Diary
沙希



 『真夜中。』



夜中にお家を抜け出して、キミの家へ行く。

チカチカと点滅している電灯は
なんだか頼りなくて泣きそうになったりもする。

メンソールの煙草に火をつける。
ゆっくりと煙を吐き出しながらキミの家を目指す。
白い煙が口から出てゆくのを見ながら
魂もこんなようなものなのかななんて考えてしまう。

恋なんてだんだんとわからなくなってくる。
愛とかもっとわからなくなってくる。
その輪郭さえも掴めずそれでも温もりを求めて。
だからあたしは堕ちてくんだって
なんとなくは知っているのだけれども…。

小難しく理屈を組みたて過ぎる頭を
こんな夜には持て余してしまう。

居心地の良い場所をただひたすら探したい。
誰になんと言われようとも。
あたしは居心地の良い場所にいたい。
まるで野良猫のように。

キミのお家へつく。
玄関の前でキミがお出迎えしてくれる。
だったら途中まででもいいからお迎えにきてよ、と
言いたくなるけど言わない。
機嫌を損ねるのを知っている。

当たり前のようにキミのベッドに寝転がる。
当たり前のようにキミの隣に寝転がる。

タクサンのモノで溢れた君のお部屋は
居心地が悪そうなのに居心地がいい。
山のように積み上げられた雑誌や漫画。
どうにもキミには似合わないぬいぐるみとか。
壊れかけのクーラーがあげるうめき声さえも
なんだかあたしがこの部屋になじむ理由のように思える。

どちらが何を言うでもなくただ側にいる。
キミの気持ちなんて一度も聞いたこともないけれど
それでもキミが側にいてくれるのは
あたしをこの部屋に呼んでくれるのはなぜだろう。
そんなことを考え始めそうになってやめた。
考えるだけ無駄だという気がする。
だって今ここにある事実だけで、あたしは満足なのだから。

二人並んで寝転がって
テレビを見つめるキミの後頭部をずっと眺めていた。
ふとキミが振り向いて目が合う。
まるで可哀想な子供を見るような目で
キミはあたしに微笑みかける。
不思議そうな顔をしながらあたしはただキミを見つめる。
温かい手であたしの頭を撫でてから
力強い腕で抱しめられる。

心地良い。とココロは素直に感じる。
母親に抱しめられて安心した赤ん坊のように
眠りの触手があたしを誘う。

トキメキ。ドキドキ。なんてそんなもの
キミとの間にはなくてただ安らぎと安心。
キミとあたしの間に、愛も恋もないのだと思う。
ただあるのは好意と行為と温もりと。

真夜中、気がつけばあたし一人が眠っている。
「ごめん。」と謝るとキミは微笑む。
『よかった、よく眠れてたみたいで。』と。

二人で一緒に煙草を吸う。
お部屋に漂う白い煙を二人でぼんやりと見つめる。
たんたんとした時間の流れが心地良い。
だからまた、あたしはきっとキミに会う。

真夜中。
時間は止まってるみたいで
それでもたんたんとキミは時を動かす。
あたしはきっとキミの持つリズムに
引き寄せられていくんだろう。




2003年07月20日(日)
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