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※明けましておめでとうございます。ちゃんちゃん☆ です。2007年度もどうか、よろしくお願いします。 さて、去年の3月以来の更新になりますか。今回も「モン◎ーターン」です。いちおーオールキャラもの(ただし男ばっか☆)のお笑い。某雑誌の某コーナーを見ていて、何故か思いついてしまったんであります。でもよく考えたら、競艇選手にこう言うのたしなむ余裕、あるんでしょうかね? わはは・・・。 では、後書きにて。 *********** その日。 北陸で行われていたG1に参加していた波多野憲二は、世にも珍しい光景を目にしたためつい、その場に立ち止まってしまった。 「うーーん・・・ちょお上手くいかんのお・・・」 あの艇王からでさえ「天才」と呼ばれる先輩・蒲生秀隆が、椅子に腰掛けテーブルに向かって何やら考え込んでいる姿なぞ、そう拝めるものではない。 ただ彼の、あまり深刻ではない様子からどうやら、トラブルに巻き込まれた等の悩みではないだろう。加えて今日の彼は、モーターも出ていて絶好調と聞く。先ほどのレースでもぶっちぎりの1着を取ったから、仕事上での悩みでもなさそうだし。 ───そうなると、下世話な好奇心がふつふつ、と沸いてくる波多野だ。一応先輩への礼節はわきまえているつもりではあるものの、気になるのは事実で。 それとな〜くさりげな〜く話を持ち出して、深くツッコんで良いかどうか、様子を見ることにする。 「何考え込んでるんですか? 蒲生さん」 「んーー? ・・・おお、何じゃ、波多野か」 波多野の挨拶に、蒲生はいつもの人懐っこい笑いを浮かべて答えた。 「別に、考え込んどるつもりはないんやが。要は頭の体操じゃ」 「頭の体操・・・ですか?」 「そ。たまには頭働かせんと、錆付いてしまうきんの。ま、気休め程度やがそれなりに面白そうやし、やっぱ日本人は日本人らしいことを、ちゅうてなv」 そう言って蒲生が波多野に指し示したのは、さっきまで隣の椅子の上に広げられていた、とある競艇雑誌。 そのうちの1ページに「競艇川柳」と銘打たれた1コーナーがある。折り癖がついているところを見ると、蒲生はもっぱらこのページを眺めていたらしい。 ───蒲生さんと川柳!? な、何かギャップが・・・。 そう思いはしたものの、心のうちを馬鹿正直に言葉にするほど、波多野も野暮ではない。だから、彼がこの場で実際に口に出したのは、まったく別の話題であった。 「あの・・・これって読者コーナーじゃないですか。選手が応募しちゃマズいんじゃ」 「投稿せんかったら別に構わんやろが。それに、客からの視点と選手からの視点っちゅうんは微妙に違うんやないかー、て思うての」 「・・・それは確かにそうですけど」 確かに、傍でただ見ていただけの頃と、実際選手になってからでは、レースやボートやペラに対する感慨が異なる。前者と後者を比較する、というのもこの際、案外良い気分転換になるかもしれない。 とは言うものの。 ───蒲生さんが本当にそこまで考えて、この川柳作りに励んでいたかどうかは、相当怪しいよなあ・・・。 波多野のそんな疑惑を、どうやってか蒲生の天才的勘は看破したらしい。少々荒っぽい動作で、可愛い後輩の頭を両手で抱えにかかる。 「はーたーのー、お前、ワシがガラにもないことやっとる、思うとるやろーー?」 「そ、そそそ、そんなことありませんよお」 「ホンマかあ? そやったらお前も付き合うて、1つひねってみんかい」 「ええ!?」 先輩からの無理難題に、波多野は思わず悲鳴を上げていたが。 何故か瞬間、脳裏にふと思い浮かんだ光景があった。 「『頼むから・・・』」 「ん?」 「『頼むから 人の賞金 当てこむな』ってのは・・・どんなもんです?」 ───豆鉄砲を食らった顔、と言うのは、こういうのを言うのかもしれない。 珍しく、驚いた風に目を見開いた蒲生の表情は、だが徐々に笑み崩れていった。 「わはははははっ! そ、それ言うて、お前が前言うとった姉ちゃんたちのことやろ。SG優勝賞金でリフォーム目論んだ、ちゅう話やったか? あはは、相変わらずなんやなあ」 「そうなんですよー。俺はもう実家出たって言うのに、母さんたち未だに話題に持ち出すんだもんだから、澄も顔引きつらせちゃって・・・」 実は波多野は、長く交際していた恋人と結婚し、実家からマンションへと引っ越したのである。さぞや新婚さん・2人きりの甘い生活を満喫できると思いきや、現実は結構世知辛いものらしい。 何故かここで蒲生は独身のくせに、既婚者であるはずの波多野に偉そうな解釈をたれた。 「まあ、そもそも所帯持つには金かかる、っちゅう話やけんの。数年前岡泉が結婚した時、婚約指輪にかなりの金、つぎ込んだらしいぞ?」 「うひーーっ☆ ひょっとして給料3か月分ならぬ、一般優勝3回分、とか? あ、でも岡泉さんとこ、もうお子さんいらっしゃるんですよね? 確か。もうさすがにそこまで贅沢は出来ないか」 「『4000万 妻がいつしか 学資保険』てか? はは、そっちもある意味、太っ腹や思うがの」 やっぱりワシはまだまだ身を固める気にはなれん。と、蒲生が出来もしないことをつぶやいたところで。 「・・・余裕ですね、蒲生さん。さすが今日1番のタイムで勝った人は違うな」 苦笑を浮かべ2人に話しかけてきたのは、やはりと言うか、艇王・榎木であった。 「ワシが今日1番のタイム? ほお、お前も結構早かったと思うたがの?」 「残念ながら、後一歩及びませんでして。