「まだ風邪治ってないんじゃない?」と何人かに気を遣ってもらった。けど、実際にはほぼ完治している。ただ、今日は感情に起伏や抑揚がまるでなくて、穏やかな海を漂っているようだった。本人にとっては今日のような心理的状態が最も充実している。「もう治ってますよ」と言い返すと別の心配をされそうだったので、「ええ、まだちょっと風邪が残ってますね」と返事した。
最近は残業を極力しないよう上司に諭されているため、早々と帰宅するようにしている。今日も午後7時半で引き上げた。
自宅でインターネットをしていたら、イラクで拘束された若者が無残に殺害される場面を動画で目の当たりにした。絶望以外には何も見つからず、見てしまった後悔が生まれる前に全身が脱力した。情勢の荒れたイラクに旅する無謀さなどに基づいて、この一件で亡くなった彼の結末を「自業自得」と評する人がいる。僕にはそれが信じられない。救出のためにたとえ政府が税金を幾ら使おうとも、過去にどんな生活を送っていても、どんなきっかけでイラクに旅をしようとも、それらは彼を罪人に仕立てる理由にならない。死んでも仕方ないと少しでも思ったら、その気持ちはテロルと同質なのだと思う。
ただ一つ彼に言うとすれば、旅をしても人はそれほど変わることができないということだ。それと、イラクに限らず、どこにいても命に関わるリスクがある。もちろん日本国内にいてもだ。だから旅をしなくても、普段生活しているこの街の中に緊迫や発見がある。その事実だけでは物足りなかったのだろうか。 // |