■ 交わす言葉もないけれど。 視線だけを重ねて。 ■
■春愁■
僕は草薙(くさなぎ)。 所謂、三種の神器ってヤツの片割れで陰の象徴でもあるんだ。 でもって陽の象徴でもある天叢雲と一つになって完全なる神器としての神剣になるんだ。 ……嬉しくないことに、ね。
僕の主は咲楽(さくら)っていう女の子。 今、同じ家に一緒にいる。 向こうのリビングソファで彼女の使役鬼たちとなにやら話し合ってる、ずっと。 僕の存在を無視して。 あ! 僕が刀の姿であるから無視…じゃなくて…存在を忘れてる…でもなくて。 ええい、もう! 兎も角、僕は主を決めると人型がとれるようになるんで、もちろん今現在進行形で人間として 存在してる。 使役鬼だって、鬼であるけれども人と何ら変わることもない姿で普通にリビングソファでくつろいで、 お茶しながら話しこんでる。 ちょっとばかし、綺麗、ではあるけれど。 力がある者ほど姿形は美しくなるんだ。鬼も妖怪も。 ――閑話休題。
咲楽はただ唯一無二の、僕を扱える奇跡な存在。だけれど、それが彼女にとって良いことかどうか僕には解らない。
双子として生まれなければ。 ううん。 あの一族にさえ生まれなければ。 僕と咲楽は出会えなかったけれど、それでも日常な倖いは得られたハズなんだ。
戦いに明け暮れるでもなく、実の弟に命を狙われることもなく。 同じ年頃の大多数の女の子達と同じような、誰もが普通だ、と思ってる毎日を。
でも、僕は。僕らは咲楽を自由にしてあげれない。
咲楽という存在は、多分きっと赦しの証でもあるんだ。 僕ら深界に属する者達にとって。 咲楽を狙うヤツだって、存在自体を拒むヤツだっているけれど。 それは咲楽自身を知らないから。 咲楽の人柄にふれてしまえば、咲楽を忘れられなくなる。
黒曜は咲楽の命を狙って彼女の前に現れた。 紅黎は咲楽の輝きに惹かれて幼い彼女の前に現れた。
そして僕は。 彼女が持って生まれた宿業とは違う次元で彼女を大切に思っている。
僕らはその性向で深界に属しているし、深界に属するからこそ陰な性向を持っているのかもしれない。 それでも、それはもって生まれるべくしてであって無くす事など出来ない。 無くす事が出来るのなら、それでは世界が分かたれた理由にもならない。 でも、僕ら陰の性向の者でも、己が歩いた道をふと振り返ってみたくなる事がある。 そして、誰かに赦しを扱きたくなるんだ。 その誰かこそが、咲楽。 彼女の輝きは陽の当たらない陰なる存在の僕らを温かくする。
「黒曜、紅黎! ね、明日さ学校創立祭だからTDL行こうよっ」 「何言ってるの、学校が休みなわけじゃぁないでしょ?」 「まぁでも別に何するってわけでもないし、良いんじゃないか?」 「だよね? ね? 黒曜、話がわかる〜」 「って、きっとどこの家庭でも同じようなことが交わされてるわよ。 全くだからって休んで良いってモンじゃないわよ?」 「紅黎〜。ねぇ、どうしてもダメ? だって休日じゃホントに混んでてツマンナイんだもん」 「……なんで僕には一言もないのさっ!? 咲楽ッ」
「…………」×3
「やっぱり今まで黙ってたのは拗ねてたからだと見た」 「話しふられるのを待ってたのねぇ。健気ね〜」 「草薙ったらもうっvv」
……こうやって良いようにからかわれてるのも、愛情の証…さ。多分(…汗…) 咲楽なりの……。 使役鬼二人の思惑は……。 解ってるさ(涙)おもちゃでしかねぇ!(怒)
うん、僕らは陰なる存在はこうやって咲楽の存在で微笑ましくも可愛らしく健気に生きてるんだ。
……多分、きっとね……。
(神剣にだって)明日があるさ!
■□■□■
●何となく。 神鳴りがなったので。 思い出してみた。
私の咲楽に対するイメージはこの物語の冒頭(4月頃の日記に書いた)稲妻が光るなか、膝くらいまで丈のある草原(くさはら)を分け出でて進み草薙を得ると云うモノがあるので。 もちろんそれは象徴でしかないんだけれど。
●つまりは。 シリアスなんだか、コメディなんだか解らないところに存在してる物語。 日記の春が付く、しかも漢字二文字タイトルがこの物語です。 シリアスで攻めときたいけれど、コメディでかわしてる? あんまりコメディとも言い難いのだがね(笑)
●今日はとかく神鳴りは非道かった。 稲妻も、音も。 天と地が震えていた。 多分きっと海にも落ちてただろうな。 以前、海に落ちる稲妻を見たことがある。 深夜だったお陰で海面がよく見えなかったけれど。 今日だったらさぞかし見物だったことだろうなぁ。
音もずっと鳴り響いてて。
でもさ。横浜の方とか全然だったらしいんよ。 局地的だなぁ。 ってか。なんでここだけ天気予報大外れなのさ?!
|