でも、明日一緒のレースでは、勝たせていただきますから」 穏やかな口調ながら、きっちり闘志を燃やす榎木に、波多野が思わずつぶやいた一言。 「『健闘を 称えながらも 宣戦布告』・・・」 「・・・・・・え?」 「おー波多野、これでもう2つめやないか。やるのー。ただ競艇選手やなくて、スポーツ選手やったら誰でも通じるんが、今一つっちゅうとこやか」 「あの、一体何の話ですか、2人して」 戸惑う様子の後輩に笑いかけながらも。 蒲生は先ほどから頭の体操と称して、波多野と川柳をひねっていることを話した。 が、それに対する榎木の対応と来たら。 「ふむ・・・熱はまだないようですね・・・」 「・・・榎木、あのな」 「だって、蒲生さんはどちらかと言うと、ヒラメキで動く人じゃないですか。天才肌と言うか。なのに珍しいことなさってるから、知恵熱でも出てないかと思いまして」 「お前、人に『慇懃無礼』っちゅうて、言われたことないか?」 「ははは、蒲生さんが初めてですね、きっと」 ───うわ〜・・・榎木さんてば先輩の蒲生さんに対して、結構すごい言い草なんじゃ・・・☆ 波多野も2人の大先輩の妙なやり取りに、傍でハラハラせずにはいられない。 それでも蒲生が大して怒らないのは、研修生時代からの長い付き合いでお互い気心の知れた間柄なのと、下手をすれば本気で知恵熱を心配しかねない、榎木の生真面目な性格が要因だろう。 目の前の一種異様な雰囲気に思わずヒキそうになるところを、何とか踏みとどまる波多野。本人同士はともかく(←ここ重要☆)、見守る周囲が妙な緊張で固まってしまったのを何とかすべきだと感じたので。 とは言え、さほど手段が思い浮かばない現状では波多野も、わざとらしい話題転換ぐらいしか出来なかったが。 「あ、あの榎木さんっ、榎木さんは何か面白い川柳、考え付きません?」 「川柳ねえ・・・俳句と違って、季語はいらないんだったかな?」 「いらんいらん。素直な思いの丈を、575の言葉に託せばええんやから」 「素直な思いの丈、ですか。確かにそれは、蒲生さんの得意技かも知れませんねえ」 さりげに失礼な前置きをし、ほんの数秒考え込んでから、榎木はおもむろに告げた。 「・・・『言わずとも グランドスラムを わが腕で』ってのは、どうです?」 ───一瞬、先ほど以上に空気が凍った直後。 「うへえええ・・・それは確かに、榎木さんにしか言えないですよ・・・」 「お前なあ、もちっとオブラートに包んだような表現、出来んのかいな」 「おやおや。素直な思いの丈を託せ、って蒲生さんがおっしゃったんじゃないですか」 どことなく青ざめた波多野と。 うんざり顔の蒲生。 そして、そんな2人を実に微笑ましく見つめる榎木の仕草を見るに至り、辺りは「もう勝手にしてくれ」と言わんばかりの投げやりな雰囲気に包まれるのである。・・・実際、榎木の他にグランドスラムを実現できそうな人物はあいにく、今回のレースには出場していなかったので。 周囲の諦めムードも何のその。3人の勝手な会話は続いている。 「けどなあ榎木。今は仮にもG1を闘っとる最中やっちゅうに、SGの話されても何かシラけると思わんか?」 「・・・まあ、確かに。さっさと戦線離脱してしまっているなら、話は別なんでしょうけど。我ながら、ちょっと傲慢だったかな」 「2人ともホント余裕ですよね・・・とっくに準優確定なんだから、無理もないけど」 「そう言や波多野は、明日勝負賭けやったな。こうなったら思い切ってぶっちぎりのTOP、獲ったれや」 「無茶言わないでください。明日のレース、蒲生さん以上に絶好調の犬飼さんが一緒なんですよ」 「ははは、さすがに怖いもの知らずの波多野でも、ホームプール相手じゃ手も足も出ないらしいね」 ───ちなみに今回、このG1で優勝の最有力候補として挙げられているのは、実は榎木でも蒲生でも波多野でもなかったりする。 そんな中。 ある一選手が、自分にしか聞こえない声で『年末を 獲るのが先決 今はまだ』と呟きつつ(←結構律儀☆)、さっさと食堂を出て行こうとした。 が。 「おーしっ! 榎木がそないなら、ワシも素直なココロとやらをぶちまけようやないかー。遠慮なんぞするほうがアホらしいわ」 まるでその選手の心中を読んだかのように、とんでもない川柳を詠んだのである。 「『息子との レースは父への 前哨戦』。どやっ!」 をいをいをいっ!! こらこらこらっっ!!! 周囲があきれたような、焦ったようなツッコミを同時にする中。 勝手に川柳の題材にされてしまった件の選手───洞口雄大は、明らかに一旦足を止めた。 ───どうでもいいことながら、今回のG1での優勝最有力候補は、彼でもない。 「・・・聞き捨てならないですね・・・蒲生さんはもう、僕は眼中にないとおっしゃるんですか?」 それから彼は、ゆっくりと振り向きながら静かに尋ね返して来たものの。 そこに至るまでに怒りやら、悔しさやらを懸命に押し殺していたんじゃないか───同期で良きライバルでもある波多野は、そう感じずにはいられない。 「は? 何でそうなるんじゃ?」 が、爆弾を投下した当の本人は、何故か呆気にとられたような顔で洞口Jr.を見つめ返し、皆を困惑させる。 「別に眼中にないなんて言っとらんぞ、ワシは。第一お前、おもろいレース運びするけんの、結構楽しみなんじゃ、一緒のレースに組まれるんは」 「・・・どうも」 「ただなー、若い時の親父さんもきっと、よお似たレースしたんやろうなー、思うてのー。要は擬似練習みたいなもんじゃ、洞口武雄とのレースに向けての。ま、ワシの勝手な思い込みかも知れんけど。 何せワシ、SGとかG1じゃ未だ、洞口武雄と戦っとらんさかい。