『たとえ、龍騎士団から追放されようとも、 おれは自分の信念を貫きたいんだ・・・。』
『グレンなんて知らない!!』
「キライキライ、大っキライ!!!」 「うぉ!!? な、なんだなんだ?どうした、マルチェラ!?」
裏切られた、と思った。
セルジュ達とのまさかの敗戦の後、急ぎ足で古龍の塔最上部にいるはずの大佐とヤマネコのもとへ向かっている時だった。
「なんだぁ?さっきあいつらに負けたこと、まだ気にしてんのか?」 「あたしは負けてなんかない!! そーじゃなくて・・・。」 「なんだ?」
ケロッとしているカーシュに苛立ちを覚えてしまう。
「グレン兄・・・グレンのこと!!」 「ああ、あいつねぇ・・・。」
表情を変えず、ただ頭をポリポリとかくその態度は、 更にこちらを苛立たせた。
「ああ、じゃない! 兄代わりなんでしょ!? なんで、とか、どうして、とか思わないの!!?」
キーキー高いマルチェラの声に耳を塞ぎつつ、溜め息を吐く。
「お前はホンッと、グレンになついてたからなぁ・・・。」
肩で息をしつつ、瞳に涙が浮かんだ。 ぐいっとぬぐう。
『おい、マルチェラ。遊びに行こうぜ!』
まだ自分が幼く、グレンが騎士団に入っていなかった頃、 よく自分の遊び相手をしてくれた。 小さな手を引いて、館の外へ初めて連れ出してくれたのも彼だった。
苦い顔をしながらままごとに付き合ってくれたり、 時には肩車をして木に登らせてくれたり。 いろんな話をしてくれた。 カーシュのマヌケ話やダリオの自慢話、そしてリデルお姉ちゃんの話。 よく二人で溺れ谷に行って、青リンドウを取りに行ったりもした。
楽しかった。 大好きだったんだ。 家族のいない自分にとって、初めて出来たお兄ちゃんみたいだった。
騎士団に入って、まだ幼くしてグレンよりも早く四天王に昇進したあたしを、 悪く言う騎士達の中、彼だけはまるで自分のことのように喜んでくれた。
嬉しかったんだ。 みんなで大佐やお姉ちゃんを守れるんだって、 そう思ったのに。
「わかんないよっっ!!!」
今更・・・今更いなくなっちゃうなんて!!!
背後から大きなごつい手が伸び、ぐしゃぐしゃっとマルチェラのきれいに結われた髪をかき回した。
「何すんのよ!!」 「俺には、グレンは何か考えがあるのではないかと思うのだが・・・。 どうだ、カーシュ?」
うんうん、と頷く。
「気がまっすぐなぶん、俺たちみたく妥協できねぇんだよ、あいつは。」 「確かに。我々は四天王という位にある分、思うように動けぬからな。」
一人むくれているマルチェラと目線が合うよう、腰を曲げる。
「あによ・・・。」 「おまえ、グレンが俺たちを芯から裏切るようなヤツだと思うか?」
『マルチェラ、遊びに行こうぜ!』
「・・・思わない・・・。」
思いたくない。 いつだって淋しい思いをしていた自分に笑顔を投げ掛けてくれたのは、 グレンだったんだから。
「グレン兄ちゃんはそんなことしない!!」
お兄ちゃんなんだから。 あたしの。 大好きなお兄ちゃんなんだから!
「んおし!なら信じとけ! あいつはちゃんと帰ってくるってな!」
ばしばしっと思いっきり頭を叩かれた。
う゛ー、っと睨みあげる。 おお怖、とカーシュはおどけて逃げていく。 ゾアに早く行くぞと急かされる。
嫌じゃない。 こいつらのことも、好きだ。
グレンが自分の意志を果たして帰ってくるのを、 あたしはこいつらと一緒に待ってる。
でも、できるだけ早く帰ってきてよね。
そしたらまた、一緒に遊んでよ。
グレン・・・兄ちゃん・・・。
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