墓穴
座右の銘
『我が道を行く』

2003年06月18日(水) おもしろかった

ここ最近、まったくと言っていいほど新地開拓していなかった白猿の久々のヒット小説が現れました。
宮部みゆき著 『ステップファザー・ステップ』
宮部さんは世間でもヒットしている作品が多いし、前は小野さん(@十二国記の作家)とどっちの本を読もうか悩んでいたぐらいには興味がある作家さんでした。結局十二国記にドカ嵌りしたから、宮部さんの本は全然読んでなかったんだけどね(苦笑)

白猿の数少ないノンケの友達(笑)会社の同僚Kちゃんに、茅田さんの本を薦めたりしていた白猿でしたが、この間そのKちゃんが私に本を貸してくれました。
それが、『ステップファザー・ステップ』
軽いノリで読み始めたが、またこれが面白い!
おおよその概要だけ説明すると、時は現代。初版が1993年だから、そのぐらいがベースだと思う。
物語は、一人称で進められている。主人公であり、その語り手の男の本名は明らかにはならない。
彼は、プロの泥棒なのだ。
強気を挫き弱きを助けるタイプの情報屋の爺さんと契約を結んでいるけれど、本人も狭義に溢れた人物かと言えばそうでもない。暴力はふるわない温和な方ではあるが、盗るものは盗る。
キャッツアイの某三姉妹のように超優れた運動能力があるわけでもない、ごく普通の男である。
年は、30前半ぐらい。ルックスはそうそう悪くはないらしい。何故らしいかといえば、本人の一人称なので、そういう記述は無いからだ。だけど、背広がソコソコ似合うぐらいにはカッコいいらしい。

さて、ステップファザーとは、養父とか代理父とかいう意味があるらしい。
誰が、誰の、養父になるのか。
それが物語りの本筋なのだ。
とある東京に適度に遠い、ギリギリ都会圏内に入ると主張している新興住宅地にその主人公の男は仕事にやってきた。
突然莫大な遺産を受け継いだ一人暮らしの女性がターゲットである。
しかし、流石新築の豪邸にはセキュリティがしっかりとしてあって、彼は隣の家の屋根から侵入することに決めた。
が、本当に運が悪かったのだろう。
さぁ、突入といったその時に、今まさに飛び移ろうとしていた屋根に雷が落ちたのだ。
男は感電こそしなかったものの落下。もちろん、猫のように地面に着地できるわけもなく。
そんな男を助けたのが、彼が盗みに入ろうとしていた家の隣の家に住む双子の中学生の兄弟だった。

「僕は直(タダシ)」
「僕は哲(サトシ)」

笑った時に左にえくぼが出来ればそれが哲。右にできれば直。それしか見分ける方法が無いぐらいにそっくりな一卵性双生児。
屋根から落ちて負傷した男に、その双子はとある『お願い』をした。

「僕達の」
「お父さんになってくれない?」

彼らの両親は、それぞれが愛人を作って駆け落ちしてしまったのだという。
父親も母親も、相手が別の相手と駆け落ちしたのだと知りもしないで、子供たちは相手が面倒を見てくれているのだと勘違いしているらしい。
双子達は別にそれでもいいと言う。特に警察や施設に訴えるのは嫌らしく、そのまま二人での生活を続けていたのだが、やっぱり多少問題が発生する。一番大きな問題はお金のことである。
当然収入はゼロ。貯金も家のローンやらで消えていく。
男が拾われた時は、銀行の貯金は既に一万とちょっとしか残っていなかった。

男を泥棒と知った上で、泥棒なら僕達二人ぐらい養えない?と持ちかけたのだ。
当然男が前科があると踏んで、指紋を摂取。これを警察に持ち込まれたくなければ…という脅し付きではあったが。
怪我を助けてもらった恩もあるし、子供たちの境遇にちょっとは同情した男だったが、ステップファザーになるのはゴメンと考える男(そりゃ独身だしな)
身体が治った後、再度隣に泥棒に入り、そこでちょっとした事件を解決して(笑)手に入ったお金を子供たちに渡した。
それだけあれば家のローンはすべて払えるだろうし、どうせなら深く付き合わない金だけの契約という形にしたかったのだ。
だが、子供たちは懐いてくる。
本当の父母の事は「父さん、母さん」と呼ぶくせに、泥棒の男の事は「お父さん」と呼ぶ。
意味があるのか無いのかはわからない。
だけど、懐いているのだけは確かなのだ。

「僕達はね」
「二人で」
「一人分の」
「スペースを共有」
「しているようなものだから」
「どっちか一方だけが」
「喋るのって」
「なんだか」
「不公平なような」
「気がするんだよね」

という話し方すらするこの双子。
普段は頭の回転も速く、茶目っ気もある良い子たちなのだが、何かしらのパニックを起こすと自分自身がどっちだったか判らなくなる一面もある。
声も字も殆ど同じ。二人は違う中学校に通っているのだが、時々入れ違うという悪戯をしても教師も気付かないほどなのだ。
そのぐらいそっくりな双子を両親も見分けることは難しかったのだろう。
服には『S』と『T』のイニシャルがつけられている。

だが、男は見分ける事は出来なくても、その些細な声と字の違いを認識する事は出来る。
双子が「すごいね!」と言うぐらいなのだから、他の人は気付けない程の微妙な差なのだろう。

最初はぶつくさ言っていた癖に、結局イヤイヤながらに子供たちのステップファザーに巻き込まれて行く。
その過程が物凄く面白い。
本来の「父子の関係」とは程遠い。
時には頼り、時には知恵を借り、時には爆発したり、時には凹んでみたり。
中学生の二人と大の大人の対等な関係。
こんな3人が、大小様々な事件を解決するお話。
それが『ステップファザー・ステップ』というお話。

面白いから、是非読んでみてもらいたい。
私も、今度買いに行こうと思ってる♪

最後に、私が一番気に入っている部分を一つ。
何度も書いているが、物語は始終泥棒の一人称。
だから泥棒が考え事をしている時に双子が尋ねてきたりしたときは、心の中で返事をしたりしているのだ。(隠された本音という奴ね)
その中に、双子にどっぷり思い入れしちゃって可愛がっているセリフなんかがポロリと出てたりして、しかもそれがどうやら本人の自覚が無いらしい所がまた面白い。

まじ、面白いから本当にお勧めである。読みやすかったよ(笑)

あぁ、師匠にはもっとわかりやすい説明が出来るかもしれん。
男の喋り口調は、あの猫の『正太郎』と似ていた(笑)


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白猿