いっぺんは大きな舞台でやってみたいんやが、『愛知の巨人』と」 意外な告白に、洞口Jr.と波多野がほぼ同時に言葉を発する。 「え・・・そうなんですか?」 「ホントですか? まだ1度も? 俺なんか2度ほどありますけど?」 「ホンマやって。何せ以前のたった1度のチャンス、みすみすフライングでフイにしてもうたさかい。『フライング 一日千秋 水の泡』ってか?」 「「あ・・・・・」」 そう言えば十数年前、蒲生がSG決勝戦でまさかのフライングを犯した時、実は洞口武雄が同じレースにいたと聞いている。そして蒲生はそれ以来、SG斡旋を辞退して来たのだから、グレードの高いレースを好んで戦っていた『愛知の巨人』との接点が、あろうはずもない。 何となく気まずい後輩2人を見かねてか、榎木がさりげなく言葉を挟む。 「・・・仕方ないですよ、運悪くすれ違いになってしまったんですから。大怪我した洞口さんが一般戦に復帰した頃、蒲生さんがSGに復帰、でしょう? オマケに最近は、あまりベテランはG1に斡旋されませんし」 「そうそう、そうなんや。なーんかめぐり合わせが悪くてのー。今回も狙っとったんに、向こうが斡旋されんのじゃなあ・・・。しょっちゅうガチンコしとる榎木たちが、ホンマ羨ましくて仕方ないわ」 「本気でガチンコですけどね・・・何かすると、強烈なダンプかまして来る人っスから」 「そうやったのー。榎木も波多野も結構、やられとったんやったな。 っちゅうことは、ワシもまだまだかわせるレベルやないかなー。かわせるかもなー。そやから、やってみたいんにのー」 そう言って、羨望の色さえ伺わせる目をされては、さしもの洞口Jr.も毒づく気にはなれない。 「・・・ご心配なく。殺しても死にそうにないあの親父ですから、きっとそう遠くないうちにSG出場権、手に入れますよ。その時は覚悟してください。 それに、俺だってそのうち絶対、蒲生さんに勝って見せます。前哨戦なんて、もう言わせませんから」 彼らしい言い方でとっとと話を打ち切り、洞口Jr.は食堂を出て行く。 「可愛くねえ言い方」と、それでもホッとした様に憎まれ口をきく波多野は、ふと指を律儀に折りながら口ずさむ。 「『リベンジは 親父と同じ ステージで』・・・って辺りが、あいつの今の心境ですかねえ?」(こっちの方がよほど素直じゃないよーな☆) 「おや、上手いね波多野。結構そっち方面の才能あるんじゃないかい」 「結構アドリブきくんやな。引退してもそっちの道で、食っていけるかも知れんぞ」 「・・・ほめられてる気、しないんスけど。それに、今から引退した時の話はやめてくださいよー。俺は師匠の古池さんくらい長く、現役でいるつもりなんですから」 ちょっとスネて見せた波多野だったが、不意に「あれ?」と驚き顔で目を見開き、先ほど同期が出て行ったばかりの出入り口を見つめる。 そこには、ちょっと前に彼らの間で話題になっていた、このG1優勝候補NO1選手が佇んでいたのだから。 「・・・犬飼さん!?」 「お前ら、何かあったんか? さっき洞口とすれ違ったが、ヤケに機嫌良さそうに見えたぞ?」 「え、ええ、まあ・・・って、機嫌が良かったあ? あいつが??」 「犬飼さん、相変わらず絶好調みたいですね」 「当たり前や。地元開催のG1で、よそ者にデカい面されて、たまるかい」 ───そう。 今回、榎木や蒲生を差し置いて優勝候補に挙がっているのは、この競艇所をホームプールに持つ彼、『北陸の狼』こと犬飼軍司なのだ。 なのに、蒲生の川柳作りについつられ。先ほど行われていたはずの犬飼のレースをつい見損ねて───どころかすっかりド忘れてして☆───いたため、いつの間に戻って来た彼の姿に、波多野は仰天してしまったのである。 彼らに律儀に付き合っていた榎木も、波多野同様に犬飼のレースの結果を知らない。が、馬鹿正直に「見てなかった」と言うのはあまりに失礼。それで当たり障りのない言葉で相手の様子を伺う辺りは、さすがに年の功だろう。 しかし。 「おー犬飼さん、レースどないでした? ま、負けるハズはないと思うけんど、うっかり見るの忘れとって」 能天気な声が、榎木のささやかな努力をあっさり無と化す瞬間を、目の当たりにした気がする波多野であった。 ───犬飼の眉間にピシッ! とシワが寄ったように思うのは、決して目の錯覚ではあるまい。 「・・・ほお、さすが天才は余裕だな。人のレースは気にならん、と来たか」 が、波多野の焦りも、榎木の頭痛もどこ吹く風で、蒲生はマイペースだ。 「そう言う言い方、カド立つきにやめて下さいって。言ったでしょお? 負けるハズはない思うとったから、っちゅうて。 ・・・そやな。『今更や 横綱相撲 騒ぎなや』ってトコかな」 「・・・何だそれは。川柳か?」 「ヘタクソですけんど、発想の転換っちゅうか。さっきからこいつらと一緒に、ちょっとやっとったんですわ」 それに、と。 蒲生の声質が若干変わったことに気づき、波多野は焦っていたことを忘れて榎木と顔を見合わせる。 「・・・犬飼さんやて、ワシらのこと言えんのと違いますか? ワシが今日のベストタイム出したレースん時、例の如く寝とられたんでしょ? さすがやわ。明日のレースこそうかうか出来ん、思うとりますわ」 「確かに、お前らんことは言えんな。・・・ま、結局のところ最大のポイントは、自分をどうベストへ持っていくか、っちゅうことやからな。 つまり蒲生、お前にとっちゃ、そうやって波多野たちとふざけてるのが、マイペースを保つ秘訣っちゅうことなんか」 「へへ、そこんところは想像に任せますよって」 野性の本能か、あるいは人生経験の差か。 見事なまでに一髪即発状態を収拾してみせた蒲生は、かるく波多野たちへウインクして見せた。