髪ながき乙女とうまれ白百合に 額はふせつつ君をこそ想へ 山川登美子
これはわたしの最も好きな短歌です 山川登美子さんという歌人は知っていましたが、かの有名な与謝野鉄幹、与謝野晶子との三角関係にあった人だとは全く知りませんでした 与謝野晶子がまだ鳳晶子であったころ三人は運命的に出会いました なにもかも捨てて鉄幹のもとへ走った情熱的な晶子と対照的に登美子は鉄幹を愛しながらも親が決めた相手と祝言を挙げてしまいます そして万感の想いを歌に込めました
それとなく紅き花みな友にゆづり そむきて泣きて忘れ草つむ
訳文: 友であるあなたに紅い花はみな譲って自分は涙を見せないように顔を背けて泣きながら忘れ草を摘んですべてを忘れようとしているのです
二十九歳という若さで病に倒れ他界してしまってからもその登美子の影に与謝野晶子は穏やかならぬ気持ちであり続けたといいます 登美子にしろ晶子にしろ歌に全身全霊をぶつけていた、そんな歌からは今なお生々しいものが感じられませんか

梅の花にほひを移す袖のうへに 軒漏る月の影ぞあらそふ 藤原定家
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