Diary
沙希



 『海の香り』



この場所を好きになったのは
キミに出逢うずっと前だから
その理由は別にここでキミに逢えるからじゃない。

慌しい毎日の中で通り過ぎて見落としてしまいそうな
ちっちゃなちっちゃな港。
とても優しい風が吹く、この場所。
うっすらと海の香りを運んでくる。
『海の香りじゃなくて潮の香りだろう??』
と言ってキミはかすかに笑った。
『そんな違いにたいした意味なんてないのよ。』
出きる限りのポーカーフェイスで答える。

ぎらぎらと攻撃的な太陽をカラダに浴びる日中。
静かに沈んでゆく夕陽を一人見つめる夕方。
少ない星と工場のライトをぼんやりと見つめる真夜中。
いつだってあたしはこの場所が好きだ。
たとえ隣にキミがいなかったとしても。

お気に入りの缶コーヒー。
奮発して買った300円の煙草。
うっすらと漂う海の香り。
あたしの居心地の良い場所。

キミが『またね。』というのはいつもこの場所で。
キミが『お待たせ。』と言うのもいつもこの場所で。
記憶が頭の中を巡る。
想いがココロの中を巡る。

海の香りがする。
もう隣で訂正を加えるキミはいない。
『ほら、やっぱりそんなことにたいした意味はないのよ。』
ぽつりと、一人呟いた。

月曜日の午後。




2003年09月15日(月)
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