そろそろ引き上げ時だから、と言うことなのだろう。 どことなく胸をなでおろし、蒲生が肩を組んでくるのに任せ、彼と共にそのまま食堂を出ようとした波多野と榎木だったが。 「あー、そう言えば犬飼さん、犬飼さんやったらどないな川柳、作るらはるんですかー?」 ・・・蒲生が、仮にも先輩に向かって気安い言葉をかけたので、眉をひそめずにはいられない。 が、当の犬飼はと言えば。 まるで端からそう持ちかけられることを分かっていたかのように、大して気を害した風でもなく、こう応じたのであった。 「『故郷(フルサト)で 同じ獲るなら より上を』」 《終》 ************* ※久しぶりに書いた「モン◎ーターン」なのに、キーボードを叩く手が進む進む・・・。川柳って結局、個人の主張合戦みたいなものですからね、結構楽しかったです。 ホントは潮崎の『息子との プリクラ見せて 笑むライバル』(岡泉のこと詠んでる)とか、純の『A1に なりて気がつく 面白さ』とかも用意してたんですが、中途半端になりそうなんでやめときました。 ちなみに最後の犬飼さんのは、「三■でSGやらないのかなー? 間近でSG見たいなー」と言う、ちゃんちゃん☆ の願望ですんで。ハイ。
※・・・スミマセン、数日前にあんな話書いときながら、本日の某スポーツの結果に思わずツッコミ入れずにいられなくなりまして。 ほとんど推敲なしに書きました。一部不愉快な箇所があるかもしれませんが、あくまでギャグですんで、ご了承ください。ちなみに主役は波多野です。そしていつも以上に、蒲生さんの讃岐弁がメチャクチャです(T_T) 誰も本気にはしないと思いますが、一応事前に断っておきます。 この物語はあくまでもフィクションであり、実際の個人・団体・施設等には何の関係もございませんから!! ************* そもそも波多野の様子がおかしくなったのは、その日のレース後顔なじみの記者と雑談をしてからだ、と皆が記憶している。 「マジっスか!? ホントに日本が準決勝進出、決定したんですか!?」 「そう聞いてるよ。アメリカがまさかの敗退でね。韓国との三度目の正直だって、世間は大騒ぎになってるみたいだけど・・・」 「そ、そうなのか・・・見たいなあ・・・」 「見たいって・・・ああ、そう言えば波多野君て、もと高校球児だっけ?」 「ええ。あいにく甲子園には行けませんでしたけどね。何か胸が躍るなあvv」 そしてその日波多野は、平和島のレコード記録にコンマ1秒と迫るブッチギリの強さで勝利したものの、折角の勝利者インタビューでもどこか、気がそぞろで。 その理由を周囲が知ったのは、夜、選手宿舎でスポーツニュースを見てから。 ───ご多分に漏れず。 昔野球少年だった波多野は、王貞治の熱狂的大ファンであった。 「じゃ、何か? お前がやたら今日のレースに早くケリつけたがってたのって、一刻も早く宿舎に戻ってニュースでW●Cの結果を、確認したかったからなのかよ?」 「は、はあ、まあ、そういうことなんです、ハイ・・・」 浜岡がそう波多野に詰問したのは、夕食も終わり、ひとっ風呂浴びようと足を運んだ風呂場だったのには、果たして作意はなかったのか。 現に、周囲の選手は耳をそばだてて、2人のやり取りを伺っている。それが今日のレースで、波多野に負けた選手なら尚のことだ。 『オレはああいういい加減なヤツに負けたのか・・・』と言う呟きが、あちらこちらから漏れて来る。 「・・・あのなあ。まだ準優に進めるかどうかの瀬戸際だってのに、そんなことにうつつを抜かしてて大丈夫なのかよ?」 「だ、大丈夫ですよ。気合入りまくってますから」 どこか引きつった笑顔と共にそう答えた波多野だったが、異を唱える人間は必ず存在するもので。 「それはどうかな? もし日本が韓国に『3度目の正直』とやらで勝ちでもしたら、別の方向に気合が入るんじゃないのかい? 波多野」 「な、なにおう?」 いつものごとく、波多野に対してそんな小生意気な言葉を発したのは、洞口Jr.である。 その言い草自体は彼らしいであろう。が、わざわざ口に出さなくてもいい事柄でもある。 何故なら黙っていればあるいは、波多野は最終日に早く帰りたいばかりにわざと負けを重ねる、ということがありうるわけで。 ある意味それは、真剣勝負の上でならともかくも、わざと負けたりしたら許さない、と言う洞口Jr.の潔い気概をも、示しているのだ。本人には今ひとつ、自覚がないらしいが。 そして波多野にとって運の悪いことに、彼の負け逃げを断固許してくれそうもない男がもう1人、今の会話を聞きつけていたのだ。 「ほー、何やおもろいコト話しとるなあ? 波多野」 「が、蒲生さん・・・☆」 いつの間にやら背後に迫っていた蒲生が、ほとんど羽交い絞め同然に波多野に抱きついた。・・・満面の笑みをたたえて。 「そーいや、ワシの近所の連中にも数年前やったか、オリンピックの野球中継見たさに約束サボって後でエライ目に遭うた、ちゅうんがおったなあ」 「そ、そうなんですか?」 「野球好きにはああいう世界大会ちゅうて、たまらんもんらしいのお。決勝戦なら尚のこと。あいにくワシにはピンと来んわ。今でもあんましウチでテレビ見んし。 ・・・まーさーかー、とは思うけど波多野、お前、『だぶるー●ーしー』とかのTV中継見たさに、最終日のレースそこそこの時間で引き上げる、ちゅう算段でおるんやないよ、なああ?」 「ま、まさか、ですよ、それこそ。・・・はははははは」 「そ、か。そやったら安心したわ。