::からっぽ 2004年08月12日(木)

別れて二時間後のことだった。
けたたましく電話がなって、とったら、最悪の知らせだった。
あたしは、軽い病気で、あの人のことだから、きっと元気になって、
我が家に来るのだろう。
一人暮らしができない障害だと思っていた部分もある。
こんなことになるなら、もっと早く会いに行けばよかったと思った。
今も、頭の中であたしを呼ぶ優しい声がこだましているのに、
でも、もう実際は聞くことができないなんて。
会うこともできないなんて。
あんなにかわいがってもらったのに、
あんなにかわいがってもらっておいて
あたしは、少しでも何かを返せていたんだろうか。





会うこともできなければ、
あの大好きな懐かしい家を見ることも、その家の敷居をまたぐこともできなくなった。
過去の遺物として、わたしの頭の中と写真の中にだけ存在する空間となってしまう。
あと、一ヶ月で。
あと、一ヶ月でそうなってしまう。
なくしてしまいたくないのに、あたしはそうしないための財力も経済力も、年齢も環境も持っていない。




夏、この家から見上げた山は、どんなものよりも絶景だった。
この家にある植物には、かつてあたしよりも背の高いさぼてんがあったこと。
お風呂は外にあって、夜になるたびに小さなあたしはお父さんにつれられて、きゃあきゃあ言いながら夜風にあたり、高い高いをしてもらいながら入ったこと。
年代ものの冷房や、扇風機、台所にベッド。
二階には般若や能面があって、怖くて怖くてそっぽを向いて寝たこと。




一年と半年前、最後に会った。
家を探して、半分迷子になって、汗を流してやっと探し当てて、
笑いながら優しく出迎えてくれた。
意味の無い話ばっかしたけど、全部ふんふんと聞いてくれて
最後は、悪い足を引きずるようにゆっくり歩きながら、わたしを道路まで見送ってくれて、見えなくなるまで手を振ってくれたこと。




今でも、あたまのなかで
「○○ちゃんや〜」とか、
「元気にしよ〜る?」
って電話口でわたしに話しかける声が、響いている。




そして、今一番会いたい人も、ここにいない。
新幹線の中で、思わず涙があふれそうになって、
目をこすった指に、黒のアイライナーが涙に溶けて、すこしこびりついた。


2003年08月12日(火) 本格的に夏バテっぽいです。

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