「ふ・・・ふへ・・・?」
顔を上げると、そこには困ったような、優しい瞳をした瑠璃の顔があった。
「ホラ、そんぐらいで泣くな。 それとな、チョットもうどいてくれないか?」 「へ・・・?」
冷静になって、周りをよく見てみる。 だんだん顔が青ざめていき、冷や汗がたらたらと流れているのが自分でもよく分かった。
ちょっとまってよ、瑠璃はしりもちついてて、あたしは瑠璃の上にのかってて・・・
・・・・・・
あたし・・・・瑠璃を・・・・押し倒した・・・っていう・・・コト・・・で・・・
・・・・・・
「う、うわゃあああぁぁぁぁああああああ!!!!!!! ご、ごめん!!!!ごめん瑠璃!!マジごめん!!!!!」
あわてて飛び退いた。 頭がこんがらがってて、思いっきり挙動不審。 青ざめてた顔が、今度はトマトみたいに耳まで真っ赤になっていることだろう。
「・・・もう少し体重落とせ。重い。」 「・・・・・・!!!!!!!??????」
フン、といつものように鼻で笑って、立ち上がる。 心なしか、ちょっとほっぺた赤くなってる?
「で、んなことよりあの幽霊は何処行ったんだ!?」
・・・・気のせいみたい。 あたしの体重に文句つけときながら、そんなことよりですか・・・。 女扱いしてなさそうなところが、また気になるし。
ッて、今はそんなこと言ってる場合じゃなかった!!!
「ちょっとザル!!泡吹いてないで、さっきのヤツ何処行ったの!!?」 「・・・自分は怖がってたくせによく言うな・・・。」 「うっさい!!!」
「・・・怖かったノねん・・・。ユーレイって、走るのねん・・・。」
「「え、走る・・・?」」
瑠璃とあたしの声がきれいに重なった時、さっきまでそこにいたはずの彼が慌ただしく入ってきた。 聞き覚えにある、特徴的な大きな声。
「本官はボイド警部である!チミの相続した遺産について質問があるのだが?」
へ・・・なんで・・・?
「遺産なんかもうないノねん!」 「は?『青い瞳』は?」 「見てなかったのか警部?例の幽霊が持っていったじゃないか!」 「はぁ?幽霊なぞ、おらんよ。寝ぼけとるのかね、チミ?」 「え?さっき、ここにいましたよね?」 「ここに?ワシが?」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
・・・・・もしかして・・・・・
「やられた!宝石泥棒サンドラじゃっ!!おそらく幽霊もヤツじゃ!!」 「なんだと!!?」 「そんなーーーぁぁぁ!!!」
・・・・・・・・
『『青い瞳』はサフォーにもらったのねん。』 『それってサファイアの珠魅か?』 『うん。ボク達、お友達だったノ。 でも宝石泥棒が来て盗まれるくらいならって・・・核を外してボクに・・・』 『・・・・・』 『約束したノに・・・“彼女”の為にも、絶対手放さないからって・・・。』 『・・・取り戻してやれるといいんだがな・・・。』
ポルポタを出てドミナに向かう途中、瑠璃はずっとだまったままだった。 仲間が核のみで見つかって、しかも宝石泥棒によって奪われた。
核の持ち主は、きっと美しく誇り高い珠魅であっただろう。 あの、『青の瞳』の煌めきにふさわしく。
あたしが・・・幽霊を怖がりなんかして、飛びついたりしなければサンドラを追えただろうに。 バカなことをした。 ホントにバカだ、あたし・・・ 他人の足を引っ張るなんて・・・初めてだった・・・
あたし・・・何かできることないのかな? あたしがただの人間である限り、それは無理な願いなのか。
あたしがもしも瑠璃と同じ珠魅だったなら、その苦しみを分かち合うことができるのに・・・
「リタ。」 「え?」 「今日は・・・ありがとう。助かった。」 「・・・ううん。」
あたし、何もしてないよ。 そう、何もしてない。
そのまま瑠璃と別れて、コロナとバドの待つ家へと帰る。 日没までは、もう少しだけ時間はあった。 “アイツ”の鼓動が近づいてくる。 胸にわき上がる“不安”と“後悔”の念を押し殺して、目を閉じた。
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