ワシなあ、榎木やお前らとスリリングなレースするん、今節もめっちゃ楽しみに来たっちゅうに、逃げられたらどないしよー、思っとたんやー」 「そ、そんなこと、するわけないでしょ。か、考えたことも、ないっス。こ、こ、これっぽっちもっ」 「そやろーそやろー。今から決勝レースが楽しみやなー」 ───蛇ににらまれた蛙? ───イヤ、どっちかと言えば、少々気の弱い狐と、ぶ厚い毛皮を二、三枚かぶった狸の化かし合いじゃないか? 不運にもその場に居合わせた人間は、2人を見て皆そうツッコンだが、そろって心の中だけでとどめている。 下手にここで受け答えしようものなら。 そのままプロレス技にでも持ち込みそうな凄まじい迫力と共に、波多野に抱きついている蒲生の『感情』の矛先が、こちらに飛んでこないとも限らないではないか。 だから皆、一瞬だけでも不埒な考えに及んだ同僚に遠巻きで、心の底から同情するのであった。 蒲生の横で、ダラダラと脂汗を流す波多野は、だから気づかなかった。 自分の杞憂が馬鹿らしくなった洞口Jr.が同期の『危機』をあっさり見捨て、さっさと自室に引き上げていったことを。 そして───。 「ナイスタイミングっス、榎木さん。ホント、助かりました、蒲生さんに話つけて下さって」 「礼を言いたいのはこっちだよ。浜岡くんこそ、よく私に相談してくれたね。もし蒲生さんがこのことを知らないままだったら、きっともっと機嫌を損ねていたと思うから」 「みたいっスね、あの様子じゃ。・・・まあ、オレも少し考えすぎかな、とは思ったんスけど、念のためって言うか、釘刺しときたかった、っていうか」 物陰で同支部の先輩と『艇王』が、ひそひそと密談していた、などということも。 *************** かくして、波多野憲二は無事、21日の決勝戦にコマを進め、蒲生や榎木たちと熱戦をくりひろげたのであった。 尚、予断ではあるが。 気を利かせた幼馴染の澄が、わざわざW●Cの決勝戦を録画してくれたから良かったものの。 日本がキューバに劇的な勝利を遂げた、その決定的瞬間をタイムリーで見損ねたと知った波多野が、滂沱の涙にくれたのは───言うまでもないことであろう。 《おしまい》 −−−−−−−−−−−−−−−−−− ※まずは一言。 波多野ファン、ゴメン(平伏) イヤ、日本がW●Cの決勝戦にコマを進めたことも、優勝したのも、本来なら喜ばしいことなんですけどね。 そのせいで案外、折角の総理大臣杯決勝が盛り上がりに欠けたりしなかったろうなー? とか思ったら、何か書かずにはいられなくなりまして。 よく考えたら、波多野は昔野球してたんだったよな? とか思い出したら、どうしてもこんな方角にしか筆が進まなくなった次第です。ホントにゴメン。 あくまでもギャグだってことで、大目に見てやってください!!
昨日はSSをUPすることでめいっぱいだったのと、さすがに11KBのテキストの後に文章を足すと容量不足になるだろう、との判断で、後書きしませんでした。 ですんで、こっちに書こうと思います。 そもそも発端は、SS前書きにも書いたけど、久しぶりの「アニメ・モン●ーターン」新作イラストを、今年の総理大臣杯ポスターとして見た、ことです。いい加減「モン●ーターン」新作に餓えてたちゃんちゃん☆ は、それだけで「ほえ〜〜v」と喜び勇んでしまい。 どうせだから、総理大臣杯ネタで何か書けないかな? と思ったんであります。 その時、何故かいきなり頭の中に思い浮かんだのが、 蒲生さんが青空の下、愛車を整備している図 だったんですよねー。 実家が『蒲生モーターズ』だし、きっと手馴れたしぐさで整備するんだろうなー、鼻歌でも歌って、などと思考は更に進んでいたのですが、ちょうどその時、ずっと前々から構想してた長編SSのネタが、リンクしてしまったんです。 波多野が、とある理由で榎木さんと2人きりで話す機会があって、 「蒲生さんが特定の恋人作らないのは、きっとあの愛車にハマってるせいだー」 とか何とか言ったら、榎木さんが真に受ける、ってシーンに。 ・・・断っておきますが、これってれっきとした健全ネタですからね?(^^;;;)単なる言葉遊びの一環なんですよ。SS全般のあらすじには、あんまり絡まないよーな。 ただ、その時は何故か機会がなくて、波多野も榎木さんもその発想を蒲生さん本人にぶつけてなかったよな、と思い出し。 んじゃ、折角だから榎木さんに言ってもらいましょv とホント、かるーい気持ちでした。 が、そのまま構想を練っていたら、ふと首を傾げてしまいまして。 何か、違う。 愛車=古女房、って言うのは確かに当たってるけど、それがすべてを指し示してるか、って聞かれたら、ビミョーにズレてないか・・・? じゃあ、蒲生さんにとってのアノ愛車って、何なの? と考えてたら、何故か他人に愛車を酷評される蒲生さん、なんて思い浮かんでしまいまして。 きっと蒲生さんのことだから、飄々としながらも心の底では静かに憤るんじゃないか。自分が好きなんだから乗ってるんだ、他人にどうこう言われる筋合いはない、って言いながら、フル整備に励むんじゃないか、と。 ペンキの剥げた後も、へこんだボディーも、決してなかったことにせず、目をそらしたりせず、何もかもひっくるめて愛してるんじゃないか、と。 ・・・そうしたら、今まで思っても見なかった発想が、頭にとりつきまして。 本文に書いたのが、ちゃんちゃん☆ なりの結論なわけです。きちんと読む人に正しく伝われば良いのですが。 **************** ところで、あいにくちゃんちゃん☆ は△菱J●epには乗ったことがないのですが(※記憶があいまいなのだが、かなり幼い頃に乗ったような気がする)、これって乗り込む時にかなりコツがいるらしいですね? 