雑感
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十数年前から懇意にしていただいた、シュピッェンヒュッテル夫人
が他界したと連絡をもらった。
享年92歳。いつも笑顔のたえない、かわいらしい声の持ち主で
あどけない表情が忘れられない。新年に訪問したときに、ぎゅっと
彼女の両手を握り締めたのが最後になった。
傍目からは、やさしい家族に囲まれて大往生だと思うけれど、
長く生きてよかったのかどうかは本人にしかわからないこと
だろう。安寧で楽しいことばかりではあるまい。つらいことだってあったに違いない。
昨夜テレビで「グリーンマイル」の放映があった。原作を読んで、
映画館でも見たので2回目になるけれど、見ごたえのある作品
だった。死刑囚監房の看守だった主人公は、世にも不思議な物語
を女友達に語り始める。死刑執行の残酷さ、人間の善や悪、弱さ
を、コフィーという死刑囚を通して大写しになるエピソードに
ぐいぐい引き込まれた。
話を語り終えた主人公の長命にはびっくりさせられたが、彼の
孤独や悲しみがひしひしと伝わってくる。死なないということは
多くの別れを体験するということでもある。同時代に生きたひと
たちが、例外なく先に逝ってしまう。
主人公は、コフィを救えなかった罰だと言ったが、私はそうは
思わない。コフィは死にたがっていたと思う。彼に宿った不思議な
力は、人間の邪悪さを、骨のずいまで感応してしまい疲れさせて
しまったのだろう。
長寿であること、人の心が透けて見えることは、必ずしも人を
幸福にするわけではない。
明日何が起こるかわからないし、気に掛かる人の気持ちがよく
わからないからこそ、生きていけるということだってある。
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