日本の四季の移り変わりと、その美しさだけでなく、そこにあるなんちゅーか、そんな感じを。
あはれ 秋風よ 情あらば伝えてよ ―男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食ひて 思ひにふけると。
さんま、さんま、 そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。 そのならひをあやしみなつかしみて女は いくたびか青き蜜柑をもぎ来て夕餉にむかひけむ。 あはれ、人に捨てられんとする人妻と 妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、 愛うすき父を持ちし女の児は 小さな箸をあやつりなやみつつ 父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。
あはれ 秋風よ 汝こそは見つらめ 世のつねならぬかの団欒を。 いかに 秋風よ いとせめて 証せよ かの一ときの団欒ゆめに非ずと。
あはれ 秋風よ 情あらば伝えてよ、 夫を失はざりし妻と 父を失はざりし幼児とに伝えてよ ―男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食ひて 涙をながすと。
さんま、さんま、 さんま苦いか塩っぱいか。 そが上に熱き涙をしたたらせて さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。 あはれ げにそは問はましくをかし。
ご存知の通り、佐藤春夫の「秋刀魚の歌」です。この詩の本当の意味を知ったのは、この詩を知ってから何年も後のことだった。 リズムの良さだけで覚えてしまっていましたが、そこにある日本人の感性と言うか、なんちゅうか、今でも大好きな詩です。
たまにはこんなのも構いませんよね??だめかな〜、やっぱり(笑)。
|