慣れていなかったり、優れた洞察力がないと、へっぴり腰で乗り降りする羽目になるらしい、と聞いてます。 作中で「蒲生さんの後輩」がヒラリ、と乗り込むシーンをわざわざ挿入したのは、何度か乗ったことがあるのと、後、彼に冷静な判断力がある、ってことを表現したかったんです。分かりづらかったろうけど。 もちろん、この「後輩」って言うのは、『モン●ーターン』内の「艇王」のことです。わざと明記しませんでしたけどね。 それから、実は当初の構想だと、蒲生さんが『彼女』の整備中、山口から榎木さんが会いに来てくれる予定でした。後に控えてる競艇雑誌の取材って香川で、実は榎木さんとの対談形式だったんで。(←趣味丸出し!!) でも話が締まらないと、泣く泣く削除しました。(T_T) 色々妄想してたのになーー。整備中一息つこうとした時、榎木さんが気を利かせてコーヒー淹れてくれるとか。んでもって自分用のコーヒーカップと一緒に持ってきて、蒲生さんと立ち話しながら楽しく飲んでる、とか。 競艇所じゃ絶対、ありえないシチュエーションですもん。 それと、ラスト近くで榎木さんが、 「地理的に近いから、新人時代はそれなりの間隔で一般戦がかち合ってた」 って言ってますが、実はこれには何の根拠もありません。(をい☆) ただ原作にて、主人公の波多野憲二が新人の頃斡旋されていたのが東京近郊ばかりのように思えたので、単純に「所属支部の近くから斡旋されるのか?」と推測し、文章内に盛り込んだ次第です。そういうものなのか、と変に勘違いしないでくださいね。 どうせなら、この話の元になった長編SSの方もいつか、発表したいんですけどね。なまじ蒲生さんカコバナ捏造だし、構想を文章にするのってホント難しい・・・。 -------------------------------- 追伸: マイPCの壁紙を、今回の総理大臣杯のポスターにして見てたら、面白いことを発見。 手前側で艇が競り合っている構成になっているんだけど、どうやらそのメンバーは 青(4号艇):洞口Jr. 緑(6号艇):波多野 黒(2号艇):蒲生さん 赤(3号艇):犬飼さん らしい。 ちなみにみんなでポーズを決めているイラストでは、青島が黄(5号艇)になっている。 ・・・じゃ、残った白(1番艇)って誰? ちゃんちゃん☆ 的にはやっぱ、榎木さんあたりがいいんだけどなー。彼って、白の勝負服が一番似合うし。(2番目に似合うのは、ヘルメットの色に合った黒だけど) しかしこれって、ドリーム戦なんでしょうか? それとも決勝レース? ・・・ポスター1枚で、ここまで妄想繰り広げられる自分って、一体・・・☆
※いよいよ総理大臣杯、始まりましたねー。(あいにく新聞とか、ネットを通じてしか観戦できないけど☆) 今回の話は、某・公式サイトさんに掲載されていた「2006年度総理大臣杯ポスター」(※壁紙アリvv)に思い切りよろめいてしまい、どうせだからこの時期の話を書いてやろう! と書き始めた次第です。・・・でも他の時期でも違和感なかったりして☆ もちろん、蒲生さんの話ですv では。 ************ 世間は卒業式だの、卒業旅行だのでかしましい3月半ば。 蒲生は久しぶりに、『彼女』のご機嫌取りをすることにした。 最近は一緒にいても、時折物騒な『声』を上げたり、その麗しいおみ足での走りっぷりをご披露してくれなかったりと、調子が悪そうなのだ。どうやら仕事やら、他の女やらにかまけていたせいか、ちょっと拗ねてしまったらしい。 幸運にも、今日は午前中だけなら時間がある。午後からは競艇雑誌の取材があるものの、それまでは完全なるフリータイムだ。コミュニケーションをとるにはもってこいであろう。 「そんじゃ、ちょっとおじさんにお口開けて見せてね〜?」 ふざけた口調で、その実真剣な表情で言いながら、使い慣れた工具で愛車の点検を始めた蒲生であった。 さすがに3月ともなると、ここのところ春めいた天候が続いてはいたが、今日はことさら良い天気である。空はどこまでも青く、雲ひとつない。冷たい風も吹くことなく、外で自動車整備をするには絶好の日、と言っても過言ではないだろう。 幸いにも、愛車のエンジンには大したトラブルは見当たらず、蒲生は胸をなでおろす。既に車自体は生産中止になってしまっているので、部品交換、と言っても純製品ではもはや不可能に近いからだ。 まあ、自分はこれでも専門家だ。そうなった時は似たような部品で、うまく修理する自信はあるのだけれど。 当面の不安はなくなったこともあり、蒲生はついでにと、『彼女』のクリーニングに取り掛かる。 「フンフ〜ン、フ〜ン♪」 手入れするのにも、つい鼻歌なぞこぼれるのは、陽気の良さのせいか。 この手の車ではさすがに洗車はできないし、たとえ幌をつけたとしてもジッパーの部分が錆びるような気がするので、流水をかけっぱなしには出来ない。だからもっぱら、濡らしたタオルで磨くやり方となる。時々さび止めを塗ってやるなどせねばならず、手間がかかることこの上ない。 もっとも蒲生は、こういう手間のかかりようをこそ、愛しているようなものだが。 ・・・ふと。 ───えらくボロっちい車っすねー、こいつ。蒲生さんならちょっとした中古車でも、整備しだいで新品同様に出来るんでしょう? だったら、買い換えたらどうですか? こいつ、手間かかるだけだろうに・・・。 かなり以前、そう言われた事を思い出し、手が止まる。 『彼女』との付き合いはそこそこ長い。さすがに『蒲生モーターズ』の古株従業員には及ばないが、それでも競艇選手になる前に購入した代物だ。 