寒空の中を一人歩いていたら、 風鈴の音に紛れて歌声が聞こえてきた。 ピアノの音が聞こえてきた。 時折通り過ぎる車の音が聞こえてきた。 風の音が聞こえてきた。 暖房のファンの音が聞こえてきた。 自分の靴音が聞こえてきた。
そして時間と呼ばれるものがそこに感じられなくなって 何も聞こえなくなった。
ふと気づくといつもの様にいつもの場所へ向かって 階段をのぼっている自分がいた。 だけれど、階段はどこまでも続き でも、のぼり続けている自分がいた。 本当にのぼり続けているのだろうか。 同じ場所を、同じ時を ただただめぐっているだけの様な気がした。
そのうち目の前が急に明るくなって そのあとぼんやりとゆっくりと いっぽんの道だけが見えてきた。 それ以外は何も見えなかった。
また、ゆっくりと歩き出した。
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