとしなかったりするのだ。 つまりこの馬の飼い主は、言っちゃ悪いけど馬に見くびられていることになり、一方のあたしはそこそこの乗り手だと認められたってわけ。 ・・・まあ、この江戸の町じゃあ町人が馬に乗ることは固く禁じられているから、仕方ないと言われればそれまでなんですけどね。 あたしはそうして、さっさと馬に乗ってしまった上司の代わりに、馬子へ馬を借りる約束を取り付けている御厨さんへと、声をかけた。 「早くなさい御厨さん。報酬なら、あとであたしがちゃんと払いますから」 「え? 早くって・・・」 「あなたもこの馬に乗って、神田まで行くんですよ。当然でしょう?」 「ちょ・・・! 私は乗馬の心得はないんですよ? それに、事は一刻を争うんですから、2人乗せるより1人で走った方が速いんじゃ・・・」 「あのねえ。この暗い中、どうやって灯りも無しに神田まで走れるって言うんですか?」 「・・・・・私にたいまつを持て、と?」 正直提灯じゃ、すぐに落っこちて灯りとしての役割を果たさなくなるのが関の山。即座にそう判断しての、御厨さんの返答なんでしょうね。 「あたしが馬を片手じゃ走らせられないのですから、そうするしかないでしょう。緊急事態です。文句は言わせませんよ」 「しかし・・・・・」 思い切りの良い御厨さんにしては、何とも渋い返答の仕方をする。多分彼のことだから、自分が落馬するとかそういう事よりも、万が一にもたいまつから火の粉が飛んだりすることで発生する、火事を懸念しているんだろうけど。 ああ、だから今は、そんな風に躊躇してる場合じゃないのよ、気持ちはよく分かるけどさ! 「それに、私たちの今の役目は飛脚じゃあないんですよ」 「え?」 「早く神田へ行けば済む、ってわけではないでしょう? 到着次第油売りの行商を保護するなり、勇之介を説得するなりしなきゃいけない・・・けどあたしの体力では、馬を走らせるだけで精一杯ですから。つまり御厨さん、あなたが一緒に来てくれないと、正直何の解決にもならないのですよ。・・・お願いできますね?」 浮かんでいたためらいの表情は一瞬で消え。 スパッ! あたしたちが持ってきた提灯が一刀両断され、火も消える。 それから中の菜種油が入った皿を取り出すと、そばに落ちていた棒切れを拾い、御厨さんが袖口を破った布を巻き付け上から菜種油を染み通らせた。 簡易たいまつの出来上がりだ。 馬子から火種を借り、即席たいまつに明かりを点した御厨さんは、それをいったん馬子に手渡す。 「・・・・・失礼いたします」 そう律義に一言告げてから、御厨さんは素早く馬によじ登った。そうして、首にしがみ付く格好のまま馬子からたいまつを受け取る。 まさにその直後だった。さっきあたしたちが曲がってきた角から、九桐たち《鬼道衆》が走り込んで来たのは。 やっぱり、きっちりと追いついてきたのねっ。あんたたちがそういう態度に出るんなら、こっちにも考えがあるわよっ! 「はいっ!」 掛け声をかけるや否や、あたしは馬を走らせる。 一路目指すは神田。 そして───! 「うわあああああっ!?」 「きゃあっ!」 「くっ・・・」 《鬼道衆》の3人が上げる悲鳴を背中に聞きながら、あたしは手綱を手繰る。 「さ、榊さん、今のは少々荒っぽすぎるんじゃ・・・」 馬の首にしがみつつもたいまつから手を離さずに、そう声をかけてくるのは御厨さん。 「・・・ふん、仮にも鬼と呼ばれた連中が、このくらいで死ぬもんですか。それにあたしは、あいつらに言外に忠告してやったんですよ。これ以上追ってくるんだったら、馬にひき殺されても文句は言えない、ってね!」 ───そう。さっきあたしは馬をたきつけて、避けようとしていたあいつら3人の頭上を、ギリギリで飛びまたいでやったのだ。いくら鬼と恐れられる彼らとは言え、さぞや肝が冷えたことだろう。馬って生き物はそりゃあ大きいんだから。 「しかし・・・」 「無駄口は叩かない! 大体馬に揺られてちゃ、舌噛むのがオチですよ、必要がない限り黙ってなさいなっ!」 ひづめの音でかき消されそうになる声を張り上げて、あたしはそう言ってやる。 