『4WD』と言う呼び方がまだ一般的ではなかった頃、自分の行動範囲に見合う機動的な車が欲しくて、買った車。山だろうが海岸だろうが、それこそ自分の手足のように操ることが出来るのが嬉しくて、色々理由をつけては乗り回していた記憶がある。 だが、自分にとって『彼女』にいまだに乗り続けるのは、惰性に似た愛着、以外の意味があるのかもしれない───最近蒲生は、そう思うようになったのだ。 **************** ───蒲生さんにとってこの車は、古女房みたいなものでしょう? いつだったか、あれは丸亀でG1が開催された頃。こちらはつい最近のことだ。 地元だと言うこともあって、この愛車に乗って丸亀競艇所へ乗り込んだわけだが、その最終日だったと思う。やはりあの日も天気が良かったので、最寄の駅まで送るから、とレース後の後輩を1人乗せてやったことがあったはずだ。 『彼女』のあまりの年季の入りように、蒲生になじみの薄い記者などは、イヤな感じの笑みを浮かべてこちらを見ていたらしいが。 件の後輩はと言えば、 「ああ、懐かしいなあ。相変わらず大事に乗ってるんですね、蒲生さんらしい」 と、久しぶりに会う旧友に対するような眼差しで『彼女』を見て。 それから「お邪魔します」と、まるで自室にでも招かれたような挨拶と共に、ヒラリと乗り込んで来た。まるで躊躇なしに。 そう言えばこいつは何度か『彼女』に同乗したことがあったんだったな、と十数年前のことを思い起こしていた蒲生に、この後輩が唐突に言ったのが『古女房』発言だったのだ。 「はあ? 古女房やと?」 「以前、波多野と話してたんですよ。蒲生さんが結婚しないのは案外、この車に入れ込んでるせいじゃないか、ってね」 「お前ら・・・2人して勝手に妙なこと話しとるなや」 「言いえて妙だと思いますけどね? どっちみちこれってデート用に向かないでしょうし、実際、付き合ってる女性は乗せたことがないんじゃないですか? 違います?」 「・・・・・・」 図星をつかれて二の句が告げられない蒲生に、助手席の後輩はクスクス笑う。 「さすがの蒲生さんも、2人の女性を同席させるほど図太くは、ないみたいですね」 「あのな・・・」 「いいじゃないですか。人であれ車であれ、そこまで惚れ込めるのならある意味、素敵だと思いますよ」 この後輩は時々、やけに文学的なセリフを言う。別に癇に障ったりはしないから構わないのだが、それだけに心に残ったのも事実。 「・・・そや、な。恋女房、言うんならちょっと違うきに、古女房、か。確かに辛い時も苦しい時もずっと一緒、みたいなイメージあるかも知れんの。 しっかし、何か演歌みたいやなー。今時古いわー」 「・・・・・」 蒲生がわざと明るく言って見せたのには、さしもの後輩も苦笑を返すだけだった。 ***************** 辛い時も苦しい時もずっと一緒───。 蒲生があの時、思わず口にしたその言葉は、決してただの比喩ではない。蒲生が十数年前、実際に味わったものだ。 並み居るベテラン勢を押しのけ、20代の若さでSG初優出を果たしたその直後、痛恨のフライング。 色々ともてはやされていただけに、叩かれ方もまた半端ではなくて。たとえ蒲生が、名声とか人の評判とかはあまり気にしないとは言え、かなりショックを受けたのを覚えている。 それでも負けず嫌いだったから、早く立ち直りたくて。 でも周囲の冷たい目は、どうしようもなく、プレッシャーも酷くて。 ・・・何より、勝てないレースはしたくなかった。出るからには勝ちたかった・・・。 そんな頃だったのである。知り合ったばかりの自動車のディラーに、無責任なことを言われたのは。 ───買い換えたらどうですか? こいつ、手間かかるだけだろうに・・・。 何故か分からないがカチン、と来た。 幸い、一緒にいた従業員が空気を読んだのか、それとなく話をそらしてくれたからそれで済んだのだが、何をくだらない事を言ってくれるのだ、と腹立たしく思ってしまって。 そのディラーが帰るやいなや車庫に閉じこもり、しゃかりきになって『彼女』のフル整備をした覚えがある。 ・・・今にして思えば、あのディラーの発言に深い意味はなかった。どうやら競艇には興味がない輩だったようだし、単に自分の中古車を少しでも捌きたくて、期待半分で持ちかけただけだろう。 ただ、何も知らないヤツが勝手なことを抜かしやがって、と思った自分も、確かにそこにはいた。 手間がかかるから何だ? そのせいで何か、他人に迷惑でもかけたか? 整備するのは全部自分なのだ、それに、手間がかかるのも楽しみの1つだと言うのに・・・。 我ながら意固地になっていたな、と今なら冷静に判断できるのだが、あの頃は青二才だった。あるいは、フライングのせいで他人からの批評に、必要以上に過敏反応しただけかも知れない。 そう───これ以上周囲に迷惑をかける前に、さっさと競艇に見切りをつけて、第二の人生を送った方が身のためだ、と言われたかのような錯覚に陥ったから。 あるいは古びた愛車に、その頃の傷だらけの自分自身を重ね合わせていたのかも、知れない。 絶対見限るものか。 ・・・そう、決意したのは誰に対してのものだったのか。 月日は流れ。 それから十数年後、丸亀で波多野憲二との幸運な出会いを経て、蒲生がSGに復帰し。 最初こそプレッシャーに押されてポシャりもしたが、勘を取り戻し始めてからは順調に勝利を積み重ね、いつしか中堅どころの強豪、と言う評価を世間から受けるようになった頃。 ───新車買わないンすか? 蒲生さん。折角相当稼いでらっしゃるのに。 新しい車が欲しいから選手になった、と嘯く新人選手が、たまたま蒲生の愛車を見た時そう言ってのけたのだ。 