今はともかく馬を走らせて、御厨さんを神田の油売りのところまで運ぶこと。それが先決なんだから。 それにしても・・・。 いい加減、痛いを通り越して感覚が麻痺してきた下半身のことを忘れるためもあり、あたしは考えを巡らせる。 一体どうしたら、勇之介の暴挙を止めることが出来るのだろう、と。 だって今回の件は、先に起こった又之助、久兵衛の2件とは様相が異なっている。そして孕んでいる危険の度合いも、また段違いなのだ。 むろん、油売り本人やその周囲の人間が巻き込まれる恐れについても、考えないではない。だが彼は、この油売りは明らかに、お門違いの怨みを買っているのである。 『おじさんが最後まで自分について来てくれていたら、あの2人も自分を殺そうとしなかった・・・』 ───確かにその、勇之介が桔梗に言った言葉は正論ではあるけど、その実結果論に過ぎないのだ。 考えてもみなさいな。 久兵衛にしろ又之助にしろ、まさか出会った当初から勇之介がおろくの弟だと、ましてやおろくの凶行を止めに来たのだとは、知るはずがない。だから彼ら2人が勇之介を預かったのも、最初は本当に単なる好意からだったかもしれないのだ。そして、彼らから不穏な空気を感じなかったからこそ、油売りも安心して勇之介を預けたのかもしれない。 そして。死んだ人間を悪く言うのは気が咎めるけど、あるいは勇之介がうっかり口を滑らせたことが、2人のせっぱ詰まっていた商人の心に闇を落とした可能性がないとは、誰が言い切れようか。 なのに、勇之介は姉大事と怨みで頭がいっぱいになっていて、冷静さを失っていたとしたら? 久兵衛と又之助に自分を預けた───『たったそれだけ』の理由でもし、そのまま油売りを殺してしまったとしたら? 口惜しさと怨みは晴れることなく、いやむしろ増幅された上に、その矛先はまるで無関係な大勢の人間に向けられるかもしれないのである。 『自分たちが苦しんでいるのに手を差し伸べてくれなかったから』 『姉が小津屋へ行くのを見掛けていながら、止めてくれなかったから』 ・・・等等、まるで見当違いの理由をこじつけて! そうなったら・・・この江戸はおしまいだ。ほとんど全ての人間が勇之介の怨みの対象になってしまい、火の海に沈むことだろう。 『オレがこうなったのは、全ては親を盗賊に殺されてみなしごになったせいだ!』 世の中の全ての人間を怨んでいた、あたしが斬り殺したあの『女誑』が、何の関係もない人間を殺そうとした、あの時みたいに・・・! でも・・・確かに、世間を恨みたくなる気持ちは、このあたしにも分からないではない。 火付盗賊改与力としての生きがいを見つけられなかったら、或いはあたしもそうなっていたかもしれないから。 剣術も腕力も会得できない自分の無力さを悔やみ、なのにそんな自分を大それた役職につかせた家族を恨み、自分だけが空回りするどうしようもない焦燥感を覚えていた、アノ頃のあたし・・・。 なのにあたしは、何故かそんなには澱んだ考えに身を浸さずに済んでいた。 それはきっと、変に前向きなアノ夢を時々見ていたから。(優秀な与力として凶悪犯をねじ伏せてるっていう例の夢よ) そして御厨さんを初めとする部下達の、江戸の人々を守ろうとの真摯な心に触れたから。 だからこそ分かるのよ。世間を恨むってことが、どんなに悲しくて空しいことなのかってことが。 絶対に、勇之介を止めなきゃ。例え、この命にかけても。 ───けど、一体どうやって!? あたしは絶望的になる考えを必死に叱咤しながら、手綱を握る力を強めたのだった。 《続》 ************************* ※今回のこの話を書いていて思い出したんですけど。 確か「外法帖」の戦闘シーンには、確か敵として馬にまたがった武士が何人か登場してるんでしたね(汗)。幕末、乗馬ってそんなにすたれてもいなかったのかなあ? でも、HPで調べた感じだと、かなり絶望的にすたれてたって話だし・・・。うーん、どっちなんだろお?
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