蒲生とそれなりに親しい者たちは、皆眉をひそめずにはいられない。 いわば不文律で、蒲生が愛車を買い替える意思などないことは、分かりきっていたから。 そして、蒲生とそれほど親しくない者たちも、肝を冷やして成り行きを見守っていた。 仮にも先輩に対して、自分の趣味をこうも堂々と押し付けるのは、あまりに不躾だろう。 妙な緊張感漂う中、蒲生はヘラリ、と笑って答えて見せた。 「んー、考えたことないわ。金はみんな、全国24競艇所におるワシの女に貢いどるしのー。それに今新しい車買うても、自分で整備する時間ないと思うたら、めんどくさいやないか」 他人に整備を任せるなど考えもよらない、と言わんばかりの蒲生に、その場にいた全員が妙に納得したのだった。 その時やはり居合わせた、『彼女』とも昔馴染みであるかの後輩が、『古女房』発言を蒲生にぶつけたのは、後日のことである───。 多分この後輩は、漠然と思っていたに違いない。全国24競艇所にいると言う女性たちは皆愛人で、愛車こそが蒲生の本妻なのだ、と。だから何だかんだ言いながらも、最後には蒲生は本妻の元に戻るのだ、と。 ・・・確かにその仮説は当たっているのだろう。ただ、それが全てではない気がする。 ───新車買わないンすか? そう、あの新人に尋ねられた瞬間、蒲生は何故か想像してしまったのだ。 新品ピカピカの車を買い、そっちをメインに使うあまりに、『彼女』に乗らなくなったら、どうなるのか、と。 ひょっとしたら。 自分は『彼女』をどこか、見えない場所にでも閉じ込めてしまい、最初から存在しなかったもののように振舞うのではないのか、と・・・。 長らくのブランクはあったものの、今の自分は賞金王決定戦に毎年出場し、強豪選手の仲間入りを果たしている。そして、昔のことを自分の前で誹謗する人間なぞ、ほぼいない。 ・・・だが。 折角の初優出で、期待が高まる中フライングを犯し、大返還をしてしまったのも、紛れもないかつての自分なのだ。 その事実は曲げようがないし、決して忘れるべきではない。 蒲生は、この青空の下、柔らかな日差しを浴びて佇む『彼女』を、愛しげに撫でる。 錆が出て、ペンキを何度となく塗り直した箇所を。 うっかりぶつけて、わずかにひしゃげたフレームを。 そして、自分の意のまま軽やかに車体を操ってくれる、古びたハンドルを。 古女房というよりも。本妻と言うよりも。 『彼女』は自分が競艇選手として過ごしてきた、象徴そのもの。 辛いことも楽しいことも、全部一緒に味わってきたのだ。 それらを全部ひっくるめて、自分はこれからもずっと、決して忘れずに生きて行きたい・・・。 蒲生は漠然と、そう決意するのだった。 ***************** 「おおーっ、波多野ーーっvv 久しぶりじゃのお、会いたかったぞーーvv」 今年初めてのSGの前検日。 蒲生は数ヶ月ぶりに会う波多野憲二に、親愛と歓迎の意味合いでガシッ! とばかりに抱きついた。 彼らの後ろでは、香川支部の後輩や東京支部の浜岡が、呆れた顔をしている。 「あ・・・相変わらずっスね、蒲生さん」 クスクス、と失笑が漏れ、波多野はそうコメントを返すしかない。 周囲を気にする波多野に対し、人目などまるで気にしない蒲生。この取り合わせでの『ご挨拶』は、ほぼSGごとの名物と化しているらしい。 香川の蒲生にしてみれば賞金王決定戦が終われば、関東の強豪選手である波多野とは、総理大臣杯の時期にまでならないと会えない。だからこその歓迎ぶりなのだが。 実は今年の総理大臣杯は、波多野の地元・平和島だったりする。こちらが出迎える格好のはずが、こうも熱烈歓迎ぶりを示されると、波多野としても面食らうのも無理はない。 まさかこちらから抱き返すと言うのも、何だし。 「だけど、何で毎回毎回俺相手ばっかにハグなんですか? 同期の人とか、榎木さんとか、香川支部・・・はしょっちゅう顔合わせてるし今更だけど・・・とにかく。もっと親しい人、いるでしょうに」 「イヤ、新人時代は榎木相手にもしとったんやけどな」 「してたんですか☆」 少々呆れ気味の波多野に、背後から苦笑交じりの声がかかる。 「私は山口で、蒲生さんは香川だろう? 地理的に近いから、新人時代はそれなりの間隔で一般戦がかち合ってたんだよ」 「榎木さん! お、おはようございます」 「おはようございます。・・・じゃあ、その度に抱きつかれてた、ってことですか?」 「まあ、そういうことになるかな」 波多野と一緒にいた浜岡に問われ、榎木祐介は笑いをかみ殺すようにして答えた。 蒲生は、と言えば、先輩ならではの大らかな挨拶を、昔馴染みの後輩に返す。 「ホンマ、あの頃の榎木は純情やったからなー。抱きつくたびに悲鳴上げて、おもろかったんやけど」 「ああも頻繁に抱きつかれたら、誰だっていい加減慣れますよ」 「慣れるくらいに抱きついてたんですか☆」 「そやかて、女子選手に抱きついたらセクハラになるやないかー」 「論点ズレてるって☆」 波多野と笑い、榎木と話し、香川支部の後輩にたしなめられ。 そうするうちに、蒲生は自分の周りに人が集まってくる実感を覚えるのだった。 今年もまた、総理大臣杯が始まる。 《終》 ***************** ※良く考えたら、前検日の話なんだから、昨日のうちにUPしとくべきだったのかも。あう☆
「9年越しの水神祭」を、相互リンクサイト「紅龍館」へ贈りました。 小説末尾にもちゃんと書いておきましたが、ここにも念のため記しておきます。 (ち☆)
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